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女顔の少年

「あーかーつーきーくん!悪り!掃除当番代わってくんね?」


学校の鐘が鳴り響き夕方の教室で、背は周りの男子学生達から見るとあまり高いとはいえない、ブカブカの学ランを着てる黒髪は僕、暁月楓だ。



自分の名前を呼ばれて、ぱっと顔を上げた。


「‥あ、う、うん。いいよ」


笑ってそう答えると、相手はほっとした顔をする。それを見て、僕も少しだけ安心した。


「あー!助かる~。楓ってほんと優しいよな!」


「顔も女の子みたいだしさあ、聖女様様だわー」



最後の一言に、周りがくすくすっと笑いだす。からかわれているのは、わかっているけど、でも、悪意ばかりじゃないことも、僕にはわかっていた。


まあ……このくらいなら、しょうがない。黒髪で、整った顔立ちで、亡くなった母親にそっくりなのだ。


昔から「女顔だね」と言われてきたので、正直、慣れている。


僕は、軽く肩をすくめつつ掃除を始める。誰かが困っているなら、助けたいし、それだけだ。断ったら、その人が困るかもしれないし、嫌な顔をするかもしれない。


というより、どう断れば良いかわからないのか正解かもしれない。

 

誰もいなくなった教室で、一人、ほうきを動かし掃除を終える。


「うん、よし、こんなもんかな」


窓に映った自分の顔を見て、少しだけ笑う。


「……女顔って言われるほどかな?」


自分でもよくわからない。中学一年だったときは、まだ男女の意識もなかったけれど、段々とみんな、【男】と【女】と分ける。小学校の頃はそういうのがなかったけれど、中学校に入ると、いわゆるボッチになってしまった。



家へ帰り道、スーパーへ寄り、食材を見ているとお得なものを見つける。


「大根が1本90円!?安い!わあ、今日は大量におでんでも作ろうかな」


料理をする時が一番心が和らぐんだよね。なんだか、今日はいいことがあるかもしれない。いや、明日かもしれない。


以前一人だけ仲が良かった女の子に

【男が料理だなんて気持ち悪いよ!】と言われちゃったけれど、こればかりはしょうがない。小さい頃から、今は亡き祖父母と住んでて家事をしていたのだから。



「ねえ!ママー!おかし買ってえ!」


「駄目!家にもあるでしょう?今日はね、パパとゆうたが大好きな餃子よー」




僕は親子の会話を聞き眺める。

‥‥父という人の顔も知らない。当時、母親が突然家出をして、一年後帰ってきたのはすでに僕が生まれて母親は亡くなったと叔父である蓮さんから聞いた。


今は亡き祖父は僕を可愛がってくれて、海外出張ばかりだけど、叔父さんもよくしてくれていた。


だから家族は祖父母と叔父の蓮さんだけど……


父親と母親と一緒にご飯を食べてみたいと、小さい頃は願っていた。まあ、無理だけどね。


……それでもそれが一番の願いでもある。


——この時、、まだ僕は知らなかった。

その願いが、叶うなんて思ってなかったから。





調味料の棚を見ていると、「きゃははは!お菓子買い過ぎだって!」

なんだか聞き覚えのある声がするなと、そっと声のする方を見ると同じ中学生の生徒四人がお菓子コーナーの方で騒いでいた。



……あ、ひめちゃんだ。



四人のうちの一人の女子生徒は、小学校からの幼馴染で姫月ゆかりだった。昔はよく遊んでいたけれど、中学一年生の夏以降、避けられてしまった。



パチリとお互い目が合ったが、彼女はすぐにお菓子の棚の方へと顔を向ける。うん、、やっぱり嫌われてる。そうだよね、僕と関わり合いたくないと叫んだから…。



「なあー姫ー、これでよくね?」


「え。買わないの?」


「ひめーこういうのはスリルを味わうのが醍醐味でなー」


「‥‥そう」


いやいやいや!明らかに三人は万引きをしようとしている、よね?周りを見渡すと誰も気づいていない、、、、だけど、ひめちゃんは、少しわかる。アレは嫌がっているけど、無理してる。


僕は無我夢中で、彼女の腕をガシッと掴むと、ひめちゃんは、突然現れた僕に驚いて固まっていた。



「は?!え?な、なに?!」


「い、いこう」


スーパーを素早く出て、公園まで走る。



「ちょ、ちょちょ、!!か、楓!早い!」


ひめちゃんは、久しぶりに僕の名前を呼んでくれたのが嬉しくて笑ってしまった。


「…な、なんで笑ってんのよ?」


「えっと、久しぶりに僕の名前を呼んでくれて嬉しかったからだよ」


「………あ、そ。あのさ、、、その…まあ、ありがとう」


「うん、危ない事は駄目だよ」


「あんたに関係なくない?」


「うん、関係あるとかないとかじゃないよ。悪い事をしたら‥‥ひめちゃんのお母さんやお父さんが悲しむよ」


「‥‥‥‥相変わらず、お節介。じゃあね」




そう簡単な会話をしてから、僕は家へと帰っていった。


大根……買えなかったけどしょうがない、よね。




静かな部屋が迎えてくれる。


「ただいま」


もちろん返事はない。これは当たり前な日常だから。

スマホが鳴った。


『今日は久しぶりに帰るわ。俺が飯作るぞ』


表示された名前は、暁月 蓮。亡くなった母・桜の義弟で、今の僕の保護者でもある。ゲーム会社の社長で、忙しいのに、よくこうやって連絡をくれる。

 

「はは。叔父さん、、料理なんて作れるわけないのに」


僕が寂しがらないように昔から色々と連れてってくれている、有難い存在だけど、家事などは壊滅的に駄目な人だ。僕が家事が得意な要因は、叔父さんの事もあるかもなあ。



「楓ー!!きたぞー!!土産もある!って、豚汁か!?俺が作ったのに」


「おかえり。蓮さん、豚汁好きでしょ」


炊飯器のスイッチが鳴り、蓋を開けるとホカホカのご飯を取り出し、梅干しを入れてラップにつつんだ。


「相変わらず、梅干しおにぎり好きだな」


「うん、この梅干し庭にある梅から作ったから美味しくできてるよ」


「はあー、楓のような嫁が欲しいよ」


そんな冗談混じりの話をして、久しぶりに叔父蓮さんと食事を楽しんだ夜だった。


真夜中、まだ寝れず水を飲もうと台所へ行こうとした時、寒いのに縁側に座って夜空を見つめる蓮さんがいた。


「蓮さん」


そう話しかけると、蓮さんは僕を見て固まっていた。


「あー、わり、一瞬、、、姉貴だと、、、」


「そんなに似てるかな」


祖父母達にもよく言われていた、性別だけは違えど瓜二つだと。昔の写真を見た事もあるけど、確かに似てるけど、母の雰囲気は独特な感じなのは覚えてる。


生徒会長でみんなから慕われている。勉強もスポーツも完璧な母。


「…あまり夜風に当たると風をひいちゃうからね、蓮さん、お休み」


「ん?おーお休みー」




階段へと自分の寝室に向かう楓に、蓮はそっと見つめ、また月を眺めていた。


「……なあ、姉さん。あんたは本当に完璧な女性だ。楓はお前に似なくて良かったよ‥‥」


そう一人呟いていた。









今夜の夢はなんだか良い夢になりそうかな?

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