第10.5話 アドニスの興味津々!
クルスから聞いた話が、アドニスはずっと気になっていた。
このラムダには、ファクトとジンを題材にしたおとぎ話や絵本がたくさんあるらしい。
「ファクトーー。聞いてるんでしょー! ちょっと話聞いてよー! 自分のおとぎ話があるって知ってる? ねぇー!?」
多重結界闘技場近くの人気のない場所。
クルスが用事を済ませてくるとかで、アドニスは現在待ちぼうけ中であった……。
スゥーー。
アドニスが座っているベンチから、ファクトが生えてくる!
「うっ、うわぁぁぁ!!」
「声がでけぇ! シー! んで? 何? 俺の? なんだそれ?」
「ホントびっくりしたんだけど……。それよりホントに知らないの!?」
意外だった。
クルスの話によるとここラムダでは、小さい子供でも知っているほど有名らしい。
アドニスがクルスから聞いた話を説明しようとすると、ファクトは少し考え込んだ。
「うーん……ちょっと待てよ」
しばらく黙っていたファクトが、突然笑い出した。
「ハハハハ! なるほどな! そういうことか!」
「なに!? 分かったの!?」
「ああ。今ちょうど読んでる奴がいた」
「それズルいよ!」
《万物の理解》。
どうやらファクトは、誰かの意識からその本の内容を読み取ったらしい。
アドニスには何を見たり聞いたりしたのか分からない。
ただ、ファクトは随分と楽しそうだった。
「いやぁ……こりゃよく書いてるなぁ。俺が知らない話まであるぞ」
「ファクトのお話なのに?」
「そうなんだよ。ハハハハ!」
しばらく楽しそうにしていたファクトだったが、やがて何かに気づいたように目を細めた。
「……ああ。なるほど。そういうことか」
「どうしたの?何書いてるの?誰が書いたか分かったの?」
「ああ。……なるほど。ひとりじゃないのか。うーん」
「誰!? ねぇ誰が書いてるの!?誰が書いてるかわかったんでしょ!?」
ファクトは答えようとして――少し考えた。
そして笑った。
「今は話さないでおくよ」
「えぇーー! なんで!?」
「そのうち分かる。今、俺から聞くよりその方がいい。人間は、マジカルヒューマノイドからしたら先を急ぐ者だったか?何となく言いたいことはわかるな。 ハハッ」
これは……何かを隠している。
それだけはアドニスにも分かった。
しかし、ファクトがそう言うのなら、今は教えてくれないのだろう。
それでもアドニスの興味は収まらない。
むしろ余計に気になってしまった。
そんなことを考えていると、別の疑問が浮かんだ。
「そういえばさ。僕、この前ここから地球に戻った時、10分経ってからラムダに戻ってきたんだ。そしたらジンが、僕がラムダからいなくなって100年も経ってるって言ってた」
「ああ。ジンがそれくらいって言うなら、それくらいだな」
「やっぱりここだけ時間の進み方が違うの!?」
「そんなことよくわかるな!だが俺には、人間みたいな時間の感覚がないから、その辺はよく分からん」
あまりにもあっさり答えられ、アドニスは目を丸くした。
以前マキナへ来た時とは、明らかに時間の進み方が違っていた。
ずっと気になっていたことだった。
「じゃあ僕が最初にマキナへ来てから、ここでは何年くらい経ってるの? ファクトに会って4時間して帰ってきたのと、あと10分と……」
「うーん……」
ファクトは腕を組み、本気で考え始めた。
しばらく待つ。
まだ考えている。
「……ファクト?」
「待て待て。今考えてるから」
さらに少し考えたあと、ファクトは納得したように頷いた。
「人間が何十回か世代交代してるくらいだな」
「何年か聞いたんだけど……」
「ハハハハハ! 俺に人間の時間のこと聞くなよ!」
「ファクトが考えるって言ったんじゃん!」
「ちゃんと考えたぞ!」
どうやら、本当にそれで答えたつもりらしい。
ファクトにとって何百年、何千年という時間は、アドニスが考える時間とは全く違うものなのかもしれない。
ただ、その長い時間の中でも創造主は一人も現れていないという。
アドニスは改めて周囲を見渡した。
これほど長い時間が流れているのなら、ラムダという星そのものにも長い歴史があるのだろう。
「ねぇ。このラムダもファクトが作ったの?」
「作ったぁ?いや。正確には俺じゃないぞ」
「違うの?」
「ああ。それに元々ここは、ラムダって名前じゃない」
ファクトは少し口ごもりながら話し出す。
「うーん。言っていいのか判断に悩むところだが、この星は遥か昔、神星バルタザール。そう呼ばれてた星だ」
「神星……バルタザール……」
アドニスは初めて聞く名前を口にした。
「じゃあ、そのバルタ……サル? ……がラムダになったの?」
「まあ、色々あってな。バルタ……サルじゃなくて、バルタザールな! んで、今はここにある」
「ここにある?」
すでにアドニスの脳内メモリーは、パニック寸前……。
何とかファクトの話についていこうとするが、理解できているわけではない。
「ああ。バルタザールは、元々ここにあった星じゃないからな」
「…………え?」
残り少ない脳内メモリーで一生懸命考えていたアドニスは、一瞬、本当に意味が分からなかった。
「じゃあ、どうやってここに来たの?」
「持ってきた奴がいる」
「…………星を?」
「なんだ? 疑ってるのか?」
「いやいやいやいや! 星だよ! 星って持ってこれるの!? ………いや! 無理でしょ!?」
ファクトはアドニスの驚いた顔を見ると、ゲラゲラと笑い出した。
「ハハハハハ! そうだよな! 普通はそこに驚くよな!」
「誰が持ってきたの!?」
「それは――」
ファクトは何かを言いかけて、少し考えた。
「まあ、そのうち分かるよ」
「またそれ!? 肝心なことが全く分からないじゃないかよ! もうっ!!」
「ハハハハハ!」
おとぎ話を書いた誰か。
神星バルタザールをここへ持ってきた誰か。
聞きたいことは減るどころか、どんどん増えていく。
アドニスは少し考え――すぐにファクトを見上げた。
「ねぇ! じゃあ次なんだけど!」
「ハハハ! まだあるのか! あっ……やばい。あまり長居してると、またジンに怒られるからな! またな!」
そう言って、ファクトは姿を消してしまう。
「ええっ! ちょっと! すっごくモヤモヤする!もーー、ファクトのバカーー!」
まだまだ知りたいこと、聞きたいことがたくさんある。
アドニスの興味は、尽きそうになかった。




