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第5話:怪異の嫉妬

#ヤンデレ #執着 #ダークロマンス #ホラー #創作

山田先生は眠れなかった。三階のトイレで跪き、空中に向かって語りかけながら血を滴らせていたエドの姿が、脳裏に焼き付いて離れない。教師としての責任感はある。しかし、一人の人間として、彼は心底「恐怖」を感じていた。


「トイレの花子さん」の怪談なら知っている。だが、彼が目撃したのは生徒を怖がらせるだけの幽霊ではない。それは、もっと親密で、ひどく歪んだ「何か」だった。


翌朝、山田先生は神社で手に入れた御守おまもりと、知人から譲り受けた聖水を手に学校へ向かった。あの子が本当に命を落としてしまう前に、あの暗闇から引き離さなければならない。


【休み時間、旧校舎】


山田先生はトイレのドアの前でエドを待ち伏せした。「エドくん、そこまでだ!」


エドは足を止めた。手のひらには無造作に包帯が巻かれ、わずかに赤い滲みが漏れ出している。彼は冷ややかな視線で山田先生を見た。まるで自分の行く手を阻む羽虫でも見るかのような、そんな視線だった。


「先生、入らないで。彼女は、お客様が嫌いなんです」エドは淡々と言った。


「エド、目を覚ますんだ! 中で話しているものが何であれ、それは人間じゃない! お前を操っている呪いだ!」山田先生はエドの腕を掴み、強引に引き離そうとした。彼は御守を取り出し、加持祈祷の真似事で守護の言葉を唱え始めた。


突如として、廊下の気温が急降下した。天井の蛍光灯が一つ、また一つと爆発し、ガラスの破片が二人を襲った。――パリン! パリン!


廊下は一瞬にして漆黒に包まれ、汚れた窓から差し込む青白い月光だけが残された。


「……誰が呪いですって?」


その声は、もはや優しい囁きではなかった。何千人もの子供たちが一斉に囁いているような、旧校舎の壁を震わせる轟音だった。


山田先生は凍りついた。エドの背後で、トイレのドアがゆっくりと開いた。赤い液体――それは鮮血ではなく、錆と悲嘆が混じった水――がドアの下から溢れ出し、蛇のように山田先生の足元へ這い寄ってくる。


暗闇の中から、花子の姿が現れた。だが今度は、あの脆そうな少女の姿ではない。顔面は古びた磁器のようにひび割れ、見開かれた眼窩は漆黒の瞳で満たされていた。黒髪は異常なほどに伸び、保護するようにエドの足首に絡みついている。


「エドは、私のものよ」花子は叫んだ。口は動いていないのに、その声は響き渡った。「彼の血は、私の悲しみと混ざり合ったの。私から彼を奪おうなんて、いい度胸ね!」


「去れ! 私の生徒から離れろ!」山田先生は花子に向かって聖水を投げつけた。


水が花子に触れた瞬間、彼女は消えるどころか、鼓膜を突き刺すような甲高い笑声を上げた。彼女は蜘蛛のように壁を這い、驚異的な速さで山田先生の目の前まで迫った。


花子の青白く赤い手が山田先生の喉を掴み、成人男性の体を片手だけで宙に吊り上げた。


「花ちゃん、やめて……」エドが優しい、まるで恋人をなだめるような声で呼びかけた。


花子がエドの方を向いた。ひび割れた怪物の顔には激しい怒りが漲っている。指先はまだ山田先生の首を強く締め上げていた。「この人は痛々しい光を運んでくるわ、エドくん。私たちの家を壊そうとしているの。祈りなんて唱えられないように、その声を消してしまいましょうか?」


エドは冷たい錆水の中を一歩前へ踏み出した。顔色を失い始めた教師を見つめ、それから花子の恐ろしい黒い瞳に視線を移した。「ここで終わらせないで、花子さん。僕たちの絆を断ち切れる力なんて、この世にはないってことを彼に見せつけてあげて。そして、生ける証人になってもらうんだ……君の存在が、彼の信仰よりもずっとリアルだってことをね」


花子は手荒にその手を離した。山田先生は濡れた床に叩きつけられ、激しくむせ込みながら、純粋なパニックの中で酸素を求めて喘いだ。


エドは激しく震える教師の前に跪いた。その表情は穏やかだったが、瞳の奥には底知れぬ空虚が広がっていた。「先生」エドは凍てつくような声で囁いた。「二度とここへは来ないでください。花子さんは独占欲が強いんです。彼女の忍耐を、これ以上試さない方がいいですよ」


エドは背を向け、三階トイレの闇の中へ消えていく花子の姿を追って、ゆっくりと歩き出した。山田先生はただ、麻痺するような恐怖の中で泣き崩れるしかなかった。彼の目には、エドはもう助けを必要とする生徒ではなかった。彼は、人間の論理では決して届かない、深い闇の一部になってしまったのだ。


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