楓の力
翌朝ーー
城内は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。
廊下を行き交う兵や侍女たちの足取りは早く、ひそひそと交わされる声が、あちこちから聞こえてくる。
「……まだ、動いているらしい」
「討伐したはずでは……?」
「近づくなと命が出ている」
「……ん??まだ?」
思わず、足を止めた。
討伐したはずの魔獣がこの城にいるらしい。
なのに、“まだ”動いている――?
胸の奥が、ざわりとするものの、気づけば、足は勝手に動いていた。
――城の中庭にある奥の隔離区画に、大きな体の魔獣が、何重ものの鎖に縛られて身動き出来ないようになっていた。
兵やお坊さんのような人達も何人も立っており、その中には‥‥ソラさんがいた。彼だけが、1番目立っているし、周りも避けて怖がっているようだった。
「あ!カエデ様!?お止まりください!」
「危険です。完全には絶命しておらず――この辺の場所は穢れております故ーー」
「……あ、ただ、気になって、、すいません」
自分でも、なぜきたかわからない。
でも――
【声】が聞こえる感覚なのだ。苦しいと、嫌だと、まだ消えていない。
横たわる討伐されたはずの魔獣の体は崩れかけており、どう処理をするかと話ていた。
(クルシイ)
誰も聞こえてない‥??
この声は、、、魔獣から聞こえる??
「‥‥何故ここにいる」
ちょこんと、声をする方へと下の方をみると、いつのまにかソラさんがいた。明らかに不機嫌な顔をしている‥‥。
「‥‥あ、と、、あの‥‥魔獣から声が聞こえてるような」
そう呟くとソラさんの眉はぴくり、と動いた。あぁ、見た目は小さい子だけど、威圧感半端ない。
「……‥」
またなんで僕を睨むのだろうか。うん、自分でもおかしな事を言っているのは自覚しています!だけど、本当に魔獣から聞こえてくるんだよね。
ソラさんは舌打ちをしながら、僕を無視して、手のひらから氷の剣を出し、鎖に繋がれた魔獣の元へといく。
「あ、あの!その魔獣をどうするんですか?」
「殺すだけだ」
「でも、簡単に、、、むやみにそんなすぐ殺すってー、その魔獣はなんだか苦しそうなんです。よくわからないんですけど、、、あのーー」
ビュン!と氷の鋭い刃が僕に向けてくる。
「そんな戯言はいらん。いいか、この世の中殺るか、やられるかだ」
「でも、簡単に、、、むやみにそんなすぐ殺すってー、その魔獣はなんだか苦しそうなんです。よくわからないんですけど、、、あのーー」
ビュン!と氷の鋭い刃が僕の目の前で止まる。
あと少しで、触れていたかもしれない距離だった。
「そんな戯言はいらん」
低く、冷たい声と赤い瞳が、まっすぐに僕を射抜く。
「いいか。この世は――殺るか、やられるかだ」
空気が凍りつき、誰も、口を挟めない。
ソラさんはそのまま、魔獣の方へと歩き出した。
氷の剣が、静かに振り上げられる。
(……クルシイ)
また、聞こえた。
(イヤダ……)
「……っ」
気づけば、体が動いていた。
「待ってください!」
僕は何故かソラさんの前に立ち止める。
一瞬、場の空気が、止まった。
「……どけ」
「でも……!」
「邪魔だ」
振り払われる、小さな体なのに、信じられないほど強い力。
それでも――僕は、もう一度、魔獣の方を見る。
苦しそうに、崩れかけながら、
それでも、まだ“何か”が残っている。
(……助けて)
はっきりと、聞こえた!!
「……っ!」
怖い。あの時襲ってきた魔獣は怖かった。
意味もわからない。
でも――
放っておけない。
一歩、踏み出す。




