鉄格子の梅おにぎり
「よう、久しぶりだな、ソラ」
そうコハク王が声をかけると、目を瞑っていた小さな男の子はそっと目を開く。
片方は眼帯をしているけれど、もう一つの瞳は真っ赤な赤い瞳だった。燃えるような、とても綺麗な瞳‥‥
「‥‥‥コハクとキリシタンか。何故お前達がここにいる」
可愛いらしい姿とは反対に低く、冷たい声だった。
思わず息を呑み、コハク王の後ろに控えていた自分がどうするべきか下を俯いていると、キリシタンさんはそっと優しく肩を持ってくれた。
「‥‥このお馬鹿さんが‥‥!この顔を見ても同じ事を言えますか?」
そう一歩僕が前に出ると、小さな男の子の目と目が合った。
確かに、小さな男の子だ。父なんて写真もわからなければ名前も知る術がなかった。
だけど‥‥‥
「あなたが……僕の父なんですか?あ、あの、僕、楓と言います!」
震える声で自分の名前を口にすると、一瞬だけ‥‥
ほんの一瞬だけ、その赤い目が揺れた気がした。
けれど――
「‥‥‥違う」
即答だった。
「俺に子供なんていない。お前など知らない」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「で、でも――」
「‥‥‥‥帰れ」
言葉を遮るように吐き捨てる。
「二度と来るな。殺すぞ」
「‥‥‥‥っ」
うん、この子怖い‥‥‥やっぱりこの子が僕の父親、ではないかもしれない、だけどそう考えれば考えるほど‥‥‥
「でも、ま、また来ます!」
「‥‥‥‥」
そう僕は叫んで、なんだかわけがわからず怖くなったのでひとまず逃げていった。
パタパタと去っていく楓を心配したキリシタンもまた楓を追うと、コハク王は問いかける。
「ソラ、まだお前は黙りか?何を隠してるんだ。その姿も、、あの時お前はーーほんとうに、サクラと楓を殺そうと追っていたのか?なあ、最近また魔獣達が活発なりはじめてるんだ、俺としては実力申し分ないお前にだな、また活躍をしてもらいたーー」
「‥‥‥‥何故‥‥‥」
「ん?なんだ?」
「‥‥‥何故、ここにいるんだ」
「楓か?召喚したんだ。サクラが生きてると思いずっと続けてたみたいでな‥‥そうしたら、サクラの子供がやってきた。なんだか昔を思い出したよ、、な?」
ソラと呼ばれる小さな子供姿の者は、近くで語るコハク王に耳を傾けもせず、楓が走り去った暗い向こう側を黙って見つめていた。
「カエデ様大丈夫ですか?」
走り止まると僕を心配してくれたのか、キリシタンさんが追いかけてきてくれた。
「え、と、なんか圧を感じまして‥‥」
「まずは冷たいお茶でも飲んで休みましょう」
パチンとキリシタンさんが指を鳴らすと、あの人形のコケシさんがやってきて冷たいお茶を持ってきてくれた。
「‥‥落ちつきましたか?やはり、あのお姿でも驚かれましたでしょうね」
「‥‥‥あの‥‥僕の母と父は、、その‥‥」
なんて聞いた方が良いのかわからずにいると、キリシタンさんは近くにあった木のベンチに案内をし、座らせてくれた。
「ーー昔、、そうですね、我が国だけではなくこの世界そのものが多くの魔獣達に侵略されていました。魔獣は元々、無くなった国でもある魔国に属する生き物でしたが、どういうわけか増殖し始めて混乱な時代でした。若かりし私と陛下、、そしてソラは、小さき頃からの縁がありよく三人で討伐へ行っていました。何をするにも、まあ、、あの陛下のお守りをするのが私とソラの役目でしたね」
そう懐かしそうに話すキリシタンさんは、また話しを続ける。子供の頃は、魔獣だけではなく、国同士、部族との争いも絶えなかった。人間同士が争っている間に魔獣がどんどんと増え始め困った時、、、僕の母であるサクラが現れた。
彼女が祈れば、魔獣達に穢された土地は浄化され、母サクラ、ソラ、キリシタン、コハク王、その他の仲間達と共に世界中を魔獣退治と浄化する旅をしていたとのこと。
世界を魔獣からも救い、その後ーー
「聖女サクラ様とソラは恋仲となりました」
ドキンとなんだか胸の鼓動がなった。キリシタンさんは、眉間に皺を寄せながらため息を出し、僕の顔を再度見つめまた話しだす。
「今の陛下が国を即位した後、仲間同士しかまだ知ることしかありませんでしたがサクラ様とソラの間には、子供ができ喜んでおりました。‥‥しかし突然、あと半年で生まれるというのに、ソラは、サクラ様を監禁するようになりました。それはもう異常でした‥‥」
その後、母サクラを皆に黙り、誘拐して、みんな探し回っていたが子供を産んだ母を殺そうと追いかけましていたのが‥‥‥
「それが父、なんですか‥‥」
「あのお馬鹿は、昔から何を考えているかわかりません。私達がようやくサクラ様を見つけた時は血だらけのソラしかいませんでした。‥‥サクラ様は、、最後の力を振り絞ってお子であるカエデ様を自分のいた元の世界へ帰られたのでしょうね‥‥
魔獣がまた増え、穢れた土地が増えてきたのですよ‥‥サクラ様が生きてると信じて、長年ずっと祈りましたが、、、」
「‥‥あの、、僕ですいません」
「いえ、こうしてサクラ様のお子である方にお会いしただけで光栄ですから。仲間達はずっとお腹にいた子にあいたがってましたよ」
そう愛おしいそうに僕を見つめるキリシタンさんに、僕はなんとなく、、、キリシタンさんは母が好きだったのかな?と感じた。僕を通して母を見ているようだった。
叔父の蓮さんも、、、似たような感じだったから‥‥。
ーーー次の日ーーー
「あ、あの、これ、持ってきました」
差し出したのは、小さな包みで開くと、梅干しのおにぎりだった。コケシさんに頼んで、広い台所を貸してもらって用意をしてきたのだ。
怖いんだけど、来てしまった。おにぎりを持って。コハク王は何故か笑ってついてきてくれたけど‥‥
「‥‥‥‥」
怖い!無言で睨んでる!見た目は五歳時ぐらいなのに、背中を見せてしまったら最後のような気がする‥‥。
緊張しながらも、僕はそっとおにぎりを小さな彼の目の鉄格子の前に置いた。
「‥‥僕、楓といいます。あ、えと、14歳です。‥‥え、と、得意な事は料理と掃除くらいで‥‥べ、勉強も、運動も得意じゃありません‥‥あ、好きな食べ物は梅干しおにぎりです‥‥‥」
「「‥‥‥‥」」
気まずい空気が流れていく!!見合いじゃないんだから、何を言っているんだろう!?
「‥‥いらない」
「そ、ですよね。すいません。あの、また明日‥」
そう僕はまた5分も経たないうちに地下牢から出ていった。
ぴちゃんと、地下牢から水が落ちる音がなり、二人のやりとりを見ていたコハク王は呆れた顔をしていた。
「お前、その態度は良くないぞ?せっかく可愛いらしい容姿にもなったんだ、笑顔でありがとうくらいーーいや、睨むなよ。俺、王だぞ、王。今のお前は罪人の立場だぞ」
そうコハク王はそう言いながら、去っていく。
楓が作ったおにぎりだけが寂しく置かれていた。
近くにいたネズミが、おにぎりに近づく。
その瞬間――
ジャラ、と鎖が鳴った。
「……触るな」
低い声。
次の瞬間、ネズミは一目散に逃げていった。
その場には、誰もいないはずなのに、まるで“守られている”ようだった。
【‥まだ食うのか?】
【あら、私ね、梅干しおにぎりが好きなのよ。一口食べる?私お手製の梅干しなんだから】
それは遠い記憶の中だけ響いていた。




