七十九ノ怪 とあるホテルにて…前編
内容的には、よく聞くありきたりなお話で。今回は自分の学生時代からの友人″カイ″から聞かされた恐怖体験を書かせていただきます。
トリ◯ゴの様なホテル探し…いえいえ。まさに、アプリそのものが無いガラケー時代。彼はとびっきりの「″格安ホテル″」を旅行本で探し、彼女の″ララ″と一緒に二泊三日の東京ディズニーランドへと遊びに行きました。
そこで世にも恐ろしい心霊現象を体験してからというもの、あの超どケチで有名だった彼が安価なホテルには一切泊まらなくなってしまった…というオチがお話の冒頭に来てしまうのですが…ーー
「ここは宿代が一番安くて、土産とかたくさん買って帰れるからイイよね」
「えー…、でも何か、酷く薄気味悪くない?このホテル…」
自分は彼に奢ってあげた事は有りますが、逆に彼から奢ってもらったりした事は一度もありません。
あ、彼から奢ってもらう催促は何度もされましたが何か?ホント毎日、毎日?常時?損得勘定ばかりしている酷い奴でした…
「え?気味悪い?何処が?ねぇ、ララ。何処が気味悪いの??」
「ご、ごめんなさい…」
「え?ただ、聞いただけなのに、何で謝るの?何で??」
「…はぁ…」
「そこで、何でため息なの??何で??何で??」
「……。」
…ちょっとした会話のすれ違いでのトラブル?…で、何倍にもパワーアップしてツッコミや文句を言ってくる結構口煩いキャラのカイ。
アッチが安いだのコッチの方が得するだの、何がどーしたらダメだのアレをこーしたら良いだの…。独自の倫理観で彼が一度何か文句を言い出したら、もう誰にも止められませんでした。
宿泊先のホテルに至っても「ディズニーランドから″近く″て安い」…というだけでバスや電車を乗り継ぎ、乗り換え…な場所へ…。結果として無茶苦茶遠い場所での宿泊に。
そして目的地からは遠く離れている宿泊先のホテルは、周囲が広い田畑があり横には小川が流れトンボが飛び交うまさに長閑な田園地帯にありました。
今回の目的は関東一帯の生物調査?もしくは特定外来種の生物探し?背後には鬱蒼とした木々が生い茂り、ついでとばかり蝉たちもワンワン鳴いています。
そしてホテルの外観は外壁が白地のコンクリート面に雨の黒ずみや汚れ?亀裂がやたらと目立つ、全く都会感の無い年季の入った薄気味悪い老朽化ホテルだったらしく、そんな宿泊先を選んだ理由は当然「″安いから″」…
「二泊するだけだけだし、な?我慢してよ?それくらい、いいだろ?な?」
「……うん…」
カイは相手が納得するまで何度も返事確認を要求してくるタイプの人間で、状況はもう完全に押し付け状態。
男なんてものは付き合いが長くなると、女性に対する優しさが薄れてくるものなのでしょうか…?しかも支払いは必ず奢ってもらうか、割り勘限定です。
そしてカイは相手を勝手に分析して「彼女なら俺的節約術に賛同してくれるだろう」…的な考えを社内で自慢していました。それを聞いていた友達連中は、カイに対してドン引きしていたのは言うまでもありません。
しかし″自分から彼女を旅行に誘った″のなら、男として「レディーファースト」を貫いてほしいものですね…
ほんとセコイ友人。
…いや、いっその事。その扱いを″知人″に格下げしたほうが良いのかも?…いやいや…、いっその事。もう″アカの他人″で…
…と彼を軽くdisり切ったトコで話を戻し…
二人はわりと早い時間帯にホテルへチェックインする事が出来ました。
…ですが。このご時世に、まさかの栄養失調?…的な感じなカウンター受付男性。その話し方も「モゴモゴ、モゴモゴ」…と、何を言っているのか全く分からない、かなり小声での応対。当然、会話はいちいち聞き直しが発生する始末。
面倒臭い、足臭い…。この人は本当にホテルマンなのか?…小声プラス肌の血色悪さと細身で激痩せとが合わさった、かなり不気味なのが印象的な人だったらしいです。
「お…こし下さり……あり…うっ…ーー」
お、おーい、生きてますかぁ?話の途中で倒れないで下さいね…?で、もう少しハッキリと喋ってくれぇ〜…
…雰囲気的にもオチ的にも?「あ、この人が幽霊だったんだ」…とか?幽霊自身が「実は、私がこの方に取り憑いていたんですよ〜、テヘペロ…」…と、挨拶するとか?は有り得ませんが、すいません。
取り敢えずホールには客らしい客は見当たらず、初めから嫌なフラグが立ちまくっているのです…
「……。」
そして部屋は一番見通しの良い最上階のキーを手渡されます。彼から聞いた話だと最上階は4、5階?どちらかだったと思いますが。適当に聞いていたので階数は綺麗さっぱり忘れてしまいました。(笑)
そこで縁起の悪そうな4(し)階…とでも、しておきましょうか?(照)
でもその部屋は、天気が良ければ正面の窓から遠目にディズニーランドを一望出来る部屋だったとか?目的地から遠い場所なんだから、何か超目玉的なサプライズをララは期待していて…
「凄い景色…」
状況的にもサイコーの部屋なので。ディズニーランドから帰ってきた後、彼女と二人っきりで見る夜景が凄く楽しみよですよね?まさに二度美味しい一石二鳥なこの部屋。
「ディズニーランドに早く行きたいな?」
「うん」
あっさり気持ちを取り戻したララ。
そして、このカップルは早く行きたいという気持ちだけが、先にディズニーランドへと着いていた事でしょう。
ですが今からその部屋に荷物を置き、予約しているバイキング式の朝食を食べてからバスや電車を乗り継ぎ。最後に目的地へと向かわなければなりません。
…ってか、レンタカーくらい借りてやれよ…
…で、流れ的にはそろそろかな…?え?何がって…?もちろん……″アレ″がですよ…
…と。ここで話をホテルの部屋に入る前へと戻し…
二人はチェックインを済ませ、部屋に向かおうと奥にあるエレベーターへ颯爽と乗り込みました。そして一番上の階のボタンを押し、これからの事を考えながらワクワク、ドキドキ…
「ん…?」
しかしです…。エレベーターの扉が閉まろうとした、まさにその時、突如その狭い室内へ冷んやりとした冷たい空気が流れ、一気に室温が下がったかと思ったら…
(スー…)
この場に異質?もしくは不相応な…?
足元まであるロングの黄色いカッパを着た女性が、音も無くこのエレベーター内に乗り込んできたのです。だからカイが慌てて扉の「開」ボタンを押し…
(ポテチ…(違)……ポチリ……)
…ん?″カイ″が″開″ボタンを…?ふっ…、狙ってません……
(ウィーン………ブルドン…)
咄嗟に気の利いたカイの行動で、閉まりかけていたエレベーターの扉は再びフルオープンしますが…
『……。』
カッパの女性はそれに対するお礼も無く、無言のままカイとララの間を素通りしエレベーターの一番奥へと陣取ってしまいました。そして深く被ったフード部分で彼女のその表情は窺い知れません。
そんな彼女を何度かチラ見しても、此方へは全く振り返る様子も無く。ただ、奥の壁に向かって物静かに立ったままでした…
『……。』
「……。」
その日の関東地方の天気は残念な曇り模様。
ですが道中はもちろんの事、雨なんて一度も降っていませんでした。天気予報でも今日は朝から晩まで、ずっと曇りマークだったので丸一日涼しい予定な筈ですが…
しかしエレベーター内は異様な湿気と共に、何故かその女性の着るカッパからは雨に濡れたであろう滴がポタポタと滴り落ちています。
まさかこの″女性″はホテルの従業員的な?風呂場かボイラー室での作業帰りとか?濡れている可能性としては、それ以外考えられませんから…
『……。』
でも、ホテルの従業員にしては″この人″、酷く無愛想過ぎないか…?
二人はそのカッパの女性に対する違和感が半端なく、目を合わせない様に目的の階へ到着するまで、じっと出入り口の扉の方へ向いていました。
ですが、今日は″丸一日涼しい″どころかエレベーター内はやけに肌寒く、体感温度はまるで晩秋の頃合い…。それが更に不気味さを増す原因に…
(チーン…)
最上階へと到着し扉が開くやいなやララが進行方向も全く関係無くカイの手を強引且つ無理矢理引っ張りながら、通路をただ真っ直ぐに直進していきます。でもカイは彼女のその異様な行動の意味を理解出来ず…
ガチャン…
古いエレベーターだからか、降りる際の大きな音が通路へと響きます。
「お、おい…。待ってよ?ララ、痛いって…」
「ごめんなさい…」
「しかも…、この辺りの部屋は◯◯◯号室って…。並び的に俺たちの部屋は反対側じゃね?」
「ご、ごめんなさい…」
「いいよ、焦っていたら間違ったりする事もあるし…。じゃあ、戻るか?」
「うん…」
カイもあのカッパを着た女性を薄気味悪く感じていたので、正直な話″さっさとエレベーターを降りたかった″部分では彼女と同じ気持ちだったのです。
しかし進んだ方向は自分たちの部屋の番号と全く違う反対側に来てしまっていました。よって、すぐさま後ろへ振り返り
(ウィーン……ブル…略……)
さっきまで三人が乗っていたエレベーターは既にもぬけの殻になっており、扉が静かに閉まると無人のまま再び一階へと降りていきました。ですが、確かさっきまでいたであろうカッパの女性が何処へと消え去っていたのです。ここにきて、頭の整理で嫌でも長く感じる時間帯…しばしの沈黙と静寂が訪れ…
「やだ。何か怖い…」
「だ、大丈夫だよ…。俺たちの部屋と同じ方向のお客さんだよ。きっと…」
「うん…」
最後の「きっと」の部分のだけ声がやたらと小さくて弱いカイ…
そして一連の行動で通路を振り返るまでは、ほんの僅かな時間…。タイミング的にも奥にいた女性がダッシュで部屋へ向かったのなら姿が消えていても納得なのですが。エレベーターから降りる際の「ガチャン」の音も無く、奥から出るには、それなりのカッパの摩擦音や足音が鳴り響く筈でした。
(お、俺たちの足音しか聞こえなかった気がする…)
わざわざ関西から来た楽しい旅行の筈なのに…。この説明し難い怪奇現象を目の当たりにした二人は酷く混乱してしまいます。しかし、これ以上ララを怖がらせたくなかったカイは、嫌な雰囲気を払拭しようと…
「ララ?」
「……。」
「何でもない、大丈夫だって。それに俺がずっと一緒にいるから安心だろ?さぁ、お嬢様。このわたくしカイがVIPルームまでエスコートさせていただきますので…」
「ぷっ、何それ…?うふふ…」
気の利いたカイの優しい対応。
一旦怖い気持ちをリセットし笑顔で優しくララの手を引いて、自分たちの部屋へと向かいました。
(ガチャ…)
その後は何のトラブルも起きず、無事に部屋へと到着した二人。流石に最上階ともなれば、聞いていた通り遠くまで景色を一望出来ました。それが先程までの陰鬱な雰囲気を一気に払拭してくれる事になります。
「カイくん。ありがとう…、すっごく綺麗な景色だね?」
「だろ?自分でも良いホテルを見つけたと思うよ」
「けど…。ホテルの最上階の部屋って、凄く割高なんじゃないの?」
「いや…、ここはそんなに大きいホテルじゃないし、『最上階の部屋は空いてますよ、同じお値段ですから如何ですか?』…って、普通に言われたからさ?やっぱり、景色良い方が良くね?…とか思ってさ」
「ふぅ〜ん…、そうなんだ…」
その後二人は部屋で荷物を簡単にまとめると、一階のレストランへ向かいました。朝から何も食べてないのでお腹はもうペコペコ。最上階のエレベーター前へ着くと、二人は話を打ち合わせた訳でも無いのに互いの顔を見合わせ
「ね、ねぇ?ホール正面の階段から下に降りない…?」
「さ、賛成…」
チェックイン時に二人は目で確認していたのですが。
ホテル正面側の広いホールは上まで吹き抜けになっており、大きな階段が最上階まで続いていたのです。
階段は上るより下る方が楽なのは当たり前。しかしそれは先程遭遇したあの不気味な女性の存在を二人が″意識してしまっている″…と認めている様なものでした…
「これで一階へと到着…っと。ふう…」
「降り階段だけど、最上階からは大変だね。えへへ…」
二人はそのままホテルのレストランへ着くと、想像以上に豪華な料理が並んでいました。
「モーニングバイキングなのにすごいね?」
「あははは、食べ過ぎ注意だな?」
そして、このホテルの周囲に人気の施設でもあるのか、レストラン内では年配な方々が大勢食事されていたとか。
ホテルの場所的に彼らの目的は温泉で疲れを癒したり、健康の為の山歩き等でしょうか?
中でも若過ぎる″ポツン″と浮いた二人の存在。流石にディズニー目当てで、ここの食事を食べに来ている人なんて他にいないでしょうね…
「わ、わぁ〜、お料理がいっぱいあるね?」
「俺は好きなのしか食わないから、ララも好きなのをたくさん食って?」
「え?あははは…」
和洋中で言えば「洋」に偏っていたとか。勿論バイキング形式なのでおかわり自由。無難にスクランブルエッグやトースト、ベーコンにソーセージ、カットフルーツやデザートにカップゼリーまで、他にも色々とあったでしょうが。読者様共々、知りたいのはそんな内容ではありません…
…″カッパ姿の女性がどうなったのか?″…そっちの方を知りたい筈なのです。何でエレベーターに乗らないんだ、この二人は…ったく、空気読めよ……ブツクサブツクサ…
その後、二人は仲良くバスや電車を乗り継いで遊びに行った、とても楽しんだ……な。その日のディズニーランドの内容は個人的且つ、強引&無理矢理″割愛″させていただきます。(爆)
他人のデート話なんて聞いたり書いたりするもんじゃないっ!…ったくっ!はぁはぁはぁ…、すいません。少し取り乱してしまいました…
「ーー今日は楽しかったね?」
「ん?俺はミッキーの被り物?が少しズレていたのが一番楽しかったけど…?」
「もおっ…」
一体何処を重要視しているんだこの男は…?そしてパレードを見たりして盛大に楽しんできたであろう、この後。帰って来たホテルの周囲はカエルや鈴虫等の夜の生物の鳴き声へと様変わりしていました。
りーん、りーん…、ゲロゲロ〜…、モォーモォー…
ホテル正面の入口を抜けて両手に花…もとい、両手には手荷物を大量に抱え、再びあの″エレベーターに乗らなければならない″という現実を突き付けられたこの二人。でも、カイはどケチなので彼女の荷物を持っていたとか…
遊び疲れも相まって、いくらなんでもこの量の荷物を手に持ったまま上り階段を最上階まで……は、さすがに無理があるでしょう…
「仕方ないな…」
「……。」
でもララからの返事は無く。彼女の眉がハの字に歪み、その心境を雰囲気で静かに物語っていました。でも状況は明らかであり、荷物的にもエレベーターを使用する方が楽なのです。
そのまま二人は例のエレベーターの方にへと通路を進みます。
そこでなんとタイミングよく目の前で勝手に扉が開く、とっても「アットホーム」且つ「ウエルカム」なエレベーター…
誰も乗っていないし、ボタンも押していないのに…
(ウィーン……ブ………)
『……。』
それに対し、引き攣った表情ながら一瞬足が止まり掛けた二人。しかし互いの指先はもう荷物の重みで悲鳴を上げています。
よって何も言わず、そのままエレベーターへと乗り込み。カイが空いてない手の代わりに、肘で素早く最上階のボタンを押しました。
その後カッパの女性が再び乗り込んできたり、怪奇現象が起きたりはしなかったのですが…扉が閉まると同時。
カイはエレベーター内へ誰かがスーッと入って来た様な″気配だけ″を感じてしまいます…。でも場の空気的にも、そこは深くは考えずにいました。やがて最上階へと到着し
(チーン…、ウィーン……)
朝の件に関して、自分たちは過度の心配をしていただけではないのか?純粋にホテルの従業員がカッパを着ていて、ボイラー室の作業をしていただけの話ではないのか?きっとそうだろう…。絶対にそうだ…
…と、カイは頭の中で勝手に話をそう結論付けていました…
無人となったエレベーターの扉が閉まった瞬間。漂う異様な湿気と共に″ゾワッ″っと背筋へ、急に悪寒が走ったのです。
カイはすぐさま、下に降りていくエレベーターを目で追ったのですが。扉のガラス窓越しに、全身黄色い姿をした誰かが中に乗っているのが一瞬見えて…
「…!?」
まさかずっと一緒にエレベーター内にいたとか?
いやいやそれは絶対に有り得ない。そもそも、今のは本当にあのカッパを着た女性だったのか?
このご時世。ホテル内で、やたらと目立つ全身黄色一色の服を着いる人なんて、そう易々と目撃したりしないでしょう?
しかし今回…エレベーターから出入りする際。誰ともすれ違っていない筈なのに、降りていく空のエレベーター内に″黄色の蛍光色っぽい服を着た人がいた″んですから。もう、それはホボホボ確定だと思われます…
でも、その決定的な瞬間を目撃してしまったのはカイだけ…。″このホテルには黄色いカッパを着た謎の幽霊が出現する″…と。理解させられる事になってしまいました…
「……。」
基本的に自分は″心霊現象″を全く信じていなかった堅物カイとは、この手の幽霊話をした事がありません。こっちだって相手が興味を持たない話を、無理矢理押し付ける気なんてサラサラありませんから。
それに彼からすれば幽霊なんてものは偶発的に起こりうる「物理、化学的現象」、もしくは単なる「見間違い」的な考えを貫く人だったからです。
でも今回の件は『幽霊否定派』としての説明・明示出来ない事象であり、心の中では霊の存在を「″信じる″、″信じない″」…という部分でかなり葛藤していた事でしょう。
そして自分が常々から他の友達と語り合っていた『″霊の類と意思疎通…シンクロしてしまうとマズい…″』という部分だけが、彼の脳内を錯綜していた様で…
「ララ?は、はや…、早く俺たちの部屋へ戻ろう…」
「え?どうしたのカイくん…?」
「い、いや…。遊び疲れたから、早く部屋で休みたいだけだよ…?」
「そ、そう…?」
勇み足で、半ば強引に部屋へと向かう二人。
そして再び自分たちの部屋へと戻った二人。
時間的にも夜であり、これは期待&予想通り?かなり遠くの方ですが、様々なネオンが色鮮やかに光り輝き、とても美しい景色が窓全体に映し出されていました。
「わぁ…、綺麗…。ね、ねぇ〜、カイくん?部屋の電気を消していい?」
今日、とっても楽しかったディズニーランド。
まだまだそれ以上に楽しみたくて、純粋な気持ちで部屋を暗くし、夜景を堪能したかったララでした……が。しかしカイは…
「ダ、ダメだろっ!」
「ひっ…」
「オマエはいきなり部屋を暗くするとか…、何で急にそんな事を言うんだよっ!!」
「……!?」
意味も分からずカイから怒鳴られてしまったララ…
彼女からすれば、その″怒られた理由″なんて全く分かりません。
それに″アレ″を見てしまったのはカイだけでした。そして彼は彼で、その話をララにしてしまったら″ここでの宿泊を彼女が拒否する″かもしれない…と、その可能性を危惧していたからなのです。
まぁ、早い話しが″彼も被害者″という事ですが…
あれ?…「自業自得じゃね?」…と、ツッコミを入れる誰かの声が多数聞こえてくる気が…、何故だろう…?まっ、いいか。(はあと)
「なぁ、ララ?俺が悪かったから…」
「……。」
当の然の如く、ララは完全に拗ねてしまいました。
よほど頭にきたのか布団に包まり横になったまま、謝っても優しく声を掛けても一切返事してくれなくなったのです。
ザマァ…、いや、コレはその霊の良からぬ波動が二人の仲を引き裂けっ…いやいや…、引き裂こうとしているからではないでしょうか…?
そしてカイは顔の前で両手を重ね。上半身を前屈みに、必死になって謝罪する羽目になったワケです…
「ララ。本当に悪かった、この通り謝るっ…。俺が言い過ぎた…。正直な話。あの時、カッパの女が見えた気がして…、怖くなって気が動転してたんだ…。ごめんな…、ホント許して…頼むから…」
「……。」
「気を取り直して、一緒にホテルのディナーを食べに行かないか?俺はキミと仲直りしたいんだ。ララがずっと怒りっぱなしだと困るし、凄く寂しい。それに、この状態は二人にとっても良くない事だと思う。本当に俺が悪かったから…、許して下さい…、どうかこの通り…」
「…ほ、本当に悪いと思ってる…?」
「本当に悪いと思ってる、本当にごめんなさい…。ララと一緒にホテルの美味しい料理を食べたいし、それで機嫌を直してほしいな…?」
「う、うん…。もういいよ…」
「ララ、ありがとう…。本当にごめん。許して、ララ…。だから…もう大丈夫だね」
「……。」
彼の事を、先に「結構しつこいタイプ」的な人物像を書いてましたが。謝る時もかなりしつこくて…
要は理詰め、更に理詰めと…物事一つ一つにちゃんと白黒をつけないと納得出来ないタイプの偏屈人間だったのです。
自分が悪いと思えば、相手が納得するか許してくれるまで只管謝り。相手が悪いと思えば謝罪してくれるまでそれを只管指摘してくる。この良し悪しは自分には判断しかねますが…、彼は曲がった事が嫌いなバカ正直な人間…という事なのでしょうかね。
ただ、そこに酷い″ドケチ″が付くだけで…。取り敢えず、こんな流れで一旦不仲が解消したこの二人でしたが…
でも…
「ララ、一階レストランへ行くのにホールの階段を使うけどいいか…?」
「うん…」
その行動からも、あの薄気味悪いカッパの女性を完全に意識しているという事が明白に。オマケに例のエレベーターを使わないなら。食後、上りの階段が辛いので食事も程々に、二人は言うほどディナーを堪能する事が出来ませんでした。
部屋へと戻る際、階段だからか何も起きませんでしたが。一人っきりになるのが怖いのか、ホテル自慢の大浴場にも行けず、二人は部屋に有るユニットバスで風呂を済ませる羽目に…
「…明日もあるんだよな…」
「え…?カイくん何か言った?」
「い、いや。明日も楽しみだなぁ〜って…」
「そう…だね…」
部屋はワンルームのツインベッドでしたが。ララは就寝前に朝の件が余程怖かったのか「一人で寝れないの…」と言って彼女はカイのベッドで身を寄せ合い、一緒に寝る事になりました…
コンチキショウ。
しかし丸一日分の遊び疲れと最上階までの階段の上り下り、精神的な疲れとのトリプルパンチで、二人はすぐに深い眠りについてしまいます。でも、この日はこれだけでは済ませてはくれなかったのです…
「!?」
そしてこの夜。
カイは生まれてこの方一度も体験した事の無い、恐ろしく長い悍ましき″恐怖の夜″を体験させられる羽目になってしまうのでした…
ーー後編へ続きます。




