表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/95

三ノ怪 ゆうれい坂の怪

これは自分ケイジが立派な役立たずの社会人となり?同じ高校の同級生だった友人が新車を見せびらかしついで「ドライブへ行かないか?」と誘ってきた時の話です。

子供の頃から家の事情で引っ越し、引っ越し、出て行け、出て行け……と。引っ越し三昧だった自分が、ようやく落ち着いてきた頃でもあります。


メンバーは更に友人一人を加え、暑苦しい男三人で車慣らしのドライブに出掛ける事になりました。主役ではないですが、自分が広い後部座席を一人で陣取り車の持ち主サカが運転席。そしてその横、助手席にはワダが座り各々のポジションが決まりました。


遊びに行く今回のお題は『ゆうれい坂に行こう』。大阪太子の山手、とある坂道だらけの長い農道があり。かなり有名だったりもしますが、そのいわく付きの場所には二通りの噂がありました。


一つ目は、見た目が上り坂なのにボールを置けば坂道を上って行く。要は視覚が錯覚を起こすだけの全く怖くない現象です。


そして二つめが問題の心霊現象。その周辺の山々には、たくさん葡萄畑がありますが。曰く付きの話もたくさん…。

そこを通る農道の、とある脇道に入って行けば。その奥に問題の古びた木製の朽ちた農具置き場があるらしいのですがーー




「今日は車慣らしだけど、何処かにドライブ行こうよ?何か希望ある?」


と、運転手のサカが行き先を聞いてきました。そしてこの後、ワダの余計な一言であの恐ろしい出来事に遭遇するきっかけになるのですが…


「肝試しなんてどう?あの″ゆうれい坂″とかどうよ?男ばっかりで色気ないけど、むさ苦しさが紛れて涼しくなるかもよ?」


「え〜…。俺は怖いんだけど…。う〜ん…任せます」


ワダがまず自爆的なフラグを投下。そして、ちょっと流されつつそれに同調した自分。この時、後に起こる心霊現象など誰が予想出来るでしょうか?


「じゃあ決定〜。あの怖い″農具置き場″に行くからな?頼むから、ションベンちびって車内汚すなよ?わはははっ」


「大丈夫、大丈夫だって」


「農具場??勘弁、勘弁。お、俺は別に怖くないけど勘弁だ…。けど…もし、出たら俺は容赦無く自分の耳塞ぐからな?わはははは…はぁ…」


最後の自分の意味の分からない返事は只の虚勢です。で、まだ時間はお昼過ぎ。雲無き青空、至って快晴。幽霊なんて出る雰囲気など微塵も無く。そして目的地が近くて、言ってるそばから現場に到着してしまいました。


「は〜い。そろそろ到着しまぁ〜す」


「はやっ!」


「……。」


友人二人は恐れを知らず、明るく言葉のキャッチボールをしていますが…


ゾゾ…


自分は既に違和感をその肌に感じ取っていました。これ以上行ってはいけない、そう心が警鐘を鳴らし始めていたのです。すると何故か自分の右腕が…


(腕が痺れる…!?)


噂では。その場所に10秒ほど立っていれば、四六時中幽霊を拝めるラッキースポットと言われている恐ろしい場所です。自分は違う土地に住んでいて正確な位置やその噂を知らなかったのですが、地元人のサカはその場所を知っていました。やがて車はアスファルトの道路から脇道へと外れ、人っ気の無い両脇が雑木林に挟まれた砂利道へと入っていきます…


(じゃり、じゃりじゃり、ザザッ…)


「うわぁ…。何か既にヤバいよ。ってか、コレってバックでしか道路に戻れないんじゃない?」


すると後部座席の自分からはよく見えなかったのですが、助手席のワダが少し右辺りを指差しながら声を上げたのです。


「あ、あの先っ!あれだろ?あれだ、あれだ!あれあれっ。中から草生えてて、すっごいボロボロだぁ。怖っ…」


その朽ち果てた農具置き場までは正面の畑を挟み20メートル位先?の、ちょっと離れた場所まで近づいた様でした。車ではこれ以上は進入不可との事。そして長く手入れのされていない畑?らしき場所は、他者を侵入させまいと背の低い雑草がわんさか生えています。すると運転手サカが


「車はここまで。さぁ、歩いて一緒に見に行くか?」


と、言ってきました。しかし、ワダが急に青褪めた顔で…


「何か急に寒気が…。トイレしたいんだけど、ちょっと待っててくれるか?」


と言ってきました。雰囲気と言い方が怖いよ…、超怖がりな俺をこれ以上ビビらせないでくれ…。ネタじゃ無くてまぢチビるぞ…?するとサカは右手親指をグッと立て、もう片方の手にはポケットティッシュを。そして笑顔でワダを見送りました。しかし自分はその時、原因不明で痺れる右腕を何度も摩り、それどころではなかったのです。


(何で痺れるんだよ…。別に腕枕して寝ていたわけでもないのに…。それに、何か首元がモヤモヤゾクゾクっと、凄く嫌な予感がする…)


取り敢えず運転手のサカはワダ待ちでタバコ片手に一服中。そこで不安が爆発しそうなケイジは初めてサカに声を掛けて


「なぁ、サカ?俺、無茶苦茶嫌な予感がするけど…。ワダが帰ってきたらすぐに帰ろう、な?な?なっ?」


そう、お帰りの催促…


「え〜…、せっかく来たのに?…まぁ、ワダが帰ってきたらその話するし、アイツに聞くからトイレが終わるまで待っててな?」


「…ああ、わかった…」


そしてこの後、一番恐れていた事が起きてしまうのです。その始まりは至ってシンプルに。車の前方でベルトが半分外れたトランクス丸見えの状態で、ズボンをちゃんと履けていないワダが絶叫し正面の草むらを掻き分けながら車に向かって走ってきたのです。


「わぎゃああああっ!!でたっ!でたっ!!でぇたあぁーっっ!!!」


一体″でた″とは何でしょう?幽霊スポットに来て一番使われる、一番分かりやすいワードではないでしょうか?じゃあ、何が出たのか?そんな事、考える必要は一切無く、早い話が″出た″のです。

そう…『幽霊』が…。すると続いて、運転手のサカが恐怖に染まった顔で小さく言葉を漏らしたのを自分は聞き逃しませんでした。


「…ほ、ほんまや…」


ワダとサカ。この時点で二人とも幽霊を見てしまっています。しかしワダは草を掻き分け、まだ車まで3メートル程離れている距離だったみたいで。しかしその到着を待たずして、サカは車をバックで急発車させたのです。それを見たワダが更に泣きながら声にならない声で絶望の叫び声を上げていました…


「まっでぇっ!!いがんどいでぇ!?だぁずぅげでぇぐでぇっ!!」


「ま、待ったら追いつかれるだろっ!」


恐らく、直訳すると『待って、行かないで、助けて下さい』と言っているのでしょう。しかし…、可哀想ですがサカのとった情け容赦ない行動に自分は超賛成だったりしますが。うん、最低だな…


「だぁずぅげぇ……て………た…」


「まだ来てるっ、わあああっ…」


車体はガタガタと、ワダを置いてけ堀に猛スピードでバックするサカの車。やはり新車は速い。サカ、ホント性能の良い車をありがとう…。そして彼の悲鳴はまるで通り過ぎる救急車のサイレンの如く段々と小さくなってゆくのでした…


「………っ……」


やがて農道へと戻り、一旦急ブレーキをかけ正面を見直したサカ。その視界には泣きじゃくりながら走ってくるワダの姿が見えていたらしいです。やがて彼が車に近づくにつれ何を叫んでいるのかわかってきましたが


「……てぇ……っ、てぇ…!ま、まっでぐでぇっ!!」


「はぁ、はぁ…。も、もう、追ってこないか?」


ワダのズボンのベルトは何処へやら。ようやくチャックを上げ車の助手席に乗り込んだ彼は、過呼吸の様に荒い息を続け「はぁ、はぁ、はぁ……」と、しばらく黙り込んでしまいました。そんな彼に運転していたサカは


「すまない…」


と、一言…。その瞬間、ワダは再び大声で大人泣きします。自分を乗せなかった彼を責めるわけでもなく、ただ、幽霊に遭遇し襲われたショックの方が大きかったのでしょう。


「お、お婆さんだったな…?着物の…しかも物凄い形相で……」


「う、うん…ぐすっ……」


しかし。ここに来て自分は重大な事を話さなければなりません。それは『ぎゃあ、出たっ…以下略。』の時点で。自分は後部座席で頭を伏せ、目を瞑り、思いっきり震えながら耳を塞いでいたのです。…ホント、ごめんなさい。


「あ、ああ…。大変やったな?あー大変…。こ、怖かったな…。ホント怖かった…」


無難に、そう平然と答えた切った自分。見たとは言ってないから嘘もついてない微妙な回答。最低だ…。でも怖いものは怖いのです。見たくないものは、やっぱり見たくない。


ただワダは後日、病院の診察でも分からない謎の高熱で数日間苦しみ続け、近くのお寺でお祓いしてもらう事になってしまいました。

そして現場にいる時は分からなかったのですが、彼の背中には無数の手形の痣が出来ていたとの事。これを機に、自分からは絶対に遊びでパワースポット的な場所には行かない様にしていますが…運命か、これは前世での罰なのか?自分は何故かこれ以降も色々と体験する事になるのですが…





完。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ