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三十代社畜の俺、中二に戻って人生無双を始める 〜なお宝くじの番号は覚えていない〜  作者: らいお


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第五十話「焼き芋は、思ったより甘い」

「いいものって、絶対食べ物だよな」


 田端は竹ぼうきを片づけながら、さっきからそればかり言っている。

 落ち葉掃除で一番文句を言っていた男が、ご褒美の気配を嗅ぎ取った瞬間に一番元気になる。ある意味、分かりやすくて助かる。


「食べ物じゃなかったらどうするんだ」

「え、掃除用具の片づけ追加とか?」

「それはいいものじゃないだろ」

「先生の笑顔とか」

「田端、そういうこと本人の前で言うなよ」


 杉浦が呆れたように言うと、田端は少し真面目な顔をした。


「言わねえよ。俺だって生きる知恵はある」

「楽譜のページは分からないのに?」

「そこは別」


 小野が吹き出した。

 白石も口元を押さえて笑っている。久住は袋の口を結んでから、短く「田端くん、食べ物の時だけ反応早い」と言った。


「久住さんまで俺を食いしん坊扱いしてない?」

「してる」

「即答二回目」


 高村先生に言われて、俺たちは校舎裏の作業場に移動した。

 作業場、といっても、校務員室の近くにある用具置き場と水道の間の少し開けた場所だった。

 そこで校務員さんが、アルミホイルに包まれたものをいくつか置いていた。

 落ち葉で豪快に焼くようなものではなく、先生と校務員さんが見ている場所で、ちゃんと用意されていたものを分けてもらう形らしい。

 まあ、中学校で勝手に火を扱うわけにもいかない。俺としては、そのへんの安全管理にほっとする。面倒な大人目線が出てしまうが、事故報告書を書く未来だけは勘弁してほしい。


「はい、熱いから気をつけて」


 高村先生が軍手をして、包みを一つずつ渡してくれた。

 田端の目が輝く。


「焼き芋だ!」

「声大きい」

「だって焼き芋だぞ」

「見れば分かる」


 杉浦がそう言いながらも、受け取った包みを少し嬉しそうに見ている。

 小野も両手で包みを持ち、熱さに少し肩をすくめた。


「熱っ、でもいい匂い」

「小野さん、こっちの紙使う?」


 杉浦が近くに置いてあった古新聞を一枚取って差し出す。

 小野は一瞬だけ目を丸くした。


「ありがとう」

「いや、熱そうだったから」

「うん。助かった」


 杉浦は何でもない顔をしようとしていたが、少しだけ視線が泳いでいる。

 小野も古新聞を受け取って、包みをその上に置いた。

 田端はそのやり取りを横で見ていたくせに、たぶん何も気づいていない。


「杉浦、俺にも紙」

「自分で取れ」

「小野さんには渡したのに?」

「お前は元気だから大丈夫」

「元気差別だ」


 田端が騒ぐ。

 そのおかげで、小野と杉浦の間にあった妙な照れが少し薄まった。田端は本当に、分かっているのか分かっていないのか分からない。たぶん分かっていない。


 俺も包みを受け取った。

 手のひらにじんわり熱が広がる。

 アルミホイルの隙間から、甘い匂いがする。

 会社員の頃なら、コンビニの焼き芋コーナーを横目で見ながら、結局買わずに帰ることが多かった。高いとか、腹に重いとか、理由はいくらでもあった。

 中学生の放課後に、落ち葉掃除のあとで食べる焼き芋。

 こういうものは、値段で測るとたぶん損をする。


「佐伯くん、熱くない?」


 白石が隣から聞いてきた。

 自分の包みを両手で持ちながら、少し心配そうにこちらを見ている。


「大丈夫。そっちは?」

「うん。少し熱いけど、持てる」

「無理するなよ」

「うん」


 白石は小さく頷いた。

 その横で久住が、自分の包みを軽く持ち替える。


「白石さん、半分、多かったら分ける?」

「え?」

「私、食べられるから」


 久住の言い方は、いつも通り淡々としている。

 白石は少し迷ったあと、包みを見て、それから久住を見た。


「大丈夫。食べられる」

「そっか」

「でも、ありがとう」

「うん」


 白石が笑った。

 遠慮している笑いではなく、少し照れたような笑いだった。

 俺はその顔を見て、包みの端を開く手を一瞬止めた。

 助けたとか、守ったとか、そういう言葉を使うと大げさになる。

 ただ、白石が誰かと普通に焼き芋の量を相談している。

 それが妙に嬉しかった。


「佐伯、開け方分かる?」


 田端が俺の横から覗き込んできた。


「焼き芋に開け方も何もないだろ」

「いや、熱い。どうやったら手が死なない?」

「どうやっても死なない」


 田端は包みを何度も持ち替えている。

 そのたびに「あつ、あつ」と声を出すので、校務員さんが笑って軍手を貸してくれた。


「ありがとうございます!」

「田端くん、最初からそうすればよかったのに」


 小野が言う。


「俺は経験から学ぶタイプだから」

「先に人の話を聞くタイプになってくれ」


 杉浦が雑に返し、田端が「それは難しい」と真顔で言う。

 全員が笑った。


 杉浦は焼き芋を半分に割ろうとして、少し失敗した。

 思ったより中が柔らかかったらしく、割れ目から黄色い中身が崩れかける。


「うわ、やば」


 小野がすぐに古新聞を差し出した。


「杉浦くん、こっち」

「ごめん、助かった」

「さっきのお返し」

「早いな」


 杉浦が苦笑する。

 小野は「早い方がいいでしょ」と言って、少しだけ視線を逸らした。

 久住がそれを見ていたが、今回は何も言わなかった。

 やはり、言わないでおくこともできるらしい。前より少しだけ、久住の扱い方が分かってきた気がする。


 俺は包みを開いて、焼き芋を少し割った。

 中は思ったよりしっとりしていた。

 一口食べると、熱さのあとに甘さが来る。


「うま」


 思わず声が出た。

 田端がすぐに反応する。


「だろ? 俺の予想通り食べ物だった」

「田端が当てたのは食べ物ってところだけだろ」

「大事なところだろ」


 確かに大事ではある。

 掃除のあとの焼き芋は、妙にうまい。

 高級な味とは違う。けれど、外で冷たい風に当たりながら、友達と同じものを食べると、それだけで何か足される。そういう感覚は、前の人生ではだいぶ忘れていた。


「佐伯くん」


 白石が小さく声をかけてきた。


「ん?」

「甘いね」

「そうだな」

「思ったより」

「思ったより甘い」


 同じようなことを言って、白石が少し笑った。

 俺も笑いそうになって、焼き芋に目を落とす。

 こういう何でもない会話で変に照れるのは、かなり危ない。何が危ないのかは分からないが、危ない。


「俺には?」


 田端が急に割り込んできた。

 白石が目を丸くする。


「え?」

「俺にも『甘いね』って言ってくれていいよ」

「田端、お前は何を求めてるんだ」

「会話?」

「雑すぎる」


 杉浦が呆れ、小野が笑い、久住が「田端くん、焼き芋に集中した方がいい。火傷するよ」と冷静に言う。

 田端は「久住さんが一番厳しい」と言いながらも、焼き芋を嬉しそうに食べていた。


 白石も笑っている。

 小野と久住の間で、包みを両手で持って。

 焼き芋の熱で頬が少し赤いのか、笑ったせいなのかは分からない。

 分からないままにしておいた方がいい気もする。


 しばらくして、高村先生が「食べ終わったら手を洗って帰ること」と声をかけた。

 田端は名残惜しそうに最後の一口を食べ、杉浦は古新聞をまとめ、小野が落ちた皮を拾った。

 久住は白石に「紙、こっち入れる」と言って、まとめたごみを受け取る。

 六人で同じことをしている。

 それだけの場面なのに、さっきより輪の形がはっきりした気がした。


 俺は手を洗いに行く前に、ふと校舎の方を見た。

 二階の窓。

 そこに榊原がいた。

 こちらを見ている。

 距離があるから、やっぱり表情までは分からない。

 けれど、白石が小野と久住に挟まれて笑っていることも、田端が焼き芋の皮を落として慌てていることも、杉浦が小野に古新聞を渡していることも、たぶん見えている。


 榊原はすぐに窓から離れた。

 俺は少しだけ手元の包みを握り直し、校舎の水道へ向かった。

 焼き芋の甘さが、口の中にまだ少し残っていた。


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▼登場人物まとめ

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3652582/

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― 新着の感想 ―
 お〜っ!外してしまった。 秋の落ち葉集めの楽しみといったら、『焼き芋』一択でしたね!  かつての「ふーぶつし」が、最近は隅に追いやられていて、吾のメモリーバンクでも引っ張り出せそうない所に置かれてお…
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