第27話 ようこそ、王都へ
フェル村を出て、優馬たちは街へ向かって歩いていた。
街までは徒歩で七日ほど。
急ぐ必要もないので、のんびり旅をすることにした。
「七日かぁ」
優馬は道の先を眺める。
「まあ、これも旅の醍醐味だよな」
「そうですね」
隣を歩くルシアも楽しそうだ。
「途中で野宿したり、知らない場所を見たり……楽しそうです」
「だろ?」
異世界に来てから、まともに旅をしたことはない。
せっかく冒険者になるのだから、こういう旅も楽しみたい。
そんなことを考えながら、二人は歩き続けた。
そして、出発した初日の昼頃。
ハクが突然、足を止めた。
「ん?」
優馬も立ち止まる。
ハクは優馬を見る。
そして、自分の背中を見る。
「……乗れってことか?」
ブルルッ。
ハクが頷いた。
「ルシア、どうする?」
「乗りましょう!」
即答だった。
「即答だな」
「だって、ハクが乗れって言ってるんですよ?」
「まあ……そうだな」
優馬はハクの背中にまたがる。
その後ろにルシアが乗った。
「よし」
「準備できました!」
優馬はハクの首を軽く撫でる。
「じゃあ、頼むな」
ブルルッ。
次の瞬間。
ドンッ!
「うおっ!?」
ハクが地面を蹴った。
一気に加速する。
「ちょっ――!」
景色がものすごい勢いで後ろへ流れていく。
「は、速っ!」
「優馬さん!」
「ルシア、しっかり掴まれ!」
「はい!」
ルシアが優馬の腰にしがみつく。
ハクはさらに速度を上げる。
「待て待て待て!」
「あばばばばばばばば!」
「優馬さん、何言ってるんですか!?」
「あばばばばばば!」
「私も何か言いたいんですけど、風が強すぎます!」
「あばばばばばば!」
二人はハクの背中にしがみつくしかなかった。
木々が一瞬で後ろへ消えていく。
道が。
草原が。
丘が。
全部、目にも止まらない速さで流れていく。
「ハク!もうちょっとゆっくり!」
ブルルルルッ!
「聞いてない!」
「あばばばばばばば!」
「優馬さん、私、髪が全部後ろに持っていかれてます!」
「俺もだ!」
ハクは楽しそうに走っている。
どうやら本人には、この速度が普通らしい。
そして――。
「……あれ?」
優馬は前方を見た。
遠くに、大きな城壁が見える。
「街……?」
「え?」
ルシアも前を見る。
「街ですね」
「……もう?」
「もうですね」
優馬は呆然とした。
出発したのは今日の朝だ。
「七日かかるんじゃなかったのか?」
「徒歩なら七日ですね」
「……」
優馬はハクを見る。
ハクは何事もなかったように歩いている。
「お前……」
ブルルッ♪
「まあ、いいか……」
優馬はため息をついた。
「予定より早く着いたんだから」
ルシアが笑う。
「でも、七日かけてのんびり旅する予定だったんですよね?」
「そうなんだよ」
「全然のんびりじゃなかったですね」
「……」
優馬は黙った。
「半日しか経ってないし」
「はい」
「でも、ものすごく疲れた」
「それはそうですね」
二人はハクから降りた。
目の前には巨大な城門がある。
その向こう側には、今まで見たことのないほど大きな街が広がっている。
「奥に城みたいなのが見えるな…」
優馬は思わず見上げた。
城壁の外も人が多い。
馬車が走っている。
店もたくさん並んでいる。
森とはまるで違う。
「すごいな……」
「楽しそうですね!」
ルシアも目を輝かせている。
「まずは冒険者ギルドだな」
「その前に、ご飯を食べませんか?」
「それもいいな」
そんな話をしながら、二人は城門へ向かった。
ところが――。
「止まれ!」
突然、兵士の声が響いた。
「え?」
優馬たちが足を止める。
「動くな!」
数人の兵士が、こちらへ駆け寄ってくる。
「その大剣……」
一人の兵士が優馬の背中を見る。
「狼の毛皮……」
別の兵士が優馬の服装を見る。
そして、ルシアを見る。
「……連れの娘」
兵士たちが顔を見合わせる。
「お前、何者だ?」
「俺?」
優馬は自分を指差す。
「ただの旅人だけど」
「ただの旅人が、そんな大剣を背負うか?」
「え?」
「その毛皮もだ」
「いや、これは防寒用で――」
「黙れ!」
「はい?」
兵士が剣に手をかける。
「山賊だな」
「またかぁぁぁ!!」
優馬は頭を抱えた。
「前にも山賊と間違われたんだけど!」
「優馬さん、落ち着いてください!」
ルシアが慌てて優馬の前に出る。
「この人は山賊じゃありません!」
兵士たちが一斉にルシアを見る。
「……なるほど」
「何が?」
「言わされてるんだな」
「え?」
「大丈夫だ」
別の兵士が優しく声をかける。
「我々が助けてやる」
「だから違いますって!」
ルシアが困った顔をする。
「この人、本当に山賊じゃないですから!」
兵士たちが再び顔を見合わせる。
「君は、この男に脅されているんだろう?」
「違います!」
「言いたくても言えないんだな」
「違いますってば!」
「安心しろ」
兵士は真剣な顔で頷いた。
「もうすぐ助けてやる」
「だから、本当に違うんです!」
ルシアが叫ぶ。
すると別の兵士が眉をひそめた。
「……まさか」
「どうした?」
「もしかすると、脅されているだけじゃないのかもしれない」
「何?」
「魔法か何かで操られている可能性もある」
「そんなわけないでしょう!」
ルシアが思わず叫ぶ。
兵士たちの表情が変わった。
「ほら!」
「やはり普通じゃない!」
「大丈夫だ、もう無理に話さなくていい!」
「違うぅぅぅ!」
ルシアが頭を抱える。
優馬はその横で、呆然としていた。
「……なんで、こんなことになってるんだ?」
「私にも分かりません……」
「お前!」
兵士の一人が優馬を指差す。
「その娘を解放しろ!」
「いや、解放って……」
「我が国に奴隷制度はない!」
「人攫いは許さん!」
「いや、だから違うって!」
「どう見ても山賊だ!」
「しかも人攫いだ!」
「なんでそうなるんだよ!」
その時だった。
「何事だ!」
一際大きな声が響いた。
兵士たちが道を開ける。
現れたのは、他の兵士よりも立派な装備を身につけた男だった。
「隊長!」
「この者が怪しい格好をして、若い娘を連れていました!」
「山賊、そして人攫いの可能性があります!」
隊長は優馬を見る。
そして、ルシアを見る。
最後に――ハクを見た。
その瞬間。
隊長の表情が固まった。
「……!」
ハクの白い毛並み。
青く淡く光るたてがみ。
そして、その姿。
隊長は目を見開いた。
「まさか……」
隣の兵士が尋ねる。
「隊長?」
隊長はハクから目を離さない。
「間違いない」
隊長の声が低くなる。
(天馬だ…)
周囲の兵士たちがざわめいた。
「天馬……?」
「あれが……?」
「どうしてこんなところに……」
視線が一斉に優馬へ向く。
「……?」
優馬は首を傾げる。
「どうしたんだ?」
ハクを見る。
「ハクが何か?」
隊長は絶句した。
どうやら、この男は何も知らない。
「お前」
隊長が優馬に声をかける。
「はい?」
「身元を証明できるものはあるか?」
「あ、あります!」
優馬は荷物から一枚の紙を取り出した。
「フェル村の村長さんから、紹介状をもらってます」
隊長が受け取る。
紙に書かれた文字を確認していく。
しばらくして、隊長は顔を上げた。
「……フェル村の村長からの紹介状か」
「はい」
「確認した。問題ない」
「よかった……」
優馬は胸を撫で下ろした。
「疑って悪かったな」
「いえ……」
優馬は紹介状を受け取る。
文字は読めないので、何が書いてあるのか優馬には分からない。
だが、村長が二人の身元を保証してくれたらしい。
「通っていい」
「ありがとうございます!」
二人は城門を通り抜ける。
「やっと街だ……」
優馬が大きく息を吐く。
ルシアも笑っている。
「最初から大変でしたね」
「ほんとだよ」
二人と一頭は、そのまま街の中へ歩いていった。
そして、三人の姿が見えなくなったところで――。
隊長は三人が消えていった方向を見つめていた。
「……天馬を連れた旅人か」
「どうしますか?」
「城へ知らせろ」
「はい!」
「天馬を連れた旅人が入城したと伝えろ」
「承知しました!」
兵士が走っていく。
隊長は、その背中を見送りながら呟いた。
「……いったい、何者なんだ」
その頃。
そんなことなど何も知らない優馬たちは――。
「うわ、あれ何だ!?」
「優馬さん、あっちにもお店がありますよ!」
「見てみよう!」
「まず冒険者ギルドを探すんじゃなかったんですか?」
「もちろん探す!」
「じゃあ、行きましょう」
「その前に、あの店!」
「もう……」
二人は、初めて見る街を楽しみながら歩いていた。
七日かけて到着するはずだった街。
それを半日で着いてしまったことなど、もうどうでもよくなっていた。
そして優馬はまだ知らない。
天馬を連れていることで、この先どんな事に巻き込まれるのかを。




