第4話 魔法
地上に到着したサウザーとアドニスは、石造りの街並みである旧市街を散策していた。旧市街と言うが店のような店舗は、全く見当たらない。
「ちょっと気になったんだけどさ、お店ってないの?」
何気ない質問のつもりでアドニスがサウザーに質問する。するとサウザーは、一瞬驚いたような顔をするが、アドニスを街角へ手招きし、小声で話し出す。
「サングンタイ星では、お金の概念が存在しないんだ。昔は、あったらしいけど教団が力を持つようになって次第になくなっていったって、俺の爺さんが言ってた。俺自身もサングンタイ星じゃ店やお金ってのは見たことがないな」
人間界とマキナの世界では、心底色々と違いがあるらしい・・・。教団??アドニスは、その教団という言葉に反応してしまう。
「教団って?」
「あー。早い話、マキナ全土で信仰されている宗教だよ。マジカルフューマノイドの始祖を神として崇めているって怪しい教団さ。この教団が今のマキナじゃ力を持ちすぎてるんだ。一応俺も半強制で信者ではあるが、将来的にはそれをぶっ潰したいってわけ」
なんて明るい顔でとんでもないことを言うのだろう。アドニスは、再び不安感に苛まれるがワクワクもする。マキナの世界では、人間界ではできなかったようなことが沢山出来るような気がするからである。ここにきて今まで体験したことのないようなことばかりを経験している。街を歩く人も人間に見えるが、サウザーの話では、サングンタイ星は特殊な環境であるため、人間はほとんど生息していないという。人口の99.9%は、マジカルフューマノイドのマキナの世界でも有数のマジカルフューマノイド国家と言われているという。
「そういえば、今はどこに向かってるんだ?」
サングンタイ星の話を聞きながら歩いていたが、アドニスは、ふと思い出したように質問を投げかける。サウザーは、立ち止まりアドニスに驚くことを伝える。
「そんなの決まってるだろ。トレジャーハンティングさ!」
・・・・・・・・・。
『要するに泥棒に行きますよってことかよ・・・。でもお金が存在しない星ならそれもありなのかな?』
サウザーの言葉に一瞬顔を曇らせたアドニスであったが、お金の概念の話を聞いた後なので、少し腑に落ちたような気がした。
「お金が存在しないから、トレジャーハンティングしても許されるってわけなのか?」
「だんだんわかってきたな。その通り!大切なものを隠し持ってる。そのためのセキュリティーも万全にしてる。しかし、トレジャーハンティングされたらそれは仕方がないことだ。ってのが、マキナの常識さ。人を傷つけて物を取るようなことは許されないが、トレジャーハンティングは、合法なのさ。だから泥棒じゃないって言ったろ。信じてなかったのか?」
はい。まったく信じておりませんでしたと言う表情でアドニスは、サウザーを見ている。トレジャーハンター=泥棒っていう考え方が変わったわけではない。アドニスの祖父からの教訓である「常識を疑えば視野が広がり新しい道が見える。」を体現するいいチャンスである。
「また教団に盗みに入るのか?」
その問いにサウザーがずっこける様なリアクションをする。
「盗む!?トレジャーハンティングって言っただろ!?盗みじゃない!」
まったく違いがわからないが、サウザーはいい奴そうであるため、変なことにはならないだろうとアドニスは考えていた。しかし、腑に落ちない点もある。確かにマジカルフューマノイドは、長命であり、あまり時間に縛られない生活をしているから呑気であることはわかった。自分も上物の思念体の身体を手に入れた。この思念体の身体もマジカルフューマノイドと同じだけの寿命があるのだろうか?素朴な疑問である。
「なあ。この思念体って体の寿命って何年くらいの物なんだ?この世界でもし死んだら俺はどうなるんだ?」
気になったら口に出さずにはいられない。そう思いサウザーに質問した。
「思念体の寿命か?んーーーー。そんな体に何年も入ってるやつは、正直見たことがないんだよな。だから予備の筒を取りに行こうって話なんだよ」
聞いていない。しかも質問の答えが半分しか返ってこない。
「ええ?いつ寿命が来るかわからないのかよ!それで死んだらどうなるんだよ!?」
間髪入れずにもう一つの質問をする。
「それは・・・・。わからない・・・。マキナの世界は、死の国があって死んだ魂は必ず死の国に行って、浄化されたのち輪廻転生するんだ。死の国にも行く方法はあるし、死の国の住人を召喚する方法もある。死の国の住人は、所謂死神って奴だな」
・・・。また情報が多すぎて混乱している。アドニスの常識は、通用しないことはわかっているが、それを踏まえても不安な回答で心を震わせるような感覚に陥った。死の世界??そんなものが当たり前のように存在する世界・・・。考えるだけで恐ろしいとアドニスは、表情を硬くした。
「人間は、死に対する恐怖心は強いみたいだな。寿命が短い分俺達からすると有意義に100年を生きていると思うがな。アドニスは違うのか?」
弱冠10歳。この世に生を受けてまだ10年。サウザーのように1500年も生きているのとはわけが違う・・・。死に対する考えなどまったくもってわからない。ただただ死ぬのが怖いそれだけである。
二人とも少し無言の時間があり石畳の路地を歩いている。しばらくして大きい建物の前でサウザーが立ち止まる。
「ここだな。世界教団の教会だよ」
白と青を基調とした美しく大きい建物である。周りは高い塀に囲まれており中は見えない。
「どうした?表情が硬いぞ。そんなことじゃ俺に着いてこれないぞ」
サウザーは、ニコニコしながら話しているがアドニスの表情は、やはり硬い。
「もしも、もしもだぞ、俺が捕まったり、撃たれて死んだりしたらどうするんだよ?この体がどれほど持つかなんてわからないんだろ?」
不安そうな表情でアドニスはサウザーに質問を投げかける。しかし、サウザーはニコニコしたままで、こう答える。
「心配しなくても大丈夫。俺は強いよ。何か危険なことがあったら、お前を最優先で助けて一目散に逃げてやるよ。その気になれば、このあたり一帯を消し飛ばすことも可能だ」
サラリととんでもないことを言っている。このあたり一帯を消し飛ばす??どうやって???アドニスは、目が点になっている。
「なんだよ。信じてないのか?この辺りは、魔素も濃いからな。難なく消し飛ぶよ。ちょっと見せてやるよ」
そう言うと、グイっとアドニスの腕を引っ張った。次の瞬間身体が浮かび上がり、物凄いスピードで上昇していくような感覚が全身を包み込む。
「ええーーーー。うっ浮いてる!!??」
高所恐怖症のアドニスは、固く目を閉じている。そうすると地に足が付く感覚があり目を開ける。・・・・すると一面砂漠の大地が目に飛び込んできた。何が起きたか理解が出来ずアドニスは、その場に座り込んでしまう。
「ここは、イエローダウンっていう惑星だな。サングンタイ星からは、かなり離れた僻地にある惑星だ。地下施設で出来ないような、色んなやばい実験や魔法や技の訓練をするために環境改善した星だ。星の面積は、サングンタイ星の1000倍ほどで超新星になるような星だったが、環境改善装置を設置して、今は大気があって鉄と砂の惑星になってるな」
「・・・・もう何を言っても驚かないつもりだったけど、今回のはチンプンカンプンだ。サウザーが言ってることがよくわからない。ここは、さっき居た星と違う星なのか?」
座ったままシンプルな質問をサウザーに投げかける。
「そうさ。さっきも言ったけどここは、イエローダウンって言う僻地の惑星だ」
「ちょっと待ってよ。じゃーサングンタイ星の空にこの巨大惑星があるのか?さっき飛んだような感覚があったから」
「あー。飛んでないよ。瞬間移動したんだよ。人間界の言葉じゃ・・・何だろうテレポーテーションって言うのか?俺たちの呼び名は、移動術式・改 空間転移って名前の魔法だな」
アドニスは、まるで漫画に出てくる、どこへでも行ける不思議な扉のようだと思った。それが、これである。扉は出なくとも瞬時に行きたい場所に行ける・・・。何ともロマンあふれる魔法なのであろうか。アドニスの表情は先ほどと打って変わってワクワクした表情に変わっている。
「それすごいな! 一瞬でどこにでも行けるじゃん! どんな場所にも行けるのか?」
「んん?ああ。残念ながら一度行った場所じゃないと行けないな。行ったことがない場所に行くような術式はもっと高度な術式だよ。正直なところ俺にはできない。まーそんなことはどうでもいいって。ここは俺の野外実験所なんだよ。まーみてな。はぁーーーーーーー!」
サウザーのいきみ声とともに大気が震えるのがわかる。サウザーは両手を重ね握り合わせている。その握り合わせた手の周囲から冷気があふれ出ているのがわかる。その場の気温が一気に下がっていく。アドニスにも直感的にわかる。これはヤバい!!
「はーーー。グレインガムド!」
サウザーは、重ね合わせた手を大きく前方に翳す。その手から放たれたのは氷河のような大きさの氷の塊で瞬時に前方何十メートルにまで伸びる。周囲の気温は一気に低下していきサウザーを中心に地表は、ガチガチに凍っている。
「ななななななんじゃこりゃーーー」
アドニスは、驚きのあまり、凍った大地にへたり込んでしまう。
「ほらな。これくらいの力があれば難なく敵は殲滅できるだろ。さっ帰るぞ」
「えっ?ちょっと待っ・・・」
サウザーは、アドニスの話をすべて聞き終わることなく転移する。この男は、時折見せるぶっきらぼうな対応でアドニス少年の心を不安にするのである・・・。
「待って待ってさっきのあれは何だったの?もう何がどうなってるのか!!魔法?あれは魔法なの??」
アドニスは、前傾姿勢になり手をワチャワチャと動かし、驚きを体全体で表現している。サウザーはと言うと・・・ニヤニヤした表情でアドニスを見ており、どこか誇らしげである。
「さーて、俺の実力はわかっただろう??これなら何が来ても大丈夫!!」
自信ありげに自分の胸をドンっと叩いて見せる。それでも10歳の少年アドニスは、不安げで自信満々なサウザーの後ろを前傾姿勢で着いて教会へ入っていく。
「こんなこと言うのもあれなんだけど、殲滅って言ったら人殺しするってことでしょ?」
不安げな顔でアドニスがそうつぶやくとサウザーは、首を横に振って否定して奥を指さす。
指さした方向で何か機械的な音が響いている。




