第17話 地の塩や世の光でなくとも(2)
それから幾日が経ったが、肝心の後任世話係はまだ決まっていない。
イチルの注文をまるっと無視したとしても、目ぼしい人間は極端に少なかった。
というか、書類や面接の段階ではまあまあかなと思った相手も、実際に子供たちの世話をさせると「うん?」と首を捻ってしまうことが多い。
ゴローさんがある程度は絞ってくれているわけだから、これでもまだましな面々が残っているんだろうが、この中から次の世話係を選ぶというのは、正直、気乗りがしない。
ゴローさんの目利きを疑うようで申し訳ないが、探せばもっと適任の者が出てきそうなのに。厳しい基準があるんじゃなかったのか? でも、これ以上落とすと、ゴローさんの顔に泥を塗ることになりそうだし……。
「うーん……」
「どうしたんだ? ジュリ」
「やっぱりごはんおいしくない? ニィナと一緒に残す?」
ニィナがどさくさに紛れて自分の昼餉の皿をあたしのほうに寄せてきたので、あたしは「ちゃんと食べ」と押し返した。
いつものように食堂で向かい合うようにして座っているあたしたちは、互いの顔色なんてすぐに伺えてしまう。後任世話係のことで頭を悩ませているあたしに、四人はちゃんと気がついていた。
「このままジュリが世話係でもいいんじゃねえの?」
「いいわけあるかい。あたしは一応オオサカ首長補佐なんだから」
「でも、でも、ニィナ、ジュリーの代わりのひとが来ても、そのひとの言うことなんて聞いてあげないよ? 全部無視しちゃうし、お野菜だって一つ残らず残しちゃうよ?」
「どういう脅迫?」
「だったらニィナ、ジュリちゃんの前ではちゃんと野菜を食べるところを見せなきゃだめだろ」
「イチルのツッコミもちゃうねんて」あたしは足を組んだ。「ていうか、あたしの代わりじゃなくって、あたしが代わりだったのよ。知ってのとおり臨時の世話係だったんだから。次のひとの言うことも素直に聞いて、困らせないようにすんのよ。野菜も全部食べなさい」
むくれたニィナが水笛を吹いたように唸る。テーブルの下で両足をばたばたさせるせいで、振動がこちらにまで伝わってきた。
そうなると、いつもならイチルやヨハクあたりが小言を言うのだが、イチルは困ったような顔をするだけだし、ヨハクはフォークでステーキを突きながら「舌を腐らせたあとにギリ焼いたみたいな肉」なんてぼやいている。
駄目元でミクロを見遣ったところ、つまらなそうにそっぽを向かれた。うわ、反抗期。
これはあれだ。単純に拗ねているのだ。あたしも後任を探すのに忙しくって、引き継ぎの準備もしなくちゃで、この子たちと一緒にいるときですら、この子たちの相手ができなかった。心を傾けている相手がちっともこっちを見てくれないのは、たしかにいやなものだ。
食事のときくらいは、後任を探すことを忘れてもいいだろう。
「……今日は特別よ」あたしは自分の皿を差しだした。「あんたたちの嫌いなもの、食べてあげる。そんだけ嫌がられてちゃ、料理人にも申し訳ないしね」
ニィナとヨハクがわっと喜色を散らした。イチルは物珍しそうに瞬きをして、ミクロは「はあ? いっつもうるさいくせに?」と訝しんだ。あたしは「だから今日だけ特別だって」と返す。ニィナはせかせかと嫌いな食べ物をあたしの皿に移した。ヨハクの皿のステーキも加わって、あたしの皿の上はこんもりと膨らむ。
「いい? 本当に今日だけだから。好き嫌いが悪いっていうより、あんたたちみたいにまだ体が小っさいときにちゃんと栄養を取らないと、病気になってすぐに死んじゃうんだからね」
「死ぬかよ」
「いいから早く食べて」
「好き嫌いはだめだよ、ジュリー」
こいつら……。
まあ、今日くらいは大目に見よう。
あたしはフォークに突き刺した野菜を口に入れた——ん?
しゃきしゃきとした瑞々しさの中に滲んでいく苦み。ドレッシングが違う? 違和感を覚えたが、咀嚼を止めるほどではなかった。ちゃんと食べなさいって言った手前、文句はつけられない。
でも、ドレッシングを舐めとる舌にじんわりと熱さを感じて、いよいよなにかがおかしいことを知った。
彼らに悟られないよう平静を装いつつ、逃げるようにステーキのほうを口にする。焼き加減も味つけも絶妙で美味しかったはずだ。噛みしめた瞬間に口内で肉汁が蕩けだす。
すると、持っていた食器も蕩けた。テーブルも食堂の壁もどろどろになっていくのを眺めながら、まずい、と思った。
食堂の奥で控えていたらしい料理人が悲鳴を上げてすっ飛んできた気がするが、あたしにはそれすらも定かではない。肩や腕には小さな手がたくさんしがみついているのに、それぞれ誰のものかわからなくて、なにか言おうとしたのに言えなかったのは、無意識のうちに「吐かなくちゃ」と考えたからだ。
前後不覚の体を引きずりながら、目や耳で感じるものの全てを振り払って、あたしは水道のある場所を探した。耳の後ろの脈がうるさくて、脳も心臓も血管もずたずたにされそうなくらいだ。そのままなにも見えなくなったのは、あたしが目を瞑ったからか、それとも視界が潰れたからか。
口の奥に指を突っこんだら、焦げた蜜みたいな苦みがせりあがる。それは喉を焼きながらきれいに口から出てきた。つられて胃の中にあったものまで全部ひっくり返る。
甲高い声に名前を呼ばれたような鼓膜の揺らぎ。それさえも脳髄をぐちゃぐちゃに踏みつけていく。眩暈だと理解したのは頭から水を被ったあと。節水なんて知らない。ありったけの水を被りながら必死に飲んだ。飲んでは吐いてを呼吸でもするみたいに繰り返しているうちに、胃がひくひくと引き攣った。
なにかの拍子に床に倒れて、瞼を薄っすらと開けると、小さな顔があたしを見下ろしている。双子の顔に貼られたシールがちらちらと光っていた。その光がどんどん増えていって視界を埋めつくしたから、これはいっそ意識を手放したほうが楽になれるんだろうなと悟る。
「食中毒」
それでも口が動いたのは、あの子たちがきっとそばにいるから。
あたしを心配しているだろう彼らが心配だったから。
「食べちゃだめ」
吐いたのは言葉なのか胃液なのかわからないまま、あたしの意識は落ちていく。腹の底が燃えるように熱い。涙が出た。
怒涛の不意打ちを食らって気を失ったあたしは、沼底から這いあがるように目を覚ました。喉が焼けたように痛くて、「あ」と漏らした声は掠れていた。それを聞きつけてそばに寄ってきたのは、覆面の顔をしたレーヨンだった。
「ジュリさん、気がついた」
「……レーヨン?」
ぼんやりとした意識が覚醒していく。自室のベッドの上にいるのがわかった。窓を叩く雨の音も聞こえた。淀んだ光が射しこんでいたので、まだ昼間なのだろう。
他のみんなはどうしたのか。あたしの思考を見透かしたように、「イチルとヨハクは浸水被害の支援、ニィナは熱電発電、ミクロは雷を見に」とレーヨンが告げる。
「……イガラシ首長は?」
「呼んでくる」
宣言するや否や、レーヨンは部屋を出ていった。気が利く子で助かる。
あたしは目を瞑った。頭がぼんやりする。少しだけ痛むのは軽度の脱水症状によるものだろう。吐き気はだいぶ鎮まって、あるのは空腹感と脱力感。強く拳を握ったはずなのに、思ったよりも力が入らなかった。グローブが小さく軋むだけ。
そんなふうに一つ一つ確認していると、部屋の扉をノックされる。返事も待たずに「入るぞ」と声がかかった。扉を開けたのはイガラシ首長とゴローさんだった。
「体調は?」イガラシ首長が枕元へ近づく。「食中毒と聞いたが」
「……かなり回復しました」
「いきなり倒れたと聞いて驚きましたよ! 貴女は半日ものあいだ高熱に魘され、そこからさらに半日眠りつづけていたんです」
ということは、あれから丸一日経っているのか。そのときの記憶がほとんどないので気づかなかった。
あたしを心配するイガラシ首長とゴローさんの背後から、レーヨンがひょっこりと顔を出す。あたしは上体を起こしながらそれを眺め、ややあってから「レーヨン、」と声をかける。
「ごめん。イガラシ首長たちと話があるから、ちょっと出てて」
他の子たちなら上手くはいかなかったはずだ。でも、聞きわけのよいレーヨンは、すぐに「わかった」と返した。
レーヨンが部屋を出るのを見送り、イガラシ首長は「どうした」と言った。
「毒です」
「……毒?」
「食中毒じゃなくて、毒です」あたしは頭を抱える。「なんで今まで気づかなかったんだろ……あの子たちの料理に、毒が入ってます」
あたしの言葉に、イガラシ首長とゴローさんは息を呑む。
口に出すと身に染みて、最悪の気分だ。
思えば、ずっとあの子たちは料理に文句を言っていた。単なる好き嫌いや子供のわがままだと思っていたが、本当にあの料理はおかしかったのだ。
悔しい。もどかしい。あたしの目の前で食べてた料理の中にも、きっと気づかなかっただけで、ずっと、毒が入っていた。
「幸い、すぐに気づいて吐き出したので、大事には至りませんでしたが……あの子たちの食事の全部に毒が入っているのだとしたら、致死量は普通に超えているはず」
好き嫌いせずに残さず食べろ、というのは親が子にする当たり前の躾だが、まさかその食事に毒を入れていたなんて。これが本当の毒親か。こんな笑えないギャグがあるか。
「料理人が怪しいと思います。彼はいまどこに?」
渋い顔をしたイガラシ首長とゴローさんが顔を見合わせる。
あたしが訝しく思っていると、ゴローさんはこちらへと向き直って口を開いた。
「すみません、解雇しています」
「え、解雇?」
「食中毒は調理した人間の管理責任です。死人が出てもおかしくはありません。当然、厳罰に処されます」
「君が倒れる寸前に食中毒だと言っていたようだから、確信もあり、私からも処分を急いだんだ……まさかこんなことになるとは」
しまった、とあたしは顔を顰めた。
毒なんて言ったらあの子たちが驚くだろうから、咄嗟に隠してしまったのだが、まさかこんなところで裏目に出るとは。
「俄かには信じがたい」イガラシ首長は言う。「本当に、チルドレンの料理には毒が入っていたのか?」
「あたしに出された料理とはまったく違う味がしました。それに、誰か一人の皿だけなら食中毒で片づけられますが、あのときはニィナとヨハクの皿、それも別々の料理に口をつけています。二人とも……というか、あの子たちは日頃から、料理がまずい、と言っていたので、服毒が常態化していると見て間違いないでしょう。もし残っているなら、あのときの料理を調べてみてください」
症状と独特の風味からして、ホトケユリの可能性が高い。
思いつくのは落伍社の犯行の線。
「……チルドレンを殺そうと? 滅多な毒では効かないんだぞ?」
「だから、毎食摂取させたのかもしれません。無駄打ちとわかっていても長期戦を狙ったのかも」あたしは腕を組む。「滅多な毒では効かない、症状も出ない、ということは、ばれにくいということです。あの子たちは毒の解析もおこなえるみたいだけど、あくまで能動的なものだから……ちょっと味が変、くらいじゃあ料理を解析しようなんて思わない。少ないリスクであの子たちの身体を少しずつ壊していければ僥倖ってことです」
「でも……イガラシ政権の名の下、行政部で雇った侍従職ですよ?」
「いや、だからこそありうる」ゴローさんの戸惑いを、イガラシ首長が断じる。「チルドレンの身の回りに関する立場は入れ替わりが激しい。私の足をなんとかして引っ張りたい連中が敵を送りこむことも、不可能ではない。むしろ、下手な潜入よりもずっと成功率は高いだろうな。いつも人手不足の売り手市場。世話係に至ってはこちらからスカウトするような始末だ」
それなのに、あの子たちに万が一があると、イガラシ首長は痛手を負う。行政部の看板施策はチルドレンだから。あたしが反対勢力でも、それくらいの打算はしたかもしれない。
「ただ、料理人が単独で計画・実行したとは考えにくい。あまり考えたくはないが、共犯がいることも視野に入れたほうがいいだろう。組織的な犯行……いよいよ、落伍社あたりが怪しくなってくるな」
イガラシ首長もあたしと同じ考えらしい。そのように見つめていると、イガラシ首長と目が合った。
「……君を責めているわけではないが、何故これまでのあいだ、彼らの皿に毒が盛られていることに気づかなかったのかが不思議だ」
本当に責めているわけじゃないんだろうが、あたしはもろに食らってしまった。
その顔色を見て、イガラシ首長が言葉を続ける。
「違う、世話係ならば、君に限らず、彼らの皿のものを食べる機会だってあったはずだ。他の誰がいつ気づいてもおかしくはなかったのではないかと」
「……いや、どうでしょう。料理人からは最後まであの子たちに食べさせるよう言われたし……あたしなら、どれだけ嫌がっても、自分のために食べなさい、って言いますよ」
「それでも彼らが残そうとしたら? まさかこんな時代に食料を捨てはしないだろう。もったいないと言って代わりに食べてもおかしくはない。それに、もしも世話係とチルドレンの皿を取り違えでもしたらどうするつもりだったんだ? 世話係まで殺す気だったのか?」
「それは……」
たしかにおかしい。あんな暴れん坊たちのいる食卓なら、皿がごちゃ混ぜになることだって絶対にある。イガラシ首長の持つ人材を削れるなら、という考えがあったとしても、それで毒の混入が明るみになれば、当然、今回のように犯人を突き止めようとするし、防衛策を取ることになる。イガラシ首長のガードを堅くするのは不利益のはずだ。
「……歴代の世話係が共犯者という可能性もあるな」イガラシ首長は冷たく笑った。「料理人の指定した皿の料理しか食べなければ、世話係が毒を摂取することもないんだからな。だとしたら、私はそれだけの敵の侵入を許したことになるが」
「調査はしたほうがいいと思います。こんなことになった以上、行政部に関わっている人間は全員……」
と、そこで、浮き彫りになったことがある。
行政部が本当に敵勢力に侵入を許したとして。臨時世話係であるあたしはイレギュラーだ。そのイレギュラーを自ら招き入れたイガラシ首長は白。
では、チルドレンに食事を振る舞う料理人も、面倒を見る世話係も、誰が採用しているのだったか。チルドレンに関する管理を誰に一任しているのだったか。どうしてそんな立場にいる人間が、こんな事態になるまで気がつかなかったのか。
あたしはグローブをゴローさんに向ける。
グローブの篭手から、赤いリボンが噴射した。リボンはゴローさんの両腕ごと上半身を縛りあげたと思ったのが、あたしの捕縛を悟っていたゴローさんは、右腕だけ回避させていた。
捕縛と同時にベッドから跳躍していたあたしは、そのまま飛び蹴りを食らわせるも、自由の利く右腕で防がれて、そのまま押し払われた。
ぶうんと音が鳴ったと思うほどの剛力。あたしは小石のように軽く吹っ飛んで、床に着地する。と同時に、ゴローさんが腰に佩いていた警棒を振りあげ、あたしに突撃した。あたしは両手で白刃取りにする。掴みあげた警棒から、バチバチッと電撃の火の粉が散る。スタンガンになっているらしい。グローブがなければ危なかった。
ぎりぎりと鍔迫り合いのような緊張が走る。力勝負なら相手に分がある。この攻防が長丁場になるのはまずい。
あたしは咄嗟に足払いをかけ、ゴローさんの体勢を崩そうとしたが、ゴローさんは警棒を刀のように振るい、グローブから伸びていたリボンを焼き切った。
目まぐるしい一連のあと、ゴローさんは軽い跳躍で距離を取る。あたしもグローブを構えたまま、イガラシ首長の前に立った。背後では呆然とした息遣いが聞こえる。
「貴女が首長補佐でなかったら、きっと僕は部屋を出て、そのまま逃げおおせていたはずです」
「貴方が首長補佐じゃなかったら、ここまでしようとは思わなかった」
対峙するゴローさんは至って平静だ。だが、いつもの柔和な表情は消えている。ぞっとするような眼差しで、あたしの前に立っていた。
「お互い実力行使には慣れてる以上、先手必勝。白黒どちらにしろ捕縛しておいて損はないから。結果、尻尾を出してくれたけど」
「咄嗟に体が動いてしまいました。いまさら困惑するふりをしてもわざとらしいかなって。それに、病みあがりの貴女に僕が後れを取ることはないでしょう」
そりゃそうだ。丸一日寝こんでいたせいで体は鈍いし、頭は秒針が進むごとに鈍痛を刻んでいく。だから先手を取ったのだ。相手に火がつくよりも前に鎮圧しておきたかった。結果このざまだが。
「……気をつけろ、ジュリ補佐」状況を呑みこんだイガラシ首長が背後で口を開く。「ゴローの暗器道具は弾を、」
イガラシ首長の言葉は続かなかった。言い終わるよりも先に蟀谷を撃たれたからだ。
あたしが息を呑むと、警棒を構えていたゴローさんが「ゴム弾です」と囁いた。死にはしないが、直撃したら脳震盪くらいは起こすはず。呻きながら横たわるイガラシ首長を見下ろしながら、あたしは震える。
「首長補佐失格ですね、ジュリさん。あ、いまは世話係でしたっけ」
あんたが言うのかとあたしは歯を食いしばった。
ずっと潜んでいたのか。あたしやチルドレンどころかイガラシ首長すら騙して。
目の前の男は飛び道具まで持つ手練れだ。
近くに仲間は何人いる? あたし一人でやれる?
「——ジュリさん、大丈夫?」
そのとき、扉の向こうで声がした——レーヨンの声だ。
異変を察知して来てくれたのだろう。あたしは助けを求めようとして、逡巡。
そして、その隙をゴローさんは見逃さない。
素早くあたしに詰め寄ったゴローさんは、警棒を振りかざす。
「っ、く!」
あたしは間一髪でそれを避けるが、態勢が整わない。瞬く間に背後から抱きすくめられ、顎の下に警棒を押しつけられる。ぐるんと勢いよく反転したとき、扉を開けたレーヨンがいた。
「レーヨン、動いたらジュリさんは死にますよ」
耳元で声がした。生温い嫌な温度がした。
ゴローさんは、レーヨンに言い聞かせるように言葉を続ける。
「電撃を浴びせます。眼球から撃ちます。悲鳴も上がらなくなるまで殴打します。貴方が一歩でも動いたらジュリさんが死ぬんです。いいですか。死なせたくないなら動かないでください。他の四人に知らせてもだめです。わかりましたね」
レーヨンは動かない。思考回路に不具合でもあったみたいに、どうしたらいいかわからなくて、困り果てたみたいに。
あたしはゴローさんに引きずられるようにして連れていかれる。レーヨンの横をすり抜ける間際、彼の手があたしへと伸びたような気がした。しかし、ゴローさんの言葉もあってか、その手があたしを捉えることはなかった。




