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魔女のお話  作者: seara
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女の子の日常

一番鶏が鳴くと女の子は目を覚ましました。一番鶏の声に気が付かなかったら…そんなことがあるでしょうか。夜しか起きない母さんが、女の子に気を使ってわざわざ起こさなくてはいけなくなるのです。もう女の子だってそんなことを母さんにさせるような小さい子ではないのでした。

女の子は水瓶を覗いて自分の髪が母さんの嫌いな金色になっていないか確認します。黒く染めた根元に金色が覗くのを母さんは嫌いです。魔女は黒い方がいいのです。いくら出来の悪い女の子でも母さんに嫌いなものを見せない程度には、気を使えるはずだと母さんは思っています。月が2回回るころ、母さんは髪を染めるハーブをくれます。女の子はごわごわするので髪染めは嫌でしたが、女の子なんてなんの役にも立たないので、髪染めくらいは嫌がらずに自分で出来てもいいのです。母さんはそう言っていました。

髪の目元はまだ大丈夫なので、三つ編みもやり直さないことにしました。顔だって綺麗です。洗う必要はないと女の子は思いました。


母さんの空飛ぶ箒とは別に、女の子用の掃除帚がこの小さな小屋にはありました。女の子がチリ一つ残さずに床を掃除できるように母さんがわざわざ村から持ち帰ったのです。なんて母さんは優しいのだろうと女の子は思います。優しい母さんの気持ちに答える為にも、女の子は音を立てずに素早く小屋の床を掃きました。女の子は不器用なので、時には母さんは不機嫌な唸り声で女の子を注意しなくてはなりません。

『五月蠅くしてごめんなさい、母さん』

女の子は小さな声で謝ります。

母さんは

『人が寝てりゃなんだい!』『五月蠅くして!寝てんだよ!』

と怒鳴ることもありますが、寝返りを打って静かになることもあります。今日は口の中で何かモゴモゴ言って静かになりました。

女の子はホッとして自分の箒を壁の隅に立てかけました。疲れている母さんに余計な仕事をさせなくてすんだのです。


掃除が済んだら、昨夜の薬を回収した空き瓶に同じ量になるように詰めていきます。瓶は商人が回収して熱いお湯で洗ってから母さんの元に来るのです。こうすれば、母さんは割れた瓶の心配や回収の手間が省けるのです。母さんはとても賢いのでした。薬は高価なので、1滴だって零さないように慎重に入れます。

ずいぶん時間がかかりましたが、瓶も割らず、一滴だって零さずに薬は移し終えることが出来ました。


立派な魔女の母さんは日の光を浴びれません。そんなことをしたらどうなるのでしょう?

女の子は考えたこともありません。女の子はまだ子供だし、母さんの助けがあっても立派な魔女になれる見込みもありません。日の光だって、浴びることが出来ます。


女の子は瓶を箱に並べて詰めて小屋の外に出ました。結界の境目に、黒茨が植えてあります。その黒茨の下に箱を押し込みます。箱は黒く光ってから消えました。結界の外に出たのでした。そのうち、村の商人が取りにくるのです。引き換えに、商人は前の分の洗い終わった瓶と新しい注文を書いた紙を入れた箱を結界の外から中に押し込んで帰るのでした。


女の子の仕事はまだまだあります。本当は寝てたって出来るようなことしかしていないのに、女の子は間抜けなので時間ばかりかかるのでした。母さんにとってはとんだ苦労になります。


小屋に戻ると母さんの箒の手入れをします。手入れに使う星砂は、女の子を10人売っても買えないくらい高いのですが、母さんのような立派な魔女の為ならもっといい磨き粉でも当たり前だし、魔法用具の商人は特別に値引きするべきなのです。それでも気のいい母さんは、女の子を育てるために星砂で我慢して女の子のために住んでいる、この森までくる傲慢な魔法用具の商人と取引しないとならないのです。

箒の穂も黒くそろっているのを確認して、女の子はそっと箒を元の通りに立てかけました。


次は母さんの帽子を確認します。帽子の黒鳥の羽はちょっと歪んでいるようです。

女の子は胸いっぱいに息を吸いました。そしてゆっくりゆっくり、ふ~っととんがり帽子に息を吹きかけます。こつは出来るだけ長くゆっくりとそうっと息を吹きかけることです。黒鳥の羽は、ふわりと宙に浮かび、部屋の中をくるくると回って形を整えると、またとんがり帽子の縁にぴたりと収まりました。 女の子は胸をなでおろしました。 母さんが乱暴に扱うはずがありません。 きっと、女の子が昨夜どこかでぶつかったのでしょう。 間抜けな女の子なのですから。


帽子をそっと元の場所に戻すと、次はクロヒョウのローブです。つやつやしていた毛並みがちょっとつやつやしていた毛並みがちょっとだけ乱れているように見えました。

もちろん、母さんが乱暴に扱ったはずはありません。

そんなこと、あるわけがないのです。


女の子はそっとローブを持ち上げました。

クロヒョウの毛皮は、朝の光を浴びると黒の奥に青い光が潜んでいるように見えます。母さんは日の光を浴びられないので、この美しさを知りません。

女の子だけが知っているのです。


「……ごめんなさい、母さん」


女の子は小さな声で謝りました。

きっと、昨夜の自分がどこかでぶつかったのでしょう。

間抜けな女の子なのですから。


ローブの毛並みを、指先でそっと撫でて整えます。

クロヒョウの毛皮は、女の子の指先に触れると、かすかにざわりと逆立ちました。クロヒョウの顔はちょっと目が濁っているようです。このローブはとても高級でクロヒョウの目玉は生きていた時のように鋭かったのです。女の子はそっとクロヒョウの目玉に指を当てました。呼吸を三つ数えて指を離すと、クロヒョウの目は澄んで輝きます。


日が傾いて来たのを小屋に差し込む日差しで女の子は悟りました。ぐずぐずしている時間はありません。母さんが起きる時間が近づいています。

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