第490話 親子
「お邪魔するわね」
「お義母さん……」
お義母さんは僕を見ると、ひどく悲しそうな顔をした。
「ああ、こんなに痩せ細って……!」
優しく抱き締めてくれたお義母さんがとてもぽかぽかしていた。
これが母親の暖かみなのだろうか。
「こんな姿で、ごめんなさい」
「いいの、いいのよ、ソラ君!でも、ソラ君としてはこんな姿で居たくないとは思っているみたいね」
「それは……そうですけど」
今まさにエルーちゃん達に大迷惑をかけている。
エルーちゃんだって、今までみたいに自由に行動したいだろう。
「だったら、うちに療養に来てみない?」
「シュライヒ家のお屋敷に、ですか?」
「ええ。もちろんソラ君が嫌でなければ、だけれど……」
確かに今恐れているのは、サクラさん達と会ってしまうことだ。
五国会議前であり、単に先延ばしにしているだけのような気もするけど……。
「五国会議のことはお考えにならなくてよろしいですよ。涼花様にお伝えしておけば、代理を勤めてくださいますので」
「……」
いつもなら、そんな無責任なこと出来ないと言っていたかもしれない。
でも今の僕にはそれを言えるだけの体力も、気力も、精神力も、何一つとして持ち合わせていなかった。
「空気が、澄んでる……」
ワープ陣から移動してきてシュライヒ家のお屋敷に移動すると、お義母さんが2階の窓を開けてくれた。
「ただ田舎なだけれどね。周りには畑くらいしかないわ」
「素敵なところですよ」
「ふふ、ありがとう」
今の僕には、それくらい人がいない方がありがたい。
「エルーちゃんも、ついてきてよかったの?」
「無論ですよ、ソラ様。どこまでもお付き合い致しますと申しましたでしょう?」
わざとあやふやな言葉を使わないで約束してくれるのは、人間不信ともいえる状態の僕に余計なことを考えさせないためだろう。
「セレーナ様、しばらくお世話になります」
「あら、エルーシア様も、『お義母さん』と呼んでもいいのですよ?」
「え……?」
「だって、本当に『お義母さん』になるかもしれませんでしょう?」
「セ、セレーナ様っ……!」
「お義母さん。何言ってんの、いきなり……」
「うふふ、私もこんな青春したかったわ……」
お義父さんがさせてくれなかったみたいに言うのは、ちょっと可哀想だと思うよ……。
メルヴィナさんも空気を読んでいつもみたく変なことは言わないようだ。
逆に言えば、それだけ心配されているのだろうか。
「ソラ様、旦那様がお待ちです」
「お義父さんが?」
「ソラ君!」
「お義父さんも、忙しいのに……」
公爵家として治める領土は広く、毎日のように何処かへ赴いているほどの忙しさだと聞いている。
「お義父さん、少し痩せましたか?」
「ふふ、君が言うのかい?」
普通裕福になれば太るものだけど、お義父さんもその地位に驕ったりすることなく、下の人達にも気を遣う。
そのせいで自分にストレスがたまって食が細くなるのだから、本当に似た者同士だ。
「もっと食べた方がいいですよ」
「そうだね、私たちはもっと食べた方がいい」
「本当よ、似たもの親子なんだから……。ふたりとももっと食べなさい!」
「「ふふ……」」
痩せ細ることはあまり良いこととは言えないかもしれないけど、お義父さんと同じなんだと思うと、なんだか無性に嬉しかった。




