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名付け親

月の国の街は、夜が近づくほど美しかった。紙灯籠が並び、石畳に月明かりが反射する。江戸時代?いや、和風も混ざり、中華風な不思議な街並みだった。

 

 「わぁ……」

 

思わず声を漏らすと、コハク王は満足気な顔をする。

 

「綺麗だろ?」


「は、はい!」

 

道端の店からは、甘い匂い。人々は、着物に似た服を着てい歩いていた。


僕は、露店の前で足を止めた。


 「‥‥これ、、掃除大変そう、、夜のうちに、全部片づけるのかな、、」


そう呟くとコハク王は一瞬きょとんとしてから、吹き出した。

 

 「え!!そこ!?普通、食い物とか値段とか見るだろ」

 

 「す、すみません……癖で……」

 

 「……しかし、本当に、あの方にそっくりですね」

 

静かにそう言ったのは、キリシタンさんだった。相変わらず背筋を伸ばし、手は後ろに組んでいる。

 

「サクラ様も、まず“人”を見る方でした」

 

母の名を聞くと胸の奥がきゅっとするのを感じる。僕の知らない母をこの人達は知っているんだ、、、どんな関係だったのかな。

 

 「……母は」


少し、言い淀んでから聞く。


 「どんな人、だったんですか?」

 

 「んー、面倒くさい女だな。口うるさいし」

 

 そう即答するコハク王は、僕の顔を見て笑う。

 

 「でもな、誰よりも優しくて、誰よりも、世界を信じてた」

 

灯籠の明かりが、コハク王のの横顔を照らす。

 

 「あ、お前の名前な。“楓”は、俺がつけた。つまり名づけ親だな!まあ、我が国では王族のみ漢字を使う事が許される。だから、サクラがいた世界の漢字とやらは、読めるぞ」

 

 「漢字、がわかるんですか??」

 

確かに、自分が読める漢字ばかりの店の看板ばかりだ。

漢字が一緒って不思議だな、、本当に、不思議だ。


露店を過ぎたあたりで、コハク王は急に立ち止まった。


「お、ここ!ここだな!人気みたいなんだよ」

 

そう言って、団子を二本買い、僕に聞く。

 

「甘いのと、しょっぱいの。どっちがいい?」

 

「……えっと、こちらの梅団子で、、」

 

「渋っ!」


コハク王は笑いながら、梅味のしょっぱい方を差し出した。

 

 「ほらよ、食ってみろ」

 

僕は、受け取りながら――ふと、胸の奥が温かくなるのを感じた。あれ?なんだろう、この感じ。

 

言葉を選ばなくていい距離というか、気を張らなくていい空気。

 

なんだか叔父の蓮さん、みたいだ。


自分でも驚く、ここは異世界で、目の前の人は、国王であり、初めて会う人なのに。

 

コハク王は、僕が黙ったのを見て、ちらっと横を見て頭を撫でて話す。

 

 「ん?どうした?」

 

 「あ、いえ……日本にいる、あの、叔父に似てて」

 

 「‥ほう?ニホン、、サクラがいた世界だな」

 

そう、面白そうに眉を上げる。

 

 「えっと、、、父と母もいなく、亡くなった祖父母と、叔父に育ててもらってました。祖父母は去年亡くなって、それから叔父と暮らしてはいるんですが、、えっと、仕事忙しいくせに、なんだかんだ放っとかない人で。放っとくと、ご飯を食べないんです。なんとなくその、、叔父に似てて、、」

 

 「はは!叔父に似てるかー光栄なことだな」

 

コハク王は笑っていると、キリシタンさんが、静かに咳払いをして間にはいる。

 

「陛下、そろそろ時間ですよ」

 

王は肩をすくめながら、僕の方へと顔を向ける。

 

 「サクラにもよく【ご飯を食べなさい】と口すっぱく言われてたわ。だが、優しい奴ほど、他人のことばかり気にして、自分のこと後回しにするからな」

 

その言葉が、胸の奥に、すっと落ちる。

なんだか見透かされてるようで、、それなのに、不思議と嫌じゃなかった。



「‥‥楓、お前は父を知っているか?」


「‥‥いえ、知りません。叔父や祖父達に聞いても‥‥母も亡くなり、、」

 

月の国の夜風は、思っていたより、冷たくなかった。


コハク王はフウとため息を出して再度僕の顔を見つめる。


「お前の父は‥‥‥生きてるぞ」


「え?いきーー‥てる?」


「聖女サクラを殺害しようとした罪で囚われている」



その言葉を聞き、どう受け止めてよいのか、なんだか胸が突き刺さるようで、、



――それは、僕の知らない“家族の真実”。


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