返せ、返せ返せ返せ返せ返せ返せ!!俺の日常を、志人を返せぇ!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、お前もこの世界も全部消す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!あはは、地獄で詫び続けろぉ!!
志人の警告も虚しく、二人の視界は完全に絶望の紅一色に染まった。
かつてない圧倒的な力の前に、暗闇を生き抜いてきた二人の若き暗殺者は、完全に防戦一方へと追い詰められていた。
「が、はっ……あ、あああ……っ!」
圧倒的な熱量を持つ『終焉の業火』が、廃ビルの空間ごと二人を飲み込んだ。
炎が肉体を焼き焦がす凄まじい衝撃の中、健人の身体は、正面から飛び込んできた大きな影によって強引に突き飛ばされていた。
ドサリ、とコンクリートの床に激しく叩きつけられた健人が、朦朧とする意識の中で必死に目を開ける。
視線の先、立ち込める黒煙の向こうで――大村志人が、燃え盛る炎をその身に浴びながら、力なく膝を突いていた。
健人を爆炎の直撃から守るため、自らが盾となったのだ。
「志人……! お前、何をして……っ!」
健人は這いつくばりながら、必死に手を伸ばした。
志人の白いシャツは赤黒く染まり、トレードマークだった眼鏡は床に落ちて粉々に砕けていた。
それでも志人は、残された力を振り絞り、視界の狂った瞳で真っ直ぐに健人を見つめた。
「健人……」
志人の声は掠れ、血を吐き出しながらも、その知性は最期まで失われていなかった。
「お前は、あの女の子と幸せに生きろ。……光の世界へ、戻るんだ」
志人の頭が、カクリと前に倒れた。
その身体から完全に力が抜け、ピクリとも動かなくなる。
市川に続き、作戦参謀として常に冷静に自分たちを導いてくれた大村志人の命が、今、健人の目の前で完全に潰えた。
「あはははは! すごいすごい! 友情の盾ってやつ? 感動的だねえ、健人君! でも残念、これで君は本当の、ひとりぼっちだ!」
多島絵里の狂った嗤い声が、激しい炎の爆音の中で鼓動のように響き渡る。
大切な仲間を、二度と戻らないあの騒がしい日常を、すべて目の前で奪われた。
その瞬間、健人の胸の奥底で、何かが完全に「決壊」した。
「ああああああああああああああああッ!!!!」
健人の口から、人間のものではないような絶叫が迸る。
その咆哮とともに、健人の身体から、これまでとは比較にならないほどの異質な「闇」の波動が爆発的に膨れ上がった。
アジト全体を包み込んでいた絵里の炎が、その漆黒の波動に触れた瞬間、悲鳴を上げるようにして一斉に掻き消えていく。
ハッキング(無効化)の、その先。
極限の怒りと絶望の中で、中山健人の能力は、世界の理を書き換える真の『覚醒』を遂げた。
健人の両眼が、深い深淵のような、光を一切反射しない漆黒へと染まる。




