75.家を空けないといけない
「どの道何処かへは行かなくちゃいけないのですよね。」
ガルムザフトに剣を取りに行ったというアリバイ作りに幾ばくかの間、家を空けないといけない。
「友達だと信じてたリリーサは、ウルフがないと手を貸してくれないっていうし。わたし、裏切られたのかなぁ・・・」
目じりを手の甲で拭う。
「そんなことはありません。これはきっとリルフィーナのせいです。後で叱っておきます。」
「お姉様、さすがにその仰り様は承服しかねますが。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。あぁ神様、欲深いわたしをお許しください。わたしが悪いんです。でも、ヒメさんがウルフを呼び寄せてくれればこんなことにはならなかったのに。」
全然反省してないな。大体、わたしがいてもウルフが出てくるとは限らないでしょ。
「それは、ご自分の評価が低すぎます。世間に曰く、ヒメが歩けば魔獣に当たる、と。」
当たるか!
「でも、わたしとリルフィーナが商品確保の旅を始めてもうすぐ1年。その間に高位の魔獣になんか出会ったことはありません。なのに、ヒメさんと狩りに2回行ったら2回ともウルフだの熊さんだのがザックザクですよ。」
「ザックザク言うな。」
「ベアって言いなさい。なんで熊さんなのよ。」
ファリナ、相変わらず細かい。
「次はボアがいいですね。猪さん。あれも美味だって聞きますし。」
リルフィーナ、そんな都合よくいくか。
「猪、いいですね。」
話に乗るな、リリーサ。
「ミヤはどれでもいける。」
あんたまで・・・
「獣の猪さんじゃダメなの?」
「だから、さんづけはやめて。ヤりづらくなるから。」
ファリナ、気にしすぎ。
「獣の猪さ・・・猪は、おいしいですけど、普段から食べてますし。」
ファリナの視線に怯えて言い直すリリーサ。
「前に食べた藍猪はおいしくなかったよ。」
「藍猪は泥臭くてだめです。普通の猪でないと。」
「そうなんだ。まぁ、猪さ・・・猪は食べたことなかったからね。」
べ、別にファリナの目つきが怖かったわけじゃないからね。
「村にいたころ食べました。何の肉かも言いました。」
まずい、別の意味で地雷踏んだ。
「いや、最近はっていう話だよ。昔は食べたね。」
ジトッとした目でわたしを見る。納得してない顔だ。うん、実は覚えてないんだ。
「ボアは見た事ないなぁ。」
「ギャラルーナ帝国より北に行けば、けっこういるみたいですよ。」
リリーサ、ごめん。それどこ?
「前にも話題にでたんですけどね。まぁヒメさんならそんなもんでしょう。」
なんかリルフィーナがバカにする。
「わたしたちの国、ガルムザフトの南にあるのがエルリオーラ王国、つまりここですね。その南が、この間行ったバイエルフェルン王国。逆にガルムザフトの北側にあるのがギャラルーナ帝国です。石の魔石を渡した時、しましたよね、この話。」
生まれてこのかた他の国に行ったことなかったから、隣の国までが記憶の限界だよ。しかも、ここ数日で2国も行っちゃうとか、人生最大級の事件のはずだけど、実際は、空間移動魔法で移動したから、本当に国外に行った気がしてない。
「そんなものです。どこに行こうがそこはわたしの国。文句のあるやつは、国王だろうとこの世から消します。」
潔いけど、さすがに国は相手にしたくないなぁ。
「ヒメ様がやりたいのなら、本気を出すことを許可してくれれば、ミヤが国の1つや2つくらい滅ぼす。」
「ダメです。」
リリーサとリルフィーナが冗談だと思って笑ってるけど、ミヤはほんとにやりかねないからね。
「食べ物屋さんが残ってないと、日々の食事に困る。全滅はダメ。」
「わかった。食べ物関係は残す。」
「待って!ミヤが本気にするから、責任のある発言をして!」
ファリナが大慌て。けっこう、マジだったんだけどな。
「結局、どこへ行きたいの。あの人魔が出た場所以外ならどこでもいいけど、何、猪探しに何だか帝国に行けばいいの?」
行かずに済ませたいけど、リリーサが大人しくしてそうもない。これ以上貸しだとか言われるのも面倒だから、どこかに行って済むのならそれで済ませたい。
「人魔が出てきた場所以外ならどこでもいいんですか?・・・なら、魔人族の領地に行って高位の魔獣狩りしたいです。」
「後始末が大変だから却下。さっきもその話したよね。」
「どこでもいいって言ったのに・・・おかしいです。」
だから、どこでもといったって限度があるでしょ。なんで魔人族の領地なのよ。見つかったら目撃者全員ヤっちゃわなきゃいけなくなるんだからね。もしくは、逃げて人族の領主に責任を押し付けるか。よし、ガルムザフト側から入るなら考えてもいいかな・・・ダメだよね。
「そのネタは頭グリグリしていいやつですよね。」
あぁ、ごめんなさい。許して。
「リリーサって幼児脳すぎない?」
「高級木製箱に入ってましたから。」
普通に箱入りだからって言いなさい、リルフィーナ。めんどくさい。
「しばらくはオークやオーガ売ってがまんしなさい。前よりいいものとか言ってたら際限なくなるわよ。」
「わかってます。でも、こう続けざまに高位の魔獣が手に入ると、もっとって思ってしまいます。」
「それが、わたしのせいなら、一緒にいないほうがいいのかもね。」
「1人占めする気ですね?許せません。」
あれ?そんなことはないですって流れになると思ったのに・・・
「お姉様にそんな機微を期待するだけ無駄です。」
なんて欲望に忠実な女。
「ヒメそっくり。」
「やっぱり聖女と呼ばれる者はどこかおかしい。」
リリーサは頭が可哀想で済むのに、なんでわたしは悪しざまに言われなくちゃいけないんだろう。
「自業自得です。って、頭が可哀想ってなんですか?リルフィーナじゃあるまいし。」
「大丈夫です、お姉様。ヒメさんは全面的に可哀想ですから。」
「なるほど。じゃ、仕方ありませんね。」
「この流れで、わたしにどこかへ行こうなんて話にはならないよね。ここまで悪口言っといて。」
「ヒメさんの悪辣な人格と出かけることとは別問題です。というか、その悪質極まりない人柄が魔人族を呼び寄せるのではないでしょうか。」
「なるほど。木に蜜を塗っておくと、昆虫がたくさん集まるように、ヒメさんを黒の森あたりの木に縛りつけておけば、朝には魔獣がどっさりってわけですね。」
「魔獣の灰がどっさりが正しい。」
「残ってるかな、灰。森はなくなってるよね。」
なぜ、話に入ってくる?ミヤとファリナ。
「さて、前置きが長すぎ。出かけるとしたら魔獣はいてもいいけど、人魔はいないところ。ということで、ガルムザフトの黒の森を提案します。」
「森はあらかたお姉様が荒らしつくしましたけど。」
リルフィーナがチラリとリリーサを見る。
「平地は消しつくしました。」
あんた1人で、国の資源根こそぎかい。
「そんなわけないです。ちゃんと売る分だけです。狩ったのは。」
「狩りつくしたと言ったじゃない。」
「多少言いすぎました。でも、大言壮語のほうがかっこいいです。」
あぁそうですか。
「売り物としては、ありふれた獲物しかいないんですよね。あの辺は。」
「山を目指します。」
「やま?」
リリーサが、ゲッという顔をする。
「わたしの見立てでは、リリーサは分解魔法が使いやすすぎて、狩りの時あまり動かなくて、運動不足だと見ました。だから、体重の話に過敏に反応するのです。」
「う、うごいてるよ・・・」
しまった。ファリナが反応してしまった。
「だから、ファリナは太ってないよ。っていうか、もっと肉つけないと触り心地が固いんだから。」
「触ってるんでしょうか。どこを触ってるんでしょうか。」
「触ってるんでしょうね。あちこち触ってるんでしょうね。」
リリーサとリルフィーナ、うるさい。
「なので、山登りです。きっと、山には見た事ない魔獣がいるよ。」
そして、ついでにダイエットも。
「「ダイエット?」」
そこに食いつきますか。しかも、ファリナとリリーサが。
「適当なとこまで登って、空間移動で帰ってくればいいんだからさ。」
「行きましょう。」
「ま、まぁすこし運動がてらというのも悪くないかな。」
「どうでもいいです。」
「面倒。」
乗り気なのが2人とだるそうなのが2人。まぁつきあってやってよ。
「お姉様のためなら仕方ありません。」
「こんなことでヒメ様がやせるはずないけど、しかたない。ヒメ様が行くならミヤも行く。」
「でも、なんでガルムザフト?」
「エルリオーラじゃこの間の人魔がいるかもしれないから。ガルムザフトなら出てきても知らない奴だろうから燃やし放題だよ。」
「人魔燃やしたら、それはそれで問題になりそうですけどね。」
「こっちにいる人魔は基本燃やされに来てるんだから大丈夫。」
リルフィーナ、奇異な目でわたしを見るのやめなさい。リリーサだって同じこと言うよ。
「言いません。わたし燃やせないですから、燃やすなんて言いません。消しますけど。」
「いや、異音同義語ってやつでしょ。それって。」
「え?類友ってやつじゃないの?」
うっさい。それも同じだ。
そして、やってきました。ガルムザフトの黒の山脈。リリーサに、なるべく人族側への道が無さそうな所を選んでもらう。まぁ、そのせいでたいした魔獣もいないだろうけど、とりあえずどこかへ行ったというアリバイ作りなんだからどうでもいい。
「ひ、ヒメさん、もう限界です・・・」
リリーサが息も絶え絶えだ。って、まだ10メートルくらいしか登ってないんだけど。しかも、麓の坂にもなってないようなところなんだけど。
「2度は傾斜があります。坂です。嘘をつかないでください。騙されませんよ。」
体力なさすぎでしょ。
「わ、わたしは頭脳派なんです。脳筋のヒメ、さんとは、ち、違います。」
しゃべると体力減るよ。まさか登頂10メートルで断念とは。
帰るか。そう思った瞬間。何かが探知に引っかかった。ミヤもその方向を見る。
まさか・・・
「人族か。こんなところで何をしている。」
山の上の方から現れたのは・・・人魔が2人。
「あぁ、めんどくさい・・・」
「さすがです。『さすヒメ』です。このエンカウント率はもう偶然ではありません。」
見ると横にレッドウルフが3匹。リリーサがさっきまでのグダグダはどこへやら。リンリンとウルフを見ている。
「何だろう。どうしてこうなるんだろう。リリーサだよね。リリーサと出会ってからこのざまだよね。」
「その前からこのざま。もう生まれつきの性質としか言いようがない。」
もう知った事か。全部燃やす。文句言うならリリーサも燃やす。
「見つけてしまったからには仕方ない。死んでもらおう。」
人魔の1人が、笑みも浮かべず非情に言い切る。
「まぁ待て。見れば女ばかりだ。むやみに争いの種をつくることもあるまい。ここは見逃してやる。我々は手を出さない。逃げろ。」
「おい。」
「いいから。」
言い合いしてるうちに燃やそうかと思ったけど、助けてやると言っている人魔の目が、嫌らしい笑いだったので、何となく理解した。ここは言う通り逃がしてもらおうか。
「逃がしてもらえるそうだから逃げるよ。」
「そんな。」
「いいから、いいから。」
渋るリリーサの背中を押しながら、山を下りる・・・登ってもいないけど。
森に入る。速足で歩いて、人魔たちから距離をとる。
「どういうことですか?今からでも戻って、あいつらやっつけて、レッドウルフをゲットです。」
背中を押されることに抵抗しながら、暴れるリリーサ。
「どうせ、すぐ来る。」
「え?」
ミヤの言葉通り後ろから、レッドウルフが駆け抜けてくる。
「ウルフがネギ背負ってきたわ。」
臨戦態勢をとる。
レッドウルフ、ゲット。
少し前。
「なぜ見逃す。人族でも、この辺にいるということは、やつらがいうところのハンターだろう。殺しておくべきだ。」
「我々は手を出さない。が、ウルフが攻撃しないとは言ってない。」
言われた人魔は、キョトンとしていたが、すぐに笑いに変わる。
「あぁ、そうか。」
「ウルフのいい訓練だ。そろそろいいだろう。行け!奴らを噛み殺して来い!」
ウルフは2人の元から走り出す。
「帰ってこないな・・・」
「あぁ、まぁもう少し待とう。」
立ち尽くす人魔たちの元に、レッドウルフが戻ってくることはなかった。




