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四ノ怪 ザ、事故物件

これは自分ケイジが小学生の高学年だった頃。今は亡き長男のナガにいがラメという名の友人宅に泊まらせてもらった時に、世にも恐ろしい体験をしてしまったというお話です。


ナガ兄は実はプロドラマーでもありました。でも、実際はそれだけでは食べていけず、本職はとある会社の営業マン。まぁ、音楽をやっている縁でベース弾きのラメという男性と友達になったらしいのですが。

その友人は、その界隈で結構有名な方との事でしたが、音楽の世界に疎い自分には誰が誰やらかは全く分かりません。

ホントに有名なのか?まあ、そんな二人が市内のスタジオで仲間とコンサートの練習?か、調節?か、よく分かりませんが。夜遅くまで頑張ってしまい終電を逃してしまったナガ兄。

こんなやってしまった感とフラグ感が満載ですが…。そこで市内在住のラメが「よかったら今日、ウチに泊まりなよ?」と言ってくれたらしく…


流れ的にオチは見えてますね…、はい。ナガ兄はこの後、恐ろしい体験をしてしまう事になるのでしたーー





「市内で新古物件って、凄く高かったでしょ?」


「いや、ここは案外安かったよ?」


「えっ?そうなんですか!?よくスタジオにいる彼女さんもここにいると思ったんですが、一緒に住まないんですか?」


「まぁ、色々な“理由ワケ”があって今は離れて暮らしてるんだ。別に仲が悪い訳じゃないよ…?いつでも会えるから」


違和感も無く、軽くナガ兄にそう返した彼女持ちのラメ。そしてベースだけでなく料理も達者な彼は自慢の洋食メニューを兄に振舞ってくれたのです。

そのついでに、部屋の奥の角に有る神棚にも少量の料理をお供えしていた彼。


「ラメさん、美味しい料理までご馳走になって…ホントすいません。…へぇ、神棚ですか?何か信心されてるんですか?」


「ん?あ、ああ、“ここ”に住むようになってからだけどね?ハハハッ、神棚なんて頭が金髪パツキンな自分には似合わないよね?」


「そ、そんな事無いですよっ!自分はラメさんをホントに尊敬してますからっ!」


「うん、ありがとう…」


そんな何気ない会話をしていますが、部屋の奥にある神棚の横側。貼り替えたのか、壁クロスの一部デザインが違う事に気付いたナガ兄。しかし先程の事もあり。これ以上の詮索はこの世界で大先輩のラメに対して不敬だと思い、それ以上彼に質問する事が出来なかったのです。


そして食後。ナガ兄は風呂に呼ばれましたが、そこで一つめの怪奇現象に遭う事になるのでした。


(ジャー……)


まさに気分はリフレッシュ。目を瞑り頭からシャワーを浴びていたナガ兄は、風呂の摩りガラス扉の向こう側から急に人の気配を感じ…


(ガタッ、ガタタッ…)


「え?ラ、ラメさん?」


摩りガラスの向こう側。眼元が濡れていて見辛い視界でしたが、青いワンピース着た女性の姿がチラッと見えたのです。状況的にナガ兄はラメの彼女さんが家に来たと思い、慌ててシャワーを止め、頭や顔に滴り落ちる水を必死に両手で切り。ついでに股間もしっかり両手でガード。ドア越しに、その女性へ挨拶をしたのですが…


「こ、こ、こんばんは。ラメさんの友人ナガといいます。夜分にシャワーを使わせてもらって…、こんな格好で挨拶して申し訳ないですが…………。…て、あれ?」


ですが…、慌ててもう一度顔の水を両手で切った後。確かにいた筈の女性は何処へやらと消え去っていたのです。


「え…?あれ?あれれ?」


(ガララ…)


垂れ落ちる滴を気にしながら、スライドタイプのドアをゆっくりと開け確認しましたが、やはり更衣場には誰もおらず


「おかしいなぁ…、見間違いかなぁ……?」


ナガ兄は少し納得がいかないまま、風呂を出て急ぎ居間へと向かいました。あれは一体何だったのでしょうか?只の見間違いにしては、あまりにリアル過ぎます。そんな事を考えながら歩いてくる兄をラメは笑顔で出迎えてくれて


「シャワーだけでごめんね?その間に、二階の突き当たりの部屋へ布団を敷いておいたから、美しい景色でも見てゆっくり休んで?そして、今日は本当にお疲れ様でした。自分はこの居間で寝るから、もし何かあったら気軽に声を掛けてね?もし”何かあったら”ね…。じゃあ、おやすみ〜」


「…、あ、ああ…ありがとう御座います…。お疲れ様でした…」


『”もし、何かあったら”』…と、ラメは少し口籠る感じに同じ言葉を二度も口にしました。風呂でシャワーを浴びていた時の奇妙な出来事もありますが、その日の疲れもあって。それらを確認する事なくナガ兄はラメに頭を下げ、素直に寝室へと向かいました。


しかし教えられた部屋のドアを開けると、片面が全て扉窓の夜景が透き通る様、とても景色が綺麗に見える部屋だったのです。視界には多種多様なネオンが色彩を奏で、部屋の両片隅にはライトアップされた熱帯魚の水槽とプラネタリウムが置かれており、寂しい夜の部屋を飽きさせない工夫が施されていました。


「あははは…、凄すぎて逆に寝つけないかも?」


とは言っていますが、ナガ兄はこの後。ゆっくりと夢の世界に誘われる事になります。しかし夢の内容は全く覚えてなかったらしいですが、途中で何度も何度も目覚めてしまいました。しかも起きた時は必ず心臓の鼓動が激しく、まるでサウナから出たての様に全身から大量の汗が流れ出ているのです。


「はぁ、はぁ、はぁ………。何で?」


そして起きた回数は覚えていないらしいのですが。最後に兄が目を覚まし飛び起きた時、自分の脳裏に何かのビジョンが映し出されました。それは見た事もないヤクザ風の男二人に拳銃を向けられ、その後何発も、何発も…その銃弾で身体を撃ち抜かれたのです。弾が当たる度に身体は激しく痙攣し、やがて死んでしまったのか。じわりじわりと、その痺れが全身へと、頭の中は次第に真っ白になり…。やっとそれが収まると、自分が寝ていた部屋の天井が見えてきました…

しかしそんな寝ぼけ眼で目覚めた自分の真上に、青いワンピースを着た美しい女性が寂しげに立ち、こちらを見つめていました。ですがこの時、既に兄は金縛り状態。目だけ見開いたまま、彼女を見つめ返す事しか出来ず…


(…この人は確か風呂場にも現れた…)


ですが…。その“人”の肌は人間の様な血色は無く、街灯の灯りにも影響されない存在自体が空気の様な″人″でした。いや、それは寧ろ″幽霊″と言った方が早いでしょう。やがて彼女は徐ろに屈み始め、兄の顔をジッと覗き込んでくるのです。でも、その表情はまさに無。話し掛けてくる訳でも無く、手を伸ばす訳でも無く、ただじっと見つめてきて


「……!!!?」


すると何も言わない彼女の額から、やがて大量の血がダラダラと流れ出し、その表情がじわりじわりと血塗れになってゆくのです。この時やっと、ナガ兄は確信しました。ここで″見てはいけないもの″を見てしまったと…


「!?!?…っは!?」


と、次の瞬間。兄は声が出る様になり試しに手足を動かし、次には身体も動かせるようになっていました。もう、既に金縛りは解けていたのです。そして、もう一度天井を見てもその女性の幽霊は何処へやら…。だから今がチャンスとばかり、慌てて部屋を飛び出し、居間にいるラメの元へと急ぎ向かいました。そこで…


「やぁ…」


出迎えてくれたラメは何故か寝ておらず、ナガ兄に軽くそう一言。しかも夜中の居間で一人、寂しげにギターを弾いていたのです。


「ラ、ラメさん…、青い…、い、いえ、あのですね…」


「言わなくても分かってるよ。″君には見えたんだ″よね?色々な人を泊めたけど…”僕の彼女と君だけには見えた”みたいだ…。ごめんね?教えるのが後になってしまって…」


「それって…?」


するとラメはそう言って、ナガ兄に心霊現象の真相を全てを話してくれました。

この家では昔。とあるヤクザの抗争でターゲットの夫と間違われたのか、銃を持ったヒットマンらしき二人にその妻が撃ち殺されるという凄惨な事件があったらしいのです。

その抗争に巻き込まれた女性はもちろん即死。もしかするとその女性は自分が殺された事すら分かってないのかもしれません。

ただ、その時に女性の身体を貫通した弾が、あの神棚の横の壁を穴だらけにしてしまったらしくて、家を分譲する過程で、あの部分だけクロスが貼り替えられていたらしいのです。

そして、兄と同じく霊が見えてしまったラメの彼女は同居を拒絶。現在に至るとの事でした…


「ローンもまだまだ残ってるんだ…。けど、幽霊かのじょは結構美人だったでしょ?さっきも彼女にギター聞かせてあげていてさ、それで…」


「……。」


幽霊に音楽が理解できるのでしょうか…?


ナガ兄には彼の考えが全く理解出来ずにいました。怖がるワケでもなく祓う気も無く淡々と心霊現象の話をし、幽霊かのじょとの共存を選んだ彼の事を。

もしかしてラメは取り憑かれてしまっているのか…

確かに兄は何もされませんでした。しかも女性はかなり美しい方だったらしいです。やはり音楽業界でも一流で有名な方は、概念や状況の捉え方、はたまた発想も一般的な方々からは逸脱しているのかもしれません。ただ…その後、気になる彼がどうなったかの話は、既に亡くなっている兄からは二度と聞く事は叶いませんでしたが…





完。

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