コイン
僕が「街で買い物をする」というと、アズは寝室に行ってコインを持ってくる。
表はヒゲの男、裏面は鳥が掘られた金色のコイン。
一度このヒゲ男のことを、アズに聞いたことがある。
答えは「しらん」だった。
コインを街の役場のようなところに持っていくと、1枚が50枚程の別の金色のコインになって返ってくる。
それで買い物をして帰るのが生活になっていた。
今日もそうして、僕の手にはヒゲ男のコインが1枚落とされた。
渡してくれたアズにきく。
「これ持っていくと毎回驚かれるんだけど、なんでかわかる?」
「む」
「古いものだからではないか」
アズ自身もよく分かってないようだ。
「どのくらい古いの、これ」
「……」
コインの入った布の袋が空中で回る。
「もう覚えとらん。それくらい前だ」
それほど古いなら、合点がいく。
あれは換金しているのではなく、質に入れているようなものだったのだろう。
「アズが仕事で対価を得ていたとは思えないけど……なんでそんなお金があるのかきいてもいい?」
「むぅ」
カチャリと重い音がして、布の袋はテーブルの上に落ちた。
「……あまり」
「褒められたことではないのはしっておる」
珍しく歯切れが悪い。
「ここに来たばかりのころ」
「ときどき狩人や猟師がこの山に踏み入っておった」
「その、われは人間が、こわいので」
「霧を出して、ここに近づかんようにしていた」
「そのときに、逃げて置いていった荷物を」
「……数十年後に、回収して」
「最近、つかっておる、のだ」
最後は消えそうな声になっていた。
気の長い話だと思った。
「まぁ……」
「僕がいなきゃ使ってなかったんだし、いいんじゃないの」
「む、そうか」
「かえせ!と言われれば返すつもりではあったからな」
「……それはそれで、こわいが」
「もし来たら、僕が説明して謝るから」
そう言ってアズの頭を撫でる。
「……んむ」
「それより、ヤマダ」
いつものアズの声に戻っていた。
「飴がもうないぞ」




