第13話 武具屋 ②
「おーー、いたた。かなり高位の閃光系の魔法が付与されてるみたいだな。手が吹き飛んじまったよ。……ふん!!」
シュパッ!!
なんと、吹き飛んだ手が再生した。
「えっ!? えええええ!?? どうなってるの?」
「なんでぇ、でっけえ声出して。マジカルヒューマノイドがそんなに珍しいか?」
アドニスは前のめりになり、食い入るように親父の腕と顔を見る。
「マジカルヒューマノイド……。サウザーも同じ人種だったな。おやじさん! マジカルヒューマノイドって、人間と何が違うの??」
クルスと親父が顔を見合わせ、不思議そうな顔でアドニスを見る。
「おいおいおいおい。坊主よ。いくらなんでも世間知らずすぎるんじゃないか?」
「アドニス!?」
「へっ? 聞いちゃ駄目なの?」
「おっ、おやじさん! こいつまだ10歳で、まだまだ物事の道理が分かってないんです。ちょっと失礼します!」
「ええ? ちょっ……モガモガ……」
何か言おうとしているアドニスの口を、クルスが両手で押さえる。
そして再び、ずるずると店の外へ引っ張っていった。
バタン!!
※
「あいてっ!! 急に手離すなよ。尻餅ついたじゃないか。いたたた……」
先ほどいた裏路地まで引っ張ってきたところで、クルスが少し乱暴にアドニスを下ろした。
地面の凹凸に、お尻をぶつけたらしい。
それもそのはず。
裏路地には――。
ファクトとジンが立っていた。
「ああ!! ファクト様! ジン様!! 一日に何度もお姿を拝見できるなんて……私は幸せ者です!!」
ズサッ!!
クルスは両膝を地面につき、二人を拝み始める。
「ちょっとーーー。ファクトも急に来たりしないで、何か連絡をよこしてから来てよ。まったく……。で? 今度はどうしたの?」
アドニスは二人へ問いかける。
しかし――返事がない。
「……?」
次の瞬間!!
ズドーーーーン!!!
ズズズズズ……!!
ビリビリビリビリ!!
巨大な爆発音と、地鳴りのような轟音が響き渡る。
その方向を見ると、もうもうと砂煙が上がっていた。
「なっ、なんだ!? あれは店の方からだ!!」
クルスが振り返る。
「あれ? ファクト様とジン様は?? どこに……? 行ってしまわれた……。いやいや……! 何か変だ。アドニス、店に行くぞ!」
「ええ?? ちょっと待ってよーーー!」
クルスはものすごい速さで裏路地を駆け抜け、店の方へ向かっていく。
その後を、アドニスも追いかけた。
※
武具屋の前まで戻ると、辺りはもうもうとした砂煙に包まれていた。
視界がほとんどない。
アドニスが到着した時にはクルスの姿はなく、店の周辺には人だかりができている。
「おーーーーい! クルスーーーー! どこ行ったの?? まったく……。一人で走って行っちゃうんだから」
「アドニーーース!! こっちだ!! ちょっとこのマットを広げてくれ!」
「ええっと?? どこ? 何にも見えないよ?」
風向きが変わり、砂煙の奔流がアドニスへ覆いかぶさる。
日の光すらうっすらとしか通らないほど濃く、周囲では咳き込む声が聞こえている。
『そうか! みんな砂煙を吸って咳き込んでるんだ! 僕は思念体だから……大丈夫なんだ! べべべべ便利な体だ』
砂煙の中で、アドニスは小さくガッツポーズする。
「おーーい! アドニス、どこだ?? ごほごほごほっ!」
「そっちだねーー! おーーーい!」
「ここだ! ごほごほっ!」
「ああ! いたいた!! って、えええっ!!?? 武具屋のおやじさん!? どどどどどどーーしたのこれ!! 何があったの!?」
クルスが背負っていたのは――。
左手から胸の辺りまで、大きく吹き飛んだ武具屋の親父だった。
「いいから! このマットをそこに敷いてくれ。早く!!」
「わわわ、分かったよ! これだね。よいしょっと」
折り畳まれたマットを広げる。
すると、淡い緑色に光る文字が空中へ浮かび上がった。
「わわ! なにこれ??」
「緊急用治療マットだよ。マジカルヒューマノイドは、治癒力の限界が来た場合、自己再生しなくなるんだ。それで、治癒魔法を錬魔しているこの治療マットに乗せると……よっと」
クルスは親父をゆっくりと背中から降ろし、マットの上へ寝かせる。
……マットより親父の方が大きく、盛大にはみ出している。
「おやじさんデカすぎだろ……。まあ、一応機能してそうだけど……」
シューーーー……。
傷口から蒸気が上がり始める。
それは以前、ファクトとサウザーが戦った時に、サウザーの身体からも出ていた蒸気であった。
淡い緑色の光が強くなり、親父の身体を包み込んでいく。
「この煙って、こんなもんなの?? 僕の友達のマジカルヒューマノイドは、辺り一面、蒸気でモクモクしてたよ」
そう言いながら、アドニスは両手でモクモクを表現している。
「それだけの規模だったら、回復に特化した特性を持ってるか、マジカルヒューマノイドの上位種ってやつだろうな。まあ、俺も実際に見たことはないけどな」
「なんだよ。見たことないのかよ。じゃあ、なんで知ってるんだよ」
「その辺りの話は、師匠に教えてもらったしな。……っていうか、そうだ! そうだよ! アドニス!」
クルスは腕を組み、アドニスへ強い眼差しを向ける。
「お前、ちょっと一般常識的なものも色々覚えた方がよさそうだ。常識を知らなさすぎる! これから夜は、常識の勉強だ!!!」
「勉強はいいよ。それより、これどうするの? お店なくなったよ??」
「…………」
砂煙が徐々に晴れ、店の全貌があらわになる。
「なんとまあ……。屋根が吹き飛んでるじゃないか。一体何が起きたんだ?」
辺りには、吹き飛んだ建物の残骸が散乱している。
店の屋根は跡形もなくなっていた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!!
遠くから、行進するような音が聞こえてくる。
大小さまざまな姿が見えてきた。
「おおお!! なになに?? 何あれ!? クルスーーー、あれ何??」
「ああ。災害支援用の思念体だな。今回のこれは、クラスCくらいの災害なんだな。おお……やっべーーな。あれは医療用の思念体だよ」
ズーーン……ズーーン……ズーーン!!
小さな思念体たちの後ろから、その何倍も大きな身体を持つ思念体が歩いてくる。
「えええ? あれが医療用なの!? びっくりするくらい大きいんだけど……」
「まあ、災害支援用だからな。普通の医療用の思念体は、もっと小さくて可愛い感じだぞ。ししししっ。おやじさんもあれ、やられるのかな? びっくりして飛び起きるだろうな」
クルスはニヤニヤしながら、巨大な思念体へ手を振る。
一体がそれに気付き、こちらへ向かってきた。
「なんだよ、嬉しそうな顔して。何がびっくりするんだよ」
ズーーン……ズーーン……ズン。
巨大な思念体は親父の前で止まり、しゃがみ込む。
そして指先から――。
何やら、とんでもなく太い針のようなものを出した。
「……?」
次の瞬間――!!
ブシュ――――――!
「ぬあーーーーーーー!!!」
「うわ!! びっくりした!! 起きた!!」
親父の真横にいたアドニスは、断末魔のような叫び声に驚き、腰を抜かす。
それもそのはず。
巨大な針と、それが付いている思念体の指が、親父の胸へ突き刺さっている。
冗談抜きで、めちゃくちゃ痛そうである……。
巨大な思念体は親父が叫んだことを確認すると、立ち上がった。
そして店の方へ向かっていき――。
倒れている人をブスブス刺しては、次々と叫び声を上げさせている。
「…………」
ガクッ……。
親父は一瞬だけ上半身を起こしたものの、叫んだ直後、死んだように倒れ込んでしまった。
ズズズズズ……。
胸へ突き刺さった思念体の人差し指と針が、徐々に溶けていく。
「くわーー……痛そーー……。これで治るとしても、俺は絶対やだな」
シューーーーー!!!
親父の欠損箇所から、勢いよく蒸気が噴き出す。
見る見るうちに、突き刺さった針と人差し指も溶けていった。
「んっ……つつつつーー。おお、クルス! 危なく死にかけた。さっきはありがとうな」
「おやじさん!! まだ再生が終わってないよ。横になっとかなきゃ!!」
上半身を起こした親父が、アドニスを見る。
「おい小僧! あの剣をどこで手に入れたんだ?? ありゃ、とんでもない代物だ」
「あ。あれは、そのーー……」
「まっ、まあまあ、おやじさん。こいつも色々訳ありなんですよ。あんまり詮索しないでやってくださいよ」
ドサッ!!
クルスの言葉を聞き、親父は再びマットへ倒れ込む。
「剣を引き続き鑑定していたら、店にファクト様とジン様が急に現れたんだ。俺はたまげちまって、剣を持ったまま、ついつい駆け寄っていったんだ。店にいた他の連中もそうだ。みんなファクト様とジン様の方へ向かっていったんだ」
シュー……。
身体から出る蒸気が少しずつ収まり、欠損していた部分も徐々に再生されていく。
「えええ?? ファクト様とジン様は外にもいましたよ!!」
「なんだと?? じゃあ、ありゃ一体……幻覚だったのか……。それで、ファクト様も名工であらせられるから、この剣を見てもらおうと思ったんだ……。そしたら……爆発した……」
どうやら、その爆発がこの大惨事を引き起こしたらしい。
吹き飛んだ屋根は、修復用思念体によって既に修理が始まっている。
三人は店の外観を眺めながら、親父の話を聞く。
「そもそも、この剣がどうして爆発したかはまったく分からない。……もしかして、納刀と抜刀するごとに特性が変わるのか?? そんな剣だったら、とんでもない代物だ……」
そう言いながら、親父が剣に手を掛ける。
そして――。
抜刀。
「ちょっ……!!」
「ええ? ……爆発しない……」
「うわ!!」
クルスとアドニスは、一瞬身構えたが、特に何も起こらなかった。
抜刀された刀身は、黄色い光を放っている。
店に来て武具屋の親父に剣を見せた時は、青白く光っていた。
「あれ? 今度は黄色だ……」
「ふむ……」
再び納刀して、また抜刀。
それを何度か繰り返すが、爆発はしない。
「毎回、刀身の色が違いますね。本当に毎回特性が変わる感じなんですね」
納刀と抜刀を繰り返すたびに、アドニスとクルスは少しずつ離れていく。
それでも、刀身の色だけはしっかりと見ているようである。
もう何回目か分からないくらい、納刀と抜刀を繰り返しただろうか。
すると――。
「ああ!! ファクト様! ジン様!」
「待てクルス!!!」
店の中に、再びファクトとジンの姿が現れた。
クルスが近づこうとした瞬間、武具屋の親父から怒号が発せられ、その足がピタリと止まる。
「やはりこの剣か……。これは幻影だ。この剣が抜刀された時に、ファクト様とジン様の幻影を出す術式が施されているんだ。なんて悪質な性質だ。おい! 坊主! ファクト様に近づいてみろ」
「ええ?? 僕が……? また爆発するんじゃ……」
「なーに、心配いらんよ。爆発して身体が吹き飛んでも、お前は思念体だ。すぐに再生されるよ。ほれ! 行ってみろ」
「えええ……」
そう言われて、アドニスは恐る恐るファクトたちの幻影へ近づいていく。
一歩。
また一歩。
「うううう……」
さらに一歩。
「……だだだだ、大丈夫みたい。爆発しないや」
アドニスは恐る恐る幻影を見上げる。
しかし、ファクトもジンも何の反応も示さない。
「おやじさん。これは一体……」
「なんだかなーー。んん? 辺りが騒がしいな……。よっこらしょっと。ちょっと行ってみるか」
再生が終わり、武具屋の親父がゆっくりと立ち上がる。
そう言って、三人は声のする方へ向かう。




