89.ヒメ 黒聖女に魔法を教える
「非礼の数々、お詫びいたします。その上でお願いします。わたしたちに魔法を教えていただけませんか。」
アリアンヌが頭を下げる。それを見て、隣のユイも。
「わたしたちにメリットあるの?わたしは教師じゃない。ハンターなんだけど。」
「それは・・・」
「今は金はない。でも、収納魔法を覚えて、狩った獲物を持ち運べるようになれば稼げるようになる。そうしたら必ず払うから。」
「もう2度と会わないかもしれないあなたたちを信じろと?」
「・・・」
二の句が継げない。会ったばかりの見も知らぬ相手を信じろ、そう言われて誰がわかりましたって言うんだ。
「わかった。ヒメだけちょっと来てくれるか。」
ユイが決意を秘めた熱い目でわたしを見る。
「何でヒメだけ・・・」
「2人きりで話がある。邪魔はしないでくれ。」
「そんなの認められません。話ならわたしたちも込みでしていただきます。」
「頼む。」
ファリナの拒否に必死の面持ちで返すユイ。
いきなり腕を掴まれ、離れた場所に連れていかれる。
「いいのか?」
「ヒメに何かしそうになったら、跳んで。」
「わかった。」
ミヤとファリナが対応に追われる中、わたしは大きな木の根元につれていかれ、木の幹に背を押し付けられる。
ドン!とユイの手がわたしの顔の横の木の幹に。え?これって、『壁ドン』ってやつ?いや、後ろは木だけど。
「実は・・・」
告白?愛の告白なの?『初めて見た時からお前のことが・・・』とか言われちゃうの?
「・・・あたしは魔人族の混血なんだ。」
「へ?」
予想外のセリフキター!
「最悪この事を告白すれば、ヒメは力を貸してくれるとリリーサから言われてる。頼む。あたしに魔法を教えてくれ。」
うわ、ずるいよ、それ。リリーサめ。悪知恵をつけるなんて。
みんなの方を見る。ファリナがわたわたとこちらを見てる。ミヤは鉤爪出して、こっちに来る気満々だな。
「アリアンヌはそのこと知ってるの?」
「知ってる。お嬢には隠し事はしない。嘘もつかない。あたしの矜持だ。」
「わたしの仲間には言っていいの?」
「できれば黙っていてほしい。偏見の目はイラつく。首を落としたくなる。」
「わたしの仲間は、わたしが混血だって知ってるけどおかしな目で見たりしないよ。」
「え?お前も・・・そうなのか?」
あ、知らなかったのか。そう言えばリリーサは誰にも言わないって言ってたもんなぁ。ユイの事情だけで、わたしが何とかするって思ってくれてたのか。
「しまった。でも、いいや。どちらか片方だけが事情知ってるなんて、何かズルいのは嫌だから。」
呆然とわたしを見つめていたユイがニヤリと笑う。
「お前、いい奴だな。リリーサが頼れって言った意味がわかった。」
「頼られたら迷惑なんだけど。」
「仲間には言ってくれていい。あたしも隠し事はなしだ。」
「言っておくけど、この件に関しては、ってだけだよ。あんたに何でも話す気なんてないからね。」
「そりゃ当たり前。あたしだってそんな気はないよ。」
「後、他の人には言わないでよ。」
「こちらのセリフだ。最後の手段だから話したけど、他人になんて知られたくない。」
「じゃ、そういう事で戻ろうか。うちの仲間が、イライラしてそろそろ突入してきそうだから。」
「お、来るのか?迎え撃つぜ。」
撃つんじゃない。みんなのところに戻る。
「な、何の話だったの?何?あの伝説の木の下で壁ドンなんて鉄板フラグな展開は?」
ファリナ、落ち着きなさい。あの木はいつから伝説の木になったんだ。さては変な恋愛冒険小説読んだな。
ミヤは落ち着いている。ハーン、こいつ、魔法か何かで話盗み聞きしてたな。頭をクシャクシャにしてやる。
「むぅ。」
ちょっと怒った顔するけど、ばれてるのがわかっているからか反抗してこない。
「話はつきました。この貸しはリリーサにつけとくから大丈夫。」
心配そうにしてるアリアンヌに声をかける。
「え?それはリリーサさんに申し訳が・・・」
「いーの、いーの。あいつが諸悪の根源なんだから。」
「仲いいんですね。ヒメさんとリリーサさんって。」
「半月くらい寝食を共にしたくらいだけどね。」
「え?」
「半月ぐらい・・・」
「ごめんなさい!立ち入った事を聞いてしまいました!そういう関係もありですよね!」
慌てて耳をふさぐアリアンヌ。
「かわいいな。これ。」
「かわいいだろ、うちのお嬢。」
和むわー。ずっと見てたい。ところで、そういう関係って何?
「で、どうするの。このままアリアンヌを見てるの?」
ファリナがジトッとわたしを睨む。
「とりあえず、そこの4人を町に返そう。白の街道まで送るから、後は自分たちで帰れるかな。」
新人4人の研修で来てるから、なるべく近いところということで、ここからマイムの町はすぐそこだ。別に<ゲート>が使えないからめんどくさくって近場にしたわけじゃないぞ。
「はい。大丈夫です。」
「ごめんね、続きはまた明日ということで。」
「はい。」
森を出て草原を歩き、なるべくマイムの町に近い街道に出る。
4人を見送って、再度草原を歩く。
「悪いね。あの娘たちを送るのにつき合わせちゃって。」
「構いません。無理を言っているのはこちらです。」
「疲れない?」
「歩くのは慣れてます。」
うーん、こんなにかわいいと<ゲート>も教えてあげたくなるな。でも、あれは対外的に使えることをばらしてないからな。
「人目についたら困る。さっきの場所まで戻るよ。」
「そうですね。わたしたち、まだこの国に入国手続きしていませんし。」
「ところで、リリーサから魔法教えてもらえなかったの?」
「教えてもらったのだが、リリーサは、魔法陣を他人に合わせて描きなおすのができないそうで、リリーサの魔法陣じゃ、あたしは魔法の発動はできなかった。それで、ヒメという人なら相手に合わせて魔法陣を描き替えできるから会ってみるかと言われたんだ。」
「あー、わたしでも絶対ユイに合った魔法陣を描けるかはわからないからね。変な期待はしないでよ。」
「わかってる。こればかりはやってみないとわからないってことは理解してる。ダメならあきらめる。」
「ところで、ユイの得意な魔法は何なの?」
「あたしは風が一番得意。火と水は暮らすのに便利程度。土は使えない。」
胸の前に右手を構える。
「<千切り風>。」
手のひらから少し離れたところに、高速で回転する風のリングがつくられる。それを前方に放つ。
わたしが手を廻してもとどかないぐらいの太さの木の幹があっさり切断される。
「これで首を切り落とすのが得意。」
あぁ、そうですか。
「さらに発射しなくても、手元に発動させたままにしておけるから、接近戦で首を斬り落とせる。剣いらず。」
「いや、あんた、2本持ってるよね、剣。」
「剣を抜いてないと油断させておいて、こうザックリと。」
「騎士道的にどうなの?それ。」
「騎士を目指しているのはお嬢。あたしの役目はどんな手を使ってもお嬢を守る事。ただ、なんとなくズルいっぽいから、聖教会の教えを捧げることでごまかしてる。おかげで聖女なんて呼ばれたくもない呼び方されてる。あたしのことはメイドさんと呼べってんだ。」
「なんでメイドさん?」
「え?なんか優雅な感じしない?メイドって。」
しないよ。貴族の使用人だからね。と言ってやりたいけど、本人が幸せそうだからいいか。
さっき火を焚いた場所に戻る。
「ここってさっき肉焼いたから、残った匂いで獣とかまた出てこないかな。さっきのオーガみたいに。」
「晩ご飯だね。」
「あぁ、はいはい。なら、今度は燃やさないでね。」
「悪いけど、わたしとユイは魔法陣に集中するから、周囲の警戒3人でお願いね。」
「はい。」
元気に答えてくれるのはアリアンヌだけ。
「いや、わたしたちの間で返事なんていらないでしょう。」
「ヒメ様がやれというなら黙ってやる。心配いらない。」
心配はしてないけど、コミュニケーションが欲しいの。
「空中に陣は描ける?」
「何でもいいか?」
ユイが手のひらに、風の魔法陣を描く。
「すごいね。空中に描ける人に会ったのはリリーサ以来2人目だよ。まず、理屈を説明するから、わからなかったら言ってね。この魔法は魔法陣も大事だけど、理屈がわかってないと大変なことになる。」
「どうなる?」
「空間が裂けて世界が崩壊する。」
「・・・ウソだろ・・・」
「ウソ。でも、そうなるかもって気概で使ってね。」
収納魔法くらいじゃそんなことにはならない。失敗してもしまっておいた物がどこかにいっちゃうくらい。
簡単な説明をする。
「あぁ、なるほど・・・」
ユイ、この娘理解が速いわ。言動が雑な割に頭がいい。
「で、魔人族系にしてみたら、こうかな。」
魔法陣を描いてやる。空間系の魔法は陣の描き方が天人族系ましましだから、魔人族系のユイにはきついかな。
「こう・・・かな?」
魔法陣を描くけど、術は発動しない。
「うーん、じゃこっちは?」
少し変えて描いてみる。
「無理みたい。ダメなのかな。」
なんだ?さっきまでの横柄さが無くなって女の子ぽくなってしまった。ちょっとかわいい。もう少し無理めのをやらせて、しょんぼりさせたらもっとかわいいかな、と思ったけど、本当にしょんぼりしていて、なんか可哀想になってきた。
こうなったら最後の手段。
「ミヤ、何とかならないかな。」
困った時のミヤ頼み。
無表情のままこちらを向く。
「できないのなら仕方ない。魔法は得手不得手がある。」
「うぅ・・・」
ミヤの言葉に小っちゃくなるユイ。
「ミヤ。」
表情が変わる。困ってる顔だ。
「ヒメ様はもっとミヤとファリナを構うべき。他の女に目をやりすぎる。」
そう言うと、トコトコやってきてわたしの膝の上に座る。わたしの両手を取ると、自分を後ろから抱きしめるような形に廻す。
「ミヤをギュってする。」
甘えん坊め。ファリナがすごい形相で睨んでるよ。
(ミヤばっかりミヤばっかりミヤばっかりミヤばっかり・・・)
何か聞こえてくるけど聞こえない。
言う通りにしてやると、手を前に出し、手のひらに魔法陣を描く。
「これなら、ま・・・」
急に言い淀むと、わたしの方をチラリと見る。
「・・・これなら使えるはず。」
え?何?今の間は・・・?ミヤが言い淀むなんて珍しい。
「こう・・・」
ユイが魔法陣を発動させる。
ユイの手元に異空間への穴が開く。
「できた!」
喜びで目に涙が浮かんでる。
「やりました、アリアンヌ。これであなたの目標に一歩近づきました。」
え、と。言い方。
「え?あ!お嬢!やったぞ!」
いや、今更言い換えられても・・・




