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97.ヒメ 人魔と話す


 「単刀直入に聞こう。前にパープルウルフの訓練で来ていた人魔、ジールというんだが、あいつを燃やしたのはお前たちだな。」

 「知りませ-ん。」

 冷や汗一滴。

 「現場を見たんだが、あいつの魔力じゃあんなに燃やせるはずがないんだ。なら、こちら側の奴がやったはずなんだが・・・お前たちと前に一緒にいた女は天人族の混血っぽかったよな。天人族は攻撃魔法はそれほど得意じゃないはず。」

 「分解っていうすごい魔法使えるじゃん。」

 「分解は攻撃魔法じゃない。攻撃に使えないこともないが、あんな範囲魔法使いづらいだけだろう。」

 そう言えば、1対1ならともかく、多数は相手にしづらいかな。

 「人族が簡単に魔人族に勝てないから、勇者とかいうシステムをやっているんだろう。とはいえ、たかだか人族の勇者があんな燃やし方できるとは考えられん。けどお前は違うよな。魔人族の血を半分でも引いているお前なら・・・」

 「自分で話たいと頼んでおいて、お前呼ばわりするような人とは話ができませ-ん。」

 無言でわたしを睨む人魔。

 「それは悪かったな。名前で呼んでいいか?それともあなた様とでも呼ぶか?」

 軽い挑発だったんだけど、真顔に返されるとちょっと怯む。

 「名前か最悪『あんた』くらいでお願いします。」

 「クク、わかった。ヒメ・・・だったな。」

 笑った?何だろう、今までの魔人族と感じが違う。いや、今まで魔人族とはまともに話したことないからかな。


 「あのね、根本がおかしいのよ。人族の勇者だっていっぱいいるの。もちろん強い人もね。初めから犯人はわたしたち以外いないみたいな言い方おかしいでしょ。人族の勇者だってバカにしたものじゃないよ。」

 「なるほどな。だが、この辺で戦ったということだが、近くには町らしきものが2つしかない。つまりはどちらかの町のハンターだろうけど、ここ何日か見た限りじゃ、あれだけの火炎魔法を使えそうなやつはいなかった。ヒメたちを除いてな。」

 「通りすがりのハンターかもしれないじゃん。」

 「そうか。それはそれとして話し方はもう少し女の子らしくした方がいいぞ。せっかく可愛いんだからな。」

 グッと言葉に詰まる。相手が魔人族とはいえ、面と向かって可愛いなんて言われたことない。やばい、頬が赤くなってるとこは見られたくない。

 「ほ、ほっといてよ。これでも生まれてから結構苦労してるの。言葉遣いなんて気にしてられなかったの。」

 「そうか・・・」

 うぅ、そんな哀れんだような目で見るな。

 「まぁいい。この件はそういう事にしておこう。こっちの方は適当に報告しておく・・・」

 そう言うと視線を落としてなんか考え込む。

 え?ごまかしてくれるの?なんで?いい人なのかな。わけわかんないや。


 「ごめん。」

 「ん?」

 顔の前で両手を合わせる。

 「もう一度、名前教えて。覚えきれなかった。」

 「あんた、くらいでいいぞ。」

 「たとえ魔人族でも礼には礼で返さなきゃね。当然失礼な奴は、魔人族だろうが人族だろうが燃やすし。」

 ちょっと驚いた顔でわたしを見る人魔。

 「そうか。ログルスだ。この名前は無理に覚えなくてもかまわない。」

 言い方おかしいよ。どの名前なら憶えてほしいんだよ。


 「変わってるって言われない?」

 「ちょっと、ヒメ!それはさすがに・・・」

 失礼だったかな。つい聞いてしまった。

 「まぁ、たまにな。ヒメこそおかしな奴と言われないか?」

 「い、言われないよ!」

 「ヒメ様は、その前に『頭が』がくっつく。」

 「ミヤ、うっさい!」

 ログルスに笑われる。ってやっぱり笑うんだ・・・笑うよね。種族が違うだけで人だもんね。


 「楽しく談笑中なんだが、混ざりたいのか?それともケンカを売りたいのか?」

 いきなり、あらぬ方向を見て、ログルスが大声を出す。

 「何?」

 「何からしいものがいる。」

 いや、ミヤ。わからないから。何を言ってるの?


 スッとわたしたちから、10メートルくらい離れた大きな木の陰から、頭にはすっぽりフードをかぶり顔が見えないうえに、全身はそれにつながる、マント?ローブ?っていうのかな、1枚布で覆われた人が現れた。人?だよね。物語に出てくる悪い魔法使いみたいな恰好。

 とにかく、頭から足元まで、その布で覆われて隠れているから、男なのか女なのか、若いのか老人なのか、それ以前に人間なのかすらわからない。ついでにこの距離なのに、わたしの探知魔法じゃ気配さえわからない。

 何?これ?ミヤでさえ何かって言ってるもんね。

 「この間から近くをウロチョロしていたようだが、何が目的だ?俺か?それとも・・・この娘らか?あるいは、ここにはいない2人の方に何か用があるのか?」

 ログルスが隙なく立ち上がる。

 『しいて言うなら全部、かな』

 声が変。魔法か何かで変えている?ますます老若男女どれなのかわからない。

 「そうかい!」

 <風の刃>を放つログルス。魔法の発動が速い。やっぱりこの人強い。

 刃が、マントくん(いや、他に呼び様がないんだよ。あ、さんだったらごめん)のフードを直撃・・・したはずなのに、刃は、何かに当たったようには見えず、ただすり抜けたかのようにまっすぐフードの後頭部部分を突き破って森の中に消えていく。

 え?人間じゃないの?頭は飾りです、とか?

 ログルスもどう判断したらいいのか迷った顔をして、マントくんを見てる。


 「いきなり乱暴だな。」

 ハスキーな声。女性?

 マントさん(なのかな?)は、手でフードを後ろに払う。

 ショートヘアの黒髪。切れ長の目。高い鼻。キリッとした顔つき。肌はほとんど白いけど、薄い肌色だから人族だよね。間違いない!

 「ハンサムさんだ!」

 「「え?」」

 わたしの声色にファリナとミヤが驚きの目を向ける。

 「あ、あんなのが趣味なの?」

 「待て!ヒメ様。あれはどう見ても男だぞ。」

 失礼だな!別に女好きだと言ってないでしょうが。

 「お前も失礼だな。」

 ミヤを見ながらハンサムさんは、マントをバサッと開く。


 スレンダーな体つき。そして、流れるような、ボン・キュッ・ボンのボディライン。

 「って、女の人だー!」

 女だった。

 「まずいぞ、ファリナ!」

 ミヤが滅多に出さない慌てた声を出す。

 「女だと、ヒメ様の守備範囲だ!」

 「しかも、ハンサム系の美人?どうする?ヤっちゃう?」

 ヤるんじゃない、ファリナ。誰彼構わずヤるんじゃない。

 緊迫した空気が一気にグダグダになった。


 「お前も魔人族だよな。肌の色からすると、混血なのか?」

 「それは秘密かな。」

 ログルスの言葉に軽く微笑みを返すハンサム…女の人だから美人さんか。

 「なぜつけまわす?いや、そもそも誰を狙っている?お前の存在を感じたのは、今日と先日、この娘らといた時。この娘らが狙いなのか?」

 「ふむ、そうだと言ったらどうする?元々お前には関係の無い事ではないのか?この娘たちとは。」

 美人さんが微笑んだまま答える。

 「せっかく仲良くなったんだ。関係ないは少し寂しいな。なので、説明してもらおう。」

 「お前の主観に興味はない。」

 美人さんが表情を崩さないでこちらを見回す。

 「ねぇ、とりあえず・・・」

 空気が悪いので、変えようと話しかけてみる。

 「何だ?」

 「名前教えてよ。美人さんは呼びづらいな。」

 わたしのセリフに一瞬キョトンとした後、笑いだす。

 「美人さんでも構わんぞ。可愛いお嬢さんにそう言ってもらえるのはまんざらでもない。だが、そうだな。私はここにいてここにはいない。そういう存在だ。だから、大気、エアと呼んでくれ。」

 「偽名なんだ。」

 「お前の真名を教えてくれるなら、わたしも教えてやろう。」

 あぁ、緩んできた空気がまた一瞬で緊迫する。ファリナ、ミヤ、とりあえず落ち着こうよ。向こうは戦う気はないみたいだし、今は。

 問題は今のわたしの名前が偽名だって知っている可能性があるってことだよね。実は言ってみただけかもしれないけど。

 「わたしはヒメだよ。で、こっちがファリナ。こっちはミヤ。以上。」

 あいまいな笑みを浮かべてわたしたちを見るエア。

 「わかった。」

 どういう意味のわかったかな。今ので名前がわかったという意味なのか、本当の名前を言うつもりがないことをわかったなのか。どっちでもいいか。現状これ以上言えることはないからね。

 「俺を無視して話を進めるなよ。」

 「あぁ、ごめんログルス。とりあえず、わたしとしては、ここでケンカを始めるつもりはないんだけど、そちらはどうなのかな。エアも。」

 「俺はないぞ。話をしにきただけだしな。」

 「私も同じく。しいて言うなら、かわいいお嬢さんの顔を見に来ただけだ。ケンカなどという無粋なまねはしたくない。」

 「なら、座ろうか。何の話をしていたっけ?」

 「だからと言って、そいつと仲良く談笑するつもりもない。今日のところは帰らせてもらう。」

ログルスが背を向ける。

 「あぁ、1つだけ。ハンターはやめろ。ハンターなんてロクな事がない。どこか人里離れたところで静かに暮らせ。金が必要なら用意してやる。あの天人族の娘にもそう伝えろ。まぁ、そのうちまた来るよ。」

 そう言いながら、空間魔法の門を開けて、その中へ消えるログルス。


 「あいつの話に私も賛成だな。なんなら魔人族が来ないだろう山脈の住みやすい場所を教えてやる。そこに小屋でも建てて静かに暮らせ。」

 「なんで、そこまでするわけ?」

 「魔神族にも人族にも居場所のない混血のため・・・ということかな。」

 「居場所はあるよ。」

 「お前がそう思ってるだけだ。お前の素性が知られれば向こうはそうは思わんよ。」

 反論できない。

 「わたしたちがいるわ。」

 ファリナが私の前に出て叫ぶ。

 「・・・そう・・・だな。お前たちはその子を守ってやれ。」

 悲しそうな目でわたしたちを見るエア。

 「それを言いに来たの?」

 「いやー、あいつがまさかまともに接触するとは思わなかったからな。焦ったぞ。距離が遠すぎて話の内容まで聞こえないし。仕方ないから、近づいたらさすがに気づかれてしまった。失敗、失敗。」

 急にお茶目になる。今までのできるお姉さんのイメージが・・・

 「私も戻る。いずれ再会もあるやもしれん。それまでに今の話、考えておけ。」

 こちらも空間魔法の門を開き、門の中に消える。

 「マジモンの人魔と混血なら空間魔法は簡単なのね。」

 ファリナ、マジモンって何?

 「ユイも使える。空間認識と魔力さえあれば可能。」

 リリーサも使えるしね。


 何だったんだろう・・・気疲れした・・・と同時に自分が混血だって現実を思いっきり突き付けられた。

 「あれどうしよう。」

 ファリナが指さす先には、2匹のパープルウルフのご遺体。

 「くれるっていうんだから、もらっておこう。リリーサにはパープルウルフが手に入ったって言っておいた方がいいのかな。黙ってたらまた何言われるか。あー、でも、こんな胡散臭い話聞かせられないよね。ログルスはリリーサにも言っておけって言ってたけど。」

 とりあえず<ポケット>へ収納。

 「帰ろうか。あいつらの目的がはっきりしないから、考えてもしかたない。」

 「目的あるのかな。ヒメの・・・混血の子たちを心配してとか。」

 「エアはともかくログルスが?なまじっか親切ぶってるのが胡散臭い。」

 「信用はしない方がいい。元々ヒメ様に危険があるのならミヤがすべて排除する。この世界の者がヒメ様にいわれのない誹謗を行うならこの世界を滅ぼす。あいつらの言う問題など何一つ心配する必要などない。当たり前だがファリナは守る。」

 「ありがと。お願いね。」

 ファリナがミヤの頭を撫でる。

 「帰りましょう。明日また忙しいんだから。」

 「何かあったっけ?」

 「朝からロイドさんのところに行かなきゃならないの。忘れないでよ。リリーサも朝から来るだろうし。」

 そうだった。もうすっかり忘れてた。あぁ、めんどくさい案件ばかりだよ。

 「やっぱり、国王に会いに行くのやめようか。もう疲れちゃった。」

 「だめよ。行くって決めちゃったんだから。」

 どうする?パーソンズ邸を燃やせば行かなくてすむのかな。それとも王宮?

 帰ってどこ燃やすか相談だね。





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