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2/22

第1話 終わりの始まり

家に帰ってきたアドニスの表情は、いつものキラキラとしたものではなく、学校で過ごしているときのようなどんよりとしたものだった。


 荷物をリビングに置く。


 今日はテレビの電源もつけず、そのまま一目散に自室へ入った。


 そして、帰り道で出会った銀髪の少年が言っていたことを思い出す。


「右手に意識を集中しろ」


 その言葉を思い出し、銀髪の少年――サウザーの姿を頭に浮かべながら、右手を見つめて意識を集中する。


 …………。


 ………………。


 ………………………………。


「……?」


 何も起こらない。


 アドニスは考えた。


 もしかすると、極度のストレスから現実逃避をして、幻覚でも見ていたのではないか。


 もう一度、銀髪の少年の言葉を思い出してみる。


『目を閉じて……意識を右手に……』


「……あっ」


 目を閉じる。


 大切なことを忘れていた。


 右手を見ながらでは何も起こらなかったのだ。


 改めて目を閉じ、右手に意識を集中する。


『お前、意外と頭悪いのか? さっき言ったことがなぜできない。俺は――』


「えっ!?」


 驚いて目を開ける。


 声が消えた。


 もう一度目を閉じ、右手に意識を集中する。


『だから、意識を途切れさせないでくれよ。俺の姿は見えるか?』


 サウザーの言っている意味が、よく分からない。


 目を閉じているのに、どうやって姿を見るというのか。


 再び目を開ける。


 何も聞こえない。


 何も感じない。


『だからぁ。目を閉じてないと俺のことは認識できないんだって。っていうか、本当にバカなのか? もう一度集中して、俺を見てみろ』


 最初に会ったときの優しい口調ではなく、どこか鬱陶しそうな口調になっている。


 アドニスは戸惑ったが、今度は目を開けなかった。


 サウザーの言うとおり、その姿を見ようと意識を集中する。


 すると――。


 真っ暗な瞼の裏に、小さな光の点が現れた。


「……!」


 思わず目を開けそうになる。


 しかし、その小さな光だけに意識を集中する。


 点だった光が、少しずつ大きくなる。


 やがて周囲を照らすほどの明るさになっていった。


 さらに深く意識を集中する。


 ……フリージアの香りがする。


 帰り道で感じた、あの甘く清涼感のある香りだった。


『いい匂いだ……』


 光の中心へ意識を向ける。


 そこに、銀髪の少年が何かを持って立っていた。


「やっと来たな。おめでとう。ここがマキナの世界だ」


『マキナ……?』


 何を言っているのか、さっぱり分からない。


 声を出そうとする。


 だが――声が出ない。


「……っ!」


 一瞬パニックになり、目を開けようとする。


 しかし、目も開かない。


 瞬きすらできない。


 何が起きているのか、まるで理解できなかった。


「おお? ちょっと焦ってるな。よしよし。今の状態を説明してやろう。今、お前は木の一部として俺を見てるんだ。わけ分からんと思うが、聞いてくれ」


『木の……一部?』


 完全にパニックだった。


 どうしようもない不安が身体を突き抜け、サウザーの話は右から左へ流れていく。


 ほとんど頭に入ってこない。


「大丈夫か? んー……うまくいったと思ったんだがな。ちょっと意識が遠のいていってるな。とりあえず無理するな。また戻ってこい。俺はしばらくここにいるからさ」


 先ほどまで眩しいほどだった光が、どんどん小さくなっていく。


 フリージアの香りも薄れていった。


 そして、完全に光が消えた瞬間――。


「だーーーーっ! 何なんだよ今の!? えっ? 夢? 僕、寝てた? ……って、汗だくになってる!」


 アドニスは、いつの間にか眠っていたらしい。


 しかし時計を見る。


「……あれ?」


 先ほど確認した時間と、ほとんど変わっていない。


 最低でも十五分ほどは眠っていた感覚があった。


 だが、時計は一分も進んでいない。


「なんだよこれ……」


 少し怖くなった。


 考えないようにしよう。


 アドニスはリビングへ行き、いつものロールプレイングゲームを始めた。


          ※


 ゲームをしていても、先ほどの不思議な光景が何度も脳裏をよぎった。


 理解不能な現象。


 だが、それは確かに自分の身に起きた。


 そう考えているうちに――。


 好奇心が、不安を追い越した。


 アドニスは立ち上がる。


『もう一回やってみよう。でも怖いな……動けないし、喋れないし。息もできなかった気がする。あの銀髪の人、サウザーって言ってたな。それに、時計の時間がまったく進んでなかったのも気になる……』


「んんん……よしっ!」


 ゲームをセーブして終了する。


 そして再び自室へ戻った。


『ふーー……落ち着け、アドニス。今、すごい不思議な体験をしてるんだ。これは現実だ。もう一度、あの人に会いに行こう。でも、さっき何か言ってたけど全然覚えてないや……』


 時計を見る。


「今は四時五十分……。よし」


 目を閉じ、右手へ意識を集中する。


 今度は、前回とは比べものにならないほど速く光が広がった。


 そして、フリージアの香りが漂ってくる。


 パァ――――ッ!


 一気に視界が明るくなり、サウザーが立っているのが見えた。


 今回は落ち着いている。


 だが、やはり声は出せない。


 ため息をつこうとしても、息を吐くことすらできない。


『やっぱり息できない……でも、苦しくない』


 不思議な感覚だった。


 そして今度は、サウザーが手にしている物もはっきり見える。


 鏡だった。


「おお! 帰ってきたか。意外と早かったな」


 そう言って、サウザーは鏡をアドニスの方へ向けた。


 そこに映っていたのは――。


 少し色の変わった、木の幹だけだった。


「これが今のお前の姿さ。ちょっと特殊な木に宿ってるんだ。今の状況が呑み込めないのは分かる。でも信じてくれ。ここからお前を出してやる」


 サウザーは地面に置いていた袋から、小さな瓶を取り出した。


 その中には、白く艶めかしく光る液体が入っている。


「これは、思念体を物質化したものなんだ。よく分からないと思うが、魂を移すための素材だよ。お前の魂をこの思念体へ移して、身体を構築してみる。危険はない。信じてくれ」


 アドニスはただ聞いていた。


 自分から何かを伝えることはできない。


 そうするしかなかった。


 不思議なことに、今度はあまり恐怖を感じなかった。


 先ほどは、自分が置かれている状況すら理解できずパニックになった。


 だが今回は、少なくともサウザーがここにいる。


 サウザーは瓶を木の根元へ置く。


 そして、腰に差していた剣を抜き――。


 木の幹へ突き刺した。


「さっ、これで準備完了だ。あとはお前次第だ。ここからは自分で選択しろ」


 サウザーは木を見上げる。


「嫌なら、元いた世界に帰ればいい。そして、この世界のことは忘れるんだ。元の生活に戻れる」


 少し間を置く。


「でも、その先を見たいなら――俺を信じてそこから出てこい。ただ『出たい』と念じろ」


 その言葉を聞いた瞬間。


 アドニスの中で、好奇心が大爆発した。


『元いた世界?』


『その先を見たいか?』


 言っている意味は、まだよく分からない。


 ただ――。


 元の生活に戻る。


 それだけは勘弁してほしかった。


 あの最悪の日々へ戻るなど、耐えられない。


『死ぬよりはまし……』


 一瞬、その言葉が頭をよぎる。


 確かにそうだ。


 どんな状況であれ、死ぬよりはまし。


 しかし――。


『本当に死なない保証なんてあるのか?』


『こんな得体の知れない奴の言葉を信じるのか?』


『そもそも怪しすぎるだろ……』


 言葉にはならない自問自答が、頭の中を駆け巡る。


「……あれ? 来ないな」


 サウザーが首を傾げる。


「あっちに帰ったわけじゃなさそうだけど……。もしかしてビビってるのか?」


 カチン。


 アドニスの中で何かが鳴った。


 ――ビビってるのか。


 それは、アドニスに言ってはいけない言葉だった。


『ビビってるんじゃない! アンタが怪しいから言うことを聞きたくないだけだ!』


 言葉には出ない。


 だが、怒りははっきりと膨れ上がった。


 すると――。


 それまで穏やかだった風が、突然強くなる。


 空には黒い雲が広がり始めた。


「おお? おおおっ!?」


 サウザーが空を見る。


「まさか、その状態で天候を操れるのか!? 実体も持たずに!? こんなの教団に見つかったら大変なことになるって! 静まれ! 静まれって! 頼むから!」


 先ほどまでの偉そうな態度はどこへやら。


 サウザーは木の周りを慌ててウロウロしている。


『なんだよ、教団って』


 アドニスは少しおかしくなった。


『アンタの方がビビってるじゃないか。変な奴……』


 そして――。


『……選択してみるか』


 木に刺さった剣の周辺へ意識を集中する。


 ぐぐぐぐぐっ――。


 シュポン!


 突然、目の前が真っ暗になった。


 身体全体に、初めて重力を感じる。


「おお! 来たか! よしよし! そのままそこに入ってろよ!」


 サウザーが瓶へ手をかざす。


 状況が理解できず、アドニスはまた少しパニックになる。


 パァ――――ッ!


 青白い光が瓶を包み込んだ。


 瓶の中から何かが浮かび上がる。


 それは徐々に、人の形を作っていく。


 そして――。


「うぅ……うわーーーー! なんなんだこれーーー! 僕はいったいどうな……うわーーーーっ!」


 そこに現れたのは、十分の一ほどの大きさになったアドニスだった。


 瓶の縁に引っかかり、ぶら下がった状態で顔を上げる。


 目の前には――。


 自分の何倍も大きな、銀髪の巨人。


「うわああああああっ!」


 驚きすぎた。


 そのまま、アドニスの意識は遠のいていった。


「……あれ?」


 サウザーがミニサイズのアドニスを覗き込む。


「おーーい。また帰っちゃったのか? いや……思念体が身体を形成してるから、魂は定着してるのか」


 首を傾げる。


「んん……とりあえず連れて帰るか」


 瓶を持ち上げる。


「ん? んんん?? 瓶に引っかかって抜けないな……まあ、いっか」


 そう言って、ミニアドニスが引っかかったままの瓶を袋へ放り込み、サウザーは丘を駆けていった。


          ※


 ぼんやりと意識が戻ってくる。


「……?」


 目を開ける。


 レンガ造りの狭い部屋だった。


 辺りを見渡す。


 状況が呑み込めない。


 自分の手を見る。


「……普通だ」


 五歳の頃、海で切った右手のひらの傷もある。


 だが――。


 もう一度辺りを見渡す。


 すべての物が、大きい。


「……え?」


 意識がはっきりするにつれて、身体の奥から強烈な不安が込み上げてきた。


「これは……いったいどうしたっていうんだ……」


 思わず声に出る。


 すると、遠くで何かが動いた。


「やっと目が覚めたか。あっちの世界に帰ったのかと思ったよ」


「……!」


 銀髪の巨人。


 アドニスは、とっさに身を守るため武器になりそうな物を探した。


「何してんだよ。取って食ったりしないって。ははは」


 サウザーが笑う。


「今は、そのサイズが限界なんだよ。思念体って素材は貴重なんだ。なかなか手に入るようなもんじゃない。……あれ? 俺の言葉、伝わってるよな?」


 もちろん分かる。


 だが、なぜ異世界の人間が流暢な日本語を話しているのかは、まったく理解できない。


 アドニスは目をぱちぱちさせながらサウザーを見つめ、武器を探すのをやめた。


「ちゃんとした自己紹介がまだだったな。名前は言ったから覚えてるよな?」


 サウザーは、アドニスがいるベッドの横の椅子へ腰掛けた。


「ここはサングンタイ星っていう惑星だ。お前のいた世界とは違う次元にある。ここは――マキナの世界っていうところだ」


 アドニスを見下ろす。


「とりあえず、お前の名前を教えてもらえないか?」


「僕は、アドニス・アトキンス。一体何がどうなってるのか、訳が分からないんだけど……」


「アドニスだな。よろしく」


 サウザーは腕を組んだ。


「一体どうなってるのか……か。んーーー。何をどう説明したらいいのやら。まず、ここへ呼んだ理由は――」


「理由は?」


 アドニスも身を乗り出す。


「なんていうか……アドニスがいる世界へ行って、お前から不思議な力を感じたからさ。この世界へ来るには適応が必要なんだ。滅多に来られるもんじゃない」


「……?」


 まったく理由になっていない。


 アドニスが求めている答えではなかった。


「違うって。そうじゃないんだって。僕をここへ呼んだ理由だよ。不思議な力? そんなの持ってないよ。持ってたら、あんな最悪な状況になんてならないよ……」


 そう言って、アドニスは俯く。


「最悪な状況? どんな?」


「いいって。もう……言いたくないこともあるんだ。それよりちゃんとした理由だよ」


 話が進まない。


 今の状況そのものにも苛立っているアドニスは、胡坐をかき、太ももをパンパンと叩く。


「ふーー……やっぱりそっちの世界の人間も、マキナの人間と同じ気質なんだな。まさに『先急ぐ者』か」


「……?」


「先急ぐ者? 人間の気質?」


 アドニスは首を傾げ――。


「えええっ!? あんた、人間じゃないのか!!?」


 驚いて立ち上がる。


「……っ!」


 全裸だった。


 慌てて股間を隠し、再び座り込む。


 胡坐をかいていたため、まったく気づいていなかった。


 ミニサイズの全裸人間である。


「恥ずかしいのか? ははは。あとで服を作ってやるよ。とりあえず、これでも巻いてろ」


 サウザーが青い布を渡す。


 アドニスはいそいそと腰へ巻き、再び胡坐をかいた。


「ちゃんと説明してくれって。あんた、人間じゃないのか?」


 サウザーは目を丸くし、またケラケラと笑った。


「そうだよ。俺は人間じゃない。マジカルヒューマノイドだ。アドニスの世界には存在しない人種なんだろ?」


 少し首を傾げる。


「お前たちの世界って、魔法を使ったりできないんだったよな?」


「…………」


 言っていることは理解できる。


 だが、頭がそれを現実として受け入れることを拒んでいる。


 アドニスは首を左右へブンブン振った。


「ままままま……魔法!? あんた、魔法使えるの!?」


 再び身を乗り出す。


 目は完全にキラキラしていた。


「そりゃね。そういう人種だからな。ちょっと見せてやろうか?」


 サウザーは立ち上がり、先ほど思念体が入っていたと思われる瓶へ片手を突っ込む。


「よーーーく見てろよ。……はっ!」


 一瞬、掌が青く光った。


 次の瞬間――。


 瓶の中が真っ白な物質で満たされていく。


「ほら。これが魔法だよ。今のは氷結魔法だ。大気の魔素を凝縮して――」


「すげーーーーーー!! 何今の!? 今のが魔法!? 本物じゃん! ええっ!? マジか! マジかーーー! かっけーーー!」


 サウザーの説明など、もう聞いていない。


「ちょっと貸して! ……うわっ、冷たい!! 雪!? 氷!? どうやったの!? 僕にもできる!?」


 好奇心、大爆発。


 矢継ぎ早に質問を浴びせる。


 サウザーは目をぱちぱちさせた。


「ちょっと待てって。今説明してるから。これは氷結魔法。大気中の魔素を使って、水分を凍らせてるんだ。そうすれば氷ができる」


 瓶を見る。


「ただ、ここは地下室だから、あまり大きな力を使えない。だから今はこんなもんだ」


 アドニスは瓶から雪を取り出し、一生懸命固めている。


 完全に雪だった。


 アドニスの住んでいる地域では、冬でもほとんど雪が降らない。


 十歳の少年が雪を見ただけでテンションが最高潮になるのも、無理はない。


「まあ、こんなの誰でもできるよ――と言いたいところだけど、人間には魔素を扱えないんだ」


「えっ?」


「俺たちとは、そもそもの身体構造が違う。もし魔法を使いたいなら、身体を改造して……最終的にはマジカルヒューマノイドに転生するしかないかな」


「改造……?」


「でも、人間の寿命って短いよな? 百年くらいだろ? まずはサイバネティックオーラで寿命を延ばさないと、それも難しいけどな」


「…………」


 まったく意味が分からない。


 百年近く生きる。


 アドニスにとって、それは十分に長い。


 それを「短い」という。


「じゃあ……あんたらマジカルヒューマノイドの寿命って何年なんだよ」


「んーー。そんなくだらないこと、考えたこともないな」


 サウザーは少し考える。


「ちなみに俺は今、千五百歳くらいだ。ちゃんとした年齢は……分からない」


「…………」


「…………」


「千五百歳!?」


 なんとなく想像はしていた。


 それでも桁が違いすぎた。


「どう考えても、僕より少し年上くらいにしか見えないよ!」


「そりゃそうさ。人間と俺たちじゃ、流れてる時間の感覚がまったく違うからな。だから人間は『先急ぐ者』なんだよ」


「…………」


 なんとなく状況は分かり始めた。


 しかし、話の三割程度しか頭へ入ってこない。


 驚くことが多すぎるのだ。


 アドニスは落ち着こうと、大きく息を吸い込んだ。


「すーーーーー……!?」


『息が吸えない!!!』


 慌ててじたばたする。


「おいおい、何やってるんだよ」


 サウザーが呆れた顔をする。


「思念体が呼吸なんてできるわけないだろ? 結局、仮初の身体なんだからな」


「それを先に言ってよ!」


 アドニスは声を荒らげる。


「一体何がどうなってるのか、全然理解できないって! それと、ちゃんとした『連れてきた理由』をまだ聞いてない!」


 また振り出しに戻った。


 何度このやり取りをしているのか。


 アドニスにも、なんとなく分かってきた。


 サウザーは――かなりマイペースだ。


 なかなか話が噛み合わない。


 それに焦る自分を、サウザーはまた「先急ぐ者」と呼ぶのだろう。


 アドニスは少し考え、質問の仕方を変えることにした。


「じゃあさ」


「ん?」


「どうして、あんたは僕と一緒にいてくれるんだ? ここへ来たのも、何かするためなんだろ?」


『うまい』


 アドニスは内心、自分を褒めた。


 かなり上手な質問だと思った。


 しかし――。


「そんなの、友達が欲しかったからに決まってるじゃないか」


「……は?」


「俺は今、トレジャーハンターをしてるんだ。ここは倉庫兼研究室」


 サウザーは楽しそうに話し始める。


「最近発見された地下遺跡の古文書に、アドニスのいた世界――人間界への行き方が書いてあったんだ。それをいただいて、今研究してる真っ最中ってわけ」


 そして、にっと笑った。


「その第一の集大成がお前なんだよ、アドニス!」


「…………」


 度肝を抜くようなことを、さらりと言う。


 アドニスは、出ないはずのため息をつきたくなった。


「じゃあ結局、誰でもよかったんじゃないか」


「いや――」


「なんで僕なんだよって聞いたら、『不思議な感じがした』って言うんだろ? 答えになってないよ」


 俯く。


「友達って……わけ分かんないよ」


 涙が溢れそうになる。


 だが、思念体の身体では涙も出ないらしい。


 そんなアドニスへ、サウザーがそっと手をかざした。


 今度は青ではなく、暖かな黄色い光が灯る。


 その光が、アドニスを包んだ。


「別に、誰でもよかったわけじゃない」


 サウザーの声が少し変わる。


「俺は、お前をずっと見てきた」


「……」


「『死ぬよりまし』なんて思ってる奴を、放っておけるかよ」


 アドニスが顔を上げる。


「俺と一緒にマキナで暮らそう。沢山遊ぼう」


 サウザーは笑った。


「力尽きるまで。そして――また来い」


 黄色い光が消える。


 同時に、アドニスの身体から力が抜けた。


 そのまま横になり、眠るように意識を失う。


          ※


「……っ!」


 すぐに目が覚めた。


 自室だった。


 アドニスは慌てて時計を見る。


「四時……五十分?」


 一分も経っていなかった。

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