第1話:拒絶する世界、呼んでいる声
#ヤンデレ #執着 #ダークロマンス #ホラー #創作
2005年10月、東京。
新宿区の空は、その日の朝、コンクリートのような灰色をしていた。冷たく、平坦で、どこまでも無関心だ。鴎小学校の二階の窓から、エドは遠くのビルの屋上を押しつぶさんばかりの厚い雲を見つめていた。インドネシアなら、この時間はいつも太陽が肌を刺しているはずなのに、ここでは太陽さえも顔を出すのを嫌がっているようだ。
あるいは、太陽は彼のような子供に挨拶したくないだけなのかもしれない。
「カ・エ・レ!」
背後で抑えきれない笑い声が弾けた。エドは振り向かなかった。何が起きているか分かっていたからだ。黒板に向かって歩いていた誰かが、わざと彼の机にぶつかった。エドの古びた青いリュックが床に落ち、中身が散らばる。
エドはゆっくりと膝をつき、本を拾い集めようとした。手が震えている。日本語のノートを手に取ったとき、胸が締め付けられた。表紙には、黒のマジックで雑に、そして鋭い筆致でこう書き殴られていた。
『外国人は帰れ』
『汚い』
『死ね』
エドは親指でそれを消そうとしたが、インクは紙の繊維の奥深くまで染み込んでいた。三ヶ月前に引っ越してきて以来、彼の日常に染み付いた「悪意」と同じように。父さんは、東京は未来の街だと言った。けれどエドにとって、ここは防音性の高いガラスの監獄だった。他人が話し、笑い、友達と過ごすのは見えるのに、自分の声だけは決して壁を突き抜けることができない。
「え、えと……ごめん……」
壊れた日本語で、エドはたどたどしく呟いた。
誰も答えなかった。クラスメートたちは、まるで不吉なものを見たかのように目を逸らした。教室に入ってきた教師も、小さく咳払いをしただけで、書き殴られたノートなど見て見ぬふりをした。2005年の日本において、「いじめ」は誰もがその存在を知りながら、誰もが存在しないことに同意している幽霊だった。
休み時間は、より現実的な地獄だった。
エドは靴箱の前に立っていた。空っぽだ。また靴がなくなった。今月でもう四回目だ。彼は深く息を吸い、熱くなり始めた目頭を必死に抑えた。泣いてはいけない。泣いたら、彼らの勝ちだ。
「おい、黒くん」
背後から太い声がした。クラスの主犯格である佐藤が、二人の取り巻きを連れて立っていた。彼らはニヤニヤと笑っている。佐藤は指先で鍵を回していた――本来は立ち入り禁止である、屋上へ続く鍵だ。
「これ探してんのか?」
佐藤はエドの靴の片方を、校庭の隅にある雨水で満たされたゴミ箱に向かって放り投げた。――ポチャン。
エドはただ俯いた。反抗はしなかった。彼はもう「死んでいる」と感じていた。魂はずいぶん前に体から離れ、どこかへ飛び去ってしまった。残されたのは、痛みを受け入れることしかできない空っぽの器だけだ。
裸足のまま、エドは静まり返った廊下を歩いた。食堂へは行かない。図書室へも行かない。足は自然と西棟――旧校舎へと向かっていた。来年には取り壊される予定の、木材が腐りかけた三階建ての古い建物だ。
そこは空気がより冷たく感じられた。埃と古い木の匂いが彼を迎える。エドは一段ずつ階段を上り、三階にたどり着いた。廊下の突き当たりは暗く、そこには一つの部屋しかなかった。トイレだ。
子供たちの噂では、あそこには一人で行ってはいけないと言われている。三番目の個室には「何か」が住んでいると。
しかしエドにとって、幽霊は呼吸をしている人間よりもずっと怖くない存在だった。人間は殴り、罵り、無視をする。けれど幽霊は? 幽霊には少なくとも、世界を憎む理由がある。彼と同じように。
エドは軋む音を立ててトイレのドアを押し開けた。鏡が割れ、黄色く汚れた洗面台へと歩み寄る。鏡に映る自分を見つめた。薄汚れたインドネシア人の少年、腫れた目、そして汚れた制服。
「……なんで、生きてるんだろう」
インドネシア語で呟いた。その声は静かな個室に虚しく響いた。
エドは三番目の個室に近づいた。色褪せた赤い木のドアには、無数の古い傷跡があった。震える手で、彼はノックした。
コン……。
コン……。
コン……。
「花子さん……遊びましょう」
エドは目を閉じ、冷たい木のドアに額を預けた。奇跡なんて期待していない。ただ、誰でもいいから、この残酷な世界から自分を引きずり出してほしかった。
その時、静寂が破られた。
爆発音のような音ではない。うなじを氷で撫でられたような、微かな囁き声だった。
「……世界は、とても騒がしいわね?」
エドは息を呑んだ。空耳ではない。声はドアの向こうから聞こえた。柔らかく、それでいて深い悲しみの震えを帯びた声。
エドは目を開け、少しだけ開いたドアの隙間から背後の鏡を見た。そこには、もう一人きりのエドの影はなかった。
赤いスカートを履いた美しい少女が、彼の影のすぐ後ろに立っていた。彼女の青白い手がゆっくりと上がり、現実の世界でエドの涙が流れている場所に合わせて、鏡の表面に触れた。
「泣かないで」
その影が囁いた。花子の漆黒の瞳が、エドの魂を真っ直ぐに見つめる。「もしあそこに居場所がないなら……ここに居なさい。私と一緒に」
その瞬間、塩素の臭いと旧校舎の静寂の中で、エドは恐怖を感じなかった。生まれて初めて、自分は愛されているのだと感じた。




