表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/14

距離感

「カエデ様!」

 

ばたばたと駆け寄る音。

視線を向けると、キリシタンが珍しく表情を崩していた。

 

「ご無事で……本当に……」

 

「……あの……」

 

声がうまく出ない。

それでも、なんとか言葉を探す。

 

「……あの後……どう、なったんですか……?」

 

キリシタンは一瞬だけ、言葉に詰まった。

 

「……魔獣は、すべて討伐されました」

 

「……誰が……?」

 

その問いに――

 

「……そうですね。我が軍が駆けつけました」

 

ほんのわずかに、間があった。

 

あれ……?

 

なにかが、引っかかる。

 

ぼやけた記憶の中。

 

赤い瞳と銀髪は気のせい……かな……?

 

 

「なあにが我が軍だよ。キリシタン」


そう僕とキリシタンさんの間に入ってきたのは、コハク王だった。


「コハク王さん‥!」


「体調は大丈夫か?」


「はい、あの、僕はあれからずっと寝てました?」


「おう、3日だな」


「‥‥み、3日‥あ!そうだ」

 

僕はゆっくりと体を起こして、コハク王にもう一度尋ねた。

 

「コケシさんは……?」


「【コケシさん?】あー、城の精霊のことか?」

 

その言葉に、コハク王は少し考えながら答えてくれた。

 

「……損傷が激しく、現在修復中だな。まあ、精霊はすぐに復活する」

 

「……良かった‥」

 

胸が、少し痛む、守ってくれたのに。何も、できなかった。あとでお礼をしなきゃ。

 

ふと、額に触れる。

 

「……あ」

 

そこには、冷たい布が置かれていた。丁寧に絞られた、濡れたタオルだった。

 

「……あのこれ……ありがとうございます」

 

「?俺はしてないぞ、魔獣騒ぎで忙しいから今日初めて見舞いにきた」


ならばキリシタンさんかな?そうキリシタンさんの方を振り向くとキリシタンさんも首を傾げる。

 

「侍女も、入っておりませんよ」

 

「……じゃあ……」

 

部屋の中を見渡す。

 

誰もいない。

 

けれど――

 

確かに、誰かがいた気がしたのだ。



「‥‥楓、お前を助けたのはソラだ」


「え、」


「罪人の疑いは無いと、俺が判断したんだ。まあ、まだ疑って反対するやつはいるけどなあ、、まあ、今はこの国の管理の元、仮釈放ってことだな。もしかしたら、、、冷たいタオルを持ってきたのは奴だろうなあ」




思わず、額に触れる。まだ少し冷たいタオルの感触が残っていた。


「あいつな、昔からそうなんだよ」


コハク王は肩をすくめて、どこか呆れたように笑った。


「やることはやるくせに、絶対に認めねえ。礼なんか言ったら、たぶんキレるぞー」


「……」


僕は、ぎゅっとタオルを握りしめた。怖い。でも――


「……会いに、行ってもいいですか」


その一言に、コハク王は少しだけ目を細めた。


「行くだろうと思ったよ。庭にいる。どっかに行かないよいようになってるからその辺ウロウロしてるぞ」

 

――城の庭ーー

月明かりが、静かに木々を照らしている。

夜風に揺れる葉の音だけが、やけに大きく聞こえた。


「……」


僕は足を止める。


いた。



大きな木の枝の上に、小さな影、月を背にして座るその姿は、この前まで地下牢にいたとは思えないほど、小さな背中、だけど、静かで――大きな背中に見えた。


どこか、遠い。


「……あ、ああの!」



声をかけると、赤い瞳が、ゆっくりとこちらを見下ろした。


「……何しに来た」


相変わらずの、小さな姿なのに、冷たい声。

けれど昨日より、ほんの少しだけ――棘が弱い気がした。


「その……」


言葉が詰まる。何を言えばいいのかわからない。

でも、これだけは――


「……助けてくれて、ありがとうございました!」


ぺこり、と頭を下げるものの、沈黙が続く。風の音だけが流れていた。

 

「……タオル、冷たくて……気持ちよかったです。小さい頃から叔父にはあまり、小さな頃から風邪を引く事はなかったと言われてて、、、えーと、、あの、やっぱり慣れない生活というか、出来事もあって、風邪を引いてしまったみたいです‥‥!」

 

そう話すものの、彼は僕を無視してただ月を眺めていた。

 

「だから、、あの、倒れないように気をつけます」

 

「……勝手にしろ」

 

短い返事だった。


それだけなのに――


この前より少しだけ距離が近い気がした。

僕はは少し迷ってから、ポケットから小さな包みを取り出す。

 

「……あの、これ」

 

木の下に、そっと置く。

 

「今日は……梅じゃなくて、りんご飴です」

 

「……」

 

「もし、嫌じゃなかったら……食べてくださいね」

 

それだけ言って、くるりと背を向ける。

 

逃げるみたいに歩き出す楓を、ソラは何も言わず、ただ見ていた。

 

やがて――

足音が完全に遠ざかってから。

 

静かに、木から降りる。

 

「……」

 

地面に置かれた、小さな包み。

 

少しだけ、手を伸ばして――ぴたり、と止まる。

 

「……」

 

そのまま、しばらく動かない。

 

 

――けれど。

 

次の瞬間、無言のまま、それを拾い上げた。

 

 

「……馬鹿か。まだ体調悪いくせに」

 

誰にも聞こえない声で、そう呟きながら、夜風が、少しだけやわらいでいた。









と、また遠く離れたところで二人のやり取りを見守っていたコハク王とキリシタンがいた。



「なに話してるんだろうな、ってなんでお前が泣いてんだよ。キリシタン」


「‥‥うるさいですよ。早く仕事に戻りましょう陛下」


そんな二人のやりとりもまた誰も知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ