↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の異世界攻略日記  作者: サメ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/38

第5話 選ばれた理由

部屋へ足を踏み入れた瞬間、優馬は思わず背筋を伸ばした。


天井は高く、左右には何本もの黒い柱が等間隔に並んでいる。

床には深紅の絨毯が敷かれ、その先には三段ほど高くなった壇上がある。


そして中央には、玉座にも似た大きな椅子が置かれていた。


そこへ、一体の骸骨が静かに腰掛けている。


豪奢な黒い法衣。

金糸で縫われたマント。

頭には王冠にも見える装飾品。


威厳だけなら、歴史の教科書に出てくる王様そのものだった。


骸骨だけど。


その左右には、六体の武装した骸骨が控えている。


部屋全体に張り詰めた空気は、さっきまで見てきた「職場」とはまるで別物だった。


案内役の骸骨が一歩前へ出る。


「対象者、田中優馬様をお連れしました」


「ご苦労だった」


低く、落ち着いた声だった。


優馬が想像していたような、いかにもラスボス然とした威圧感はない。


むしろ、人を安心させるような不思議な響きがあった。


「初めまして、田中優馬君」


骸骨はゆっくりと立ち上がった。


「まずは突然このような形でお呼びしたことを、お詫び申し上げる」


そう言って、深々と頭を下げる。


王様のような格好をした相手が、自分に頭を下げている。


あまりにも予想外の光景に、優馬は慌てた。


「いやいや、頭上げてください」


「ありがとう」


骸骨は顔を上げる。


表情は変わらない。

当然だ。骸骨なのだから。


それでも、不思議と笑ったように見えた。


「まず確認したい」


優馬は率直に尋ねた。


「俺、死んでないんですよね?」


「死んでいない」


「帰ろうと思えば帰れる?」


「帰れるよ」


その答えを聞いた瞬間、優馬の肩から少しだけ力が抜けた。


「安心したかね」


「ええ、まあ」


「もっとも、この後の話を聞けば、帰るかどうかは君自身に決めてもらうことになる」


優馬は首を傾げた。


「決める?」


「そうだ」


骸骨は壇上を降り、優馬の前まで歩いてくる。


距離は二メートルほどだった。


近くで見ると、法衣には見たこともない文字が細かく刺繍されている。


「我々は、ある世界を管理している」


「異世界ですか?」


「そう」


骸骨は頷いた。


「正確には、観測し、必要最低限の調整を行っている」


「神様みたいなものですか?」


「いや」


骸骨は静かに首を横へ振った。


「神ではない」


少し間を置いてから、続ける。


「管理者、と言った方が近い」


その言葉には妙な説得力があった。


自分たちを必要以上に大きく見せようとしている感じがしない。


「その世界には、人間も、魔法も、国家も存在する。文明も歴史もある。我々は、その世界が極端に壊れないよう見守っているだけだ」


「壊れないように?」


「その世界の理そのものが崩れたりした時だけ介入する」


「戦争とか?」


「いや。それくらいでは何もしない」


即答だった。


「生物としての営みだからね」


優馬は思わず苦笑した。


「ずいぶん放任なんですね」


「世界とは、本来自ら進むものだからね」


その考え方は、どこか腑に落ちた。


管理と言っても、何でも口を出すわけではないらしい。


「そこで君に、一つ頼みがある」


骸骨は真っ直ぐ優馬を見つめた。


骸骨なのに、視線を感じる。


「我々の代わりに、その世界で生きてほしい」


「……生きる?」


「好きなように生きればいい」


「冒険してもいい」


「商人になってもいい」


「農業をしてもいい」


「誰かと結婚してもいい」


「何もしなくてもいい」


優馬は思わず眉を寄せた。


「……何でもありじゃないですか」


「そうだね」


「ただ、その世界で人生を送ってほしい」


優馬は黙り込んだ。


あまりにも自由すぎる。


もっと使命を与えられるものだと思っていた。


魔王を倒せ。

勇者になれ。

世界を救え。


そういう話だと思っていたのだ。


ところが、言われたのは「好きに生きろ」。


「……それだけですか?」


「それだけだ」


「逆に怪しいですよ」


優馬が苦笑すると、骸骨も小さく笑ったようだった。


顎の骨が、カタカタと揺れる。


「そう思うのも当然だ」


「では、もう一つ質問してもいいですか」


「もちろん」


優馬は骸骨を見上げた。


「俺じゃなきゃダメだった理由は?」


その質問を待っていたかのように、骸骨は静かに頷いた。


「君は、あの世界との相性が極めて良かった」


「相性?」


「魂の質、と言えば分かりやすいかな」


「……全然分かりません」


「正直で結構」


骸骨はまた笑った。


「我々にも完全には説明できない。理屈ではなく、世界が君を拒絶しない。それだけは確かだった」


「世界が……俺を拒絶しない?」


「そういうことだ」


ますます意味が分からない。


だが、相手が嘘をついているようにも思えなかった。


「だから君が選ばれた」


部屋の空気が、少しだけ静かになる。


優馬は自然と息を飲んだ。


ここから先が、本題なのだろう。


骸骨は、しばらく優馬を見つめていた。


そして、静かに口を開いた。


「ただし――」


その一言で、優馬の背筋が再び伸びた。


「君を選んだ理由は、それだけではない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。