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僕の異世界攻略日記  作者: サメ


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第37話 若き部隊長の誇り

気に食わねえ。


午後の訓練場。


俺――ガルド・ヴァレンは、目の前にいる男を睨みつけていた。


歳は……二十歳くらいか?


俺より下だろう。


それなのに、なぜかかんなやつがが、この訓練場にいる。


しかも――。


「今日から、こいつが兵士たちの訓練を見ることになった」


姫様付きの騎士、ヴィオラが淡々と告げた。


こいつ。


そう紹介された男は、ユーマ・タナカと名乗った。


山賊……とまでは言わないが、どう見ても軍人には見えない。


剣は持っている。


だが、立ち方も、構え方も、服装も、俺たち軍人とはまるで違う。


何より気に食わないのが――。


「よろしく」


そう言って、へらっと笑ったことだ。


俺たちがここで何をしているのか、分かっているのか?


ここはアルヴェリア王国軍の訓練場だ。


今も戦争が続いている。


いつ敵が攻めてくるか分からない。


俺たちは、その時に国を守るため、日々剣を振っている。


なのに、こいつは……。


「ここが訓練場かぁ」


そんな呑気なことを言っている。


俺は眉間に皺を寄せた。


そもそも、こいつは何者なんだ。


姫様付きの騎士が連れてきた。


大臣から、兵士たちの訓練を見るよう命じられた。


それは聞いている。


だが、それだけだ。


どこの出身なのか。


どんな訓練をしてきたのか。


どんな戦場を経験してきたのか。


何も知らない。


なのに、いきなり俺たちの訓練を見るという。


ふざけている。


俺たちの部隊を任されている俺が、そう思うのも当然だろう。


俺は部隊長だ。


この地位に就くまで、何年も鍛えてきた。


兵士たちと一緒に汗を流し、訓練を繰り返し、戦場にも出てきた。


それなのに、どこの馬の骨とも分からない男がやってきて、戦闘指南役?


到底、納得できない。


だが、俺がこいつを気に食わない理由は、それだけじゃない。


俺には、軍人になった理由がある。


まだ子供だった頃。


俺の故郷の村が、盗賊に襲われた。


小さな村だった。


武器を持っている人間なんて、ほとんどいなかった。


大人たちは必死に戦った。


だが、戦闘に慣れた盗賊には敵わない。


家が焼かれ、村人が傷つき、村は壊滅寸前まで追い込まれた。


俺は母親と一緒に、家の裏にある物置に隠れていた。


外から聞こえてくる悲鳴を、ただ震えながら聞いていた。


もう駄目だ。


そう思った、その時だった。


馬の蹄の音が聞こえてきた。


続いて、怒号が響く。


「アルヴェリア王国軍だ! 武器を捨てろ!」


王国軍だった。


先頭にいたのは、まだ大将軍ではなかった。


当時、部隊長だった一人の男。


それが、今の大将軍だった。


俺は物置の隙間から、その姿を見た。


圧倒的だった。


盗賊たちが何人いようと関係ない。


その人が剣を振るたびに、盗賊が倒れていく。


その人が率いてきた兵士たちも強かった。


だが、俺の目には、その人だけが特別に見えた。


そして、俺たちの村を救ってくれた。


あの日、俺は決めた。


俺も、この人のようになりたい。


この人が守る国を、俺も守りたい。


それから軍人を目指した。


訓練を重ねた。


何度も失敗した。


それでも辞めなかった。


ようやく部隊長にまでなった。


大将軍が歩んできた道を、少しでも追いかけたかったからだ。


俺にとって、大将軍は憧れそのものだ。


命を捨てろと言われれば、迷わず捨てる。


大将軍が大切にしているアルヴェリアという国も、同じくらい大切だ。


だからこそ――。


「……ふざけんじゃねぇよ」


思わず呟いた。


大将軍を差し置いて。


いや、大将軍だけじゃない。


この国には、何人もの優秀な将がいる。


俺だって、部隊長として兵士たちを率いている。


それなのに、突然現れた二十歳そこそこの男を連れてきて、戦闘指南役だという。


納得できるわけがない。


しかも。


「ルシア、食堂ってどこにあるんだ?」


「さあ。昨日は牢屋でしたから、まだ行ったことありませんね。もうお腹がすいたんですか?」


「いや、まだだけどさ。朝飯が美味しかったから、昼飯も楽しみで」


俺は思わず振り返った。


男の隣には、金髪の少女がいる。


男の仲間なのだろうが、こいつも何者なのか分からない。


「城の食堂って、どんな飯が出るんだろうな」


「楽しみですね」


「昨日は牢屋だったしなぁ」


「牢屋の食事も悪くはなかったですけどね」


「いや、あれを基準にするのはどうなんだ?」


二人でそんな話をしている。


……緊張感がない。


昨日まで牢屋に入れられていたのだから、城の事情に詳しくないのは分かる。


だが、今日になって城に滞在することを許され、仕事まで与えられたというのに、普通こんなに呑気でいられるものなのか?


俺たちは戦争をしているんだぞ。


「今日の訓練が終わったら、食堂に行ってみようぜ」


「はい」


「何が食えるかな」


「肉があるといいですね」


「だな」


……気に食わねえ。


俺たちが汗だくになって鍛えている横で、これから食べる飯の話。


こんなのが、戦闘指南役だと。


ふざけているとしか思えない。


俺はヴィオラに目を向けた。


「なぜ、こいつなんだ? そもそも誰だ?」


「大臣の命令だ」


ヴィオラは短く答えた。


「理由は?」


「知らん。大臣に聞け」


実に簡潔な返事だった。


「だが、こいつが何者なのかくらいは知っているんだろ?」


「昨日、王城に来た者だ。それ以上は知らん」


「……昨日?」


つまり、こいつがこの国に来てから、ほとんど時間が経っていない。


それなのに、兵士たちの訓練を見る?


ますます気に入らない。


「こいつが強いという話は?」


俺が尋ねると、ヴィオラはわずかに間を置いた。


「強い」


「どれくらいだ?」


「私より上だ」


迷いのない返事だった。


「……本当か?」


「間違いない」


ヴィオラはそれ以上、何も言わなかった。


俺は優馬を見る。


強そうには見えない。


少なくとも、俺にはそう見えなかった。


だが、ヴィオラが根拠もなくそんなことを言うとも思えない。


俺はもう一度、男に目を向けた。


優馬は訓練場を眺めていた。


兵士たちが剣を振っている。


槍を突いている。


盾を構えている。


何人かは模擬戦をしている。


優馬は、ただそれを眺めているだけだった。


「……」


何を考えているのか分からない。


しばらくすると、優馬がヴィオラに声をかけた。


「なあ」


「なんだ?」


「俺、こういうのよく分からないんだけどさ」


ヴィオラは黙って続きを待った。


「何か気づいたことがあったら教えてくれって言われたけど、何を見ればいいんだ?」


俺は思わず目を見開いた。


……こいつ。


本当に何も知らないのか?


ヴィオラも少し黙ってから答えた。


「好きに見ろ。大臣からも、正式な軍事指南を求められているわけではない」


「そっか」


優馬は頭を掻いた。


「じゃあ、適当に見てるよ」


「そうしろ」


二人の会話を聞いて、俺の中の苛立ちはさらに膨らんだ。


適当に。


訓練場で。


兵士たちの命に関わることを。


俺たちは遊びで剣を振っているんじゃない。


一度戦場に出れば、ほんの一瞬の判断で仲間が死ぬ。


自分も死ぬ。


だから、必死に鍛えている。


それを、この男は「適当に」と言った。


俺はゆっくりと拳を握った。


こいつは何も分かっていない。


この国のことも。


軍のことも。


兵士たちのことも。


そして――。


大将軍が、この国のためにどれだけ戦ってきたのかも。


それなのに、こいつは今、この場所にいる。


大将軍よりも先に。


俺たちの訓練を見る立場として。


「……ふざけるな」


俺は小さく呟いた。


優馬がこちらを見る。


「ん?」


俺は歩き出した。


一歩。


また一歩。


兵士たちが俺の方を見る。


ヴィオラも振り返った。


俺は優馬の前で立ち止まった。


「おい」


「俺?」


「そうだ」


優馬が首を傾げる。


俺は睨みつけた。


「お前が本当に戦闘指南役を名乗るほどの男なのか、俺が確かめてやる」


「……え?」


「俺と勝負しろ」


訓練場の空気が、一瞬で張り詰めた。

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