第4話:三番目の個室における紅の儀式
#ヤンデレ #執着 #ダークロマンス #ホラー #創作
佐藤が深刻なトラウマによって精神病院へ運ばれた後、校内の空気はますます不穏なものとなっていた。しかし、その恐怖の中で、山田という名の若き教師が、ある奇妙な点に気づき始めていた。
いつも俯き、震えていたエドが、今では不気味なほど落ち着いている。彼は時折、教室の窓に映る自分の姿を見つめながら微笑んでいた。そして何より、休み時間や放課後になるたびに、エドが旧校舎へと足を運ぶ姿を山田は頻繁に目撃していた。
「エドくん」ある日の放課後、廊下で山田が声をかけた。「どうしていつもあそこへ行くんだ? あの建物は危険だ。構造も脆くなっているんだよ」
エドは足を止め、ゆっくりと振り返った。その瞳は虚ろでありながら、どこか異様な光を宿している。「あそこには、僕を傷つける人はいません、先生。あそこには……僕を愛してくれる人がいるんです」
山田がさらに問い正す間もなく、エドは軽やかな足取りで去っていった。まるで、もう他の人間と同じ世界にはいないかのような足取りで。
【旧校舎・午後五時】
廊下の電灯が点滅し、壁には長い影が伸びていた。エドは三階のトイレへと入った。恐怖はなく、むしろ高揚感に包まれていた。
「花子さん……来たよ」彼は囁いた。
個室のドアから花子が現れた。その姿は以前よりも鮮明で、現実味を帯びている。エドの強い想いが彼女に力を与えたのか。
「今日は、特別な覚悟を持ってきたんだね、エドくん」
花子が囁く。
「もう、隔てられるのは嫌なんだ、花子さん」エドは声を震わせた。「君と一つになりたい。僕のすべてを捧げたら……君の世界へ連れて行ってくれる?」
花子が近づき、冷たい髪がエドの頬に触れた。「あなたの想いが、二つの世界をつなぐ架け橋よ。私にゆだねて。そうすれば、もう二度と寂しい思いはさせないわ」
エドは花子の前で跪いた。自分の存在が花子の中へと引きずり込まれていくような、奇妙な感覚に襲われる。眩暈がしたが、同時にこの上ない幸福感に包まれた。
「愛してる、花子さん。君と一緒にいられるなら、何が起きても構わない」
花子はエドの頭を抱き寄せ、冷たい胸へと押し当てた。心音はない。代わりにエドの耳には、花子の過去の記憶が甘美な子守唄のように響いていた。
トイレの外。密かにエドを尾行していた山田は、閉ざされたドアの前で立ち尽くし、戦慄していた。彼には花子の姿は見えない。ただ、虚空に向かって語りかけ、恍惚とした表情で跪いているエドの姿だけが見えていた。
「エド……君は、一体何をしているんだ……?」山田は恐怖で声を震わせた。
しかし、トイレの中のエドと花子に、外の世界の音は届かない。二人は悲しみと幻想に彩られた、二人だけの世界の中にいた。




