77.ズールスさんの住む町である
ガルムザフト王国、グリューバル領。その中のドンクの町は、リリーサの父、ズールスさんの住む町である。この町の隣が、ゴルグさんの住むバーグラーの町。さらにその隣が、リリーサの住むソイルの村である。
ゴルグさんに解体を頼み、肉と毛皮、さらに出てきた火の魔石を受け取って今、わたしたちは、そのドンクの町に来ていた。
魔石は協議の結果、リリーサ2、わたし1で話がついた。リリーサが申し訳なさそうにしてたけど、正直わたしたちに魔石はそれほど必要な物ではない。
売れば高く売れるんだろうけど、伝手がないわたしたちには、面倒なだけだし、リリーサに頼んで売ってもらうという手もあるけど、そうしたら、変な所に義理堅いリリーサは、3つ売った半分をわたしに払うだろう。どちらにしろめんどくさいので、1個だけ受け取って<ポケット>の中に入れておく。いつか使うかもしれないし、そのまま埋もれてしまっても別に構わない。
今回は、初めて来たときのように、草原の真ん中に出ることもなく、ズールスさんの家の間近に空間移動魔法の出口がつくられる。それでも100メートルは離れてるけど。
「照れ隠しに、変な所に出口つくるのやめないかな。」
「照れ隠しって何ですか?これは、なるべく近寄りたくないというわたしの心の現れです。」
「あー、はいはい。」
もう、投げやりに聞いておく。
「はいは1回です。ファリナさん、しつけができてません!」
「え、怒られるのわたし?」
「飼い主でしょ!責任持ってください。」
いや、誰が飼い主なのよ。
「気をつけます。」
ファリナ、燃やすよ。
「では、行ってきます。」
リルフィーナが、レッドウルフの肉を抱えて、ズールスさんの家に向かう。リリーサは、魔法で出た場所から動く気はないようだ。
「会っておいたら?」
「別にいつでも会えます。今は会う理由がありません。会いたくないです。」
この間ぼろ泣きしてしまったことを、まだ気にしてるのかな。でも、わたしたちが剣を取りに行った時は普通だったよね。
「・・・お母さんの話、初めて聞きました。まだ気持ちの整理がきちんとできません。ヒメさんが剣を取りに行った時、無理に会ってみましたが、やっぱり、まだ消してしまいたい気持ちの方が強いです。っていうか、消した方がわたしの精神安定的にいいんじゃないでしょうか。ですよね。わかりました。消してきます。」
「落ち着きなさい。あぁ、めんどくさい。燃やしちゃうよ。」
なんだろう。気の弱い女の子風に話し始めて、いきなりサイコになるのはやめてもらいたい。
「ちょっと、精神的に不安定です。なので、ヒメさん。わたしを優しく慰めてください。」
「優しく殴り倒すのか?任せろ、ミヤがやる。」
「言葉が通じてません。」
「わたしも殴り倒してくださいって聞こえたけど。」
「耳が悪すぎます。」
怖くてどちらかに加勢なんてできない。
「何、こんなところで漫談やってるんですか。やるならせめて、お金がもらえるように人気の多いところでやってください。」
戻るなり、リルフィーナが辛辣だ。
「な、何か言ってましたか?あれは。」
「ありがとう、と言ってました。後、ヒメさんに、相談があるならいつでも聞くと伝えてくれと。」
愕然とするファリナとリリーサ。
「まだヒメを狙ってるのかしら。2,3回斬っておかなきゃだめかな。」
「わたしは、お義母さんなんて呼びませんからね。」
呼ばれてたまるか。
「でも、聞きたいことがあるから、どの道1回尋問する必要はあるのよね。」
わたしの持っている魔人族の剣のことで、知ってることをすべて話してもらわないと。剣もつくってもらったから気をつかうこともないし、多少の力技は許されるよね。
「恩知らずとか言われませんか?」
リルフィーナが、信じられないものを見ているかのように見る。
「大丈夫。恩は感じてるから。止める理由にはならないだけで。」
「ヒメ様外道。」
なんかリリーサ見てたら、わたしって結構まともなんじゃないかなって最近思えるんだけど。
「偶然ですね。わたしもヒメさんと比べたら、常識人だったんだなぁって思っています。」
「お2人の常識で世界を測られても困るんですけどね。」
リルフィーナ、何か言った?
「とりあえず、今日のところは帰りましょう。それじゃあね、リリーサ。」
「待ってください。みんなでウルフ食べるといいました。逃がしませんよ。」
あれ、わたしたちも人数に入ってたんだ。2人で食べるにしては多いなぁとは思ってたけど。
「2人で17人分もどうするんですか。」
精神的な貸し借りを返すために、狩猟を手伝ったからもういいかと思ったのに。
「ヒメさんって、ほんとに食に執着がないんですね。肉って言ったら、食いついて離さないイメージなんですけど。」
「ひょっとして、ウルフに同族意識があって、食しづらいとか。虎か狼のイメージですもんね、ヒメさんって。」
燃やすよ、リルフィーナ。
「猪。前しか見えない。」
「熊、かな。出会ったものは皆殺し、的な?」
ミヤとファリナ、ここに座りなさい。説教します。
「だが、虎はいい。褒めてやる、リルフィーナ。」
ミヤが上から目線で嬉しそう。
「昔は、出されたもの何でも食べるしかなかったからね。おいしいとか、好き嫌いとか言ってられなかったんだ。」
「それが今じゃ、嫌いなものばかりだものね。」
「ヒメ様お子様。」
うっさい。
「わたしももう大人。栄養がどうとか考えずに食べたいものを食べてもいい歳なの。」
「だから体の一部が貧弱。」
言ったね、ミヤ。言ってしまったね。どうなるかわかってる?・・・わたし・・・泣くからね。
「扱いづらいところもお姉様似ですね。」
「似てないよ!」
「似てません!」
「ほら。」
何自慢げなのよ、リルフィーナ。
「今なら家の周りにお客様もいません。来月までは平気です。家に来てウルフの肉焼きましょうよ。」
「大丈夫ですか。前もその理屈で、次の日店を開けなくて大騒ぎになりましたよね。」
「構いません。あそこでいくら問題になろうが、後はお祭りです。」
「後は?後の、じゃなくて?」
「やることやったら、あとはお祭りをしましょうって意味ですよね。」
うん、まぁ、それでいいや。ツッコむのもめんどくさい。
押し切られる形でリリーサのお店兼家に向かうことになる。ほんとは、レッドウルフの肉、気になってたのよね。パープルウルフの肉おいしかったし。
「野菜を買います!」
そんなわたしたちの前にファリナが立ちふさがる。
「ちょっと気になってたんだけど、この前も肉だけだったよね。あの時は量が少ないから、まぁいいかと思っていました。しかし、今日はかなりの肉の量。一応聞きます。リリーサ、家または<なんでもボックス>に野菜はありますか?」
「あ、あったような・・・なかったような・・・」
目を逸らすな。負けるな。あるって言ってやれ。家に着いてしまえばこちらのものなんだから。
「家に帰ってなかったら、リリーサに買いに行かせます。ヒメのお小遣いで買わせます。今のうちなら、ご馳走になるのはわたしたちだから、わたしが買います。」
「正直に言いなさい。あるの?ないの?ないなら帰る途中で買うよ。」
わたしのお小遣い使われたら、買い食いできなくなる。死活問題だ。
「成人女子の言葉でしょうか。」
リルフィーナ、歳は関係ないの。
「・・・あ、ありません。」
ガックリと膝をつくリリーサ。
「野菜食べるくらいで、こんなに大騒ぎするなんて、お子様ですか。」
「ちょっと食べれるからって大人ぶらないでほしいです。フンだ。リルフィーナなんて嫌いです。」
「いい機会です。偏食を治しましょう。ついでにヒメさんもです。」
同列扱いされてるのかと思ったら、なんか恥ずかしくなってきた。
「で、でも、わたしはブロッコリー以外なら大丈夫だもん。」
「ほう。」
ファリナが睨む。
「ごめんなさい。カリフラワーと人参もちょっと・・・あ、でも、ピーマンは大丈夫だもん。」
「お子様すぎます。」
リルフィーナの目が冷たい。
「わたしは食べたくないだけで、なんでも食べれるもん。」
あ、リリーサ、ズルい。
結局、あまり人目につかないよう、リリーサの住むソイルの村ではなく、ゴルグさんのいるバーグラーの町で野菜を買い込む。背に腹は代えられない。
家の中ではなく、家の前に空間移動の門を開く。着くなり、収納から紙とペンを取り出すと、紙に大きく『明日の開店はありません』と書いて、お店の入口に張り出す。
「これで、いくら騒いでも大丈夫です。」
優しい目でお店を見るリリーサ。なんかあったのかな。
「野菜も食べなさい!」
ファリナの怒号が響く中、焼き肉。うん、レッドウルフも噂にたがわずおいしいよ。
そして・・・
「う、動けない・・・」
「食べ過ぎました・・・」
5人で17人前。おいしすぎて、全部平らげました。1人当たり約3人前。ちょっときつかった。
「それじゃ、後片付けもありますから、ここで。気をつけて帰ってくださいね。」
居間でお別れをする。ここに門を開いていいなら、町の外まで歩かなくて済むからいいけど、家に入った人間が、いつに間にかいなくなってるっていうのは問題にならないんだろうか。
「わたしたち、いつもいつの間にかいなくなってますから、当たり前だと思われてます。平気です。」
ここまで認知されてたら怖いものなしだよね。
「じゃ、またそのうち。」
「今まで、本当にありがとうございました。」
薄い笑みを浮かべて、リリーサが頭を下げる。何だろう、何かが変だ。
「それじゃあ、お元気で。」
「う、うん。じゃあね。」
違和感を感じつつも、わたしたちは、自分たちの家へ帰った。
自宅のベッドの上。お風呂に入り、枕元の台に冷たい果樹水。後は眠るだけ、なんだけど、何かが気になる。
「リリーサ、何か変だったよね。」
「いつも変だけどね。」
それはそうだけど、今日はいつにも増して変じゃなかったかな。
「あれは、ヒメ様と同じで、普通の基準値の振れ幅が大きすぎる。」
ミヤ、難しいこと言わないで。
「要するに、どの状態が普通なのかわかりにくいってこと。」
酷い言われ様だね、リリーサ。
次の日は家でゆっくり。昨日の今日でリリーサたちが来るかと思ってけど、誰も訪ねてこなかった。
フレイラは、わたしたちが、剣を取りにガルムザフト王国に行っていると思っているんだろう。しばらくは来ないはず。家にいる事ばれないようにしなきゃ。
そして、その次の日も家を訪れる人はいなかった。なんか、毎日バタバタしてたから、何もないとなんか逆に不安になってくる。
「明日からは狩りに行こうか。毎日家にいても体がなまるし。」
「でも、ギルドに顔を出したら、確実にパーソンズ家に、わたしたちが戻ってることばれるわよ。」
「食事の買い物でもばれるかもしれないもの。リリーサに送ってもらったことにしよう。」
そのリリーサ、どうしたんだろう。いや、これが普通なんだけどね。毎日顔出されることの方が不自然なんだけど・・・別れ際の態度といい、何か引っかかる。
「会いに行ってみたらいいじゃない。たまには、こっちから行ってもいいんじゃないの。」
「それは、なんか負けた気がする。」
「何の勝負だ。」
ミヤにまで呆れられた。
「そうだね。明日、行ってみようか。気になるなら確認しなくちゃ。」
「確かめるけど、気になるだけよね。会いたくなったとかじゃないのよね。」
「その辺ははっきりしてもらおう。」
ファリナとミヤがジト目で睨む。
「気になるだけ。それ以上はないよ。」
目の前の2人を抱きしめてやる。
「ならいい。」
翌日。リリーサの家へ。ガルムザフト王国、グリューバル領、ソイルの村の1軒。
窓を内側から閉ざしていたカーテンが取り外されていた。
さらに、窓から見える家の中に、家具らしきものは見えない。そして・・・
家のお店部分の入口には大きな張り紙が・・・
『売家』
わたしたちは、家の前で、ただ立ち竦むだけだった・・・




