閑話134 結婚式
【藤十郎視点】
「できました」
「かたじけない、シルク殿」
和風の婚儀しか馴染みのなかった拙者は洋服の着こなし方が分からず、自分と干支が一回りも下のシルク殿に教えられながら支度をする様はなんとも滑稽だった。
「シルク殿はどうしてこんなに博識なんだ?」
「決して博識というわけでは。ただ主が将来それを望むかもしれませんから……」
そういえばソラ様は殿方だったな、忘れかけてしまっていた。
拙者とのいざこざの際に拒絶されたのでおそらく男性愛者ではないだろう。
まあソラ様の場合はスーツよりウェディングドレスの方が似合うと思うが……。
女性同士の婚儀は聖女ジーナ様が行ったことで有名となったが、聖国の現女王陛下もしたことでより話題となっている。
稀に涼花殿のような格好良い女性がスーツを着たりすることはあるが、両方ウェディングドレスで結婚式をする者が多いという。
ともあれ、ソラ様がもしスーツを着た場合、それは殿方として扱わねばなるまい。
そのときが来るかどうかも、来たとしてもスーツにするかどうかも分からないのに、準備を怠らない姿勢は拙者も見習わねばなるまい。
「では、向かうとするか」
拙者も初めてのこと。
この一度きりの出来事にはとても緊張していた。
「新郎、藤十郎」
蒼い衣装に身を包んだソラ様は背丈こそ低いものの、とても美しい身なりをしていた。
天使と言っても過言ではないように感じる。
だが、拙者の妻こそ、より愛らしいと思う。
「あなたはケイリーを妻とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も――これを愛し、助け、慰め、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを女神エリスに誓いますか?」
拙者は大聖女様に手を合わせて低頭する。
「女神エリス様と大聖女ソラ様に誓います」
耳がぴこぴこと震えていた。
きっと緊張しているのだろう。
こうして表情が透けて見えているのもまた趣深いことだと最近思う。
「新婦、ケイリー」
震えていた手をぴくりと止め、ぴしっと手を止めるのが少し面白く、笑みが出てしまった。
「あなたは藤十郎を夫とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も――これを愛し、助け、慰め、敬い、その命ある限り真心を尽くすことを女神エリスに誓いますか?」
「はい。女神エリス様と大聖女ソラ様に誓います」
「指環の交換を」
緊張が抜けないながらもひとつ、またひとつと共同作業をこなしていく。
不器用なところはお互い様だが、これもまた、ひとつの立派な思い出となって振り返ることになるのかもしれん。
「ケイリー殿、この聖印に誓って、生涯幸せにすると約束しよう」
「藤十郎殿……」
七色に煌めく指環をそっと細い薬指に嵌め込むと、ケイリー殿はそれを大事そうに右手でさすっていた。
「皆さん、お二人の上に神の祝福を願い、結婚の絆によって結ばれたこのお二人がエリス様に見守られることをどうかお祈りしましょう」
晴れてこの日、大聖女ソラ様の名のもとに私達は婚姻を結んだのだった。




