死んだ聖女
知らない異世界に召喚された場所は、見知らぬ建物で、キリシタンという男性に「まずはこの国の王と会いましょう」と説明をしてくれた。
和風な馬車が一台目の前にあり案内をされて、キリシタンさんと一緒に座る事となるけど……
「…男なんですね。君は」
「は、はい、なんか…すいません」
「‥‥なるほど、、、それにしてもサクラ様に似ていらっしゃる‥」
サクラ‥‥と呼ぶ名前に僕はそのサクラは亡くなった母ではないかと脳裏に浮かぶ。
月の国の城は、思っていたより静かだった。白い石造りに、障子のような意匠に、和と異国が混ざった、不思議な建物ばかり並んでいるが、よく見ると京都にある映画村のセットみたいなところばかりも見える。
僕は少しだけ背筋を伸ばして歩いていた。
「そんなに固くならなくていいですよ」
前を歩くキリシタンさんが、淡々と言う。
「王は……まあ、怖くはありません」
その言葉の意味を考える前に、広い畳みの廊下を歩き、大広間の扉が開いた。
「おー、来た来た」
あまりにも軽い声だった。玉座に座っていたのは、
金髪の和服を着ている、男性だった。姿勢はどこか崩れている。
「あーなに?君が例の“聖女(仮)”?」
にやっと笑い話す。
「……あ、いえ」
僕はハッと慌てて頭を下げて自分の名前を名乗る。
「暁月 楓です。中学三年で――」
「あーはいはい、硬い硬い」
男性は手をひらひらさせた。
「俺はコハク。この月の国の王やってる」
王……?になんだか見えない。後ろに控えているキリシタンさんは、国王を睨んで「もっと威厳を保ってください」と注意していた。
さっきまで、張り詰めたその空気に、少しだけ緊張が緩む。コハク王は、急に真顔になり僕に質問をする。
「んで名前、もう一回言って」
「……あ、暁月、楓です」
答えるとその瞬間、コハク王の目が、鋭く細まった。
「……あぁ、あー、なるほどね。お前さんは、サクラの子供か」
心臓が、跳ねた。まさか、母の名がでるとは。
「……え?」
「確かに、まだ、お腹にいたな」
コハク王は、どこか懐かしそうに笑った。
「楓。あ、その名前俺が名付けたんだよ、その名前。漢字は我が国の王族しか付けれないけど、聖女のサクラの子供だから、俺が名付け親になりたいーと言ってさあー」
――名付けた?
「ちょ、ちょっと待ってください!」
僕は、思わず前に出た。
「僕の母は……桜って名前ですけど……」
「うん?知ってる。にしてもお前、サクラそっくりだなー。背丈も一緒だ。違うのは髪の長さくらいか?
そうだな、何から話たら良いかわからんなあー、まあ、この世界の“聖女”だった」
頭の中が、真っ白になる。
「……僕、何も聞いてなくて」
「だろうな」
コハク王は肩をすくめた。キリシタンが、静かに補足する。
「あなたの母は、この世界を救った聖女でした。それにしても、あのサクラ様は?」
「……‥えっと、、、亡くなりました。すいません‥‥」
そう母の死を告げると、ヒヤリとした空気になる。なんだろう、場違いな気がする。僕はどうしたらいいのだろう、、、そう悩んでいた時、コハク王は立ち上がる。
「ま、詳しい話はあとあと!いきなり全部聞かされても、消化不良だろ?」
そして、にっと笑い、僕の肩に手を回して歩き出す。
「まずは、街でも歩こうぜ。聖女“サクラの子”。楓」
——でも、その聖女は、もう“死んでいる”のだから。




