↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の異世界攻略日記  作者: サメ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/38

第11話 追いかけられるなら美女がいい

「待ってくださぁぁぁぁい!」


「待つかぁぁぁぁぁ!!」


森の中を、全力で駆け抜ける。


木の枝が顔を叩く。

足元の草が絡みつく。

それでも、気にしている余裕なんてない。


優馬は必死に走っていた。


そのすぐ後ろから聞こえてくるのは、


ガルルルルル……


低く唸る獣の声。


振り返る余裕はない。


振り返らなくても分かる。


さっきからずっと、何かに追い掛けられている。


「なんでこうなったぁぁぁ!」


「木の実を取ろうとしたら怒られました!」


隣を走る金髪の少女が、妙に元気よく答える。


「知ってるよ!」


「縄張りだったみたいです!」


「それも知ってる!」


「五匹います!」


「それは初耳だよ!」


思わず振り返る。


犬より一回りほど大きい、灰色の獣。


狼によく似た姿をした五匹の魔獣が、牙を剥きながら追い掛けてきている。


「終わった……」


「終わってません!」


「どっちだよ!」


「まだ食べられてません!」


「慰めになってない!」


その時だった。


前方が、急に明るくなる。


木々の隙間から、青空が見えた。


森が途切れている。


そして、その先には――


幅二十メートルほどもありそうな、大きな川が流れていた。


「川!」


優馬は思わず足を止めた。


だが、喜んでいる場合ではない。


川幅が広すぎる。


飛び越えられる距離ではない。


泳ぐにしても、流れが速い。


振り返る。


狼たちが、ゆっくりと距離を詰めてくる。


逃げ場はなかった。


「ど、どうしましょう!」


「聞くなよ!」


「私に聞かれても困ります!」


「お前が木の実取ったんだろ!」


「おいしそうだったので!」


「理由が平和すぎるんだよ!」


優馬は周囲を見回した。


何か使えるものはないか。


武器。


棒。


石。


その時、足元に転がっている石が目に入った。


拳くらいの大きさだ。


優馬は反射的に拾い上げる。


「投げるんですか?」


「他にあるか!」


「応援します!」


「戦えよ!」


「サポーターです!」


「知ってる!」


狼の一匹が、低く身を沈めた。


次の瞬間。


地面を蹴って飛び掛かってくる。


「うわぁぁぁぁ!」


半ばやけくそで、優馬は石を投げた。


ビュンッ!


「あっ」


石が消えた。


そう見えた。


次の瞬間――


ドゴォォォォォン!!


飛び掛かってきた狼が大きく弾き飛ばされ、そのまま後方の大木へ叩き付けられた。


バキバキバキッ!


太い幹が大きく揺れ、狼は地面へ落ちる。


動かない。


「…………」


「…………」


森が静まり返った。


優馬も。


狼たちも。


少女も。


全員が固まっている。


最初に口を開いたのは、少女だった。


「すごぉぉぉぉぉい!」


「いや、俺ぇぇぇぇぇ!?」


一番驚いているのは、優馬自身だった。


自分の手を見る。


何も変わっていない。


石を投げただけだ。


ただ、それだけ。


なのに。


「……え?」


優馬は足元から、もう一つ石を拾った。


「何するんですか?」


「いや……」


さっきのは偶然かもしれない。


そう思った。


だから今度は、少しだけ力を抑えて投げてみる。


ビュンッ!


ドゴォォォン!


二匹目の狼が吹き飛んだ。


「…………」


「…………」


「優馬さん」


「何」


「めちゃくちゃ強いですね!」


「俺も今知った!」


残った三匹の狼が、一斉に唸り声を上げる。


だが、さっきまでとは明らかに違っていた。


近付いてこない。


一定の距離を保ちながら、こちらを警戒している。


「……ビビってる?」


「ビビってますね!」


「俺もビビってるんだけど!」


その時だった。


一匹が、横から飛び掛かってきた。


「うわっ!」


優馬は反射的に身を引く。


その手に、たまたま木の枝が触れた。


咄嗟に掴む。


そして――


「どけぇ!」


無我夢中で振り回した。


バゴォォォン!


狼の身体が真横へ吹き飛び、木を三本まとめてなぎ倒していく。


ドォン、ドォン、ドォン!


やがて、森に静寂が戻った。


優馬は手にした枝を見た。


折れていない。


「……この枝、丈夫だな」


「違います!」


少女が即座に突っ込んだ。


「優馬さんがおかしいんです!」


「え?」


「身体が強くなってるじゃないですか!」


「あ……」


そこでようやく思い出した。


転移する直前。


王の骸骨が言っていた。


『向こうへ着けば、嫌でも理解する』


「……これか」


思わず呟く。


三倍。


あの時、王が言っていた数字が頭をよぎる。


まさか、これほどとは思っていなかった。


優馬は自分の手を握った。


普通に握っただけなのに。


今までとは、何かが違う。


力を入れれば、どこまで出てしまうのか。


それが分からない。


「……これ、ちゃんと加減しないと駄目だな」


その言葉に、少女が頷く。


「そうですね!」


狼たちは、もう近付いてこない。


倒れた仲間を見て。


優馬を見て。


そして――


一斉に踵を返した。


「あ」


「逃げました!」


「助かった……」


優馬はその場に座り込んだ。


全身から、どっと力が抜ける。


異世界に来て、初めての戦い。


勝った。


たぶん、勝ったのだ。


でも。


「……全然、勝った気がしない」


自分が強くなったことよりも。


今はただ、無事に生き残れたことのほうが大きかった。


少女は満面の笑みで、ぱちぱちと拍手している。


「おめでとうございます!」


「……何に対してのおめでとうなんだよ」


「異世界初勝利です!」


「そういうもんなのか……」


優馬は苦笑した。


そして、空を見上げる。


青空は、相変わらずどこまでも青かった。


ただ。


異世界に来たばかりの優馬には、その青空が少しだけ違って見えた。


ここでは、自分がどれだけ強いのかも分からない。


何が危険なのかも分からない。


お金もない。


服すらない。


それでも――


「……まずは、服を探すか」


「はい!」


隣から返ってきた元気な声に、優馬は小さく笑った。


「あと、食べ物もな」


「はい!」


「水も」


「はい!」


「お前、返事だけは良いんだよな」


「唯一の取り柄なので!」


「開き直るなよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。