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魔獣騒動

翌日僕は、また地下牢へと足を運んでいた。


鉄格子の向こう――昨日と同じように、ソラと呼ばれる小さな少年は鎖に繋がれたまま座っている。


恐る恐る視線を落とした、その時。


「……あ」


小さく、声が漏れた。

昨日、置いていったはずのおにぎりが――無い。


食べて、くれた……?なんだか胸の奥が、じんわりと温かくなる。けれど当の本人は、こちらを一切見ようとしない。

まるで、最初から僕もおにぎりも、そこにいないかのように。


「……あ、あの」


声をかけようとして、やめた。言葉にしたら、この小さな嬉しさまで否定されてしまいそうだから‥‥


僕はただ頭をぺこりと下げて、そっとその場を後にした。


父、という実感は、まだ無い。

見た目は、自分よりもずっと幼い。

怖いし、冷たいし、何を考えているのかもわからない。


それでも――

知りたい。

そう思ってしまう自分がいた。



「‥‥それに、おにぎり、食べてくれたんだよね?また‥‥食べてくれるのかな?梅干しじゃなくて、別な具材とか?」


気晴らしにおにぎりの具材探しに、外へ出て良い物なのか、キリシタンさんに相談をしに顔を出すと、キリシタンさんは山のような書類と机に座っていた。


「おや、カエデ様、どうかされましたか」


「あ、あの、お城の外に出ても良いですか‥?」


そう尋ねるとキリシタンさんは少し悩んでいた。


「‥‥あの、おにぎりの具を色々探してみたくて」


「この城にあるものでは駄目なんですか?」


「あの子の、、いや、あの人の好みを、、知りたくて‥」


どんな味を好むのだろうか、また食べてくれたら、少しだけ話すことができるだろうか、どう接していいかわからず、ただおにぎりというのだけにこだわっている。おにぎりしか、今接点がないのだから。


「‥‥好みを知りたい、ですか。‥‥ふむ、、、いいですよ。ただし、護衛はつけてくださいね」


「あ、ありがとうございます!」



その日、僕は城下町の散策を許された。護衛はなんと、人形のコケシさんだった!キリシタンさん曰く、下手な人間の護衛よりコケシさんのほうが良いらしい。


「ありがとう、付き添いをしてくれて」


そう自分の隣りでふわふわ浮いている人形のコケシさんはニッコリと頷くだけだった。可愛いらしいな。


コケシさんと共に街へ出ると――空気が一変する。


「聖女様……!」


ざわり、と人々がざわめく。次々と跪き、僕に頭を下げていく。


「聖女様が……戻られた……」


「あれが噂の新しい聖女様だよ!」


向けられるのは、期待と祈りの目、けれど、それは自分に向けられたものではない。


‥‥母さん


知らないはずなのに、胸が少し苦しくなる。


 


露店を見ながら、僕は歩く。‥‥店を見ても皆まともに目を合わせてくれなかった。

この前コハク王とで歩いた時は夜だったから、あまり髪の毛が目立ってなかったのかな。


とはいえ、昨日のおにぎり。


ほんの少しでも、口にしてくれたのなら。また、食べてもらえるように、美味しい具材があるか探してみよう。


そんなことを考えてるその時だった。



「きゃあああ!!」


鋭い悲鳴が、街に響いた。振り向いた先にいたのは――巨大な影。黒く歪んだ魔獣が、人々を襲っていた。


地面が抉れ、建物が崩れていく。


 


「逃げろ!」


「誰か助けて!」


 


僕の足は――動かなかった。


怖い。


逃げたい。


体が、言うことを聞かない。


その時ーー視界の端で、小さな子供が転んだ。



「……っ!」


 

考えるより先に、体が動いていた。


「こっち!!」


子供を抱き上げ、必死に走る。背後から、重い足音と

魔獣が、追ってくる。


 


こわい、こわい、こわい……!


それでも――


僕は逃げるのに必死だった。


 




 


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