第22話 第一村人発見!
翌朝。
「今日は何するんですか?」
ルシアが焼き魚を食べながら聞く。
優馬は少し考えてから、にやりと笑った。
「探検」
「またですか?」
「今度は遺跡とは逆方向だ」
「何かあるといいですね」
「何もない可能性も高いけどな」
「その時はその時です」
朝食を済ませると、優馬はいつもの装備を身に着けた。
狼の毛皮。
石斧。
なんかいい感じの棒。
そして、黒い大剣。
川の水面に映る自分を見て、一言。
「……やっぱり山賊だな」
「安心してください」
ルシアは笑顔で親指を立てた。
「今日も立派な山賊です」
「安心できねぇよ」
ハクはそんな二人を見て、小さく鼻を鳴らした。
◇◇◇
森の奥へ進む。
木漏れ日が心地いい。
鳥の鳴き声。
風に揺れる葉。
今日も、魔物の姿は見えない。
「平和だな」
「ハクのおかげかもしれませんね」
「いや、たまたまだろ」
ルシアもそれ以上は何も言わなかった。
歩いていると、木の枝に赤い実がなっているのを見つけた。
「食えるかな」
「どうでしょう」
「とりあえず、一個だけ」
優馬は慎重に口へ運ぶ。
「……」
「どうですか?」
「甘い」
「当たりですね」
「でも酸っぱい」
「どっちですか?」
「甘酸っぱい」
「青春みたいな味ですね」
「何その例え」
二人は笑いながら、実を少しだけ採った。
その時だった。
ガサガサガサッ!!
森の奥から、何かが走る音が聞こえた。
「ん?」
優馬は音の方を見る。
誰かいる。
次の瞬間。
「きゃああああっ!」
「待ってぇぇぇ!」
子どもの声だった。
茂みを飛び出してきたのは、小さな女の子と男の子。
十歳くらいだろうか。
二人とも涙目で、必死に走っている。
「子ども?」
優馬は思わず駆け寄ろうとする。
「大丈夫か――」
そこで、子どもたちと目が合った。
狼の毛皮。
黒い大剣。
無精ひげ。
ぼさぼさの髪。
「ひっ……」
女の子の顔が真っ青になる。
男の子も震えながら叫んだ。
「や、山賊だぁぁぁぁぁ!」
「えぇぇぇぇぇ!?」
優馬は固まった。
「違う違う違う!」
慌てて手を振る。
「俺、山賊じゃ――」
「逃げてぇぇぇ!」
二人は優馬の横をすり抜け、そのまま森の奥へ走っていく。
「あっ!」
優馬も追いかける。
「待って!」
「話を聞いて!」
「違うから!」
必死に叫ぶ。
しかし。
「山賊が追いかけてきたぁぁぁぁ!」
「違うってぇぇぇ!」
「これは完全に逆効果ですね」
ルシアが苦笑する。
「笑ってる場合じゃない!」
逃げる子ども。
追いかける山賊。
事情を知らない人が見れば、完全に事件だった。
その時。
グルルルル……
低い唸り声が響いた。
「……え?」
子どもたちが立ち止まる。
目の前には、大きな狼のような魔物が三匹。
こちらに気付き、牙をむいて距離を詰めてくる。
前門の狼、後門の山賊。
逃げ道はない。
「お兄ちゃん……」
妹が震える。
兄も顔を青くした。
「まずい……」
その瞬間。
後ろから優馬が飛び出した。
「危ない!」
黒い大剣を構え、子どもたちの前へ立つ。
「二人とも下がれ!」
気がつけば、優馬は子どもたちを守るために剣を握っていた。
目の前には狼型の魔物が三匹。
一匹が、ゆっくりと前へ出る。
「グルルル……」
「うわ、本物の魔物だ……」
優馬の額に汗が浮かぶ。
ゲームや漫画では何度も見た。
でも、実際に目の前にすると迫力が違う。
「ルシア」
「はい」
「強い?」
「分かりません」
「分からない?」
「私も初めて見る魔物なので」
ルシアは魔物をじっと見つめる。
「ただ、見た感じでは、そこまで強そうには見えません」
「そうか」
優馬は黒い剣を握り直した。
(落ち着け)
(俺は身体が強い)
(岩も砕ける)
(相手は狼だ)
(たぶん大丈夫)
自分に言い聞かせる。
すると、一匹が飛び掛かってきた。
「ガァァァッ!」
「うおっ!」
優馬は反射的に黒い剣を振る。
ブォンッ!
ゴッ!!
「ギャンッ!」
魔物は真横へ吹き飛び、木へ激突した。
ドォン!
木が大きく揺れる。
「……え?」
優馬が固まる。
「切れてない」
黒い剣は、やっぱり切れない。
だが、吹き飛んだ魔物は、そのまま動かなくなった。
「えぇ……」
ルシアも思わず声を漏らす。
「倒しましたね」
「殴っただけなんだけど」
残る二匹が、一瞬ひるんだ。
しかし。
「グルッ……」
二匹同時に飛び掛かってくる。
「うわっ!」
優馬は反射的に横薙ぎに振った。
ゴンッ!
一匹目が吹き飛ぶ。
そのまま勢いは止まらず、
ゴッ!
二匹目にも直撃した。
二匹まとめて地面を転がっていく。
「……」
「……」
森が静かになった。
「終わった?」
優馬が恐る恐る近付く。
三匹とも気絶している。
「生きてるな」
「どうします?」
「殺すのもなぁ……」
その時だった。
ハクが三匹の前へ歩いていく。
コツ。
コツ。
魔物たちは目を開けた。
そして――
「キャンッ!」
「キャウン!」
「ヒィィィン!」
三匹とも悲鳴を上げるように立ち上がり、一目散に森の奥へ逃げていった。
「……」
「……」
優馬はハクを見る。
ハクは何事もなかったように、近くの草を食べ始めた。
「今の何?」
「分かりません」
ルシアも首を振る。
「でも、ハクが近付いた瞬間、すごく怖がってましたね」
「……偶然じゃないか?」
「かもしれませんね」
ルシアは苦笑した。
子どもたちは、呆然とその様子を見ていた。
やがて妹が、小さな声で言う。
「お、お兄ちゃん……」
「うん」
「山賊さん……強い」
優馬は苦笑した。
「だから山賊じゃないって」
すると兄の方が、おそるおそる頭を下げる。
「あ、ありがとうございました!」
妹も慌てて続く。
「助けてくれて、ありがとうございます!」
「いや、無事でよかったよ」
優馬は照れくさそうに頭を掻いた。
「もう山賊じゃないって分かった?」
兄妹は顔を見合わせる。
そして。
「僕たち、攫われますか?」
「攫うかっ!」
ルシアが肩を震わせながら笑う。
「見た目は満点で山賊ですから」
「笑うな!」
優馬は思わずツッコミを入れる。
そのやり取りを見て、兄妹はようやく少しだけ笑顔になった。
森の中での、初めての人との出会い。
そして優馬は、この世界で初めて、人を助けた。
「ところで」
優馬は兄妹を見る。
「君たちは、どこから来たんだ?」
兄妹は顔を見合わせた。
「村です」
「この森の近くにあるの?」
「はい」
優馬の目が少しだけ輝いた。
「村……」
異世界へ来てから、初めて聞いた。
自分以外の人間が暮らしている場所。
「よかったら、その村まで案内してくれないか?」
兄妹は少しだけ警戒した。
だが、先ほど助けてもらったことを思い出したのか、やがて頷いた。
「……はい」
こうして優馬は、初めて人の暮らす場所へ向かうことになった。
異世界生活、数日目。
森の中で見つけたのは、遺跡だけではなかった。




