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78.大きく『売家』の張り紙


 「え?どういう事?」

 その家の扉には、大きく『売家』の張り紙。

 だって、3日前にここで、レッドウルフの肉をみんなで食べたよね。リリーサはどうしたの?ここに住んでいたリリーサは・・・どこに行っちゃったの?

 驚きで、誰も声が出せない。ミヤでさえ呆然としてる・・・ように見えないこともない。

 「何が・・・あったの?」

 わたしの質問に誰も答えることはできない。


 立ち尽くすわたしたちの後ろから声がした。

 「あ、ヒメさん。遊びに来たんですか?」

 リリーサがにこやかに立っていた。

 うぉい!


 「引越しします。」

 「は?」

 「ひ・つ・こ・し・し・ま・す。」

 いや、区切らなくてもわかるよ。


 後から来たリルフィーナと合流したわたしたちは、近くのお茶屋さんに入った。

 「色々ありました。」

 別れてから3日しかたってないよね。

 「その前からあったのです。」

 そうですか。

 「事の発端は、パープルウルフの売り上げで、かなり儲けてしまったことでした。」

 また泥棒に狙われたとか、領主から違法な税金の督促が来たとか?

 「いえ、領主様からは、税金まけるから、今度の国王様の生誕祭の贈り物をよろしく頼むと言われました。」

 それはよございました。

 「真面目に聞いてますか?」

 「長くならなきゃね。」

 「最近は要点を絞って短めを心掛けているのですが。」

 「そうやって、誰かがよけいな方に話を持っていくから長くなるの。黙ってなさい。」

 ファリナに怒られた。

 「教会に行ってみたんです。資金もそれなりに貯まりました。孤児のみんなを引き取れるかなって。」

 教会って、リリーサが預けられて、育ったっていう。

 「とりあえずは陰から様子見ですね。そしたら、みんな笑ってました。」

 「いいことじゃない。」

 「はい。わたしがいた頃は、悲しむことはなかったんですけど、笑うこともありませんでした。昔馴染みにそっと会って、話をしてみました。」

 「何か変わった事があったの?」

 「わたしがいなくなったことで、責任者のシスターカレンがかなり気落ちしてしまったそうなんですが、孤児のみんなが逆にシスターを励まして日々を送るようになったそうです。シスターも次第に、お金を稼ぐことをうるさく言わないようになりました。元々、わたしの治療でそれなりの蓄えはあったわけですから、贅沢をしなければ生活に困ることもなくなったそうです。」

 「それでも、お金は使えば無くなるよ。」

 ファリナからよく言われてるもん。

 「それが、孤児たちみんなが、以前のように強制されてではなく、自分から進んで働くようになったことで、前は見るからに嫌々で手を抜いた仕事っぷりだったから、あまりもらえなかった給金が、今はそれなりのお金を貰えるようになったそうなんです。だから、蓄えに手をつけなくても、贅沢しなければやっていけてるみたいなんです。蓄えは、いざという時のために、いまは使ってないと言ってました。」

 「よかった・・・のかな。前ってのがわからないから、判断がつかないわ。」

 ファリナが困った風。

 「以前は成人する13歳を過ぎても教会で働かされていました。今は、独立できる者は教会から出て自分の生活を送っています。独立して、さらに余裕のある者は、教会に寄付する者もいるとか。」

 「それ、前に話を聞いた時、気になってたんだよね。普通、孤児を預かるところって成人したら出ていくものでしょう。なのに、リルフィーナが、成人したらハンターになれとかいろいろ言われたって言ってたでしょ。」

 「以前は、稼いだお金はすべて教会が集めてました。なので、成人して独立しようにもみんな無一文だったんです。教会を出ていくことはできませんでした。」

 「それは悪徳すぎるでしょ。」

 「今は、稼いだお金の一部は自分たちのものにできるそうです。だから、なおさらみんな一生懸命働くようになったみたいです。これを聞いて思いました。これなら、わたしがみんなを集めてお店を開かなくてもいいんじゃないのか、逆にうまくいってる教会の邪魔をしてしまうんじゃないかって。」

 そうだよね。みんなで働いてうまく回っている教会から孤児みんな連れ出したら、教会が立ち回らなくなる。これから新しく孤児が増えるかもしれない。なにせ、魔人族との戦いはいつ起こるかわからない。起これば、またいっぱい人が死ぬんだ。孤児だって新しくできてしまうだろう。

 「それで、リリーサは、お店をやめたんだ。」

 「やめてませんよ。規模を縮小します。孤児のみんなを呼ばなくてよくなりました。なら、わたし1人でもできるくらいの大きさで十分です。」

 「わたしも数に入れていただけませんか。」

 リルフィーナが所在なさげに呟く。

 「何度も言いますが、リルフィーナは雇いません。あなたはずっと居候です。」

 いいことなのかどうかわからないので、リルフィーナにかける言葉が見つからない。

 「あなたはわたしの後をついてこればいいんです。」

 「それって何が違うの?」

 「お店はわたし1人でできる大きさにして、商品も商業ギルドから基本は仕入れます。ただ、それじゃ面白くないので、ビックリ目玉商品を月に1度くらい売ろうかと思っています。第1回は来月、ブラッドメタルベア、その次はレッドウルフです。これからも、旅に出て商品を狩りまくります。そのためには、リルフィーナの助けが必要です。」

 「それであのような状態になったのですか?わたしはてっきり、わたしはもういらなくなり、教会に返されるとばっかり思ってました。」

 「大丈夫です。たぶん教会でも、受け取り拒否されると思います。それに、ちゃんと居候といったでしょ。」

 「さっき初めて聞きました。ずっと、何も仰らないで、引っ越しの準備をされていたので、もう見捨てられたのかと、ずっと不安でした。」

 「言いませんでしたか?」

 「言いませんでした。」

 「それは、あなたの気のせいです、リルフィーナ。そう、気のせい、気のせい。」

 気のせいにして責任を逃れようとしてるな。

 「失礼です、ヒメさん。わたしとリルフィーナの記憶、どちらが正確だとお思いですか?」

 「「「リルフィーナ。」」」

 「3人がかりで決めつけられました。皆さん酷いです。」

 いや、あなたが記憶云々を語るなんて、3世代は早いよね。

 「わたし自身を通り越して、まさかの子孫の代まで。」

 「結婚できないお姉様に子孫だなんて、なんて無理ゲー。」

 「できます。しようと思えばできます。それより、何ですか無理ゲーって。わたしの人生はゲームですか。」

 「まぁ、博打だよね。」

 「ヒメさんにだけは言われたくありません。」

 「そろそろ、本題に戻らない?」

 ファリナが怖い。今、ファリナも話題に乗っかってたよね。


 「怒られたので、本題に戻ります。わたしとヒメさんのどちらが結婚できるかって話でしたよね。」

 うん、絶対まともに本題には戻らないって思ってたんだ。

 「ヒメはいいの。結婚しないならしないで。」

 待て、戻せと言ったファリナがなんで乗っかるかな。しかも、結婚できない風に言うのやめてもらえないかな。

 「フンだ。後、数年後見ていてください。ヒメさんとファリナさんに、かわいい子供を見せに行きますから。なにせ教会に頼めば、子どもはいくらでも借りたい放題です。」

 反則だろ、それ。というか、人道的にどうなの?

 「溜飲を下げるためなら、人道なんてゴミです。」

 「下がらないから、それ。他所様の子どもでいいなら、わたしだって100や200集めて見せるから。」

 「勝負ですね。」

 「やめなさい。世間的に迷惑だから。」

 ファリナが乗っかるからこうなったのに、なぜさらに怒られる。


 「で、リリーサのお店って、結局小さくしただけで、前と変わらず月に数日開けるだけなのが続くわけなんだ。」

 文句言ったらファリナに睨み返されたので、本題に戻る。このままでは時間だけが無為に過ぎてゆく。

 「毎日開けますよ。」

 「いや、目玉商品狩りに行くって言ってたよね。あ、空間魔法で1日で戻ってくるんだ。」

 「そんな簡単に狩れたら、目玉商品じゃないでしょうが。それに、ヒメさんの家にも遊びに行かなきゃいけないし。」

 「わたしも、一応ハンターを生業にしてるから。毎日、毎日暇じゃないから。」

 「わたしだって暇じゃありませんよ。」

 「その割に、お姉様もヒメさんも、御2人とも毎日遊んでますよね。」

 あれ?リルフィーナ、わたしとリリーサってそういう認識?けっこう狩り行ってるよね。リリーサとだって行ってるし。

 「ここ10日くらいで、何回狩りに行ったかな?」

 「何言ってるの、ファリナ。えーと、3日前にレッドウルフ狩ったし、その前は・・・変な人魔と会って、パープルウルフ狩ったし・・・後は・・・」

 「ど、泥棒も狩りました。」

 「そ、そう。泥棒も狩ったよ。」

 「泥棒は狩るんじゃない!」

 えー、同じじゃん。

 「それ以外は、リリーサのお店の手伝いをさせられてたし。これも言うなれば仕事です。」

 ほら、忙しかったじゃない。

 「言われてみれば、仕事してたわね。なんか、ずっと遊んでた気しかしないんだけど。」

 ファリナが首をひねる。

 「忙しかったじゃない。ゴルグさんの家で、狼が解体されるのをボーッと見たり、毛皮が乾くのをボーッと見たり、リリーサのお店で商品が売れるのをボーッと見たり・・・」

 「そんな事で、あんなに金貨貰ってしまったのよね。というより、実際は何もしてないよね、わたしたち。」

 「熊さんと灰色狼は結構大変だったもの、ちゃんと相殺されてるわ。」

 「あれも半分はボーっと見てただけ。」

 ミヤ、うるさい。


 「わたしのお店の話でしたよね。何の話をしてるんですか?」

 よりにもよって、リリーサにツッコまれたよ。どうなってんのよ。

 「いや、リリーサが遊びに来るっていうから・・・」

 「はい、わかりました。で済むことじゃないですか。」

 「だから、忙しいって言ってるの。」

 「何が忙しいんですか。最近の10日くらいで何してましたか?」

 「えーと、3日前はレッド・・・」

 「やめなさい!」

 なぜ怒る?ファリナ。


 「新しいお店に行ってみましょう。」

 「留守番置いてきたままなんですけど、お姉様。そろそろ途方に暮れているんじゃないでしょうか。」

 「そう言えば、すぐ戻ると言って、もう数時間。いい具合に途方に暮れているでしょうね。」

 「リリーサ外道。」

 ミヤのツッコミもさることながら、留守番?誰か残してきてるの?

 「ハハーン、ズールスさんと仲直りして、一緒に住むことにしたんだね。」

 振り向き、ギョロリとわたしを睨むリリーサ。

 「消しますよ。マジで消しますよ。」

 「ごめんなさい。」

 そんなわけないか。





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