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僕の異世界攻略日記  作者: サメ


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30/38

第30話 それはまるで流星のような

古びた家の中に足を踏み入れながら、優馬は周囲を見渡した。


外から見た以上に、中は荒れていた。


壊れた机。

散らかった床。

薄暗い部屋。


そして、顔を赤くした数人の男たち。


酒の匂いが、部屋いっぱいに漂っている。


「……なんだ、手前ぇは?」


男の一人が、優馬を睨みつける。


こういう相手は苦手だった。


地球での四十年間、こういう怖そうな人たちとは、ほとんど関わらずに生きてきた。


森の魔物なら、少し慣れた。


強いか弱いか。

襲ってくるかどうか。


基本的には、それだけだ。


でも。


こういう怖い見た目の人間相手には、どう接すればいいのか分からない。


優馬は少し迷ったあと、恐る恐る手を上げた。


「あのー……すみません」


男たちが怪訝そうな顔をする。


「あの子の妹を、お借りしてもいいですか?」


優馬は外にいる少年を指差した。


数秒。


沈黙。


ルシアがトコトコと横へやって来て、耳元で小声で言う。


「優馬さん」


「はい」


「表現が変です」


「え?」


「妹さんは物ではありません」


「いや、分かってるけど……」


優馬は困った顔をする。


「勝手に連れていくのも違うかなって」


「そこだけ妙に律儀ですね」


男たちは呆れたように笑った。


「なんだこいつ」


「頭でもおかしいのか?」


一人の男が立ち上がる。


「俺たちに命令してるのか?」


「いや、お願いです」


優馬は慌てて否定する。


「できれば話し合いで……」


「なんだ、テメーこのやろう!」


男が怒鳴った。


「ひっ!」


優馬の肩が小さく跳ねる。


ルシアが目を丸くした。


「今、怯えました?」


「怒鳴られるの苦手なんだよ」


「魔物には向かっていくのに?」


「魔物は会話できないから」


「基準がおかしいです」


男が拳を振り上げる。


「舐めやがって!」


優馬より二十センチは背の高い男。


その拳が――


「ひっ!」


優馬は思わず目を閉じた。


怖い。


普通に怖い。


四十年間、こんな怖そうな男に殴られたことなんてない。


いや。


そもそも、人に殴られたこと自体、ほとんどない。


「ちょ、待っ――」


拳が迫る。


「うわぁぁぁ!」


優馬は反射的に身体を縮めた。


だが――


拳は、なかなか来ない。


「……?」


恐る恐る目を開ける。


拳は、まだ目の前。


なのに。


遅い。


「……あれ?」


優馬には、拳がどこへ向かっているのか、はっきり見えていた。


肩の動き。

腕の軌道。

身体の向き。


全部分かる。


というより――


単純に、遅かった。


「……これ」


優馬は少しだけ身体を横へずらした。


拳が、目の前を通り過ぎる。


「え?」


男の顔が間近にある。


優馬も驚いた。


「……」


男も驚いている。


「……」


二人の目が合う。


「……遅っ」


思わず口から漏れた。


「んだと、テメ――」


男が再び拳を振り上げる。


「ひっ!」


優馬はまたビビった。


そして――


「もう怖いから!」


パァンッ!!


乾いた音が響いた。


男の身体が横へ吹き飛ぶ。


一回転。


二回転。


三回転。


半回転。


「ぶべらぁっ!!」


そのまま壁へ激突した。


「……」


静寂。


優馬は自分の手を見る。


「……」


優馬は壁にめり込んだ男を見る。


「……」


優馬は少しだけ申し訳なさそうに手を合わせた。


「ごめん」


男から返事はない。


「……生きてます?」


「生きてますよ」


「よかった」


優馬はホッと胸を撫で下ろした。


「加減が難しいかも……」


ルシアは呆れながらも、少し笑った。


だが――


男たちは笑っていなかった。


「なんだこいつ……」


「化け物かよ……」


一人が酒瓶を掴む。


別の男は、壁に立てかけてあった棒を手に取った。


「やっちまえ!」


「おう!」


今度は複数人が一斉に向かってくる。


「うわっ!」


優馬は思わず声を上げた。


だが、身体は勝手に動いた。


酒瓶を避ける。


棒を避ける。


拳を避ける。


「ちょ、ちょっと待って!」


「待つわけねぇだろ!」


「ですよねぇ!」


優馬は逃げ回りながら、向かってくる男たちの攻撃を次々とかわしていく。


そして――


パァンッ!


「ぶべっ!」


ビンタ。


パァンッ!


「ぐへっ!」


またビンタ。


パァンッ!


「ぎゃあっ!」


さらにビンタ。


避ける。


ビンタ。


避ける。


ビンタ。


優馬は、襲いかかってくる男たちを一人ずつ壁へ送り込んでいった。


もはや、キース・ヘリングの生身壁アートである。


そして二分後。


部屋に立っている男は、一人だけになっていた。


最後の男は、震えていた。


「く、来るな……」


優馬が一歩近づく。


「来るんじゃねぇ……」


さらに一歩。


「ひっ……!」


男は後ずさる。


その時だった。


奥から、何事かと少女が顔を出した。


「あ……」


男は少女を見る。


そして、突然その腕を掴んだ。


「キャア!」


少女が悲鳴を上げる。


男は少女を強引に引き寄せた。


「動くな!」


優馬の足が止まる。


「このガキがどうなってもいいのか!」


「……」


優馬は少女を見る。


(まずい……)


さっきまでの男たちなら、いくらでも殴れた。


でも、今は少女が人質になっている。


どうする。


優馬が動けずにいる、その時だった。


「……ん?」


何かの気配を感じた。


優馬が反射的に振り返る。


その瞬間――


視界の端を、白い塊が横切った。


ドンッ!!


凄まじい衝撃音。


男の身体が吹き飛び、部屋の奥の壁へ激突した。


「ぐはっ!」


少女は、その場に残されている。


いや。


正確には、少女の周囲に薄い光の膜が張られていた。


「……」


優馬は呆然とする。


今、何が起きた?


少女の足元を見る。


そこには――


小さな白い馬がいた。


優馬を見上げている。


「プルル……」


ものすごいドヤ顔だった。


「……ハク?」


白い馬は、誇らしげに胸を張る。


「プルルッ!」


「お前……」


優馬は目を丸くした。


「小さくなれるのか?」


プルルッ。


ハクは当然のように鼻を鳴らす。


子犬より少し大きいくらいの身体。


いつもの大きな身体からは想像もつかないサイズだった。


優馬はハクの周りをぐるりと見る。


「え?」


「小さくなれるってことは……」


ハクを見る。


「お前、馬じゃなかったのか?」


プルル?


「もしかして、こっちの馬ってみんなサイズ変更できるの?」


ルシアが苦笑する。


「そんなわけないじゃないですか」


「だよな」


「ハクさんだけだと思います」


「そうなのか……」


優馬は改めて小さくなったハクを見る。


「まあ、そんなことより」


優馬はハクへ親指を立てた。


「ハク、グッジョブ!」


小さな白馬が、隣で得意げに鼻を鳴らした。


「プルルッ!」


ハクは胸を張って誇らしげだ。

それを見ていた、ルシアが笑う。


その横では、少年は妹を抱きしめていた。

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