第24話 冒険者に、俺はなる!
母親の病気が治ったことで、張り詰めていた空気はすっかり消えていた。
村長の家には続々と他の村人も集まってきて、いつの間にかちょっとした食事会のような雰囲気になっている。
「たくさん食べてください」
「ありがとうございます」
優馬は目の前に並べられた料理を見つめた。
焼いた肉。
野菜のスープ。
焼きたてのパン。
久しぶりの、魚以外の料理だった。
「いただきます!」
まずは肉を一口。
「……うまっ!」
思わず目を見開く。
「肉って、こんなに美味かったっけ」
「魚も美味しかったじゃないですか」
「毎日は飽きる」
「それは分かります」
ルシアもパンを頬張りながら頷いた。
「このパンも美味しいですね」
「焼きたてだからね」
村のおばさんが笑う。
「いっぱい食べな」
「はい!」
優馬は夢中になって料理を口に運んだ。
異世界に来てからというもの、食事といえば自分で獲った魚や森で見つけた野菜ばかり。
久しぶりに誰かが作ってくれた料理を食べていると、それだけで妙に安心する。
やっぱり、人間の食事はいい。
その隣では、レックとミーナも料理を食べていた。
「お兄ちゃん、そんなに食べて大丈夫?」
ミーナが心配そうに尋ねる。
「大丈夫だって。腹減ってたんだから」
レックはそう言いながら、肉を頬張る。
「おかわりあるぞ」
「ほんと!?」
レックの目が輝いた。
「いっぱい食べな」
「やった!」
そんな二人の様子を見て、優馬は思わず笑った。
母親が元気になった。
それだけで、この家の空気はずいぶん明るくなっていた。
◇◇◇
食事が落ち着いた頃。
優馬は、ふと気になっていたことを口にした。
「そういえば」
「はい?」
「薬草って、いつも子どもが取りに行くんですか?」
村長は首を横に振った。
「本来なら、冒険者に依頼します」
「冒険者?」
聞き慣れた単語に、優馬の耳がぴくりと動く。
すると、レックも反応した。
「冒険者?」
「そうじゃ」
村長が頷く。
「街には冒険者ギルドというものがありましてな。魔物の討伐や薬草の採取など、様々な依頼を引き受けてもらえるのです」
レックは目を輝かせた。
「冒険者……」
「レック、冒険者好きなの?」
優馬が尋ねる。
「うん!」
レックは嬉しそうに頷いた。
「俺、いつか冒険者になりたいんだ!」
「へぇ!」
優馬の目も輝く。
「どんな冒険者になりたいんだ?」
「強い魔物を倒して、いろんな街に行って……それで、すごい武器とか手に入れて……」
レックは両手を広げながら、楽しそうに話す。
「あと、困ってる人がいたら助ける!」
「いいじゃん」
優馬は思わず笑った。
「かっこいいな」
「だろ?」
レックは得意そうに胸を張る。
すると、隣で聞いていたミーナが口を挟んだ。
「でも、お兄ちゃんは怖い魔物が出たら逃げるじゃん」
「逃げるのは大事なんだよ!」
「昨日も森から逃げてきたし」
「それは……」
レックが言葉に詰まる。
優馬は吹き出した。
「ははは!」
「笑うなよ!」
「いや、ごめんごめん」
レックは少しむくれながらも、すぐに優馬を見る。
「でも、本当に冒険者になりたいんだ」
その言葉には、さっきまでの冗談とは違う真剣さがあった。
優馬は少しだけ目を細める。
(分かるなぁ)
前の世界では小説やアニメの物語の中にだけあった冒険者という職業。
男子なら誰でも一度は憧れたことがあるだろう。
「よし、俺は冒険者になるよ」
「え?」
レックが目を丸くする。
「お兄さんも?」
「うん」
優馬は頷いた。
「俺も、大人になったら冒険者になる」
「じゃあ、一緒だな!」
レックが嬉しそうに笑った。
「おう。一緒だな」
優馬も笑い返す。
「でも、お兄ちゃんは冒険者になる前に、まず森で山賊みたいな格好をどうにかしたほうがいいと思う」
ミーナがぽつりと言った。
「……」
優馬の笑顔が止まった。
ルシアが横で吹き出す。
「確かに」
「お前まで言うなよ!」
村長や村人たちも笑い始める。
「まあ、街に行くなら服は必要ですな」
「ですよねぇ……」
優馬は自分の格好を見下ろした。
狼の毛皮。
石の斧。
そして黒い大剣。
改めて見ると、どう考えても普通の旅人には見えない。
「まず服か……」
冒険者への道は、思ったよりも長そうだった。
「そういえば、冒険者ギルドって誰でも入れるんですか?」
優馬が尋ねると、村長は笑顔で頷いた。
「犯罪者などでなければ、基本的には誰でも登録できます」
「マジですか!」
優馬は勢いよく立ち上がった。
「なります! 俺、冒険者になります!」
「お兄さん、気が早いよ」
ミーナが笑う。
「冒険者ギルドは街まで行かないとありませんぞ」
「あ……」
優馬は座り直した。
「そうだった」
「街までは遠いぞ」
「どれくらいです?」
「歩いて七日ほどですな」
「七日!?」
優馬が固まる。
「結構あるな……」
ルシアも頷く。
「歩きですねぇ」
「食べ物どうしよう」
優馬は真剣な顔で考え始めた。
「魚を持って行っても腐るしな」
その言葉を聞いた村のおばさんが笑った。
「燻製にすればいいじゃないか」
「……燻製?」
「煙で乾かして保存するんだよ」
「そうすれば一か月くらいは十分もつさ」
優馬は目を丸くした。
「なるほど!」
知識としては知っている。
だが、実際に作ったことはない。
(燻製か。作り方までは知らん!)
「教えてもらえますか?」
「もちろんだよ」
「魚さえ持ってきてくれたらね」
「魚なら任せてください!」
優馬は胸を叩いた。
「川で毎日獲ってますから!」
「ほぉ」
村人たちが少し驚く。
「そんなに獲れるのか?」
「はい」
「どうやって?」
「投げるだけなんで」
「投げる?」
「石を」
「石?」
「はい」
村人たちは顔を見合わせた。
誰一人、意味が分からない。
優馬だけが、不思議そうな顔をしている。
ルシアは小さく笑った。
「その話、誰も信じませんよ」
「え?」
「普通は魚を石で獲りません」
「そうなの?」
「そうなんです」
優馬は少しだけショックを受けた。
「……俺の常識、おかしくなってきた?」
「だいぶ前からです」
ルシアは即答した。
村中に笑い声が響く。
優馬もつられて笑った。
そして、立ち上がる。
「よし!」
「一回、拠点へ帰ろう。魚を大量に獲って、燻製を作ってもらう」
優馬は人差し指を天空に向けた。
「それから街だ!」
「うん!」
レックも立ち上がった。
「俺もいつか冒険者になる!」
「お兄ちゃん、まだ森にも一人で行けないのに?」
「これから強くなるんだよ!」
「じゃあ、私も応援する」
ミーナが笑う。
「おう!」
レックは胸を張った。
ルシアも立ち上がる。
「いよいよですね」
ハクも嬉しそうに鼻を鳴らした。
「ブルルッ」
こうして優馬は、ようやく自分の最初の目標へ向かうための道筋を見つけた。
森を出て、冒険者になり、文明を手に入れる。
その為にまず、大量の魚を捕まえることを空に誓った。




