第11話 多重結界闘技場 ②
当初、クルスからアドニスを闘技会に誘ってはいたものの、ファクトから驚きの提案をされた二人は、ゆっくりとした足取りで同じ方向へ歩いている。
やや不安な顔つきのクルスに対して、アドニスはワクワクした表情を浮かべていた。
「ねえねえ。クルスさんは強いんでしょ?? あのファクトに立ち向かおうとしてたもんね。闘技会かーーーー。楽しみだなーーー」
そう言って、アドニスは頭の後ろで手を組み、足取り軽く歩いている。
……クルスの足が止まる。
「さん付けはいらないよ。クルスでいい。それにファクト様に向かっていったわけじゃない。誰かわからなかったから向かって行けたんだ。ファクト様だとわかっていたら、あんなことはしていないよ」
不安げな表情で覇気もなく、クルスが小さくつぶやく。
おもむろに腰にある黒い剣を引き抜いた。
「この剣は師匠が使っていた剣で、死ぬ時に俺にくれたんだ。師匠は病気だったんだ。……確かに、この剣はすごいよ」
剣を眺めながらそう言って、シュッと一振りして鞘に納める。
くるっと回り、アドニスの方を見る。
「闘技会に出よう! ちょっと特訓が必要だと思うけどな。で? 記拳グローブは、どうやって使うんだ??」
「あぁ。使い方はあんまりっていうか、全然自信がないや。はは。使い方は簡単なんだろうけど、そもそも魔法の使い方とかがまったくわからないんだよ」
アドニスはニコニコしながら、不安要素をあっけらかんと言う。
クルスの表情は不安げである。
記拳グローブは、おとぎ話に出てくるような伝説的な武具である。
しかし、それをきちんと扱えないのであれば意味がない。
アドニスは、どこかクルスに頼り切っているような感じがある。
「あのさ……それって誰でも使えるのか?? 俺が使ってもいいのかな? いや……やっぱり駄目だな。ファクト様がアドニスにってくれた物だ。少し記拳グローブの使い方を練習しようか」
そう言って、クルスは先ほど進んでいた方向とは逆方向へ歩き出す。
「少し向こうに演習場があるんだ。そこは多重結界闘技場ほどじゃないけど、結界を張った場所があって、ある程度の魔法なら使える場所があるんだ。あと、魔力測定なんかもできるところもあるよ」
魔力測定……。
その言葉を聞いて、アドニスの目がキラキラと輝く。
「ままっままま魔力測定!! 魔力の強さを測るところか!! いやーーーっほう! ますますファンタジーだーー!!」
「あっ。いや。あの……」
「魔力かーーー。秘めたる魔力が多かったりするのかな?? ある程度の魔法かーーー。ファクトに止められた、あの魔法を試してみるか!!? ああーー! ワクワクするよ!!」
クルスが何か言おうとしているが、まったく聞く耳を持たず、アドニスは両手を広げ、蛇行しながら走っていく。
「おーーーい! 人の話は最後まで聞けよーー! 思念体にセタ値なんてないぞーー!」
とても重要なことをクルスが言っているが、その声はアドニスには届かない……。
※
二人は演習場までやってきた。
アドニスは大きなため息をついている。
「はーーーー。なんだって、そんな重要なことを先に言ってくれないんだよ」
対してクルスは、やや困った表情である。
「あのな。俺からすれば、思念体なんてものが、こんなに人と同じように振る舞ってることの方が意外だよ。そもそも思念体は、意識こそあるが、しゃべらない物なんだよ」
「へっ? そうなの?? サウザーもファクトも、そんなこと言ってなかったけどなぁ」
「サウザーが誰かは知らないが、その……なんだ。マキナって世界と、ここラムダじゃ常識が違うのかもな。俺はラムダのことしか知らないけど、ファクト様やそのサウザーとやらにとっては、思念体がしゃべるのは普通なんじゃないか?」
アドニスは腕を組み、うーーーんと考えて何かを思い出している。
「そういえば、ファクトが言ってたな。思念体なんだから痛みを感じないだろ? って。……もしかして、思念体って内臓がないの??」
アドニスは、はっとした表情で自分の体を触る。
……触った感覚がない。
目で見て、触ったと認識はできている。
しかし、触られた側の感覚がない。
「ええええええ?? 全然気が付かなかった! 尻餅ついた時やファクトに腕を斬られた時も、痛い! って気持ちはあったけど、痛みとしての感覚はなかったんだよな……」
クルスは、あたふたしているアドニスを見てケラケラと笑っている。
「はっはっはっ! そりゃそうだよ。思念体は形こそ人間と変わらないけど、中身は結局のところ煙みたいなものだしな。使われてる素材なんかによっても違って、比重が高くなれば水や半固形みたいなものまであるらしいぞ」
再び腕を組み、アドニスが何かを思い出そうとしている。
……そして閃いた!!
「ああああああああ! そういえばサウザーが、教団が持ってた質のいい素材を使ってるって言ってたな! もしかして、いい素材だからしゃべったりするのかな?」
「うううんんん。それはわからないなーーー。俺もアドニスみたいなのは初めて見たしな。でも痛みを感じないのは好都合かもな。戦闘訓練するのに痛いと嫌だろ?」
痛み……。
その言葉を聞いて、アドニスの表情が少し暗くなる。
クルスは、その表情の変化を見逃さない。
「なんだよ。あれだけ意気込んでた割に怖いのか?? 思念体なんだし、痛みは感じないんだからいいよなーーって思うんだけど……。もしかして怖いのか??」
ハッとした表情のアドニスは、ニヤリとする。
「確かに!! 今は痛みがないんだ!! よーーし、やってやるぞーーー! クルス! ここでなにをするんだい??」
あまりの表情の変わりようにクルスはびっくりするが、噴き出して笑ってしまう。
「はっはっはっはっはっ!! いやーー愉快な奴だな。それでだ、その記拳グローブの使い方はファクト様から聞いているけど、ちゃんとした説明は受けてないんだろ?」
うんうんと頷くアドニス。
クルスは、演習場の入り口にある建物を指さす。
「あそこの中に色々入ってるよ。飲食店や休憩所、道具屋なんかがある。鑑定は道具屋や武具屋でやってもらう……。けど……」
そう言って二人は、建物の中へ移動する。
「んで? 金はあるの??」
クルスの問いに対して、アドニスは首を横にブンブンと振る。
「ああ。そうか……ファクト様もとんでもないことをしてくれたな……。俺も沢山は持ってないな……。そういえば、その記拳グローブって、魔法ならなんでもできるんだよな?」
「そうみたいだけど、ちょっと使いにくいかな。わざわざコマンドを選んで、説明を見て、決定して術を出すって感じだからね」
「コマンド? よくはわからんが、今から言う魔法はあるか? アイテムボックスって魔法なんだが」
「アイテムボックスも魔法なの!!!?? ロッ……ロマン! ちょっと待ってね……今見てみる。アイテムボックス……。これ検索機能とかってないのかな……。ちょっとめんどくさいな……。どこだよ……アイテムボックス!」
ブン!!
アドニスが「アイテムボックス」と口にした瞬間、目の前に小さな窓が現れる。
二人は驚いて一歩下がる。
「おおお! これこれ! やったじゃん! コマンドにあったのか?」
一番驚いているのはアドニスである。
「いや……コマンドは選んでないよ。もしかして、コマンドにある魔法を口に出したら、その魔法が使えるの??」
ブン!
小窓が消える。
「あれれ? 何もしなかったら消えるのか。じゃ、もう一回……アイテムボックス!」
ブン!
再び小窓が出現する。
二人して小さく拍手をしている。
「やったな! どうだ?? 中に何か使えそうなものがあるか?」
「どうって言われてもな……。あれ? 中に誰かいる。ああ! ジンさんだ! おーーーーい、ジンさーーーん。……うわ!」
小窓の真ん前まで、何かが急に浮上してきた。
ジンである。
思わずびっくりして、アドニスはのけぞり尻餅をついてしまう。
ブン!
また小窓が消える。
「ええ? びっくりした。今のジンさんだったけど……。見た??」
「ああ。あれはおそらくジン様の思念体だ。チラッと見えたが、まさかアイテムボックスがこんなに巨大とは思わなかったな。普通は、せいぜい大きくても小部屋くらいだ。俺の見立てじゃ、ありゃ屋敷レベルだな。あと、普通のアイテムボックスの中に術者は入ることができないんだよ。もっと高位の魔法収納なら、術者が入れるものもあるみたいなんだが、そんなものは見たことがないな」
キラキラした目でクルスを見るアドニス。
「うっ。なっ、なんだよ。嬉しいのか?」
うんうんと大きく頷くと、アドニスはニヤニヤしながら声を張る。
「アイテムボックス!」
ブン!
小窓が現れ、ジンの思念体が顔をのぞかせる。
「これでどうしたらいいの?」
「ああ。俺もよくは知らないんだが、取ってきてほしいものをアイテムボックスの守人に依頼するんだと思うよ。だいたい守人がいるアイテムボックスなんて、噂を聞いたことがあるだけで、実際見たことなんて……」
クルスが話し終わる前に、アドニスは希望の品をジンの思念体に頼む。
「お金と剣! 僕が使えそうな強い剣!!」
ジンの思念体はペコリとお辞儀をして、下へ降りていく。
アドニスの意気揚々とした表情を見て、クルスは苦笑いをしている。
「お金はともかく、強い剣ってなんだよ。お前、剣を使えるのか?」
「使えないよ」
「だはっ! だだだだよな。それ持ってどうするんだよ」
アドニスは腕を組み、自信満々に答える。
「決まってるじゃないか!! かっこいいからだよ!」
これまでにないくらい生き生きしている。
そんなことを言っている間に、思念体のジンが戻ってくる。
手には大きな袋と、一本の剣を持っている。
「やっほーーー。ありがと……うわ、重たい! 何この袋!!」
「えええ!? こんな大金どうするんだ!!」
そう……アドニスは思念体のジンに「お金を持ってきて」と言ったが、額を指定しなかった。
おそらく、アイテムボックス内にあったお金を全額持ってきたようである。
アドニスは剣だけを受け取り、持てない袋は思念体のジンに持たせる。
「一握りだけお金もらうね」
そう言うと、思念体のジンが一握りの金貨をアドニスに手渡す。
「金貨じゃないか!! これだけでも相当な額だな……。まあ、お金はあって困ることはないか……。ただ、金貨のままじゃ使えないから換金しないといけないな」
クルスはアドニスの手にある金貨を一枚取って、パンパンッと手を鳴らす。
サッ!!
小柄で綺麗な服装の女の子が目の前に現れる。
クルスは、その子に金貨を手渡した。
「これを換金してくれ」
ペコリ。
女の子は一礼して、店の奥にある扉の方へ飛ぶように走っていく。
目で追うのがやっとの速さである。
「ええ?? 何あの子。動きはやっ!! あっ、戻ってきた。……なにこれ?」
ペコリ。
無言で女の子がアドニスに、紫色のガラスのような見た目をした六角形の棒を手渡す。
アドニスがその棒を受け取ると、淡く光った。
その光を確認すると、女の子は再び飛ぶような速さで店の奥へと行ってしまう。
「いや……これなに? ええ?」
「それは記憶魔石。換金した金貨が、この中にデータとして入ってるんだ。さっきのは商業用の思念体だよ。ジン様が小銀河を管理するために作ってる思念体の一つで、金を換金してデータ化するための存在だな」
思念体……。
アドニスと同じ、思念体……。
そのことを聞いて、アドニスは考え事をしているようである。
「ううううん。あの子が思念体なの? しゃべらなかったし、なんか表情ないし、やっぱりなんか僕とは違うんだなーーー」
「そりゃそうだよ! だからちょっと前にも言っただろ? お前みたいな思念体は初めて見たって……。信じてなかったのか?」
信じるも何も、現状に対処するのがやっとである。
そこまで気が回っていないのが、今のアドニスの現状である。
思念体……。
確かに先ほどの少女は表情もなく、しゃべりもしなかった。
アドニスは、女の子が入っていった店の奥の扉へ歩いていく。
「おおい、アドニス? どうした?」
「ううううんんん……」
パンパン!
扉の前で手を二回鳴らす。
すると先ほどの女の子が扉から出てきて、アドニスの前で止まり、その顔を見上げる。
アドニスは女の子と同じ目線になるようにしゃがみ、その顔をじっと見る。
対して女の子も、アドニスをまっすぐ見ている。
ざわざわざわっ。
店の中の客や店員がアドニスの行為に気づき、ざわつき始める。
「おいおい。何やってるんだよ。もう行っていいぞ」
ペコリ。
女の子はクルスに向かってお辞儀をすると、先ほど出てきた扉の中へ戻っていく。
「クルスーーー。なんで帰したんだよー」
ガシッ!
ずるずるずる……。
しゃがんだままのアドニスの襟元を掴み、クルスはいったん店の外まで引っ張っていく。
「アドニスよ。今、思念体に触ろうとしただろ??」
そう言って、アドニスの襟から手を離す。
「ええ……。あー。バレちゃった? 持ち上げようとした」
ちょっと恥ずかしそうに頭をかくアドニスを見て、クルスは大きなため息をつく。
「はーーーー。この辺りの店にいる商業用の思念体は、突然触られたり、攻撃されたりしたら、防衛反応で相手が沈黙するまで攻撃してくるんだ。俺も言ってなかったから悪いことした」
相手が沈黙するまで攻撃する……。
その言葉を聞いて、ゴクリと唾をのむアドニス。
クルスのさらっと言った衝撃の事実に、ややビビってしまっている様子である。
先ほどアドニスが取った行動で店の中がざわついたのは、そういう理由があったからである。
クルスの対応は、素晴らしいものであったと賞賛すべきであろう。
少ししゅんとするアドニスにクルスが近寄り、肩をポンポンと叩く。
「まっ。所詮は商業用の思念体だし、俺を倒すことなんてできないけどな」
クルスはそう言って力こぶを見せ、アドニスに強さをアピールしている。
「なんかごめんよ」
「いいっていいって。もし駄目なら一目散に逃げるさ。だってな、あの思念体ってめちゃくちゃ高額らしいんだ。もし壊しちゃったら、俺が破産しちゃいそうだしな。ははは」
今度はクルスもしゅんとなっている。
「まー、なんにせよ換金できたし、必要なものを買いに行こうか。って言って、さっきの店には戻りにくいから、あっちの店にしよう。ちょっと品物は劣るが、掘り出し物があるようなところだ。どちらかと言うと、俺はあっちの店の方が馴染みだ。ちょっと歩くぞ」
そう言って二人は、演習場の反対側にある店へ移動する。
※
演習場は多重結界闘技場ほどの大きさはないが、反対側まではそれなりに距離があるようで、二人は話をしながら陽気に歩いている。
「ちょっと聞いていい?」
「んん? なんだよ?」
「この星ってラムダって言うんだよね? 第6ってファクトが言ってたから、他にもここと同じような感じの星があるの?」
「ああ。それな。第7惑星まであるな。商業施設があったり、住居があったりするのはラムダだけみたいだな。俺も他の星には行ったことがないんだ」
「へっ? そうなの? 初めは第3惑星に行くようにファクトに言われたんだけど、ジンがすごい怒ってて……」
ザザッ!!
クルスが急に立ち止まり、アドニスの方へ振り向く。
「だだだだだだ第3惑星だって!!?? そこはジン様の住居があるメルキオラって星だよ。何人たりとも入れない。禁足地と言われてるところだ。そんなすごいところに行こうとしてたのか!! でも、やっぱりファクト様はジン様に怒られるんだな。くくく」
そう言ってクルスは、先ほどの二人のやり取りを思い出して笑っている。
「そうだね。いつもファクトは怒られてた。あの二人は仲が悪いの? そもそも、どういった関係なの??」
「ええ? どういった関係か?? うーーーん。俺もおとぎ話での話しかわからないな。でも、元々ジン様は何もないところから、ファクト様が作り出したって話だ。無を有に変える力をファクト様が持っているからって話だったけど……あんまり覚えてないな。その他のおとぎ話なら沢山あるよ。また話してやるよ。さて、やっと着いたな」
演習場の反対側まで歩いてきた。
そこには表の商店とは違い、寂れたような雰囲気がある。
先ほどの店と違ってあまり活気もなく、どこか殺伐としている。
「なんか……ボロイ」
「おいおいおいおい。誰のせいだよ、誰の! でも必要なものは揃うし、別に大丈夫だろ。とりあえず金もあるし、ここにある一番よさそうなものを買うか」
そう言って二人は、武器や防具を展示している店の前へやってきた。
展示している武具にもうっすらと埃がかぶっているようで、決して繁盛しているとは言えない店構えである。
そこに、眼帯をしたごつめの親父が椅子に座っている。
「おやじさん、久しぶり」
「おおおお!! 誰かと思えば、クルスか?? 大きくなったな!! いやーー久しぶりだな!! アポロンは元気にしてるか??」
「はい。もう17歳です。お師匠様は、もう亡くなりました」
「そうか。アポロンの奴、ついに逝っちまったか。辛気臭いこと言っちまったな。すまんすまん。それで? どうした? おお? その坊主はなんだ?? まさか弟子か??」
そう言って、武具屋の親父がクルスの後ろにいるアドニスを見る。
その見た目が怖いのか、アドニスはクルスの後ろへススッと隠れるようなしぐさをする。
「なんだ坊主!! 取って食ったりしねえよ。んで? どうしたんだ??」
「ああ。こいつはアドニスって言って、さっき闘技場の前で会って、一緒に闘技会に出ることにしたんです。それで武具を揃えてもらおうと思ってですね……。おやじさん??」
武具屋の親父が、アドニスをじっと見ている。
「んあ? こいつに武具?? こいつは思念体だぞ。大丈夫か? 武器はともかく、防具は限られた物しか装備できないんじゃないか??」
「ええええええ!? 防具装備できないんですか??」
「うわ!!! 思念体がしゃべった!! どうなってるんだ??」
やはりラムダでは、思念体が会話することは一般的ではないらしい。
武具屋の親父は、アドニスがしゃべったのを見て目をまん丸にしている。
椅子から立ち上がり、アドニスへ近づいていく。
「あっ。そうか。思念体はしゃべらないのか……。はははは」
「おっ、おう。そうだ。ここにいる思念体どもは、みんなしゃべらない。それが常識だ。しかし、しゃべる思念体もいるってのは聞いたことがあるな。それよりも、お前さん。その剣はなんだ?? ちょっと見せてくれるか?」
「ああ、この剣? いいですよ。さっきアイテムボックスから出したんです」
「アイテムボックス!? 誰の? クルスか??」
そう言って剣を受け取り、クルスの方を見る。
クルスは首を横に振り、アドニスの方を指さす。
「んんんん?? 坊主がアイテムボックスを?? どういうこった? アイテムボックスの魔石でも持ってるのか??」
剣とアドニスを交互に見る武具屋の親父。
その親父の前に、アドニスが手を出す。
「これが記拳グローブ! ここにアイテムボックスが入ってる!」
クルスは手を額に当てて、ため息をついている。
「ぶはははは!! 記拳グローブだと?? あれはファクト様が作ったって伝わってる、神話の武具だぞ。おとぎ話に出てくるような魔道具じゃねえか」
アドニスがニヤニヤしながらクルスの方を見る。
クルスは首を横に振っている。
「なんだなんだ? お前らさっきから何やってんだ? 記拳グローブだなんて言われて、誰かに騙されて買わされたんだな。んで? いくらで買わされたんだ?」
「騙されてないよ。これは……もごごごっ」
とっさにクルスがアドニスの口をふさぐ。
同時に、机の上に置かれた剣を足で器用に蹴り上げ、肩と首の間で受け止める。
「おやじさん!!! ちょっとごめん!」
そう言って、アドニスの口を押さえたまま店の外へずるずると引っ張っていく。
バタン!
勢いよく店の扉を閉め、外に出る。
「ちょっと確認だ。それって……その記拳グローブをアドニスが使ってるってこと、ファクト様は誰かに言ってもいいって言ってたのか?」
真剣な表情で、クルスがアドニスに問う。
アドニスは少し考え込んでいる様子だったが、すぐに口を開く。
「別に言っていいんじゃないかな。駄目なら駄目って言うでしょ? 言ってないなら大丈夫だと思うけどね」
「いや……まあ確かにそうだけど、それは神話に出てくるような代物で、誰もが欲しがるレア中のレアアイテムみたいな物なんだ。アドニスはまだ、これをきちんと使いこなせるわけじゃないだろ? それに思念体だし、今よりもっと使いこなせるようになって、強くならないと、悪い奴に奪われたりする可能性だってあるんだ。だから誰にでも、これが記拳グローブだってことは言わない方がいいと思うんだ。武具屋のおやじさんは信用できる人だけど、どこで誰が聞いているかわからないからな」
パチパチパチ。
熱弁しているクルスの後ろから、拍手をする音が聞こえる。
ハッとした表情でクルスが振り向く。
後ろには演習場の壁しかない。
しかし――。
壁からスーーッと、一本の手が現れる。
「うんうん。その通りだな。一応、誰かに奪われたらすぐにわかるから、取り返してアドニスに返す予定だったがな。はっはっはっ」
「えっ? えええっ!!!??」
二人は同時に振り返り、驚きの声を上げた。




