第12話 武具屋 ①
「えっ? えええっ!!!??」
クルスの大声に、アドニスまでビクッと肩を跳ねさせる。
壁からスーッと姿を現したファクトは、そんな二人を見て腹を抱えて笑っていた。
「はっはっはっはっ! すまんすまん。驚かせるつもりはなかったんだ。しかし、やたらと《記拳グローブ》の話が出てくるから、気になって来てしまった」
そう言って、ファクトはクルスの方を見る。
クルスはというと、口を半開きにしたまま固まっている。
さっき会ったばかりとはいえ、ラムダの住人にとってファクトは、おとぎ話や伝承の中に出てくる存在である。
それが壁から普通に出てきた。
驚くなという方が無理な話である。
「いい保護者もいるし、奪われることもないと思うが、一応、使用者制限を掛けておこうかな。アドニス、手をまっすぐ前に出してみろ」
「こう?」
アドニスが両手をまっすぐ前へ伸ばす。
ファクトはアドニスの前まで歩いていき、《記拳グローブ》へ手をかざした。
ブワッ!
ファクトの掌が青く光ると、《記拳グローブ》の周囲に無数の文字が浮かび上がる。
「わっ、わっ! なにこれ!? 目の前が……読めない字がいっぱい……。なにこれ?」
両手を前に出したまま、首を振ってキョロキョロしているアドニス。
右を向いても文字。
左を向いても文字。
視線を動かしているのに、文字の方がアドニスの両手へまとわりつくようについてくる。
「すぐ終わるから、ちょっとじっとしてろ。そもそも思念体を所有者に設定するようなことがなかったから、少し術式をいじってる。待ってろよ」
「じっとって言われても、これ気になるよ!」
「動くと余計時間がかかるぞ」
「はい……」
アドニスはピタッと動きを止める。
ただし、目だけは忙しそうに動いている。
その光景を見ているクルスの目は、キラキラと輝いていた。
「ファ、ファクト様……。ありがとうございます」
「へっ? なんでお前がお礼を言うんだ? っていうか、ちょっと集中させてくれ」
「ああ、すみません……。ただ嬉しくて……」
クルスは口を閉じる。
しかし、嬉しそうな表情までは隠せていない。
ファクトは、ラムダの住人からすれば、おとぎ話に出てくる主人公であり、神に等しい存在である。
そんな存在を一日に何度も目にしているクルスは、それだけで幸せを感じているようである。
やがてファクトの掌の光が弱くなり、《記拳グローブ》の周囲に浮かんでいた文字もスーッと消えていった。
「よし! できた!! 一応、アドニスを所有者に設定した。それと――」
ファクトは《記拳グローブ》を指さす。
「アドニスの思念体は特別製だ。使われている素材自体が、鍛錬することで耐久力や身体能力を増強できるようになっている。その機能と連動させて、《記拳グローブ》に熟練度レベルを新設した」
「熟練度レベル?」
「ああ。レベルが上がると、使える魔法も増えるようにしてある。だから今は、下位魔法や初歩魔法しか使えない状態だ」
……。
アドニスとクルスは、ポカーンとした表情を浮かべる。
「えええええ!! 最強魔法使えないの!?」
「えええええ!! 成長する思念体なんてあるんですか!?」
二人同時に、まったく違うことを叫んだ。
「そこ!?」
今度は二人同時に、お互いの顔を見る。
「だって最強魔法だよ!? せっかく《記拳グローブ》を持ってるのに使えないんだよ!」
「いやいやいや! 普通は成長する思念体の方が驚くだろ! 思念体だぞ!? 鍛錬したら強くなるって、それもう普通の思念体じゃないだろ!」
「僕は最初から普通の思念体じゃないみたいだし」
「そうだけど!」
ファクトは二人のやり取りを眺めながら笑っている。
「はいはい。そんなことだろうと思ったよ。最初から何でも使えたら鍛える意味もないだろ。それに、アドニス自身が扱えないような魔法を無理に使っても仕方ないからな」
「うーーん……」
「そんなに嫌そうな顔するな。鍛えれば使えるようになるんだから、それでいいだろ」
「……まあ、それなら」
アドニスは少しだけ納得したように頷く。
レベルを上げれば新しい魔法を覚える。
そう考えれば、むしろアドニスにとっては馴染み深い。
「あと、アドニスの思念体には、鍛錬に合わせて体内に保持できる魔素量や、魔素操作能力も成長するようにしておいた。普通の思念体にはセタ値なんてないから、今は当然ゼロだ。鍛えていけば少しずつ上がっていく」
「セタ値?」
「それはあとで説明する。んで、クルスにはこれを渡す」
ファクトがアイテムボックスから何かを取り出し、ポイッとクルスへ投げる。
「はい!!」
クルスは慌てながらも、しっかりとそれを受け止めた。
四角い緑色の石がはめ込まれた、リストバンドのようなものである。
クルスは両手でそれを持ち、まじまじと眺める。
そして――。
ゆっくりとファクトを見る。
「これは、何でしょうか?」
「さっき《記拳グローブ》に設定した熟練度レベルや、使用できる魔法なんかを視覚的に表示するアイテムだよ。《記拳グローブ》の使用者を補助するような物だな。付けている間は、常に《記拳グローブ》とリンクしてる。どうだ? 分かったか?」
ガクガクガクガク!!
クルスの足が震え始める。
「えっ? クルス?」
そして、そのまま両膝から地面へ座り込んだ。
「このような物を、私に与えてくださるのですか!!!」
「あっ、いや。それは、ただ視覚的にステータスを表示するための……。……いや、俺の話をちゃんと聞いてるか?」
「ありがとうございます!!! 一生大事にします!!」
「いや、だからな……」
クルスは両手でリストバンドを持ち、宝物でも扱うかのように眺めている。
「あらら。クルスもまだまだ子供だな。はははっ」
アドニスは、跪いたクルスのアタマをよしよしする。
「やっぱり子供は、素直が1番だな!はっはっはっ!」
ファクトもアドニスと同じようにクルスの頭をよしよしす。
「ファクトが言うと、みんな子供になりそうだけどね」
「まあ、そうかもしれんな。はっはっはっ!」
クルスは、ファクトから直接物を与えられたことが嬉しくて、泣いて喜んでいる。
もちろん、ファクトが説明した内容は半分も頭に入っていない様子である。
アドニスは、そんなクルスを横目で見ながら首を傾げる。
少なくとも今のクルスは、どう見てもアドニスより子供っぽい。
「ファクト。さっき言ってたセタ値ってなんなの?」
「ああ。セタ値ってのは、魔素に関する測定値だな。魔力や体内魔素量、魔素操作性なんかを総合したステータスだ」
ファクトは人差し指をクルクルさせながら……
「俺自身は、違うがアドニスの知ってるアイツのようなマジカルヒューマノイドは魔素を使って魔法を使えるが、その他の人種は基本的に、生身の状態じゃ魔法は使えない。だからセタ値も存在しない。まあ、まれに人間や獣人でも魔素操作ができる奴はいるがな」
「おおおおお! 僕も魔法が使えるの??」
「いやいや。《記拳グローブ》があれば、セタ値に関係なく魔法は使えるだろう。アドニスの思念体も、身体強化や基礎的な耐久力を保つための魔素操作なら、無意識にできるようになってる。それに加えて、さっき言った通り、これから鍛錬すれば体内魔素量や魔素操作も少しずつ成長していくようにしてある」
「じゃあ、僕自身もレベルアップするってこと?」
「まあ、そんな感じで考えておけばいい」
「おおおおおお!!」
先ほどまで最強魔法が使えないことに不満そうだったアドニスの表情が、一気に明るくなる。
「それならいい!! そっちの方が面白そう!」
「お前、分かりやすいなぁ」
アドニスは目をキラキラさせながら、ファクトの話を聞いている。
それもそのはず。
ファクトが話している内容が、普段アドニスが遊んでいるゲームそのもののように聞こえるからである。
レベルにステータス。
鍛錬すれば成長して、新しい魔法が使えるようになる。
アドニスをワクワクさせるには十分すぎる内容であった。
「ステータスはどこで確認できるんだい? ……ああ、これ!? ……あっ。レベル1か」
ブツブツと独り言を言いながら、《記拳グローブ》から眼前に映し出される表示を見て一喜一憂している。
「レベル1……。まあ、最初だから仕方ないか。使える魔法は……これと、これと……」
「もう聞いてないな」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない。とりあえず鍛錬だな。鍛錬の内容や、戦った相手との能力差なんかでもレベルの上がり方は違うからな。色々試してみてくれ」
「うん!」
「あと、クルスにもそれの使い方を教えてやってくれ。俺から話しても、右から左って感じがするからな。ははは」
ファクトがクルスを見る。
クルスはまだ跪きリストバンドを眺めている。
「……本当に聞いてないね」
「だろ?」
「ファクト様……ありがとうございます……」
「ほらな。じゃあな」
そう言い残し、ファクトは再び壁の中へ消えていく。
「ファクト様!!!!」
クルスが突然バッと立ち上がり、ファクトの名を叫ぶ。
「うわっ!」
その大声にアドニスがビクッとする。
「もう! びっくりするなぁ!! 急に立ち上がって大きい声出さないでよ。まったく……。それで、そのリストバンドの使い方だけど……」
クルスは、アドニスを見ながら申し訳なさそうに、ポリポリと首筋をかいている。
「ごめん……。全然聞いてなかった。はははは。ファクト様を見て、年甲斐もなく興奮してしまったよ」
「やっぱり聞いてなかったんじゃないか!」
「面目ない」
「年甲斐もないって……。まだ17歳なんでしょ? まだまだ子供だよ」
「んんんんん? 16歳で成人の洗礼式をうけるから、17歳はもうとっくに成人だ。俺は子供じゃないぞ! アドニス! お前はまだ10歳だから子供だ! はっはっはっ」
そう言って、クルスがアドニスの頭をナデナデよしよしする。
「頭をなでなでするなって……」
アドニスは面倒くさそうに、その手を払いのける。
「僕よりさっきのクルスの方が、絶対子供みたいだったよ」
「それとこれとは別だ!」
「何が別なんだよ……」
アドニスは呆れながら、《記拳グローブ》を操作する。
「だからリストバンドの使い方だけど、どうかな? 僕みたいに眼前に表示が見えるのかな?」
クルスは、ファクトからもらったリストバンドを腕に装着する。
「いや……。何も見えないな。もしかしたら、人間だから反応しないのかな?」
「僕も人間……。じゃなかった。思念体だった。だからなのかな?」
「お前、自分が思念体なの忘れるなよ」
「だって、こっち来るまでずっと人間だったんだもん」
「それもそうか。なんな変な感じがする言い方だけどな」
クルスは緑色の石を触ったり、リストバンドを付けている場所を変えたりしている。
手首を振ってみる。
何も起こらない。
緑色の石を軽く叩いてみる。
やはり何も起こらない。
「壊れてるんじゃない?」
「ファクト様がくださった物だぞ!! 壊れてるわけないだろ!」
「そんな怒らなくても……」
クルスは慌ててリストバンドを撫でる。
「すまない。今のはお前に言ったんじゃないぞ」
「リストバンドに謝ってる……」
すると――。
緑色の石が淡く光り、文字が映し出された。
「おおおお! すごい!!」
「あーー。撫でると起動するのか。……こういう感じになるんだね。でもこれ、どうやって表示されてるの?」
クルスの眼前に画面のようなものが浮かび上がる。
そこには、アドニスのステータスと――。
……ん?
クルスのステータスまで表示されている。
クルスの目が大きく見開かれた。
「ファーーーーーーーークト様!! 私のステータスとやらも見れるのですか!! ありがとうございます!!!」
「また!?」
再び両膝を地面につき、ファクトが消えた壁へ向かって手を合わせるクルス。
「クルスのも見れるの!? こっちからじゃ何にも見えないんだけど……」
アドニスはクルス側へ回り込み、空中に映し出された画面を見る。
しかし――。
文字が読めない。
数字らしきものはいくつか見える。
だが、何を意味しているのかまったく分からない。
「ええっと……読めないんだけど。クルス、これはなんて書いてあるの?」
……。
「クルス?」
当然、アドニスの質問は右から左である。
「ファクト様……」
「クルス!! ちょっと聞いてよ!! ねえってば!!!」
返事はない。
「もういいよ。店の中に入ってるからね!」
そう言い残し、アドニスは武具屋の親父がいる店へ歩いていく。
クルスは何度も何度もファクトが消えた壁へお辞儀をしてから、慌ててアドニスを追いかけた。
※
武具屋のある建物へ戻ると、先ほどよりも人が増え、出入りも多くなっていた。
店先には剣や槍、斧などが所狭しと並べられている。
壁には大小さまざまな盾。
天井近くには、アドニスでは持ち上げられそうにもない巨大な武器まで飾られていた。
「おおお……」
アドニスの足が止まる。
右を見る。
剣。
左を見る。
鎧。
奥にも何かある。
「すごい……。武器屋って本当にこんな感じなんだ……」
アドニスに遅れて、クルスが入ってくる。
「おお。帰ってきたか? どうだ? 《記拳グローブ》はあったか?? かっかっかっ!!」
バンバンと机を叩きながら、武具屋の親父が笑っている。
アドニスは一瞬むくれ顔になるが、すぐに我に返ってクルスを見る。
息を切らせたクルスが、武具屋の前までやってきた。
「ああ、おやじさん。こいつの勘違いだった。《記拳グローブ》じゃなくて、魔法が放てる魔道具のグローブだったよ。よくあるやつさ」
「やっぱりそうか! 《記拳グローブ》がそんな手袋なわけないもんな!!」
アドニスは再びむくれ顔になる。
自分の手には、本物の《記拳グローブ》がある。
しかし、それを言うわけにはいかない。
「……本物なのに」
「ん? 何か言ったか?」
「何にも!」
「ああ、いやな。馬鹿にしてるわけじゃない。まだまだ純粋だなって思っただけだよ。すまんすまん。それじゃ、演習場やスフィアドームで鍛錬するのに武具が必要って感じでよかったか?」
二人は、うんうんと頷く。
アドニスは店に飾られている武具を見て、再び目をキラキラと輝かせる。
近くにあった剣へ手を伸ばそうとして――。
「それはやめとけ」
親父に止められた。
「なんで?」
「お前さんが使うには長すぎる。そっちも重い。見た目だけで選ぶと、まともに振れんぞ」
「えーー……。かっこいいのに」
「武器ってのは、かっこよさだけで選ぶもんじゃねえ」
「でも、かっこいい方がいいよ」
「坊主だなぁ」
「10歳だもん」
「そりゃそうだ。かっかっかっ!」
親父が豪快に笑う。
クルスも横で笑っている。
「クルスまで笑うなよ!」
「いやいや。アドニスらしいと思ってな」
アドニスは頬を膨らませながら、今度は壁に掛けられた防具を見る。
「僕が装備できる、ここで一番いい防具はどんなのがあるの?」
「一番いいだと? そう言ってもな。思念体が装備できる物は限られてるからな……。それよりお前さん、金はあるのかぁ?」
金。
そう聞かれ、アドニスはいそいそと先ほど換金した記憶魔石を取り出す。
「これで足りるかな?」
「どれどれ? ……なっなんだとーーー! お前、こんな大金どうしたんだ?? どっかのボンボンか? ガキが持ってていい金額じゃないぞ。おい! クルス、どうなってんだ?」
親父の問いに、クルスは無言で首を横に振る。
「なんでぇ、だんまりかよ」
「色々あるんですよ……」
「色々ねぇ」
親父はアドニスとクルスを交互に見る。
そして、記憶魔石へ視線を戻した。
「まっ、何か事情があるんだろうな。だが、悪いことして稼いだ金ならすぐに分かるからな。うーーん……。正直、この金額があれば、ここにある物なんでも買い放題だ」
「なんでも!?」
アドニスが勢いよく店内を見回す。
「おい。だからって全部買うなよ」
「買わないよ!」
「今、一瞬考えただろ?」
「考えてない!」
「本当かぁ?」
「本当だって!」
「かっかっかっ! まあ待ってろ。せっかく金があるなら、そこらに並べてる物より面白いのを見せてやるよ」
そう言って、親父は店の奥へ入っていく。
……ゴソゴソ。
ガタガタ……。
ガタン!!
「なんか凄い音したけど、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。たぶん」
「たぶん?」
しばらくすると、埃まみれの古びた赤い箱を抱えて戻ってきた。
「よいしょっと! こりゃ、うちの店でもかなり古い物になるな。あっちの店じゃ出回らないようなもんだ」
「箱、ボロボロじゃん」
「箱はな!」
ガチャッ。ガチャッ。
二つ付いているロックを外し、中から銀色の胸当てを取り出す。
箱の状態とは違い、中身は驚くほど綺麗である。
「おーーーーー! かっこいい!!! これは何なの!?」
「へーーーー! まさか、アルマンニウム製の胸当てですか!?」
またもや二人が同時に声を上げる。
そして、顔を見合わせる。
「……まただ」
「はははっ。今度は驚くところ一緒だったな」
二人は少し笑う。
「クルス! なかなかいい目をしてるな! そうだ。これはアルマンニウムを使った胸当てになるんだが……。よいしょっと。これもセットだ。アルマンニウムのナイフ!」
胸当ての下には、もう一段蓋があった。
「まだあるの!?」
それを開けると、胸当てと同じ銀色に輝く美しいナイフが収められている。
親父はナイフを取り出し、胸当てに付いている鞘へ差し込んだ。
「そこに付くんだ!! かっこいいかっこいい!!」
「完全に見た目で気に入ってるじゃないか」
「だって、かっこいいじゃん!」
「まあ、気持ちは分かるけどな」
アドニスは胸当ての周囲をぐるぐる回りながら眺めている。
銀色の胸当て。
そこへ同じ素材のナイフ。
アドニスの中では、既に買うことがほぼ決定していた。
「ほーー。この色味は、何か魔法がエンチャントしてる感じですね。強化系ですか?」
パン!
親父が手を打ち、ビシッとクルスを指さす。
「素晴らしい!! よく分かったな。これは自己修復魔法が付与されてる」
「自己修復?」
「ああ。多少傷付いても、自分で修復するってことだ。いつまでも新品ってわけじゃねえが、普通の防具より長く使える」
「おおお……」
アドニスの中で、さらに評価が上がった。
かっこいい。
しかも自分で直る。
「これ欲しい!」
「まだ説明終わってねえよ。せっかちな坊主だな」
「だって、もうかっこいいもん」
「だから、武具を見た目だけで決めるなって言っただろ!」
親父は呆れながら笑い、今度はナイフを手に取る。
「それと……こっちもちょっと鑑定してみよう」
親父は眼帯を外し、その目に器具を取り付けてナイフを覗き込む。
アドニスも横から覗こうとする。
「見えるの?」
「お前には見えん」
「えーー」
「ちょっと静かにしてろ。……ほほう」
「なになに?」
「静かにしろって言っただろ」
「だって気になるよ!」
「アドニス、少し待てって」
クルスに肩を掴まれ、アドニスは渋々一歩下がる。
「ほほう。これは持ってるだけで環境魔素を吸収して、体内魔素を回復してくれる魔法まで付与されているな。なかなかの代物だ」
「おおおお!!」
「……でもアドニス、今は体内魔素なんてないんじゃないか?」
クルスが首を傾げる。
「あっ……」
アドニスも一瞬固まる。
せっかく一気に盛り上がった気分が、しぼんでいく。
しかし、すぐに先ほどのファクトの話を思い出した。
「ああ! でもファクトが、鍛えたら体内魔素も増えるようにしたって言ってた!」
「ああ、そうだったな。じゃあ今は意味がなくても、鍛えていけば使えるようになるってことか」
「おおお! 成長装備みたいでかっこいい!!」
「お前、本当にそういうの好きだな」
「好きだよ!」
即答だった。
親父は二人の話を聞きながら、不思議そうな顔をしている。
「ファクト?」
「えっ?」
「あっ」
アドニスとクルスが同時に固まる。
「今、ファクトって言ったか?」
「言ってない!」
「言ってません!」
「……二人とも、分かりやすいな」
「気のせいだよ!」
「そうです! 気のせいです!」
「まあいいけどよ」
親父は首を傾げながらも、それ以上は追及しなかった。
ナイフを机の上へ置く。
アドニスが興味津々でそれを眺めていると――。
ふと、ある物の存在を思い出した。
「あっ!」
「今度はなんだ?」
アドニスはニコニコしながら親父へ近寄っていく。
「おやじさん! これも鑑定してよ」
「ああっ!! それは!! いつの間に……」
クルスが止めようとする。
しかし――踏みとどまった。
「……」
「クルス?」
「いや……」
止めた方がいい。
そう思っている。
思ってはいるのだが――。
「俺もちょっと気になる」
「でしょ!」
「お前なぁ……」
クルス自身も、この剣の正体には興味がある。
先ほどから何度も妙なことが起きている。
アドニスがアイテムボックスから取り出した強い剣。
「おお? さっきの剣か。やはり、なかなかよさそうな装いだな。どれどれ……」
「おやじさん、気を付けてくださいよ」
「なんでだ?」
「いや……なんとなくです」
「変な奴だな」
親父は剣を手に取る。
アドニスとクルスは、無意識に一歩だけ後ろへ下がった。
「なんでお前ら離れるんだよ?」
「気のせいだよ」
「気のせいです」
「……本当に分かりやすい奴らだな」
ガシャ……。
ススススス……。
細身の鞘から剣が引き抜かれる。
両刃の直刀。
その刀身は、青白い光を放っている。
「おおお……」
アドニスが目を輝かせる。
クルスは、その刀身をじっと見つめている。
「ほほほほう!! こりゃたまげたな。これは魔法剣じゃないか!」
「やっぱり何かあるんだ……」
「どれどれ? 何の魔法が付与されているのか……。ふん!」
親父がクルッと剣を空中で回し――。
刀身を掴む。
「えっ?」
その瞬間――。
青い閃光が弾けた!!
バシューーー!!
「ああ!」
「おやじさん!!」
刀身を掴んでいた手が――。
跡形もなく吹き飛んでいる!!




