第29話 迷い込んだ先
優馬とルシアは、大通りを歩いていた。
目的は冒険者ギルド。
「……」
優馬は周囲を見回す。
「広いな」
「ですね」
「探すって言っても、どこにあるか分からないと難しいな」
「看板でもあればいいんですけど」
「剣と盾のマークとか?」
「ありそうですね」
そんな会話をしながら、二人は街を歩き続けた。
昼過ぎに街へ入ってから、すでにかなりの時間が経っている。
途中、荷物を盗もうとした少年に出会ったり、その少年に燻製を分けてやったり。
その後は大通りから少し離れた広場で、村でもらった燻製を食べながら休憩した。
「やっぱり燻製うまいな」
「お昼ご飯としては少し変わってますけどね」
「旅人なんだから、こんなもんだろ」
「そういうものですか?」
「にしても、白ごはん食べたいな」
「わかります」
そんなやり取りをしながら、二人は街を眺めていた。
そして。
「さて、そろそろ行くか」
「ギルド探しですね」
「そうそう」
再び歩き始めた。
しかし、いつの間にか少しずつ景色が変わっていた。
街を見て回ることに夢中になっているうちに、いつの間にか大通りから外れていた。
店が減る。
人通りが減る。
建物が古くなる。
「……」
優馬が足を止めた。
「ん?」
「どうしました?」
「いや」
周囲を見る。
「さっきまで、もっと人いたよな?」
ルシアも辺りを見る。
「確かに」
道幅も狭くなっている。
壁は崩れ、窓は割れ、道の端にはゴミが散らばっている。
明らかに雰囲気が違っていた。
「道、間違えたか」
「その可能性が高いですね」
「ギルドを探してただけなのに」
「人生とは予定通りにいかないものです」
「急に深いこと言うな」
二人がそんな会話をしていた時だった。
「この役立たずがぁっ!」
怒鳴り声が響いた。
「……?」
優馬とルシアが振り向く。
古びた家の扉が勢いよく開いた。
次の瞬間。
小さな身体が、家の中から外へ飛び出してきて、地面を転がる。
「……」
まだ年端もいかない少年だった。
少年は顔を上げない。
ただ、痛みに耐えるように身体を丸めていた。
家の中から、酒瓶を持った大柄な男が出てくる。
「ったく、飯食わせてやってるんだから、少しくらい役に立て」
男は千鳥足で少年へ近づいていく。
少年は何も言わず、拳を握って耐えていた。
優馬は、その様子を黙って見ていた。
「……」
男が少年の髪を掴む。
「黙ってんじゃねぇぞ」
その瞬間。
優馬は駆け出した。
男が気付いて振り返る。
「あ?」
優馬は何も言わず、男の前まで行く。
そして――
パァンッ!!
乾いた音が響いた。
次の瞬間。
男の身体が横へ吹き飛んだ。
一回転。
二回転。
三回転。
「ぶべらぁっ!!」
そのままトリプルアクセルを決めながら飛んでいき、壁へ激突する。
「……」
辺りが静まり返る。
優馬は自分の手を見る。
「……」
ルシアが呟く。
「今のは」
「ビンタでしたね」
「うん。手加減した」
「どこがですか」
「原型があるだろ」
「確かに」
妙に納得してしまうルシア。
その声を聞いて、少年がゆっくり顔を上げた。
優馬を見る。
「あ……」
優馬も、その顔を見て目を見開いた。
「お前、さっきの」
少年は驚いた顔をする。
「なんでここに……」
優馬は少し困ったように笑った。
「いや、あのさ」
倒れている男を見る。
「思わずビンタしちゃったけど」
少し首を傾げる。
「よかった?」
少年は呆然とする。
「……」
「実はそういうプレイとかじゃなかった?」
「コラ、優馬さん。子供にそんなこと言ったらダメですよ」
少年は壁にめり込んだ男を見て、
「いや、それは助かったけど…」
優馬は頷く。
「ならよかった。ん、けど?」
しかし、少年の表情がすぐに曇り、先ほど飛び出してきた家を見る。
「……妹が、中にいる」
「妹?」
優馬の表情が変わる。
「妹もいるのか?」
少年は小さく頷いた。
「俺が失敗したから……」
「失敗?」
「金を盗めなかったから、あいつが怒って……妹を殴ろうとしたんだ…」
少年の声が震える。
「だから……」
優馬は黙って少年を見る。
昼間、荷物を盗んだ時も。
燻製を渡した時も。
あれだけ腹を空かせていた。
そして今。
こんな場所で、妹のために耐えていた。
「なるほどな」
優馬は立ち上がった。
「よし」
少年が顔を上げる。
「任せとけ」
優馬は開きっぱなしの扉を見る。
「俺が妹を助けてきてやるよ」
「……え?」
少年が優馬を見る。
「任せろ」
優馬は親指を立てる。
「さっきのビンタより、ちょっとだけ強めにいく」
「それはやめてください」
ルシアが即座に止める。
「もげちゃいますよ」
「……言い方が怖ぇ」
優馬は少し考えた。
「じゃあ、ちょっとだけ手加減する」
「お願いします」
少年は二人を見上げた。
「でも、あいつの仲間が何人もいるんだ」
優馬は笑った。
「蹴散らしてやるよ」
優馬はサムズアップと共に、開きっぱなしの扉に向かっていった。
ルシアが笑って、少年にウインクする。
「あのお兄さん、ビックリするほど強いから大丈夫ですよ」
その声を後ろで聞きながら、優馬は古びた家の扉をくぐると、中にいた男たちが「あぁん」と、その凶悪な眼差しを一斉にこちらに向けてきた。
優馬は、ちょっとちびった。




