だったら私も
ゆっくりと振り返った健人の視界に飛び込んできたのは――
まだ退院したばかりの、白い服を着た花山美有の姿だった。
美有は、健人がアジトへ向かったことを美晴から聞いていた。
嫌な予感がして、必死に後を追ってきたのだ。
美有の大きな瞳からは、大粒の涙がボロボロと溢れていた。
彼女の視線の先には、血まみれで倒れている市川と志人の凄惨な姿がある。
そして、見たこともないほど冷酷な目で、一人の女の額に銃口を突きつけている健人の姿があった。
「美有……なぜ、ここに……」
健人の声が、微かに震える。
「お願い……健人、もうやめて……っ! そんな顔で、人を殺さないで……!」
美有は激しい恐怖に身体を震わせながらも、一歩も退かずに健人を見つめて叫んだ。
「あなたがその引き金を引いたら、健人は本当に……本当の怪物になっちゃう……! 戻ってきて、健人……っ!」
光の世界からの悲痛な叫びが、覚醒した健人の闇の空間を激しく揺さぶる。
残された時間は、あと30秒。
引き金を引いて復讐を果たすか。
それとも、彼女の手を取って光へ戻るか。
少年の指先は、止まった時間の中で激しく震えていた。
「美有……っ! 来るなと言ったはずだ!」
健んは絵里に銃口を向けたまま、振り返りもせずに激しい声を張り上げた。
時間が止まった世界の中で、美有の声だけが健人の心に突き刺さる。
残された時間は、あと20秒を切っていた。
この引き金を引くだけで、すべてに決着がつく。
あの忌まわしい過去にも、今日奪われた仲間たちの無念にも。
「俺はこいつを倒す。こいつは……市川と志人を殺したんだ! 俺の家族だけじゃなく、俺の居場所も仲間も、全部奪ったんだよ! あんたには関係ないって、言っただろ……っ!」
「関係あるよ! 健人が苦しんでるなら、私に関係ないわけないじゃない!」
美有は涙を流しながら、必死に言い返した。
足元には、動かなくなった市川と志人の姿がある。
恐怖で足がすくみ、今にも逃げ出したいはずなのに、美有の瞳は真っ直ぐに健人の背中だけを捉えていた。
「健人があの日からずっと一人で苦しんで、冷たい世界で戦ってきたのは分かった……。でも、ここでその人を殺したら、健人は一生その血の匂いから逃げられなくなっちゃう! 復讐のために、これ以上自分の人生を捨てないで! お願いだから……私の大好きな、優しい健人に戻って……っ!」
「戻れるわけがないだろ……!!」
健人の怒号が響く。
「俺の手は、もうとっくに汚れてるんだ! 普通の生活なんて、最初から俺には似合わなかったんだよ! こいつを生かしておけば、またあんたや美晴さんまで狙われる! だから……俺がここで終わらせるんだ!」
「だったら……」
「だったら、私も一緒にその暗闇に行く!」




