90.ヒメ 黒聖女に頼まれる 2
「実はあたしは2重人格なんだ。たまに違う人格が出てしまう。よくある事だ、気にするな。」
ウソっぽすぎる。
「私事だ。言いたくない。」
わたしたちの冷めた目を見て、ユイが言い直す。
「説明が必要ですか?」
アリアンヌが困ったようにこちらを見る。
「え、いらないけど。」
「「え?」」
2人ビックリ。
「話したくないんでしょ。話さなきゃいいじゃん。」
「え、いいんですか?」
ほら、ユイ。自称2人目が出てるって。
「聞いておかなきゃ困る事ならともかく、ぶっちゃけ興味ないし、他人の事情なんて。ましてや、もう会うこともないかもしれない人の事なんてどうでもいい。」
「なんか、そう言われると説明したくなってきた。」
もう好きにしたら。
「とりあえず、ユイはその辺の石でも出し入れして練習していて。くれぐれも貴重品をいきなり入れたりしないように。失敗してなくなっても責任持てないからね。」
「あ、そうか。わかった。やってみる。」
ユイとアリアンヌが石を収納に入れたり出したりする。
「ありがとう、ミヤ。助かったよ。」
「あまり簡単に他人に魔法を教えるな。収納や空間魔法は、魔力が強くなければ使えない。人族だとあまり使える者はいない。みんなが教わりに来ても使える者はほとんどいないだろう。ヒメ様に教わればなんとかなる、みたいな評判が立つと後始末が大変。」
「そうね。教わりに来て、結局使えなかったらヒメを悪く言う人もでてくるかもしれない。もっとひどくなれば、自分にはわざと教えなかったって言い出す人だって出かねないもんね。」
このところ他人に関わりすぎた。3人で新しく始める時に、できるだけ3人だけ、他人には関わらないって決めたのに。
「なんか、すまない。ヒメから教わったって話は誰にもしない。恩人には迷惑をかけない。」
「わたしも言いません。わたしの心の真実に誓って。」
アリアンヌは言い方が大袈裟だよね。
「アリアンヌは騎士になってどうするの?なりたいだけ?」
「それは・・・なってからのことです。」
視線を逸らす。なんか訳ありか。まぁ、無理には聞かないけど。
「じゃ、これでいいんだね。わたしたちは町に帰るけど。」
「待って、お礼がまだ・・・と言っても、今返せるものは何もないんですけど。」
呼び止めてみたけど、何も持っていないことに気づいて、自分の体中を眺めるアリアンヌ。
「ミヤさんがつがいと言うことは、ヒメさんは幼女趣味なんですよね。わたしの体で・・・」
「待て。展開は読めたから、それ以上は言わないように。そのパターンじゃもう、ファリナもミヤも飽きちゃって、わたしが暴れても止めてくれないの。」
「飽きたんじゃなくて呆れてるんだけどね。」
「でも、それじゃ返せるものが・・・」
「大丈夫。リリーサが3倍で返してくれるから。」
「でも・・・」
いいって言ってるのに。くどいな。
「自分を大切にしなさい。自分を大切にできない人間は、他人も大切にできません。騎士になりたいのでしょう。みんなを守る騎士に。」
ファリナが諭すように言う。
「わかりました。このお礼は、いずれ必ず返します。今日のところは借りておきます。」
律儀だね。わたしなんか、あさってにはもう忘れてそうだけど。
「今晩には忘れてる。」
「寝るまでは覚えてるんじゃないかな。」
否定はしないけど、言いたい放題だよね2人とも。
「じゃ、行くね。」
「あ、ついでと言っちゃなんだけど、<あちこち扉>って魔法知らないか?」
はぁ?もう、ここまでいい雰囲気で盛り上がってるんだから、このまま別れようよ。
「知らないな。どこの扉のこと?」
「魔法って言ってるじゃん。そのごまかし方。ハーン、さては知ってるな。」
「リリーサに聞きなさいよ!」
「聞いたけれどできなかったから、お前に聞いてるんじゃないか!」
ごもっとも。
「あれは天人族の魔法陣の研究成果です。説明が大変なので無理です。」
「普通の人間のリリーサだって使ってるんだからできるだろ。」
そうかリリーサ、自分の出自は言ってないか。そうだよね。バカ正直に言ったのは、わたしだけか。
「ちょっと相談させて。」
ファリナとミヤを連れて2人から離れる。
「こんな気を持たせるようなことしないで、できないってはっきり断ればいいじゃない。」
「いや、そうなんだけどさ。何となく?」
「きりがない・・・思いついた。次元移動魔法でどこか知らない世界に送ってしまおう。もう会うことはない。完璧。うまくすれば、天人族のいる世界に行けるかもしれない。そこで教えてもらえばいい。」
「天人族が行った世界に行ける確率ってどのぐらいあるの?」
「千兆分の一より低いがゼロではない。」
それ、世間では、ほぼゼロだから。
「間違っている。ほぼである以上ゼロではない。」
クソ、理屈じゃ勝てない。
ふと、向こうを見ると、ユイとアリアンヌも何か言い合っている。
「移動魔法を教わってどうするのですか?」
「え?便利だったろう。どこでも行けるんだぜ。狩りに行くにも、何日もかけずに済むんだ。」
「それ以外には使わないのですよね。」
「お嬢の売りになる。貴族に売り込めるだろ、移動魔法なら。また一歩お嬢の夢に近づくんだ。」
「貴族が興味を持つのはユイだけです。わたしには関係ありません。」
「いや、だから、お嬢を騎士に取り立ててくれるなら、魔法を使ってやるって言えば。」
「貴族は戦いません。貴族が移動魔法を見て、最初に思いつくのは・・・暗殺でしょう。」
「そんなこと・・・」
「貴族が清廉潔白だと信じていますか?」
「・・・信じてないよ。」
「従者のあなたに汚れ仕事をさせて、わたしにのうのうとしてろと。」
ユイが言葉に詰まる。
「・・・お嬢の夢のためなら、あたしはなんだってできる。汚れ仕事だって、貴族が望むなら体を差し出すことだって厭わない。」
「あなたの想いは重いです。」
「え、それダジャレ?」
わたしのセリフに張りつめていた空気が散りじりになる。
「ヒメさん!わたしは真面目に話をしてます!茶化されるのは心外です!」
ムキになって怒るアリアンヌ。
「ダジャレ?何だ?」
わかってないユイ。
「すまないが、ヒメ様は漫談にはうるさい。もう少しキレがある笑いが欲しい。」
「だーかーらー、わたしは真面目な話をしています!どの辺に笑いがありましたか!?大体、人の話にいきなり入ってこないでください。無礼です!」
ミヤにまで言われてアリアンヌ、プンプン。
「すまないけど、ヒメ。」
ユイが真面目な顔。似合わない。
「何か言ったか?まぁいい。お願いだ。移動魔法を教えてくれ。」
「わたしは使えない。」
「そこを何とか。」
使えないってセリフにその返しはありなのか。
「教える必要はありません。いい加減にしてください!なんでそこまで自分を犠牲にしようとしますか?わたしに仕えたいと言ってきて、ずっとつきまとって、わたしはあなたを従者と認めました。何を言ってもいう事を聞いてくれる。わたしを守ってくれる。だから、ついあなたに甘えてしまいました。わたしなんかのために、何であなたがそこまでしますか?」
「お嬢は・・・あたしの夢なんだ。あたしにはもう叶えられない夢・・・だから、どんなことをしてもお嬢の夢を叶えるんだ。」
「2人って昔からの知り合いじゃないの?」
「出会ったのは半年くらい前。サムザス事変でわたしが・・・いえ!そのくらい前からです!」
言い直した。ここでもサムザス事変か。
サムザス事変で人生変わっちゃった娘・・・なのか。わたしと同じ。
わたしは自分の望む方向に。この娘はきっと望まない方向に人生が変わっちゃったんだろう・・・
「はぁ・・・」
ため息をついて視線を空に向ける。
「ミヤ。」
「夕食のとき『あーん』を要求する。」
言いたいことはわかってくれたみたいだけど。あーんって・・・
「食べさせるの?食べさせられるの?」
「両方。」
「・・・どこで覚えてくるの?そんなこと。」
「この間行った食堂にあった絵物語の雑誌。」
「ファリナ、しばらく外食は控えるよ。」
外に出ると、冒険小説とか絵物語とかでいらん知恵つけすぎ。
「ファリナと3人でやる。うきうき。」
「わ、わたしはそんな恥ずかしいまね・・・」
「やらないのか?ならヒメ様と2人でやる。」
「・・・やるわよ!えぇ、やってみたかったわよ!何よ!いけない!?」
変な方向にキレるのやめて。
「すいません。話の内容と展開がわからないのですが・・・」
唖然としてるユイとアリアンヌ。
「あぁ、いいの。気にしないで。燃やされたくなかったら。」
「あん?お嬢に何かする気なら、首を落とすからな。」
「いいの?魔法教えてほしいんでしょ?」
「グッ!」
「つまり、話の流れからすると、魔法を教える代わりにわたしに何かするということですね。そして、それはいかがわしい事なんですね。」
待って、どう流れたらそうなるの?なんだろう、わたしって、そんなに幼女に手を出しそうに見えるんだろうか。
「うん、女好きオーラが半端ないぞ。」
ユイがにこやかに言う。もうお前たち帰れ。
「教えるには条件があります。2人が話していた様に、この魔法は使える人を見た事がない。わたしが知っている限りではわたしとリリーサだけ。つまり、重宝する代わりに利用もされやすい。」
魔人族の人魔も使っていたけど、それはこの際関係ないよね。
「え、そんなに珍しい魔法なんですか?」
「わたしが知る範囲ではね。まぁ、村はずれのエミールさんに聞いてみないと何とも言えないけど。」
「誰ですか?それ。」
アリアンヌごめん、気にしないで。
「毒され過ぎ。」
ミヤ、哀れんだ目で見ないで。
「エミールさんは物知りじゃなくて知らなさすぎなんだから、エミールさんに聞くのは間違ってるわ。」
そこまで考えてないから。勢いで言っちゃっただけだから、これ以上掘り下げないで、ファリナ。
「とにかく!わたしとしてはあまり広めたくないの。知られて、他人に利用されるなんてまっぴら。できるだけ秘密にしたいから、他人には教えたくない。まぁ、リリーサが何も考えずに好き勝手使ってるようだけど。なので、ユイが誰にも見せない、誰にも教えない、秘密にするというなら教えてもいい。」
「わかった。誓う。絶対だ。」
「わたしに、じゃないの、誓うのは。わたし相手じゃ約束破ってもなんとも思わないでしょ。」
「そんなことはない。あたしのすべてを賭けて誓う。」
「あてになりません。なので、アリアンヌに誓いなさい。誰にも見せない、教えない、と。」
「いいぜ。お嬢に誓うんだな。」
「そして、アリアンヌは、わたしに誓いなさい。騎士を目指す者としてでも、かつての自分にでもいいわ。ユイに秘密を守らせます、と。」
「もし、破ったら?」
「その時は、アリアンヌがすべての責任を負ってわたしに土下座しなさい。」
「お嬢に土下座しろだと!?首落とすぞ!」
「落ち着きなさい!あなたとわたしが秘密を守ればすむことです。こうすることで、あなたがバカな考えをおこすこともなくなるでしょう。わたしたちのことを考えてくれてのことです。その上で、魔法も教えていただける。感謝しかありません。」
「それは・・・そうかもしれないけど・・・」
「嫌ならこのまま帰ればいい。止めないよ。」
ユイがジッとわたしを見つめる。
「わかった。お嬢に誓う。誰にも見せない、言わない。」
「では、わたしはヒメさんに。ユイに秘密を守らせます。誓いが破られました時は、土下座では足りません。この命を捧げましょう。」
「お嬢!」
「わたしの命がかかりました。わたしを守ってくださいね、ユイ。」
「・・・わかってるよ。あたしのすべてをかけてお嬢は守るから。」
見つめ合う2人。
「ヒメにも何か誓ってもらおうか。」
ファリナがとんでもないことを言い出した。
「他の女に目をやったら土下座。」
いや、見ただけでダメなら、毎日土下座しなきゃいけないじゃん。




