76.ゴルグさんの元へ急行する
「大量、大量。」
レッドウルフ3匹をリリーサの収納にしまって、わたしたちは空間移動で、バーグラーの町、つまり解体屋のゴルグさんの元へ急行する。
「あぁ、ヒメさんのおかげで、レッドウルフが手に入りました。やっぱり、魔獣を招く女の二つ名は伊達ではないです。」
「呼ばれてないよ!」
異名がどんどん増えていく。
「今日から呼びます。とりあえず、村はずれのエミールさんに憶えてもらいましょう。」
やめて。なんかほんとに世界中に広まりそうな気がするから、やめて。
「あの人魔たちはいいの?」
ファリナは、ほったらかしにしてきた人魔が気になっているよう。
「あいつらも命が助かっただけ儲けものじゃない。もう会うこともないだろうし。とりあえず、ファリナの剣が使えるってわかっただけでも十分だよ。」
「そうね。あとは扱いにもう少し慣れなきゃね。」
レッドウルフとの戦いは、ファリナに任せてみた。むろん、わたしとリリーサはいつでも、燃やせる消せる体制。ミヤもいつでも切り込める。準備は万端だ。万端すぎて、リルフィーナがすることがなくて薬草を採取しだすくらいだ。
風を纏った剣は、切れ味が上がっただけでなく、剣から<風の刃>を放つこともできた。それも、ファリナが自身から放つより強力に。
ファリナ1人で、レッドウルフ3匹は瞬殺だった。
「で、ここに来たってことは、さっそく解体しちゃうの?」
今、狩ってきたばかり。早すぎない?
「<なんでもボックス>に入れておけば劣化しません。2匹はお店の次回以降の売り物です。1匹は、みんなで食べましょう。この前は、パープルウルフの肉、少しだけで我慢したんです。今日は食べ放題です。1匹食べつくします。」
嬉しそうだね。パープルウルフの肉は、3人前を5人で食べたから、食べ足りなかったことがよほど心残りだったよう。
「そうです。あのままで万が一にも死ぬようなことがあったなら、毎晩ヒメさんの枕元に立って恨み言を言い続けるところでした。」
「そうなったら、毎日リリーサの幽霊の見てる前で、ウルフ食べまくっちゃうけどね。」
「鬼ですか?信じられません。意地でも死にません。」
リリーサがギャーギャー喚くものだから、いきなりドアが開く。
「店の前で騒ぐんじゃない。」
わたしは何も悪くないのに、ゴルグさんに怒られる。
「今のどう見てもヒメさんが一番悪いですよね。」
リルフィーナ、冤罪にもほどがある。
「この間、パープルウルフを解体したと思ったら、すぐにブラッドメタルベア。で、今回はレッドウルフか。生き急ぎ過ぎじゃないのか?」
「いや、普通に生きてますけど。」
「普通の人間は、1月もたたないうちに、高位の魔獣に3回も出くわさない。」
「すごいですよね。伊達に『ヒメが歩けば魔獣に当たる』なんて言われてないです。さすが魔獣を招く女です。そして、じつは4回だったりします。」
「いい迷惑だけどね。」
「ミヤは意外と楽しい。」
リリーサ、よけいな事言うな。ファリナ、わざとじゃないんだよ。わたしは楽しくないよ、ミヤ。燃やすと文句言われるし。
「売れば、そこそこいい値段がつくよね。しかもリリーサに任せたら、そこそこがとんでもなく、に変わるし。」
「お金より命よ。そこは譲れない。」
わたしのセリフにファリナがお説教めいた事を言う。
「それは当たり前です。基本です。」
リリーサが当然みたいに言うけど、あんたは当てにならない。獲物を狩るためなら死地にでも赴きそう。
リリーサの魔法は狩りをするのに都合がいいけど、わたしが安全策を取れば燃やすしかない。よほどの余裕がない限り、売れる形を残してまで、強い相手を狩ろうなんて考えない。普通の魔獣は別だよ。燃やさないで倒せるならそれに越したことはないしね。
「売れるなら売りまくります。魔獣様様です。」
「まぁ、最近の依頼のせいで金銭感覚がおかしくなってるけど、わたしたちとしては、安全にオークあたりを毎日2,3匹狩っていれば生活できるしね。」
「ミヤは寝て暮らしてもいい。ご飯が食べたくなったら狩りをする。人生の基本。」
この面子では、基本の振れ幅が大きすぎて話が合わない。
「で?3匹とも解体すればいいのか。」
ゴルグさんが話に入ってくる。
「お前らが揃うと、話が全く進まなくなる。悪いが、俺もそれほど暇なわけじゃないからな。」
「お願いします。冷凍庫と乾燥室動かしておきますか?」
リリーサが頭を下げる。
「肉はすぐに持っていくのだろう。冷凍庫はいらん。毛皮を乾かさにゃならんが、時間はあるのか?なければ収納にしまっておいて、後で乾かしてもいい。」
「今は昼過ぎですか。最初の自然乾燥だけで日が暮れちゃいますね。今度にしましょうか。ほんとはミヤさんがいる今日のうちにやってしまいたかったんですけど。」
業務用の魔力バカ食いのピューリー鉱石は、普通の人が発動させるのは大変だ。ミヤなら触れるだけで発動できるけど。ただ、これから乾燥させるには時間がない。
「明日でいいなら手伝うよ。」
「明日は都合がつくかわかりません。つくようでしたら朝お伺いしますけど、それでもいいですか?」
「リリーサには口裏を合わせてもらわなきゃいけないし。そのお礼だからいいよ。」
「お姉様が悪の道に引きずりこまれていきます。」
「いいの、リルフィーナ。ヒメさんのためなら、わたし・・・」
内緒事をお願いしただけで、人聞きの悪いことを言わないで貰いたい。さらに、言い方にも気をつけて。さっきから、ファリナとミヤの視線が痛いから。
「あのね、真面目にやる気がないのなら、今の話はなかったことに・・・」
「待ってください。」
いきなり腰にしがみついてくる。
「聖女と呼ばれた清廉潔白な美少女が、すねに傷を持つ極悪人に惹かれて、坂道を転げ落ちてゆくという聞くも悲しい物語をふざけてるなどと・・・」
「誰が美少女で、誰が極悪人よ?」
「とりあえず極悪人といえばヒメ様。」
「それは、ここにいる者の共通認識よね・・・で、美少女はわたしでもいいかな?」
「図に乗らないでいただきたい。ここで美少女といえば・・・」
リルフィーナ、周りを見渡し。
「・・・わたしでいいのではないかと・・・」
「消します。」
「斬ります。」
「切り裂く。」
わたしは極悪人で決まってるそうだから、どうでもいいや。
「だから、いいかげんにしろよ!」
ゴルグさんに怒られた・・・
「まったく、お前らは、なぜものの数秒で話が脇道にそれるんだ?」
「それ、たぶんリリーサのせいだから。」
「極悪人に決まっていて、美少女の資格のないヒメさんは黙っててください。」
「いや、だから、それがもう話がずれてるよね。」
「ずれてますか?」
「ずれてないわよ。」
ファリナ黙れ。誰が美少女の話をしていましたか?
「みんな美少女の話してました。」
「してないのは、ヒメさんとゴルグさんだけです。」
リリーサとリルフィーナ、だからなんで美少女の話になったかって言ってるの。
「なぜって、ヒメ様が極悪人だから。」
ミヤまでもかい。もういいや、燃やそう。
「表でやってちょうだいね。」
ラスボスであるゴルグさんの奥さんのリャリャさんに怒られ、みんな土間に正座させられる。
「なんで俺まで・・・」
ゴルグさんの叫びは無視された・・・
そして気づく、重大な事実。
ゴルグさんが解体を始めたら、わたしたちはすることがなかった。
「今ならおしゃべりしてもいいのよね。これって、リリーサが、さっさとレッドウルフを収納から出してゴルグさんに渡してしまえば、あんなに怒られることはなかったんじゃないの?」
全員(リリーサ除く)が、リリーサをジトッと睨む。
「そんな、過ぎ去った過去の事を今さら言われても。」
まぁそうなんだけど。
「ほら、お茶を淹れたから。飲んだら肉の仕分け手伝いな。」
リャリャさんがお茶を勧めてくれる。
「そういえば、ズールスさんが顔を腫らしていたけど、あれはリリーサがやったのかい?」
リャリャさんの質問に、お茶を吹き出すリリーサ。
「知りません。でも、自業自得です。」
「知り合いとケンカしたって言ってたよ。で、ここの人ってリリーサとズールスさんのこと知ってるの?」
「わたしと親子で、あいつがしばらく留守にしてたことは知ってます。」
当たり前だけど、天人族関係は知らないか。まぁ伝説級の生き物だってばれたら、今頃ズールスさんちの周りは見物人でごったがえしてるよね。
(そうなったら、それはそれでいい気味なんですけどね。)
リリーサが小声でなんか言ってる。
(ばれたらここにはいられなくなって、また会えなくなっちゃうかもしれないよ。)
耳元で囁く。
(別に構いません。今更です。)
(まぁ一緒に旅をするってのもいいかもね。)
(誰が。)
小声で話していたから、自然と顔を寄せあう形になっていた。リリーサの頬に触れそう。
殺気が走り、慌てて横を向く。
ファリナとミヤ、それにリルフィーナが鬼の形相でこちらを見ていた。
「仲のよろしいことで。」
「リリーサ、斬り刻む。」
「お姉様、後で説教です。」
「違うの!他愛のない話なの!ちょっと色々あるだけで・・・」
「色々?」
だから、ここでは大きな声で言えない色々があるの。天人族とか魔人族とか。ファリナ、目が怖い。
「後で、ミヤと尋問します。家の拷問部屋で。」
待って、いつそんなのできたの?わたし知らないんだけど。というか、何で、家にそんなものがあるの?ロイドさんの家ならともかく。
「なんでもあるんですね。」
「いや、リリーサ、真面目に受け取らないで。あの2人の冗談だから。」
2人はツンとそっぽを向いたまま。あぁ、よけいな事言うんじゃなかった。
「一息ついたら手伝ってもらえるかい?」
リャリャさんがレッドウルフの毛皮を部屋の脇にある物干しに掛けながら声をかけてくる。
見ると、ゴルグさんが、内臓を落とした肉をばらし始めていた。
「あ、はい。」
逃げ出すように作業場へ向かう。また、遊んでて怒られるのも困る。
「この前と同じでいいんだよね。部位ごとに袋に入れて保存。」
「ン。頼む。」
ゴルグさんの長包丁捌きがさえる。あっという間に、肉の塊が部分ごとになる。
「あ、ゴルグさん。2匹は部位ごとで、後で切り分けてもらいに来ます。1匹は、この前みたいに1人前ずつのパックに切り分けてください。」
パープルウルフの時は、お店にすぐ並べられるように、1人前セットという形で、腿,胴、胸などの部位数切れずつをパック詰めにして販売した。部位ごとに売ると、売れ残る部分が出るかもしれなかったから、初めから全部の部位をセットにしたんだ。
今回のレッドウルフは、次回以降の売り物、つまり、早くても来月販売の商品だから、まだ細かくはしない。売り方をはっきり決めてないから。ただ、1匹分は、リリーサが食べる気満々なので、切り分けをお願いしてるんだろう。
「わかった。リャリャ、これを切り分けてくれ。」
最後の部位に分けた1匹を、リャリャさんに渡す。さすがご夫婦。わたしたちみたいに連携に無駄がない。渡された部位を、すぐ横で販売用に小分けに切り分けるリャリャさん。
見る間に切り分けられた肉を、わたしたちは、もたもたと袋に詰めていく。
レッドウルフ1匹で23人前になった・・・待って、1匹食べつくすって、1回で食べるわけじゃないよね。23人前?
「当たり前です。4人前はゴルグさんにお裾分けです。2人前分は・・・悪いんですけど、リルフィーナ・・・」
「はい。ズールスさんにお裾分けですね。後で届けてきます。」
「家の前までは送ります。今回は、ヒメさんとファリナさんの剣を打ちました。ご褒美です。飴と鞭です。」
うん、いいツンデレだ。
「今度言ったら消しますからね。」
顔を真っ赤にしてこちらを見ないようにしてたら信憑性がないよ、リリーサ。
「ありがたいが、いいのか?」
ゴルグさんが、ちょっと困った顔。何年かに1回世に出るかどうかっていうウルフの肉だもんね。
「いつもお世話になってます。たまに・・・あの男もお世話になっているとか。お詫びも込めて受け取ってください。」
父をそう呼べないリリーサを複雑な顔で見つめるゴルグさんとリャリャさんご夫婦。
「で、だいぶ減りました。これなら1回でもいけますよね。」
いや、リリーサ。まだ17人前あるからね。




