↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の異世界攻略日記  作者: サメ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/38

第23話 初めての村

「助けてくれて、ありがとう」


二人の子どもが、改めて優馬に頭を下げた。


さっきまで山賊だと思って逃げていた相手に、今度は命を助けられたのだ。


まだ少し警戒している様子はあるものの、先ほどまでの怯えた表情は消えている。


「いや、気にしなくていい。それより、二人はこの森に何をしに来たんだ?」


「薬草を探しに来たの」


妹が答えた。


「お母さんが病気で……ずっと熱が下がらないの」


「そうなのか」


優馬の表情が変わった。


「村に医者はいないのか?」


「いない。それに、お金もないから薬も買えないの」


「なるほど……」


だから、この危険な森まで二人で来たのか。


優馬は周囲を見渡した。


さっきのような魔物が、いつまた現れるかわからない。


「よし。村まで送っていくよ」


「え?」


「こんな森を子ども二人だけで帰るのは危ないだろ」


「でも……」


「大丈夫。俺たちも村に行ってみたいと思ってたところなんだ」


優馬はそう言って、ルシアとハクを見る。


ルシアは笑顔で頷いた。


ハクも、いつものように静かに立っている。


「じゃあ……お願いします」


二人は安心したように頷いた。


「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな」


優馬が歩きながら尋ねる。


「俺はレック」


兄が答える。


「私はミーナ」


妹も続けた。


「レックとミーナか。よろしく」


「うん!」


「よろしくお願いします」


そこからしばらく、子どもたちの案内に従って森を歩いた。


やがて木々の向こうに、人の暮らしが見えてくる。


木で作られた簡素な柵。


その向こうには畑が広がり、いくつもの小さな家が並んでいる。


屋根は藁で葺かれていて、ところどころから白い煙が立ち上っていた。


「ここが、俺たちの村」


「フェル村だよ」


「フェル村……」


優馬はその名前を口にした。


異世界に来てから、初めて聞く人間の集落の名前だった。


しかし。


村の入り口まで近づいたところで、何人かの村人がこちらに気づいた。


そして。


「山賊だーーー!」


「武器を持ってるぞ!」


「男衆を呼んで来い!」


「囲め!」


「やっぱりぃぃぃ!」


優馬は頭を抱えた。


村人たちが鍬や槍、木の棒などを手にして、一斉にこちらへ集まってくる。


「だから言ったじゃないですか」


ルシアが肩を震わせる。


「今日も立派な山賊です」


「笑うな!」


その時、レックが前へ飛び出した。


「違うよ!」


レックが慌てて叫んだ。


「この人は山賊じゃない!」


「そうだよ! 助けてくれたの!」


ミーナも続ける。


村人たちは警戒しながら、優馬たちを見つめている。


無理もない。


毛皮を身にまとい、腰には石斧。


そして背中には、真っ黒な大剣。


どう見ても普通の旅人には見えない。


優馬は自分の姿を見下ろした。


「……やっぱり、これか」


今朝、川面に映った自分の姿を思い出す。


山賊。


どうやら、この世界でもその評価は変わらないらしい。


「俺、そんなに怪しいかな?」


「かなり怪しいですよ」


ルシアが即答した。


「ですよね……」


そんなやり取りをしているうちに、一人の老人が村人たちの間から歩いてきた。


白い髭を生やした、いかにも村のまとめ役といった雰囲気の老人だった。


「その子らの言うことが本当なら、助けてもらったということかの」


「うん」


レックが頷く。


「森で魔物に襲われたところを、この人が助けてくれたんだ」


老人は優馬を見る。


そして、背中の黒い剣へ視線を移した。


少しだけ眉をひそめたが、すぐに頭を下げた。


「それは失礼しました。わしはこの村の村長をしております。子どもたちを助けていただき、本当にありがとうございます」


「いえ。たまたま通りかかっただけなので」


「そうか。ならば、せめて村で休んでいかれぬか」


「いいんですか?」


「もちろんじゃ」


優馬は少し考えた。


町を探して森を歩いていたところだった。


それに、初めて見つけた人間の村だ。


「じゃあ、お言葉に甘えます」


こうして優馬たちは、フェル村へ入ることになった。


村長に案内され、レックとミーナの家へ向かう。


家の中には、一人の女性が横になっていた。


顔色が悪く、額には汗が浮かんでいる。


「母さん」


レックが駆け寄った。


「帰ってきたのかい……?」


母親が弱々しく目を開ける。


「うん。母さんに薬草を――」


「薬草……?」


母親の表情が変わった。


「まさか……森に入ったのかい?」


「……うん」


「何を考えてるんだい!」


突然、母親が大きな声を上げた。


さっきまでの弱々しい姿からは想像できないほどの声だった。


「森は危ないって、あれほど言っただろう! お前たちに何かあったら……!」


そこまで言ったところで、母親の身体から力が抜けた。


「母さん!」


レックが慌てて支える。


「大丈夫……大丈夫だから……」


母親はそう言いながら、再び布団へ倒れ込む。


荒い息を繰り返し、目を閉じた。


「母さん……」


ミーナの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。


「ごめんなさい……」


レックも唇を噛みしめる。


「母さんに元気になってほしくて……」


二人とも泣き出してしまった。


優馬はその様子を見て、何かできないかと考えた。


だが、今の自分に薬はない。


食べ物なら、森で見つけた野菜がいくつかある。


「これとかだめかな?」


優馬が持っていたものをルシアに見せる。


キャベツのような葉。


ニンジンに似た根菜。


ルシアは無言で顔を横に振った。


やはり、病気を治せるようなものではなさそうだった。


「うーん……」


何もできない。


そう思った、そのときだった。


ハクが小さい入り口を屈むように入ってきて、そのまま母親のそばまで歩いてきた。


「ハク?」


ハクは母親の顔をじっと見つめ、鼻先を母親に近づけた。


そして。


淡い白い光が、母親の身体を包み込んだ。


「え?」


優馬が目を見開く。


光はすぐに消えた。


すると、さっきまで苦しそうだった母親が、ゆっくりと身体を起こした。


「……あれ?」


額に手を当てる。


「なんだか……身体が軽い」


「母さん!」


レックとミーナが駆け寄った。


「熱も……ない」


母親は驚いたように呟いた。


優馬はハクを見る。


「お前、何したんだ?」


ハクは何事もなかったかのように、いつもの顔で立っている。


「……お前、馬じゃなかったのか」


「馬ですよ」


ルシアが答えた。


「にしても、今のは何なんだよ」


「私にも分かりません」


「分からないのかよ」


「ハクが何かした、ということだけは分かります」


ルシアにも説明できないらしい。


優馬は改めてハクを見る。


白い身体。


青く光る鬣。


そして、さっきの不思議な光。


普通の馬ではない。


それだけは、もう間違いなかった。


「まあ……治ったなら、いいか」


優馬はハクの頭に手を置いた。


「ハク、ありがとう。今日はニンジンパーティーだ」


「ブルル」


ハクが小さく鼻を鳴らす。


「なんだよ。照れてるのか?」


優馬は笑いながら、ハクの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。


「ツンデレ発動ですね」


ルシアが楽しそうに言う。


「え、これツンデレなの?」


「照れてるじゃないですか」


「そうなのか。もう、照れ屋さんなんだから」


「ブル……」


ハクが少しだけ顔を背ける。


「ほら、やっぱり照れて――」


次の瞬間。 


ドンッ!


優馬の身体が横へ吹き飛んだ。


そのまま壁に激突し、壁をぶち抜いて外へ放り出される。


「痛たたた……」


土煙の中で、優馬が身体を起こす。


「……って、痛くない!」


「何やってるんですか!」


ルシアが慌てて開いた壁の穴から外へ駆け出してくる。


「いやぁ……ハクのツンデレが、思いのほかツンデレで」


「なんか鬱陶しいお父さんみたいでしたよ」


「お父さん……」


優馬は地味に傷ついた。


そんな二人の後ろから、レックとミーナも恐る恐る外へ出てくる。


「山賊のお兄さん、大丈夫?」


ミーナが心配そうに尋ねる。


「大丈夫、大丈夫。全然痛くない」


優馬は立ち上がり、服についた土を払った。


そして、家の壁を見る。


「……」


大きな穴が開いている。


「……これ、どうするんだ?」


「どうしましょうね」


ルシアが首を傾げる。


「まあ……後で考えよう」


優馬はそう言って、何事もなかったかのようにハクを見る。


ハクはすでに、何も知らない顔で立っていた。


「まあとにかく、ありがとうな。ハク」


優馬はそう呟いた。


その日の夕方。


村長から改めて礼を言われた優馬たちは、村の一軒を借りて休むことになった。


森の中で木の下に寝ていた優馬にとって、屋根と壁のある場所で夜を過ごせるのは久しぶりだった。


異世界へ来て、まだ数日。


森の中で暮らしていた優馬は、この日初めて、人の暮らす場所へ足を踏み入れた。


そして。


初めて、人のいる場所で夜を過ごすことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。