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僕の異世界攻略日記  作者: サメ


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第17話 偉大なるもの。それは塩。

翌朝。


パチパチと焚き火が音を立てる。


優馬は魚を焼きながら、小さくため息をついた。


「やっぱり塩が欲しいなぁ。それか醤油」


「またですか」


ルシアが苦笑する。


「昨日も言ってましたよ」


「だって絶対うまいだろ」


「それは否定しません」


「塩だけで焼き魚は化ける」


「おぉ。なんだか説得力があります」


「日本人だからな」


ルシアも頷く。


「私も研修で食べました」


「研修で何食ってんだよ」


「日本食です」


「万能すぎる研修だな」


そんな会話をしていると、少し離れた場所で草を食べていた白馬が、ふいに顔を上げた。


ブルルッ。


鼻を鳴らすと、どこかへ向かうように歩き始める。


「ん?」


優馬は首を傾げた。


「散歩か?」


白馬は一度だけ振り返り、また歩き出す。


「……呼ばれてる気がするな」


「ですね」


二人は白馬の後を追った。


十分ほど歩く。


川沿いを離れ、岩がむき出しになった場所へたどり着いた。


白馬は大きな岩の前で立ち止まると、その表面をぺろりと舐め始めた。


「何してるんだ?」


「岩を舐めてますね」


「もしかして…」


優馬は岩へ近づいた。


試しに欠けた部分を指でこすり、ほんの少しだけ舐めてみる。


「……」


「どうしました?」


「しょっぱい」


「え?」


ルシアも恐る恐る舐める。


「……本当です!」


「岩塩だ」


優馬の顔が一気に明るくなる。


「すげぇ!」


「岩塩って、本当にあるんですね!」


「あるんだなぁ!」


優馬は岩塩を見つめる。


「持って帰りたいけど……」


目の前にあるのは、両手でも抱えきれないほど大きな岩だった。


さすがに、そのまま運ぶのは無理だ。


「削ります?」


「いや」


優馬は拳を握る。


「試したいことがある」


「試したいこと?」


優馬は岩塩へ向かって拳を振り下ろした。


ドゴッ!!


鈍い音が辺りに響く。


岩塩の表面が大きく砕け、拳ほどの塊がいくつも地面へ転がった。


「……」


「……」


優馬は砕けた岩塩を見る。


「砕けた」


ルシアは口を開けたまま固まっている。


「え?」


「え?」


「いや、岩って拳で砕けるんですか?」


「俺も知らん」


「普通は砕けませんよ!?」


「そうなの?」


「そうです!」


優馬は一つ岩塩を拾い上げる。


「まあ、持って帰れるようになったから結果オーライだな」


「結果はいいんですけど、過程がおかしいです……」


毛皮の袋へ岩塩を詰め、二人は拠点へ戻った。


その日の夕方。


焚き火の上では、今日も魚が焼けている。


優馬は昼間持ち帰った岩塩を手に取った。


「さて」


「どうするんです?」


「細かくする」


優馬は岩塩の欠片を親指と人差し指でつまむ。


ギュッ。


パキパキッ。


「……」


「……」


岩塩は簡単に細かく砕け、さらさらとした粒になった。


「できた」


「できちゃいましたね」


「便利だな」


「便利なんですかね、それ……」


優馬は笑いながら、細かくなった岩塩を焼き魚へ指でぱらぱらと振りかけた。


「いただきます」


一口。


その瞬間だった。


「…………」


優馬の動きが止まる。


「どうです?」


「……うまい」


もう一口。


「うっっっっま!!」


「そんなにですか!?」


ルシアも急いで魚を受け取り、岩塩を少しまぶす。


一口。


「……!」


「全然違います!」


「だろ!」


「塩だけですよね!?」


「塩だけだ」


「塩ってすごい!」


二人は夢中になって魚を食べ続けた。


食べ終えたあと、優馬は満足そうに息を吐く。


「……やっぱり塩は偉大だな」


その横で、白馬が草を食んでいる。


優馬はふと思い出したように白馬を見る。


「そういえば、お前が見つけてくれたんだよな」


ブルルッ。


白馬が鼻を鳴らす。


「ありがとうな」


もう一度、白馬の首を軽く撫でる。


「お前、本当に役に立つなぁ」


その一言で、ルシアの肩がぴくっと動いた。


「……」


優馬はルシアを見る。


「ルシア」


「はい」


「今日、お前何した?」


「え?」


優馬は指を一本立てる。


「白馬が岩塩を見つけました」


もう一本。


「生活の質が爆上がりしました」


さらに一本。


「魚がめちゃくちゃ美味しくなりました」


「はい……」


「ルシア」


「はい……」


「お前は?」


ルシアは胸を張った。


「応援してました!」


「役に立ってねぇ!」


「今日はたまたまです!」


ルシアは頬を膨らませる。


「いつもはちゃんと役に立ってます!」


「まあ、それはそうだけど」


「ですよね!」


「今日は白馬が一番だったな」


「……」


ルシアは白馬を見る。


白馬もルシアを見る。


「……白馬さんです」


「素直でよろしい」


「ぐぬぬぬ……」


ルシアは悔しそうに拳を握った。


「次は私が活躍します!」


「はいはい、期待してる」


「絶対です!」


その横で、白馬がブルルッと短く鼻を鳴らした。


まるで笑っているようだった。


「なんか馬にまで負けた気分です……」


優馬は思わず吹き出した。


異世界生活は、今日も少しだけ豊かになった。


そして優馬は、この日から焼き魚に塩を振るという、当たり前すぎる幸せを手に入れた。

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