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僕の異世界攻略日記  作者: サメ


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第32話 怪しい大臣と精霊使いの姫様

王城。


優馬たちは兵士に囲まれたまま、城の中へ連れてこられていた。


大きな城壁、豪華な廊下、鎧を着た兵士。どう考えても、普通の冒険者が来る場所ではない。


「ルシアさん」


「はい」


「これは捕まったという認識でよろしいでしょうか?」


「その認識で間違いないと思われます」


即答だった。


「だよなぁ」


優馬はため息をつく。


「俺、冒険者ギルドに登録したいだけなんだけどな」


「なかなか辿り着きませんね」


「本当に」


そんな会話をしていると、大きな扉が開いた。


「連れてきたか」


低いダミ声とともに、男が現れた。


その姿を見て、優馬は思った。


(うわ)


第一印象は、悪そうな顔、でっぷりとした大きな腹、高そうな服。そして。


「ぐふふ」


下品な笑い声。


「まさか、本当に現れるとはなぁ」


男は優馬を見る。


「白い天馬を連れた者。貴様がそうか」


優馬は警戒した。


(こんなわかりやすいタイプの大臣いるんだ)


男は兵士を見る。


「おい。なぜ拘束している?」


「え?」


兵士が戸惑う。


「しかし、人攫いの可能性が」


「人攫い?」


男は眉を上げる。


「私の客人だぞ。丁重に扱え」


兵士たちは黙った。


「外せ。すぐにだ」


「はっ!」


兵士が優馬の拘束を外す。


優馬は少し驚いた。


(あれ? 普通に解放した?)


男は優馬を見る。


「ぐふふふふ、失礼したな。我が名はグスタフ・ベルンハルト。この国で大臣を務めている」


「あ、どうも」


優馬も軽く頭を下げる。


「……」


グスタフは少しだけ目を細めたが、すぐに笑みに戻った。


「ぐふふふふ、腹が減っているだろう。おい、食事を用意しろ」


「え?」


優馬が戸惑う。


「遠慮するな。連れの子供らも連れてくるがよい」


グスタフはそう言うと、豪快に笑った。


「ぐふふ」


食堂へ案内されると、優馬の前には大量の料理が並んでいた。肉、パン、スープ、果物。色とりどりの料理から、温かい湯気が立ち上っている。


「……」


優馬は思わず黙った。そして、隣を見る。


少年と少女も料理を見たまま、生唾を飲んでいる。


少女が小さな声で言う。


「お兄ちゃん。これ……食べてもいいの?」


少年も戸惑ったように料理を見る。


「……いいのかな」


優馬は笑った。


「せっかく出してくれたんだ。食べようか」


「でも……」


優馬は卓上の皿に手を伸ばし、パンを手に取ると口に運んだ。


「うん、美味い! こっちの肉は……おお! 美味い!!」


それを見た少年は恐る恐るパンを手に取った。柔らかい。温かい。一口かじる。


「……」


目が開く。


「美味しい」


少女もパンを口にする。


「……!」


嬉しそうに笑った。


「甘い」


その様子を見ていたグスタフが、満足そうに頷いた。


「そうだ。子供は遠慮などせず、腹いっぱい食えばいい」


そう言って料理を指差す。


「まだあるぞ」


少年と少女は顔を見合わせる。


「いただきます」


二人は夢中になって料理を食べ始めた。


グスタフはその様子を眺めながら、満足そうに笑っていた。


「ぐふふ」


優馬はその様子を見て、少しだけ印象を改める。


(……あれ? 意外と子供好きなのか?)


食事が終わると、グスタフが立ち上がった。


「さて。少し話をしようか」


そして、少年と少女を見る。


「この二人は別室へ。丁重にな」


優馬が少し警戒する。


「大丈夫ですか?」


グスタフは鼻で笑った。


「ぐふふ。心配するな。この国の子供に危害を加えるような真似をするものか。少し小綺麗にもしてやろう」


「そういう意味では、俺も大臣に同意します」


ルシアが口を挟む。


「優馬さん、警戒しすぎです」


「いや、だって見た目が……」


「聞こえているぞ」


グスタフが笑う。


「すみません」


優馬は素直に謝った。


メイドたちが近づく。


「こちらへどうぞ」


少女は不安そうに少年を見る。少年も優馬を見る。


優馬は頷いた。


「大丈夫。少し休んできな」


二人はメイドに連れられて、ゆっくりと部屋を出ていった。


食堂に残ったのは、優馬、ルシア、グスタフ、そして小さくなったハクだけだった。


グスタフはハクを見る。


「さて。本題だ。貴様、自分が何故呼ばれたかわかるか?」


優馬は首を傾げる。


「何故って、ハクと一緒にいることですか?」


「そうだ」


グスタフは笑う。


「ぐふふ。天馬だ。その存在がどれほど特別か」


優馬はハクを見る。


「天馬って、そんなに珍しいんですか?」


「珍しい?」


グスタフは驚いたように目を見開いた。


そして。


「ぐふふ。面白い。本当に何も知らんのだな」


グスタフは説明を始めた。


「この世界で、神獣と契約した人間は、確認されているだけで三人しかいない」


「三人……」


「ああ」


グスタフは指を立てる。


「一人目。グライス帝国の大英雄。神獣フェンリルと契約したその日に、一夜にして自分の国を滅ぼして、帝国所属になった男だ。あの男一人で帝国の版図を二割は拡げたと言われている」


優馬は目を丸くする。


「そんな人が……」


「いる」


グスタフは続ける。


「二人目。アステリア聖教国に仕える大英雄だ。その者は神獣白鯨と契約し、国を守っている。そして三人目。どこの国にも属さない冒険者。世界中を旅していると言われているが、現在の居場所は誰にも分からん。この者は竜の神獣と契約していると言われているが、その実態は詳しくはわからん」


グスタフはハクを見る。


「つまり、世界で確認されている神獣契約者は三人。そして天馬、伝説級の神獣を連れている貴様は、四人目だと思われている」


「いやいや、俺、契約してないですよ?」


優馬は慌てて手を振る。


グスタフの表情が止まる。


「……何?」


「いや」


優馬はハクを見る。


「ハクは普通についてきただけで、命令したこともないし、契約した覚えもないです」


グスタフは黙った。


そして。


「ぐふふ」


笑った。


「ますます面白い。契約すらしていないのに、天馬が側にいる。そんな例は聞いたことがない」


「私も聞いたことありませんね」


ルシアがさらりと言う。


「なんでそっち側なんだよ」


「私を何だと思っているんですか?」


「ポンコツ骸骨」


「なん…だと…」


グスタフは二人のやり取りを見ながら、楽しそうに笑った。


「ぐふふ。なるほど。面白い連中だ」


そして、優馬を見る。


「だからこそだ。貴様には価値がある」


嫌な予感がした。


優馬は少し身構える。


「……まさか」


グスタフは笑った。


「ぐふふ。貴様には、この国専属の大英雄になってもらいたい」


予想通りだった。


「だが断る」


即答。


グスタフの眉が少し動く。


「ほう」


「俺、冒険者になりたいので」


優馬は言った。


「自由に旅したいんです。誰かに縛られるのは嫌なんで」


グスタフは腕を組む。


「ぐふふ。そう簡単に決めるな。貴様は、自分が思っている以上の存在だ」


「でも、俺は――」


優馬はそこで言葉を止めた。


この男は悪人なのか。


それとも、本当に国のために自分を利用しようとしているだけなのか。


まだ分からない。


ただ、少なくとも手放しで信用できる相手ではない。


その時、食堂の扉が開いた。


「失礼いたします」


入ってきたのは、白銀の鎧を身につけた女騎士だった。


長い髪を後ろでまとめ、腰には細身の剣を佩いている。


彼女はグスタフに一礼すると、優馬へ視線を向けた。


「姫様がお呼びです」


「姫様?」


グスタフの顔を見る。相変わらず悪い笑みを浮かべている。


「これより私がご案内いたします」


「ぐふふ。よかろう。しっかり話をしてこい」


「あ、俺の意思が介在してない」


「いいじゃないですか。リアル姫様なんて、そう会える機会なんてないですよ」


「まあ、そうだな」


優馬は女騎士の後について、食堂を出た。


廊下を歩き始めて、しばらくすると。


「一つ、申し上げておきます」


女騎士が前を向いたまま口を開いた。


「はい?」


「姫様の前では、決して無礼な振る舞いをなさらぬように」


「……無礼?」


「はい。言葉遣い、態度、視線。そのすべてです」


「いや、俺、そんなに失礼なことしないですよ」


「念のためです」


女騎士は淡々と続ける。


「姫様はこの国の王族です。軽口を叩くことも、許可なく近づくことも、勝手に触れることも許されません」


「分かりました」


「それから、姫様の質問には正直にお答えください」


「はい」


「もし姫様を不快にさせるような発言をした場合」


女騎士が足を止める。


ゆっくりと振り返った。


「その場で無礼を働いたと判断します」


「……はい」


「そして、私があなたを斬ります」


「え?」


優馬の足が止まった。


女騎士は真顔だった。


「首をはねます」


「いやいやいや!」


優馬は慌てて手を振る。


「そこまで!?」


「当然です」


「一応、俺達って客人なんですよね?そんな簡単に首を飛ばしていいんですか!?」


「あなたが無礼を働かなければ問題ありません」


「いや、そういう問題じゃ……」


「もう一度申し上げます」


女騎士は歩きながら続ける。


「姫様に無礼な言葉を使わない。勝手に触らない。許可なく近づかない。馬鹿にしない。大声を出さない。不敬な態度を取らない」


「分かりましたって!」


「姫様のご尊顔を見ない!その麗しい瞳に映らない!同じ空気を吸わない!ああ、もうはねてやろうか!」


「いやいや、怖い怖い!俺、まだ何もしてないし、瞳に映らないって、無理ゲーが過ぎる」


「まだ何も、だと!貴様!姫様に何かするつもりか!」


「いやいやいやいや、しないって!何もしない。何だったら用事が済んだらすぐに帰るから。やめて、剣に手をかけるのやめて!それに、俺たち、姫様に呼ばれてるんだろ」


「くっ、確かに…。仕方がない。決して無礼を働くのではないぞ」


女騎士は悔しそうに前を向いた。


優馬は小さく息を吐く。


「……ルシア」


「はい」


「この国、怖くない?」


「私は優馬さんが余計なことをしなければ大丈夫だと思いますよ」


「俺、そんなに信用ない?」


「まあ、怪しいですよね」


「どこがだよ!ちょっと山賊っぽい服装してるだけだろ」


「それでーす。それ一択です」


「んもう、失礼しちゃう」


「おネエが出てきたっ」


案内役の騎士が鍔を鳴らした。

剣を握っている。


「…まあ、ひとまず大人しくしとこうか」


「そうですね…」


やがて、大きな扉の前に辿り着いた。


女騎士が立ち止まる。


「こちらです」


優馬は深呼吸した。


「今度は普通に話したいな」


ルシアが苦笑する。


「先ほどまでの流れを見ると、難しそうですね」


「だよなぁ」


女騎士が扉を開く。


「姫様。天馬を連れた者をお連れしました」


中には、小さな少女がいた。


十歳ほどだろうか。


その周囲には、三つの光が浮かんでいる。


(なんだろう?あれ)


優馬が一歩、部屋へ入った。


「やるのじゃ!」


姫様が口を開いた、その瞬間だった。


三つの光が一斉に動いた。


「……え?」


空気が震える。


次の瞬間、風が巻き起こり、炎が弾け、雷が走った。


「うわっ!」


優馬は反射的に身をひねる。


轟音とともに、すぐ横を炎が通り抜けた。


「っ!」


続けざまに雷が床を砕く。


優馬はとっさに飛び退く。


足元を風の刃が切り裂いた。


「危なっ!」


一歩、もう一歩。


身体が勝手に動く。


優馬は紙一重で攻撃をかわし続けた。


最後の一撃が壁を砕き、部屋に砂煙が舞う。


「……」


優馬は息を整えながら、少女を見る。


少女も驚いた顔をしている。


優馬には、何が起きたのか分からなかった。


会ったばかりなのに。


なぜ、いきなり攻撃されたのか。


優馬は少女と、周囲を飛び回る光を交互に見た。


そして。


「……なんで?」

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