第18話 いざ、探検
「探検だぁぁぁ!!」
朝一番。
優馬の叫び声が森いっぱいに響き渡った。
「朝から元気ですねぇ」
ルシアが苦笑する。
「そりゃ元気にもなるさ」
優馬は両手を広げた。
「屋根ができた!」
指を一本立てる。
「服もできた!」
二本目。
「魚も安定して捕れる!」
三本目。
「野菜も見つけた!」
四本目。
「塩まで手に入れた!」
五本目。
「つまり!」
優馬は大きくガッツポーズを決める。
「衣・食・住が、ある程度そろった!」
「おぉー!」
ルシアも拍手する。
「今までは生きるのに必死だったけど、今日からは違う」
優馬は森の奥を見つめた。
「今日は探検だ!」
「異世界っぽくなってきました!」
「やっとゲームのチュートリアルが終わった気分だ」
「長かったですねぇ」
「長かった」
二人で笑い合う。
その横で。
ブルルッ。
白馬も鼻を鳴らした。
「お前も行くのか?」
ブルル。
「行くらしいですね」
「すっかり仲間みたいになってるな」
白馬は当然のように優馬の横へ並んだ。
その姿を見て、優馬がふと首を傾げる。
「そういえばさ」
「はい?」
「いつまでも『白馬』って呼ぶのもなぁ」
「あ」
ルシアも気づく。
「名前ありませんでしたね」
「毎回『おい』って呼ぶのもかわいそうだし」
白馬は首を傾げる。
まるで「何の話?」と言っているようだった。
「よし」
優馬は腕を組む。
「名前を付けよう」
「おぉ!」
ルシアも乗ってくる。
「どんな名前にします?」
優馬は白馬をじっと見つめた。
真っ白。
そして、とにかく強い。
昨日見た、マンティコアを一瞬で吹き飛ばした姿が頭に浮かぶ。
「……白ヒゲ」
ブルル。
「却下か」
「まあ、あれはおじいちゃんみたいな名前ですしね」
「じゃあ……トーフ」
ブルルルッ!
明らかに嫌そうな顔をした。
「おぉ、ちゃんと好き嫌いあるな」
「ありますねぇ」
「ミルク」
プイッ。
今度は横を向かれた。
「牛じゃありませんって顔ですね」
「ですね」
優馬は少し考える。
「じゃあ……ペガサス」
ブルル。
「翼ないしな」
「まだ翼を見てませんからね」
「ん?そうだな」
「名前としては、ちょっとそのまますぎますし」
「それもそうか」
優馬は腕を組み直す。
「じゃあ……セーヤ」
「聖闘士星矢ですか?」
「そう」
「確かに強そうですけど」
「なんか違うな」
優馬は空を見上げた。
白くて。
強くて。
それでいて、どこか神秘的な馬。
何かいい名前はないか。
(ハク…)
ふと、昔観た映画のワンシーンが頭をよぎった。
「あっ!」
優馬が声を上げる。
「思い出した!」
「何です?」
「ニギハヤヒ……じゃない」
「違いますね」
「えっと……ニギ……ニギ……」
優馬は必死に記憶をたどる。
四十年も生きていれば、昔覚えた名前なんていくらでも抜け落ちている。
「ああ、そうだ!」
優馬が指を鳴らした。
「ニギハヤミコハクヌシ!」
ルシアは一瞬きょとんとしたあと、ニヤリと笑った。
「すごい名前ですね。神様みたい」
「お、知ってるな」
「もちろんです。『あ……あ……』ですよね?」
「それはカオナシな」
「違いました?」
「全然違う」
優馬は苦笑する。
「まあ、とにかく。あの世界的名作アニメに出てくる名前だ」
白馬を見る。
「ハク」
静かな森に、その名前が響いた。
白馬は優馬をじっと見つめ返す。
「ハク」
もう一度呼ぶ。
ブルルッ。
白馬が短く鼻を鳴らした。
「おっ」
「返事しました!」
優馬は笑った。
「気に入ったか?」
ブルルッ。
今度は優馬の肩へ鼻先を寄せてくる。
「決まりですね」
「よし」
優馬は白馬――ハクの首を優しく撫でた。
「今日からお前の名前はハクだ」
ハクは満足そうに目を細める。
「よろしくな」
ルシアも微笑んだ。
「これで三人とも名前がありますね」
「そうだな」
優馬は爆散後に作り直した腰の石斧を確認する。
毛皮の袋には、いつもの石も入っている。
「準備よし」
優馬は森の奥へ目を向けた。
昨日までは、ただ生きるために森を歩いていた。
今日は違う。
何があるのか。
どこまで続いているのか。
人間がいるのか。
町があるのか。
それとも、自分の知らない何かがあるのか。
分からない。
だからこそ、見てみたい。
優馬は森の奥へ向かって拳を突き上げた。
「じゃあ改めて!」
「はい!」
「探検だぁぁぁ!!」
「おぉーーー!!」
「ブルルルッ!」
人間と、金髪の少女と、一頭の白馬。
そんな変な取り合わせの三人組は、未知の森の奥へと歩き始めた。
異世界へ来て、まだ数日。
それでも。
優馬は初めて、この世界を「生きる場所」ではなく、「見てみたい場所」として歩き始めていた。




