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僕の異世界攻略日記  作者: サメ


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第13話 家を作ろう

朝日が木々の隙間から差し込んでくる。


パチッ。


焚き火の炭が小さく音を立てた。


「ん……朝か」


優馬はゆっくりと身体を起こした。


昨日は地面にそのまま横になった。


枕もない。


布団もない。


当然、ベッドなんてものもない。


それなのに。


「……身体、痛くないな」


肩を回す。


首を動かす。


腰を伸ばす。


どこにも違和感がない。


疲れも残っていなかった。


「本当に丈夫になってるんだな」


改めて、自分の身体を見る。


見た目は昨日までとほとんど変わらない。

心なしか肌のハリが良くなった気がする程度だ。


筋肉が大きくなったわけでもない。


傷もない。


それでも、昨日までの自分とは明らかに違う。


狼もどきを石一つで吹き飛ばした。


川の水まで跳ね上げた。


そして今は、こんな劣悪な寝床(地面)で一晩過ごしても平然としている。


「……やりすぎだろ」


自分で呟いて、苦笑する。


「おはようございます!」


隣から元気な声が飛んできた。


「おはよう」


振り向くと、ルシアが立ち上がって大きく伸びをしていた。


「いい朝ですね!」


「そうだな」


「今日も元気です!」


「それは何よりだ」


ルシアは周囲を見回した。


そして、昨日と同じように川を眺める。


木々を見る。


空を見る。


最後に、地面を見る。


「でも……」


「ん?」


「やっぱり家が欲しいですね!」


その一言に、優馬も苦笑した。


「俺も思ってた」


昨日は体はともかく精神的に疲れていたから、そのまま寝られた。


でも、毎日こんな生活をするわけにはいかない。


屋根がない。


壁もない。


寝床もない。


雨でも降ったら、それだけでかなり厳しい。


「まずは住む場所だな」


「秘密基地ですね!」


「家だ」


「秘密基地!」


「家」


「秘密基地!」


「……もう好きにしろ」


「やったー!」


何がそんなに嬉しいのか。


ルシアはその場でくるくる回り始めた。


「じゃあ、材料を集めるか」


「はい!」


優馬は近くの木へ歩いていく。


ある程度太く、真っすぐな木を見つけた。


「このくらいなら使えそうだな」


幹へ両手を当てる。


「よいしょ」


軽く押した。


ミシッ。


「……ん?」


バキバキバキッ!!


木が根元から倒れた。


ズズン……。


「…………」


優馬は倒れた木を見る。


それから、自分の手を見る。


「……」


ルシアを見る。


「……」


「切るつもりだったんだけど」


「押しましたよね?」


「押した」


「倒れましたね」


「倒れたな」


ルシアは倒れた木へ近づくと、両手を合わせた。


「木さん、ごめんなさい」


「そこは謝るんだな」


「命ですから!」


「……そうだな」


優馬も木へ向かって軽く頭を下げる。


「ありがたく使わせてもらいます」


倒れた木の幹へ手を掛ける。


「よっと」


ひょい。


持ち上がった。


「……軽い」


「ちなみに」


ルシアが何気なく言う。


「普通の人なら持ち上がりません」


「だろうな」


「引きずると思います」


「だろうな」


「たぶん、大人が何人か必要です」


「そんなにか」


優馬は丸太を抱えたまま首を傾げる。


自分にとっては、少し長い荷物を持っているくらいの感覚だった。


「……本当に怖いな、この身体」


「便利ですよ!」


「便利なのは分かる」


優馬は丸太を肩に担ぐ。


「でも、加減を間違えたら大変なことになりそうだ」


「そこは練習ですね!」


「簡単に言うなよ」


二人は川辺まで丸太を運んだ。


一本。


二本。


三本。


必要になりそうな木を集めていく。


「意外と楽しいな」


「図工みたいです!」


「工作だな」


「工作!」


ルシアは嬉しそうに枝を拾っている。


「これは使えますか?」


「使える」


「これは?」


「使える」


「これは?」


「……それは薪だな」


ルシアが両手で持ってきたのは、細い枯れ枝だった。


「じゃあ、こっちは?」


「それも薪」


「これは?」


「それも」


「これは?」


今度は大きな枯れ葉の束だった。


「それも燃やす」


「全部使えますね!」


「便利な森だな」


「異世界ですから!」


「それは関係あるのか?」


そんな調子で材料を集めていると、ふと優馬は川の近くにある大きな岩へ目を向けた。


丸太を運ぶには少し邪魔な場所にある。


「……あれも邪魔だな」


軽い気持ちで押した瞬間、それが失敗だったと悟った。


ゴゴゴゴゴッ!


岩は転がるというより弾丸のように川へ突っ込み、水しぶきが優馬の顔まで飛んできた。


「……また、やった」


「またですね」


「もう驚かないのか?」


「昨日から何回も見てますから!」


「慣れるの早すぎるだろ」


濡れた顔を拭いながら、優馬は自分の両手を見下ろした。


木を倒し、岩を吹き飛ばす。


やることなすこと、加減が利かない。


「……練習するしかないか」


少しずつ。


何ができて、何ができないのか。


それを自分で覚えていくしかない。


その日の優馬は、家を作る作業と並行して、力加減の練習も始めることにした。


木を持つ。


置く。


枝を折る。


折りすぎないようにする。


石を動かす。


今度は転がしすぎない。


何度も繰り返しているうちに、少しずつ感覚が分かってきた。


「……なるほど」


「分かりました?」


「ほんの少しだけな」


「十分です!」


「お前、何でも前向きだな」


「そのほうが楽しいですよ!」


「まあ、それもそうか」


昼を過ぎ。


さらに作業を続ける。


丸太を組み。


枝を渡し。


葉を重ねる。


壁はない。


床もない。


雨風を完全に防げるわけでもない。


それでも、昨日まで何もなかった場所に、少しずつ形ができていった。


そして夕方。


「……できた」


優馬は腰に手を当てて、自分たちの作品を眺めた。


「家です!」


ルシアが嬉しそうに叫ぶ。


「秘密基地です!」


「結局そっちか」


「秘密基地です!」


「はいはい」


二人で中へ入る。


屋根の下に座る。


日差しが直接当たらないだけで、ずいぶん落ち着く。


「……日陰って、こんなにありがたいんだな」


「家ですから!」


「まだ家って言うのか」


「はい!」


ルシアは満足そうに頷いた。


「私たちの家です!」


優馬は周囲を見回す。


床は土の上に大きい葉を敷き詰めただけ。


壁はない。


家具もない。


立派な家とは、とても呼べない。


でも。


「……まあ、家でいいか」


「やった!」


ルシアが笑った。


風が屋根の隙間から吹き込んでくる。


川の音が聞こえる。


焚き火もすぐそばにある。


昨日までとは違う。


少なくとも、ここには自分たちで作った場所がある。


「よし」


優馬は立ち上がった。


「これで寝る場所は確保できた」


ルシアが自分の格好を見下ろし、それから優馬を見た。


「あの」


「ん?」


「優馬さん、そろそろ本気で服を考えたほうがいいと思います」


「分かってる」


「昨日から思ってたんですけど、正直かなり目のやり場に困ります」


「お前が言うな、着てるくせに」


「私は着てます!優馬さんが着てないんです!」


「知ってるよ!」


ルシアはケラケラ笑いながら、焚き火の近くへ腰を下ろした。


「まあ、明日には何とかなりますよ」


「その根拠のない自信、どこから来るんだ」


「気合いです!」


「また気合いか」


「昨日、火もつきましたし」


「あれはお前が魔法使ったからだろ」


「細かいことは気にしない主義です!」


「大雑把すぎるだろ」


優馬は苦笑しながら、焚き火の隣に腰を下ろした。


パチ、と薪が爆ぜる音がする。


服もない。


金もない。


まだ町すら見つけていない。


それでも。


昨日は何もなかった場所に、今日は自分たちの家がある。


そして、名前を持った相棒が隣で笑っている。


「……悪くないな、異世界」


思わず、そんな言葉が口をついて出た。


「聞こえましたよ、優馬さん」


「聞かせるつもりで言った」


ルシアは嬉しそうに笑うと、膝を抱えて炎を見つめた。


異世界二日目の夜が、静かに更けていく。

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