1話 少女の回想
柔らかい常夜灯の光が一人の少女の横顔を照らす。マホガニー製の机の前に座っている彼女。その手には羽ペンが握られており、落とした視線の先には一冊のノートが白紙のページを開いたまま置かれている。
彼女はほっと、小さく息を吐く。今日は本当にいろんな気分を味わった日だった。悔しさも、怒りも、寂しさも、楽しさも、嬉しさも。これだけの感情を味わうのは、後にも先にもほとんどないだろう。
彼女はふと思い立ち、羽ペンをインク壺につけ、インクをしみこませた。インクが十分にしみ込んだことを確認し、ペン先をノートに当てる。ジワリと、インクがにじむ。ペン先でひっかくように、彼女は文字をしたため始める。
今日この日を、私はこの先の十年、いや、死むまでの人生で惜しむことはないだろう。私が欲していたものが、本当は何だったのか。そして私はどうありたかったのか。今までの十六年の人生の大半で考え、悩み続けてきた。その回答がついに出されたのだ。今、私はもう一度この世に生を受けたような、それほど幸福な気持ちでいっぱいである。
幼いころに母を亡くした私の脳裏に浮かぶ母の面影は、霧がかかったように不明瞭なものとなってしまっている。どれほど会いたいと願っても、この世に死者をよみがえらせる魔法はない。私が母に会えるのは決まって夢の中であった。今までの私は、母の夢を見た日の朝は決まって涙を流したものだ。だが、それは今日までの話だ。もし今夜夢の中で母と会えたなら、私はやっと母に笑って出会えると思う。そして話してあげるのだ。
――私の前に現れた、新たな英雄と、初恋の人の話を。
ここまで書いた彼女は、ペンを置き、常夜灯を消した。窓にかけたレースの隙間から美しい月がのぞいている。青い光は闇を照らし、世界を銀に染め上げている。
先ほど様子を見てきたあの人の部屋にも、この月明かりは届いているだろう。とはいえ、その人は疲れていたのだろう、すべにベッドの中であった。少し話をしたかったのだが……明日の朝のお楽しみにでもしておこうと、彼女はベッドにもぐりこんだ。
目を閉じれば今日一日の出来事が鮮明に思い出される。夜の家に響いた轟音、怒号。そして現れた私にできた初めての仲間たち。その仲間たちの激しい戦い。そして、あの人が叫んだ、言葉の数々。いつもは全くしゃべらないあの人の言葉は、なぜあれほどに熱く、やさしく、心を震わせるのだろうか。
彼女は口元が隠れるくらいまで、布団を引っ張り上げる。そして思案するのだ。明日はあの人に、どういう顔で会えばいいのかと。
しばらく悩んでも答えが出なかった彼女はきつく目を閉じる。明日のことは、明日考えればいい。ゆっくりと首をもたげるように、睡魔がやってくる。その睡魔に体も心も預けて、今日はぐっすり眠ろう。そしてあわよくば、母に会いに行こう。
小さな寝息を立て始めた少女、ルナの脳裏に、今日一日のことが流れていく。




