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九十四ノ怪 駅

ザザザァー……


「まったく……。朝からホント、酷い雨だな…」


手に軽く持つ感じはステッキか何かか。クルリと手首を反らし、その折りたたんだ濡れ濡れの傘を片手に、その先端を駅のホームのコンクリート面につけ、棒立ち状態に寝惚け眼な自分ケイジ


ボ〜…


傘先から流れ出る大量の滴が、ミミズ状になってホーム下に向かって流れ出ています。今は眠くて、そんな事も気にもならない幽体離脱状態とも言えますが…

そして鬱な表情で周囲を見渡せば、そのエリアは慌ただしくも、ナーバスでネガティブな雰囲気に侵されていました…ーー





最悪な大雨に見舞われた週もはじめ。ここはローカルじゃない…と思いつつもローカルな大阪藤◯寺駅。


残業が確定している会社員や勉強嫌いな学生にとっては、まさに週はじめの朝イチは地獄かも…。と、そんな雰囲気の中へ、やって来た電車はレール上の棺とでも言えるのではいでしょうか?


カタンカタン、カタンコトン、カタンコトン、カタンコト…ン……


ギギギィーッ…、プシュー…


「ん?え〜…っと?」


その列車横の表示板は間隔度に、指定の駅だけに止まる「準急列車」とありました。これは自分ケイジにとっては無用の列車。乗りたいのは都度都度各駅に停まってくれる「普通列車」です。

すると急に、まばらに列車待ちしていた人たちがバタバタと一斉に列車の扉前へと並び始めました。


「お、後ろの座席が空いたな…」


乗客の大半は市内方面、一気に終点の阿◯野駅に着くこの列車へと乗り込むのです。

そして次の普通列車が来るまでの待ち時間。自分の立ち位置から真後ろにあるホームに設置されている空いた三連結の座席に移動しました。

だって…、眠いし、立ってると疲れるし…


「よっ…こいしょっ……と」


この時の年齢は30代後半辺り。そろそろ己が年齢を自覚し腹回りが気になる頃。そしてその重さや破壊力を実感しながら、ドサッと固い座席に座り込みました。


ギシギシッ…


「うぷっ…」


期限が切れてしまうからと、我が帝国いえ女王様ヨメの命令で、朝から五枚切りの食パン中、四枚を処理してきたところでした…


「はぁ…」


カビ部分を切り取った穴空き食パンたち…

要は、妻が期限が切れやすい食品を無計画で大量に買い込むのが原因です…(泣)

…ってかさ?昨日「今日は会社の皆で飲み会があるから、朝ご飯は要らない」…って言ったよね?確かに言ったよね?

しかも帰りに『緑茶1ケース(500mlx24本入)買ってきてね?』って笑顔で言われてもっ。今日は酒飲んで帰ってくるから車じゃなく電車通勤な上に、歩きだから…って確実に言ったよね?まさかその茶ケースを歩きで担げながら帰ってこいと!?まさか何かの罰ゲームか??俺が言った今日の予定を聞いてなかったのかよっ!?今日こそガツンと言ってやるぞ!マイハニーッ!!


「……。」


…と、まぁ……、怖いから…。そんな文句は面と向かって絶対に言えないワケだが…


…そして。自分ケイジは駅のホームにあるあの固いプラスチック製の座席へ、90度角に対し背筋をピンと伸ばして、斜めでスラッシュの様な傾斜をつけ、棒状に座っていました…。いや、見た目は何かに引っ掛かってる棒か?

やがて首はカクンと下へと項垂れ、己が視線は混雑し、必死に列車へと乗り込む人たちの足元へと集中していたのです。


ガヤガヤ、ドタバタ、ドタバタ…


(車出社で、普段は電車に乗らないからなぁ。歩きは正直キツい…)


しかし…


目の前に足の太さから恐らく男性であろう、ジーンズ姿に白いスニーカーを履く人物が目につきました。皆は列車に乗り終えたのに、彼も停車中の準急には乗らず、音も無く静黙と立ったままなのです。微にも動かないのが、少し気にはなっていたのですが…


(何故乗らないんだろ…?あ、自分と同じ次の各駅停車の電車待ちか…)


相変わらず下を向いたまま、そう心の中で勝手に納得していたら…


プシュー…


やがて扉が閉まり、至極当然の如くギシギシと高音を鳴らせ、線路レールを軋ませながら列車は終着駅に向け走り去りました。


「……?」


でも…


あれ…?ま、まてよ…?これは…、何かおかしくないか……、ん?何がおかしいんだ?自分ケイジがおかしいって…?おいおい…、ちょ、ちょっとは自覚しているけど…。今、その話は一旦横の棚の上の隅っこの方に置いといて…


そこで先ほどの自分の立ち位置で、傘先から流れ出ていたミミズ状の雫を目で追ってみたのですが…


「……??」


そこでやっと焦燥感?動揺?ある種の胸騒ぎ?更には明確な違和感…とでもいうのでしょうか?ようやく自分が感覚的に感じ取った、それらの状態は。否応無しに陰的な″恐怖″という形で己が脳へと伝達されてきました。



…ジーンズ姿の男性の靴は何故″傘から流れ出る滴の影響を全く受けていない″のでしょうか?まるで空気の様にすり抜けて見える男性のソレ


ホームに鳴り響く、次の列車が到着するアナウンスと共に。自分ケイジの視線は、彼のジーンズの下方から徐々に上へと向き…


「…っ!?」



 ーー無いーー



その人の腰から上が全く無い…

いや、これは語弊を生みます…。自分にはその人の腰から上が完全にボヤけていて、上半身が全く見えないのですから…


普通は、世間でいうところの「幽霊は足元が透けて見える」…というのが一般論なのですが。何故か自分は、足元だけが見えるケースが多いのです…


何をやっても中途半端だから?ちょい変態だから?足が臭いのが原因か?もしかして全く甲斐性が無いから?(泣&自爆)


……って!一番最後の殺し文句言ったヤツ!ちょっと、前へと出てきなさい!!


(プンプン!)


すいません。嘘です…(汗)


これは別の日の話ですが。霊感持ちの亡くなった兄弟のナガ兄や、仕事仲間だったユウたちにその事を訪ねてみたら二人とも首を傾げていました。

まぁ…自分ケイジでも、念の強い怖い幽霊モノだったら全身がハッキリと見えてるから大丈夫か…?いや、一体どこが大丈夫なんだ…


そして現在もその原因は不明なまま…

亡くなった死人なら、その謎を知っているかもしれないですが…古今。現世にて伝達不可、霊的現象は答えなんてものは無いに等しいのですから…


…と、そこで再び話を線路レールに戻して。(うまい!)違


ま、まさか…!?


次に乗る予定の列車がホームに入ってきた途端、その足元だけ見えるジーンズ姿の男性は。スーッと滑る様に線路側へと進み、目の前でその列車前へと飛び込んだのです…


「…っ!!?……はぁはぁはぁはぁ……」


いきなり見せられた、悍ましくも無音で空虚な生々しいこのビジョン…


バクバクバクバク、ドキドキドキドキ…

目の前で起きてないけど起きていた、かなりショッキングな出来事に自分は鼓動は激しく脈打ち、その場で座席から飛ぶ様に立ち上がってしまいました。

その姿を後からやって来た知らないオバさんに白い目で見られながらも、自分はヒョコヒョコと横へ蟹歩きしながら、立ち位置は2つ飛ばした別のドア前へと移動…


「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……」


見える人には見えていますが、見えない人には絶対″コレ″を認識出来ないから、まさに他人が見た自分ケイジは「この人、一体何??」的に見えることでしょう…

シクシク…、変態扱いは勘弁してくれ…。いや、まさかこれはご褒美なのか…?はぁはぁはぁはぁ…(違)

そして後から勝手に探偵と化した己が予想と妄想が膨らみます。


″この世で強烈な絶望と遺恨を遺し、ここで列車に飛び込み自殺した人の幽霊しねんだろうか…″


…と、想像してみたり…

自分ケイジはこの手のパターンの幽霊に遭遇した時。一応、素の表情を貫き、出来る限り心をカラにしながら、霊の存在ことを一切考えない様にします。

それは何故か?要は意識してシンクロしてしまうと、俗に言う″憑かれ状態″になってしまう可能性が高いからです…


「で、出だしから最悪な1日だな…」


その後、普通に仕事を終えた自分ケイジは会社仲間との飲み会に参加しました。普段の酒は嗜み程度、一ヶ月くらい飲まなかったなんてザラですが、会社の付き合いは面倒くさくても頑張らないといけませんから…

…で、改めて確認。

その後の自分の身体への違和感は無く、その自殺者の幽霊とのシンクロ…″取り憑き状態″は回避していたようで、ホッとひと安心…?


でも今回の飲み会メンバー四人は、オカルト的な話は全く通じないタイプの人ばかり。恐らく、そんな話題を出せば白い目で見られる事でしょう…。って、既に普段から白い目で見られているか…(お〜い…)


「ふぅ…」


取り敢えず。朝遭遇した幽霊の所為でモヤモヤッとした気分のまま飲んでいて、食事も朝の食パンがまだ胃に残ってる感がアリアリ。飲食代を支払っているのに、あまり飲み食い出来ない最悪な飲み会になってしまいました…


「ケイジ…、どーしたんだよ?あんま食べないな?今日、何かあったのか?」


「あー、それはオレも、ちょっ……………っとだけ気になってた」


えらく溜めたな…


「うへっ!?い、いや…、いやいやいやいや…、全く何にもないよっ…」


まったく…、変なトコは鋭い仕事仲間れんちゅうだよ…


「いつもの、バカみたいな元気が無いから気になってな?」


「あっ、あ〜…、いつも通り。無茶苦茶ヤバいくらいに眠いだけだよ…」


「あははは…、そういう事か。納得だ」


「そそ…」


今…、シレッ…と、ヒドい事を言わなかったか?(泣)

そして常時眠いから嘘は言っていない。

…とか何とかやり取りしている間に、やっと飲み会はお開きとなり現地解散となりました。めでたし、めでたし…


「ケイジお疲れ様。また明日な〜」


「ああ、みんなも気をつけて帰ってな?…さて…と…」


お別れで何気に片手を振ってはいるが、我が魂はここにあらず、ボーッと幽体離脱状態。

ふぅ…、今回はまったく酔えていないのだが…

でも、多少は酒が入ってる所為か。両手で軽く頬を叩き、知らぬ間に己が内包していた朝の恐怖心は消失していました。


「よかった…。日頃の行いが良いから…雨は止んでくれたな、あははは…」


自分で言うのも何だが、絶対違う…と思う。(汗)


そして飲み会の店舗に近い最寄り駅から列車へ乗り込み、朝に乗り込んだ最寄り駅を目指しました。

それに…、行きと帰りは反対側のホームに降りるから大丈夫。もう…朝に見た幽霊アレと再び遭遇するなんて事は絶対に無い筈だ…


「ふう…」


ほんのちょっぴり酔い加減。フラフラッと乗り込んだ車両は″幽霊アレ″を見た位置から離れた場所こうほうにしています。

時間的にも夜遅くガラガラな車内。多少は緊張しながら端席に座り、縦横手摺の角に傘を引っ掛け…


カタンコトン、カタンコトン……


『藤◯寺駅〜…、藤◯寺駅〜…。お降りの際は…ーー』


キキキー……プシュー……


やっと目的地えきに到着。意識とは別、怖くないと思ってはいたが。いざ駅に着けば知らぬ間に意識してしまっていた、″朝に遭遇した恐怖れい″。


「さ、さっさと家に帰ろう…」


列車のドアが開くなり。自分の体型と不釣り合いな動きとスピードで、一目散に登りエスカレーターへと向かいました。すると…


『″ーーす、…すい…ません…″』


…!!?


突如背後から、今にも死にそうな?酷く窶れ掠れた声が聞こえてきたのです。


ゾゾゾッ…


既に背筋には大量の冷や汗が…


まさか単なる聞き違いだよな?降りた場所も朝とは違うし、飲み会では一切取り憑かれた感は無かったし…


しかし…


『″…すい…ません…″』


確実な二度目の掛け声。早く移動したからか周りに人がいないから確定!?そこで自分ケイジ恐怖心ハートは引火し、全ての保身的行動を誘発…。首元は引き攣りながらガッチリと完全固定化。全身は強張り、聞こえないフリで登りのエスカレーターを全力の2段飛ばしで、ダンダンダンッと一気登りを決め込みました。


ダッダッダッダッダッダッ…


緊張のあまり、己が鼓膜には駅の騒音や体内の血流音がこだましており…


『″……ません…″』


しかし″謎の掛け声″は一向に止まず…


ダッダッダッ…、″ダッダッダッ…″


お、追ってくる足音まで聞こえてる!?そんな、まさか…


まるで13日の金曜日!?

ホラー映画のワンシーンの如く、確実に誰かが背後から追って来ている…。まさか朝に遭遇した自殺者であろう、あの″幽霊″が追いかけて来ているのか…??

こ、こんな、いたいけなオッサンに取り憑いても何のメリットもないぞ!?そして目の前に、障壁となる改札口が現れ


くっ…


とても物覚えの悪い俺。よって、体の何処かにしまった切符を探し出さないと、目の前の改札はスルー出来ない。ど、どーするよ…??恐怖のあまり飛び越えたり強行突破しようものなら、下手すれば警察沙汰だ…


『″…いませ…ん…″』


背後からの掛け声は、更に大きくなった感が否めない…。だめだ…、絶望感が…


スタスタ…


ああ…。終わった…、もう取り憑かれちゃうよ。俺ぁ…この後、呪われて死んじゃうのかな?大好きなポテチのコンソメパンチを、もっともっと食っとくんだった…



…馬鹿みたいに死を覚悟。…と、その時でした…



『″あの〜…、すいません…″』


「…へ?」


間近でハッキリと。風邪をひいているのか酷く掠れ、元気の無い、とても小さな女性の声。そこで自分ケイジはクルリ反転し、振り向きました。

年齢は自分と同じくらいでしょうか?見知らぬ一人の女性が″見た事のある傘″を此方に突き出し、小さく「はぁはぁ…」と息を切らせていたのです。


「あ…」


彼女が持っていたのは、まさに列車内に置き忘れたであろう″自分の傘″。普段から持ち歩かないし、朝見た幽霊の事を考え過ぎていたからか、自分の傘を列車内に置き忘れていたのです…(泣)


『″あの〜…、これ…″』


「俺の傘!?あ、ありがとうございますっ…」


『″ぃぇ…″』


相変わらず声は小さいが、それを覆い被せるくらいにデカい声でお礼を返した自分。「置き忘れてましたよ?」的な言葉は省かれ、顔も俯き加減。彼女の無愛想で陰に入った表情は、逆にこちらが心配するほどでした…


『″……。″』


彼女はその場で軽く会釈すると、ゆらりとターンし、改札口ここから再び駅のホームに向かって歩き出しました。

要は、降りる駅が違うのに、彼女はわざわざ自分ケイジの忘れ物を届けに来てくれた…という事です。

…と。まさかの彼女を目で追ったその時でした…


「ーー!!?」


その女性の足元近くに、再びジーンズ姿に白いスニーカーを履いている″あの不気味な幽霊″が姿を現したのです…


まさか彼女とシンクロしてしたのか…!?


我が心の第一声は、既に「ヤバい!」と警鐘を鳴らし続けています…

彼女の″陰鬱な気″が″幽霊ソレ″を呼び込んでしまったのでしょうか?これは霊的にも、かなり良くない傾向にあり、自分には有って無いような正義感?的な焦りからか。恐らくそんな感情で、勝手に咽喉元が突き動かされてしまい、いきなりーー


「ーーげ、元気を出して下さいねっ!!」



人が疎にいる改札口で、そう声を大に叫んでしまった自分ケイジ

恥ずかしい!!…ってかさ、俺も言葉を端折り過ぎだろ!一体何に元気出すんだよ!ワケの分かんない事を叫ぶなよっ、このよっぱらいっ!


『″ーー!?″』


すると彼女は顔だけ振り返り、少し驚いた表情を見せた後。はにかんだ表情に、片手で口元を少し隠しながら、ちょい「くすっ」と笑い、再び軽い会釈をしてくれて、再び駅のホームへと戻って行かれました…



「……。」



 …………



……結果オーライ。



何がだよ!


だってさ?最後に振り向いた彼女の足元。あの幽霊(ジーンズに靴)が消えていたんだから…


これがお礼になったのかはわかりませんが…


心の波長とでも言いましょうか?シンクロしてしまうと、幽霊が見えない人でも「今日は何故か身体がやたらと重い…」とか「なんだか疲れるな」とか。タイプ的に大人しい人なのに「何だかイライラする…」とか、知らぬ間に取り憑かれていて、その手の症状が出ている可能性が高いのです。


でも…この話は妻にしていません。してない話の方が多い気がしますが…。もし幽霊話しが大嫌いな妻にこの手の話しを聞かせてしまったら、生命保険の掛け金が跳ね上がるかもしれないので…(泣)


…と、今回のお話はここまで。コレを書いてる…、今まさに″現代の人々″は、完全に陰の気に取り込まれてしまってます…。各々の心の持ちよう…、これからの世の中は、一人一人が笑顔になれる優しくてゆとりある平和な世の中になってゆく事を切に願っています…





完。

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