インターハイ スプリングポイント~ゴール 後編
感想頂きましたレフェル様、ならびにこのお話を読んでくださる皆様ありがとうございます。
SIDE ともみ
「大丈夫かな?」
雲よりも高い所にそびえ立つ今年のインターハイのゴール地点である富士山五合目についたアタシは誰ともなく呟いた。お兄ちゃんと松郷先輩は転倒してチームを離脱した。疲れたスプリンター達を引いて、この坂を登るのは多分無理。入り口で切り離される。となると、残りは山道と佐渡の2人だけとなる。佐渡はともかく、山道は素人で富士山を登るには経験が不足している。
『大丈夫かしら? 山道?』
アタシと横にいる女性は同時に呟いた。
『え?』
アタシ達は互いの顔を見る。
「えっと、登坂君のお姉さんですか?」
「あら♪ ありがとう♪ だけど、私は山道の母よ?」
『ゑ?』
その言葉にアタシ達はその女性を見る。
女子大生と言われても信用できそう何ですが?「山道の母の登坂早妃です。息子がお世話になってます。」
「いえ。こちらこそ、登坂君にはご迷惑をかけてます。」
互いに挨拶すると、早妃さんは下を、こちらに向けて来るであろう山道を見ている。
「山道が産まれた時ちっちゃくて不安だったからどんな険しい山道でも負けないように山道って名付けたのに今じゃ実際に富士山という険しい山道を登っているんだから不思議よね?」
そう言って笑う、早妃さんはアタシと変わらない年頃のように思えた。
SIDE 山道
「おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ボクは木々が生い茂る坂道を吠えながらペダルを回す。白石君を越えその先にあるゴールに誰よりも速く行く。そのために。
「登坂! 走れるか!」
「大丈夫! まだ走れる!」
富士山入り口から5分ぐらいは走ってる。それでも、追いつく為には、ペダルを緩めるにはいかない。
それでも、疲労で足を止めかけた時、
「代われ!! 登坂!」
岸川君と佐渡君が前に出る。
「お前は後ろに下がって足を休めろ!」
佐渡君の言葉に後ろに下がって息を整える。
「登坂。ちょっとばかし重いかもしれないけど、俺の思いも一緒に持って行ってくれ。」
そう言った岸川君はペダルを回して加速する。
SIDE 岸川
「おぉぉっ!!」
俺は吠えながらペダルを回す。少しでも、赤和学園のクライマーに追いつくため。そして、登坂の足を休ませる為。
飛ばしても飛ばしても追いつく様子が見えない。相手と同じ速度かそれ以下で走っているかのどちらかだろう。
まったく。人生って奇抜なものだな。小さい頃にスプリンターの走りに憧れてスプリンターになりたくてペダルを回してたのに、クライマーの真似事をやってるんだからな。
く。酸欠で視野が狭くなってる。かまうもんか! このオレンジのラインの先にゴールがあるんだ! この線にそって行けば良いんだ!
「おぉぉっ!!」
吠えながら、ペダルを回す。絶対に追いつく! いくら回しても追いつく様子を見せない。そして、力尽きて倒れてゆく。
「佐渡。登坂を頼む。後は任せたぞ。登坂。」
そう呟いた俺は落車してアスファルトに体を叩きつけられた。
ゴールにたどり着けられなかった無念とやるべきことをやり尽くした充実感のごちゃ混ぜ状態の俺の意識はブラックアウトした。
SIDE 佐渡
「岸川君!」
登坂の声に振り向いた俺の目に登坂の両手がブレーキを握ろうとしているのが目に入った。
「振り返るな! 走れ! 登坂!」
脚を止めようとする登坂に叱責をすると、登坂は納得がいかない様子で反論した。
「でも、佐渡君! 岸川君はボク達の為に、」
「だからだ!! ここで足を止めて3人ともリタイアする気か!!」
本当の事を言えば俺だって足を止めたい。今すぐに駆け寄って助けたい。でもな、俺達が今やっているのは、レースなんだ。レースは常に非情。誰よりも速くゴールに到達するために走れない奴は切り捨てなければならない。その事を理解している岸川が全力でペダルを回して力尽きた。なら、俺達がすべき事は岸川を拾ってリタイアすることじゃなく、涙を呑んで岸川を捨てる事だ。その事を理解した。登坂はぎゅっとブラケットを握り直しペダルを回した。
岸川。お前が俺達の為に全力を尽くしてくれたんだ。今度は俺が切り捨てられる覚悟で走る。
そして、それは思いの外早く来た。異音と共にチェーンが空転しだしたのだ。とっさに、フロントギアを見てその理由を理解した。
「チェーンが切れた!」
「ごめん! 佐渡君!」
俺の言葉に謝罪しながら登坂は前に出る。
「勝てよ。登坂。」
俺は前を走る登坂の背中にそう投げかけた。
SIDE 定峰
「さて、定峰君。息も整ったみたいだし、登ろうか?」
「だな。」
和田に頷きながら富士山の登山道を登る。にしても、富士山ってのは優しくねぇな。登坂の奴はちっこいなりしてバカげた速度で走ってたな。
「ねえ。定峰君。君は白石君とそっちのクライマー。どっちが勝つと思う?」
しばらく登ると、和田が口を開く。
「さあな。コレばかり予測もつかない。
以前、1度だけ登坂が負けたらしいがそれから練習してその時よりも速く走れるようになった。今度はこっちが勝ちたいからだそうだぜ。もっとも、それは登坂だけじゃないみたいだがな。」
「え? それはどういう…。」
言いかけた和田はとっさに後ろを見る。和田も感じたらしい。後ろから追いかけてくる4つのプレッシャーというべきものを。
後ろから、八神と松郷と不二と佐久平が駆け抜けていった。
「勝てよ! 八神! 松郷!」
俺はその背中に声をかけていた。
SIDE 登坂
岸川君が倒れ、佐渡君も走れなくなり、皆がいないボクのペダルは重い。それでも、皆の為にもここで諦める訳にはいかない。
「よく粘る! 挑戦者! そんなに玉座が欲しいか!」
森林限界に達して木々が無い高野にその声が響く。
「それだけじゃない! 確かに、ボクは白石君に勝って君達から玉座を取りたい! それ以外にも、松郷先輩、八神部長、岸川君、佐渡君、定峰先輩、梁川先輩、大川先輩。皆がチームの為に頑張っているんだ。
それをボク1人がダメにするわけにはいかないんだ!」
吠えながらペダルを回して前に出る。少しでも速くゴールするそのために。
「貴様のチームの為に頑張りたいという思いを理解した。
そして、見せよう。王者の走りを。その前にいかな努力も無駄だという事を。」
白石君はそう言いながらシフトレバーを操作する。ガチャという音と共に加速する白石君。
おいてかれるものかとペダルを回して白石君に張りつこうとする。正直にいってかなり苦しい。ふと気を緩めたらその時点で足が止まってしまうかもしれない。植物がほとんどなく岩だらけの山道を走りゴールを目前にして目の前が暗くなり、音も遠くなる。
『頑張れ!! 山道!』
ボクを応援する声も遠く聞こえる中、
『頑張りなさい!!!! 山道!!!!』
その2人の声だけはやけに近くそして大きく聞こえた。
「くっ!」
その声と共に色を取り戻したボクは倒れかけてる事を理解してビンディングシューズについてるクリートと呼ばれている金具を回す。バチッと音がして、ペダルからシューズが外れ、フリーになった足で姿勢を整えクリートをペダルに引っ掛け押し込む。カチッとシューズがペダルに固定して走る。
「よく粘る! 挑戦者! それでこそ面白い!」
速く白石君を抜かないと! 必死になって、ペダルを回して白石君と並んでゴールラインを超える。その光景を最後にボクの視界はブラックアウトした。




